
税額1人200円スタート、税収は年22億円の見込み
長野県は2026年6月1日の宿泊分から、宿泊者に課税する宿泊税を導入します。税額は1人1泊あたり300円で、制度開始から3年間は200円とします。県の試算では、この3年間は年22億円程度、その後は年33億円程度の税収を見込み、観光振興の財源に充てます。
長野県宿泊税は、使い道を観光振興に限った法定外目的税です。県内の旅館・ホテル・簡易宿所と、住宅宿泊事業法に基づく民泊が対象になります。主なポイントは次のとおりです。
長野県宿泊税のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 税額 | 1人1泊300円(2026年6月1日〜2029年5月31日の3年間は200円) |
| 免税点 | 素泊まり・税抜きで1泊6,000円未満は課税しない |
| 課税免除 | 修学旅行など学校の教育・研究活動、保育所の行事、部活動の地域展開、フリースクールの行事など |
| 徴収方法 | 宿泊施設が宿泊者から預かり、原則として毎月、県に納める(3か月ごとの特例あり) |
宿泊料金が6,000円に満たない宿泊を非課税としたことで、素泊まり中心の安価な宿への影響に配慮した設計といえます。
県と市町村、二つの宿泊税が重なる
今回の制度で分かりにくいのが、松本市・軽井沢町・阿智村・白馬村・野沢温泉村の5市町村です。これらの自治体は、県とは別に独自の宿泊税を設けています。同じ一泊に県の税と市町村の税という二つの課税が重なるため、泊まる場所によって宿泊者が払う総額や内訳が変わります。
ただし単純な二重取りにはなりません。県は「租税調整」という仕組みを設け、市町村が独自に課税する地域では県税を半分(200円なら100円)に引き下げます。たとえば松本市では市100円に県100円が組み合わさり、合計は他地域と同じ200円に収まります。一方、阿智村は村税200円に県100円が乗って合計300円になります。
制度開始から3年間の宿泊者負担を整理すると、次のようになります。
長野県の宿泊税の負担額
| 地域 | 課税方式 | 宿泊者の総額 | 内訳(市町村/県) |
|---|---|---|---|
| 独自課税なしの地域 | 県の定額のみ | 200円 | ―/県200円 |
| 松本市 | 定額 | 200円 | 市100円/県100円 |
| 阿智村 | 定額 | 300円 | 村200円/県100円 |
| 軽井沢町 | 料金帯別の定額 | 200〜700円 | 6千〜1万円帯は町100円/県100円 |
| 白馬村 | 料金帯別の定額 | 200〜1,900円 | 6千〜2万円帯は村100円/県100円 |
| 野沢温泉村 | 定率 | 宿泊料金の3.5%(うち県税100円) | 県100円+村(残り) |
※各市町村HPの情報をもとに編集部にてまとめた
料金帯別の定額を採る軽井沢町と白馬村は、高い部屋ほど税額が上がります。野沢温泉村だけは定率方式で、県と村を合わせた合計が宿泊料金の3.5%(うち県税100円。2029年6月以降は5.0%・うち県税150円)です。
なぜ県と市町村がそれぞれ宿泊税を設けるのか
背景には、都道府県も市町村も独立した課税の権限を持つという地方自治の仕組みがあります。どちらも国(総務大臣)の同意を得れば、独自の法定外目的税を作れます。松本市や白馬村などは県より先に自前の宿泊税を準備しており、そこへ県が県全域の税を重ねたため、課税が二層になりました。
自治体が県任せにせず自前で取りたいと考えるのは、財源の自由度と安定性のためです。各自治体の検討資料では、県からの交付金のような依存財源より、自分で集める自主財源の方が安定して使えると説明されています。
こうした多層の宿泊税は、日本に限った話ではありません。フランスでは市町村の宿泊税に、県や地域圏の付加税が積み重なります。スペインでも、カタルーニャ州が課す宿泊税にバルセロナ市が独自の上乗せを重ねており、2026年の制度改正でさらに引き上げられました。複数の行政階層が同じ宿泊に課税するのは国際的にありふれた形で、県税を半分に引き下げる長野の租税調整は、むしろ宿泊者の負担に配慮した部類に入ります。
事業者がまず直面するのは、毎月の申告納入や予約システムの税表示、宿泊客への税額差の説明といった実務です。一方、この事務の報償金として、納付した宿泊税の2.5%(当初は電子申告などで最大3.5%)を宿泊施設に交付する仕組みも整えられています。
県と市町村がそれぞれ宿泊税を設けることで注目したいのは市町村間の稼ぐ力の格差です。観光で稼げる市町村は独自課税で宿泊者1人あたりの税収を自前の財源として確保し自由に使える一方、独自課税のない市町村は県の交付金(税収の最大半分・計画提出が前提)に頼ります。結果として、地域間の観光力の差が広がる可能性があります。現在、宿泊税の導入は全国で相次いでいます。長野県の二層モデルの今後の運用に注目していきます。
<出典>

