掲載を促して3年、体験事業者はどこにいるのか
観光庁が観光DXの最終取りまとめを出したのは2023年3月だった。オンライン予約が進んでいないアクティビティ事業者や公的施設について、予約機能を持つ大手OTAへの情報掲載を徹底する、と書かれている。
あれから3年が経つ。ツアーやアクティビティ、観光施設を扱う事業者にとって、これは実務の問題だ。載るべきなのか。載ったら何が起きるのか。
世界の流通データを見ると、この問いへの答えは事業者によって変わる。分かれ目になるのは、その商品がOTAの売り方に乗るかどうかだ。
体験型観光の調査会社Arivalが2026年1月26日に公表した事業者調査は、事業者の予約に占めるOTA経由が2025年に37%へ達したと報告した。2023年の28%からの上昇である。
ツアー・アクティビティ事業者に限れば、自社サイト経由は29%から25%へ、オフラインの直販は16%から15%へ下がった。オンライン予約の比率そのものは60%で横ばいだ(いずれも2024年から2025年にかけての変化)。三つは集計の対象範囲が少しずつ違うので足し合わせて内訳にはできないが、方向は揃っている。オンライン予約が増えたというより、オンラインの中でOTAの取り分が増えた。
ところが同じArivalが、3か月後に別の数字を出している。共同創業者のDouglas Quinby氏がPhocusWireへ寄せた寄稿によれば、体験市場の総取扱額に占めるOTAは8%である。
37%と8%は矛盾しない。測った母集団が違うだけだ。その説明を書いているのはQuinby氏自身だ。自社の調査の標本は「デジタル面で活発で、業界とつながった層」に偏っている、と明言している。実際この調査は、Arival自身のチャネルに加え、予約システム会社や体験の販売事業者、観光局など42社の協力を得て回答者を集め、日本語を含む6言語で5,664件の回答を得ている。業界とつながっていない事業者ほど、この標本には入りにくい。
つまり37%は、業界との接点がある層で測った比率だ。冒頭の、載るべきか迷っている事業者は、その外側にいる可能性が高い。
外側はどうなっているのか。ArivalとPhocuswrightの市場規模レポートによれば、体験のオンライン予約比率は2022年30%、2023年29%、2024年30%と、3年間ほとんど動いていない。2025年は33%と予測されている。旅行市場全体の予測64%の、およそ半分だ。
この図表のデータを見る
| 年 | 旅行市場全体(%) | 体験(%) |
|---|---|---|
| 2022 | 60 | 30 |
| 2023 | 61 | 29 |
| 2024 | 63 | 30 |
| 2025P | 64 | 33 |
| 2026P | 65 | 36 |
注:Pは予測値。取扱額(グロス・ブッキング)ベースの推計。出典:Arival & Phocuswright「Travel Experiences 2026: Market Sizing, Operator and Consumer Behavior Highlights」
Quinby氏は自分の住む街でその中身を数えている。アトランタ周辺のTripadvisor掲載約1,000件から、ボウリング場や飲食店など旅行商品として扱いにくい業種を除いた450件弱を調べたところ、OTAに載っていたのは11%。博物館・ギャラリーに至っては75館のうち3館だった。地元の科学館へ行くのに親はグローバルOTAを使わないし、使う必要もない、と氏は書く。
体験事業者の70%超は小規模・零細で、航空や宿泊のようにオンライン販売を牽引した少数の大手もいない。載っていない理由は一つではない。予約システムを使っていない。旅行者を客として狙っていない。地域の客で足りている。そもそも旅行流通の一部ではない事業者が、この長い裾野には多い。
日本の数字も、同じ方向を指している
日本側にも手がかりはある。観光庁の旅行・観光消費動向調査によれば、日本人の国内旅行で費目「娯楽等サービス費・その他」に支払われた額は2025年に2兆303億円。内訳の最大はテーマパーク・遊園地の7,200億円だ。訪日外国人でも、別調査の費目「娯楽等サービス費」に4,235億円が計上されている。統計の費目とArivalのいう体験市場は範囲が一致しないが、日本でも相応の額が体験に落ちていることは分かる。
同じ調査は、旅行1回ごとの申込方法も聞いている。ただしこれは旅行そのものをどう申し込んだかであって、個々の体験をどこで予約したかではない。それを承知のうえで見ると、国内日帰り旅行の「娯楽等サービス費・その他」6,432億円のうち、79.1%は旅行会社も旅行予約サイトも使っていない旅行にひもづく。ウェブサイト経由は12.1%。宿泊旅行ではウェブ経由が50.1%を占める。
宿を伴う旅行は既存の旅行流通に乗って申し込まれ、日帰りはその外側で決まっている。日帰りの現場で体験がどこで予約されたかまでは、この数字からは読み取れない。
では日本には体験事業者が何社あり、そのうち何割が載っているのか。この問いには答えが出せない。掲載側の数字なら公表されている。アソビューは全国約1万店舗、アクティビティジャパンは登録8,000社以上、ベルトラは世界の催行会社約8,000社。ただし数える単位も対象の範囲も違い、単純に並べて比べられるものではない。そして今回確認した範囲では、日本の体験事業者の総数を同じ定義でとらえた統計は見当たらなかった。母数が分からなければ、アトランタで示されたようなカバー率は計算できない。
そして、掲載を促した当の文書が、載らない理由も書いている。冒頭の観光DX最終取りまとめは、アクティビティ事業者について「催行人数のキャパシティや準備の都合から受付期間が短いこと」「予約者に合う備品の確認作業等のために即座に予約が完結しないこと」「天候や時期に左右され実施日が少ないこと」を挙げた。水族館や美術館でもオンラインで予約・決済ができない施設が存在する、とも書いている。
コストの水準も行政資料にある。国土交通省中部運輸局の販路構築の手引きは、OTA経由の販売手数料を15〜25%程度とし、催行日や参加人数が限られるコンテンツは大手旅行会社やOTAでは扱えない場合があると注記している。
掲載が進まない背景は、情報の出し方や予約・決済の環境だけではない。受付期間や即時確定、催行日数といった、商品と運用の側の条件がある。掲載を促すだけの施策では、届く先が限られる。
「OTAに載せれば売れる」とは限らない。掲載できても、15〜25%の手数料を引いて利益が残るかが次の問題になる。当日予約を受けられるか。天候による変更に対応できるか。採算の合う価格にできるか。ここを詰めずに載せると、売上が増えても利益は残らない。
掲載の呼びかけから3年。行政資料が示す課題は、掲載を促すだけでは解決できない。今後問われるのは、オンライン販売に適した商品と運用体制である。
<出典>
- 「Travel Experiences 2026: Market Sizing, Operator and Consumer Behavior Highlights」(Arival & Phocuswright)
- 「Global Operator Landscape (4th Ed.): The State of Experiences」(Arival)
- 「Why OTA share of experiences is so low」(Douglas Quinby / PhocusWire)
- 観光庁「旅行・観光消費動向調査 2025年年間値(確報)」
- 観光庁「観光DX推進による観光地の再生と高度化に向けて(最終取りまとめ)」
- 国土交通省中部運輸局「訪日外国人旅行者向け 観光コンテンツ販路構築の手引き」
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