名古屋の地下鉄が全駅クレカ乗車へ 割引と定期券は対象外

名古屋市営地下鉄・久屋大通駅のコンコース。左手に「桜通線」の案内サイン、正面の壁に駅名標「久屋大通」と名城線の紫帯、右手にベンチが並ぶ
Photo: Attila Kocsner / Unsplash
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9月3日から全駅、7ブランドに対応

名古屋市交通局は2026年8月17日、名古屋市営地下鉄でクレジットカードのタッチ決済による乗車サービス「クレカ乗車」を9月3日の始発から始めると発表した。対象は市営地下鉄の全駅である。

対応するのはVisa、Mastercard、JCB、American Express、Diners Club、Discover、銀聯の7ブランド。カード、またはカードを設定したスマートフォンなどを改札機の専用リーダーにかざすと、後払いで運賃が精算される。

発表は交通局と三井住友カード、名古屋カード、ジェーシービー、日本信号、オムロン ソーシアルソリューションズ、東芝、QUADRACの8者連名だった。

背景には2つの国際大会がある。アジア競技大会が9月19日から10月4日まで、アジアパラ競技大会が10月18日から24日まで、愛知県と名古屋市で開かれる。連名リリースは導入の背景として、国内外から多くの来訪者が見込まれることと、「日本特有のきっぷ購入や交通系ICカード利用に不慣れな来訪者」への対応を挙げた。

ただし「全駅が対象」であることと、開始日に全ての改札を通れることは同じではない。名古屋市の発表は「一部の駅では、サービス開始日において自動改札機が未改修となりますが、改札窓口の駅職員により対応します」としている。

交通局のサイトには9月改修予定が3改札口、10月以降が12改札口と、計15の改札口が列挙されている(注:2026年8月25日時点。列挙は駅単位ではなく改札口単位で、うち志賀本通駅は西・東の2改札口が挙がっている)。

割引も定期券も精算も対象外

交通局のサイトは、クレカ乗車で使えないものも明記している。すべて大人普通料金が適用され、障害者等の割引、乗継割引、小児料金は適用されない。他の乗車券との併用や乗り越し精算にも使えず、定期券としての利用もできない。

つまりこれは既存の運賃制度を置き換える仕組みではない。クレカ乗車は、きっぷと交通系ICカードの脇に新設された、これらに不慣れな来訪者のための並行レーンである

払えるのは大人普通料金だけ
名古屋市営地下鉄で、クレカ乗車とマナカでは運賃制度の扱いが異なる
クレカ乗車(タッチ決済)マナカ(名古屋市交通局のICカード)
乗継割引適用されない適用される1枚のマナカで市バスと地下鉄などを90分以内に乗り継ぐと大人80円割引。地下鉄同士は対象外
障害者等の割引・小児料金適用されないすべて大人普通料金割引用マナカ・小児用マナカなら適用購入時に所定の証明書類が必要
定期券定期券として使えない24時間券・敬老パス等との併用も不可購入できる地下鉄の全駅で購入可
乗り越し精算利用できない自動精算される改札機でカード残額から精算
出典:名古屋市交通局「クレカ乗車(タッチ決済)」「マナカの特徴」「乗継割引」「割引用マナカ・割引定期券について」をもとに編集部作成。(注:各種割引や小児料金はきっぷ〔普通券〕でも利用できる。乗継割引はマナカ固有の機能で、Suica等の他社カードには適用されない。クレカ乗車は名鉄では13駅を除き利用できず、振替輸送の対象外でもある)

名鉄との接続も限定的だ。名鉄で使えるのは13駅のみで、それ以外の駅にまたがる移動には交通系ICカードかきっぷが要る。

その名鉄の導入は、2024年3月28日に中部国際空港駅など3駅で始まり、同年10月1日に13駅へ拡大した。名鉄はいまも自社サイトで「実証実験」と表記しており、地下鉄側の「サービス開始」とは位置づけが異なる。

中部国際空港と名古屋を結ぶミュースカイは全車が特別車のため、タッチ決済でまかなえるのは運賃だけだ。ミューチケットは1乗車450円で、別に買う必要がある。

名古屋市内の鉄道でタッチ決済の改札を通れるのは、9月3日以降も市営地下鉄と名鉄13駅にとどまる。あおなみ線、ゆとりーとライン、リニモは各社の公式サイトで導入を案内しておらず、名古屋市営バスの料金箱も現金とICカードのみである。

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首都圏では11社局が相互利用を開始

同じ方向の動きは首都圏で先に始まっている。2026年3月25日、関東の鉄道事業者11社局が相互利用を開始した。

対象は小田急電鉄、小田急箱根、京王電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道、西武鉄道、東急電鉄、東京地下鉄、東京都交通局、東武鉄道、横浜高速鉄道の54路線729駅(開始時点)である。

鉄道に限らない国内の決済全体でも、キャッシュレス化は進む。経済産業省は2026年3月31日、2025年のキャッシュレス決済比率を58.0%(162.7兆円)と公表した(注:国内消費全体の比率であり、鉄道の決済環境を示す数値ではない。持ち家の帰属家賃を分母から除く国内指標で、帰属家賃を含む従来の国際比較指標とは分母が異なる)。内訳はクレジットカードが82.7%を占める。

それでも訪日客の側から見た不便は残る。観光庁が2026年4月28日に公表した令和7年度の受入環境アンケートでは、旅行中に困ったこととして「クレジット/デビットカードの利用」を挙げた人が10.7%いた(注:交通に限らない訪日旅行全体の調査)。

調査期間は2025年11月18日から2026年1月13日、調査件数は4,110件。「困ったことはなかった」は43.7%で、最多の項目は「ごみ箱の少なさ」の17.2%だった。

あわせて読む 訪日客の決済意識をめぐる調査は、こちらで扱っている。

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観光ビジネスの視点

「全駅対応」という見出しだけでは、使えない場面までは伝わらない。交通局は、障害者等の割引や小児料金、乗継割引、乗り越し精算が対象外であることを自ら明記している。それでも読者に届くのは、たいてい見出しのほうだ。

決済手段を増やすことと、運賃制度をつなぐことは別の作業である。タッチ決済で払えるのは大人普通料金だけで、割引を使う乗客はこれまで通りきっぷかICカードを用意することになる。

9月と10月に2つの国際大会を控える名古屋で、導入を検討する事業者がまず用意すべきは、対応ブランドの一覧より先に「これでは通れない場合」の案内である。誰に何が使えないかを言葉にしておかないと、改札で止まるのは制度を知らない人になる。

出典

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