貸切バスの運賃はどう決まる?計算方法と安全規制の基本

貸切バス(観光バス)の車両
Photo: YANGHONG YU / Unsplash
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貸切バスの料金は、旅行会社や事業者が自由に決めているように見えて、実際には国が車種ごとに示す「基準額」という下限の目安をふまえて決められている。運賃の中心は、走行時間と走行距離から計算する「時間・キロ併用制」だ。

この記事では、貸切バスの料金がどう計算されるのか、なぜ国が下限の目安を設けているのか、そして貸切バスをめぐる安全規制の基礎までを、国土交通省など行政の公式情報にもとづいて解説する。

この記事のポイント

  • 貸切バスの運賃は「時間制運賃+キロ制運賃」で計算する時間・キロ併用制が基本だ。
  • 国が公示するのは上限ではなく、変更命令を検討する基準となる車種別の「基準額(下限の目安)」だ。
  • 運賃に上乗せできる「料金」は深夜早朝・特殊車両・交替運転者の3種類で、高速代やフェリー代は実費として別に負担する。
  • 2016年の軽井沢スキーバス事故のあと、事業許可の更新制の導入など、貸切バスの安全規制が強化された。
目次

料金は、自由に決められるわけではない

貸切バス(一般貸切旅客自動車運送事業)は、バス1台を貸し切って走らせるサービスだ。路線バスのように決まった区間・運賃で不特定多数を運ぶのではなく、契約した相手のために車両と乗務員をまとめて提供する。修学旅行、社員旅行、送迎、観光ツアーなどで使われる形態がこれにあたる。

この料金には、国が定めた基準がある。地方運輸局長が車種別に運賃の「基準額」を公示し、事業者が届け出た運賃について、行政はこの基準額を使って変更命令を検討すべきかを判断する。自由な価格競争にすべてを委ねていない点が、この制度の特徴だ。基準額がどう使われ、なぜ近年見直されてきたのかは、後半でくわしく見ていく。

まずは、料金がどう計算されるのかから見ていく。

運賃は時間制とキロ制の合算
中部・大型車を5時間・190km走らせた場合の例(基準額で計算)
時間制運賃
約5.2万円
(5時間+2時間)×7,430円
キロ制運賃
約2.9万円
190km×150円
運賃
約8.1万円
この上に料金・実費・消費税が加わる
出典:国土交通省 中部運輸局の公示基準額(2025年9月26日)をもとに編集部が試算

運賃は「時間」と「距離」の足し算

現行の貸切バス運賃は「時間・キロ併用制」だ。2014年(平成26年)4月1日に、それまでの時間制・キロ制・行先別といった複数の方式から、この方式へ一本化された。運賃は「時間制運賃」と「キロ制運賃」を合算して計算する。

時間制運賃は、(走行時間+2時間)×時間単価で求める。加算する2時間は、出庫前1時間・帰庫後1時間の点検などに要する時間だ。走行時間には出庫から帰庫までの回送も含み、走行時間が3時間に満たない場合でも3時間として計算する。キロ制運賃は、走行キロ×キロ単価で求める。走行キロにも回送分を含める。

(注:走行時間の端数は30分未満を切り捨て・30分以上を1時間に切り上げ、走行距離は10km未満を10kmに切り上げるのが標準の適用方法だ。実際の見積りでは、条件によって扱いが変わることもあるため事業者に確認したい。)

たとえば中部運輸局管内で大型車を1日借り、走行時間5時間・走行距離190kmで運行した場合、基準額で計算すると次のようになる。時間制運賃は(5時間+2時間)×7,430円で52,010円、キロ制運賃は190km×150円で28,500円、合わせて80,510円だ。これはあくまで基準額で計算した最低水準の目安で、ここに次に述べる料金や実費、消費税が加わる。実際の見積額は、車種・時期・地域や、繁忙期の需給によって、これより高くなることが多い。

国が示すのは上限ではなく「下限の目安」

料金を理解するうえで誤解されやすいのが、この「公示額」の意味だ。国が公示する額は運賃の上限ではなく、変更命令を検討する必要があるかどうかを判断するための車種別の「基準額」である。届け出る運賃がこの基準額以上で、適用方法も標準どおりであれば、行政は変更命令の検討を行わない。基準額を下回る運賃を届け出ることも制度上は可能だが、その場合は原価計算書などをもとに調査の対象となる。つまり、基準額を下回ること自体がただちに違法になるわけではない。

この基準額は、車種や運輸局によって異なる。たとえば大型車の時間制運賃・キロ制運賃の基準額(2025年9月26日公示)は、中部運輸局管内で1時間7,430円・1km150円、関東運輸局管内で1時間7,190円・1km170円だ。金額は車種と運輸局によって異なり、全国一律ではない。

この「基準額」という考え方は、はじめからあったわけではない。制度は次のように変わってきた。

運賃の下限は引き上げが続く
貸切バス運賃・料金制度の主な見直し
2014年制度時間・キロ併用制へ一本化。幅運賃制(基準額の上限+30%〜下限−10%)で開始
2023年改定幅運賃制を廃止し、基準額を下限額とする方式へ見直し。下限額を引き上げ
2024年区分車種区分を見直し、コミューター車を追加
2025年改定新たな基準額を公示。運転者の賃金引き上げ原資を確保
出典:国土交通省・各地方運輸局の公示等をもとに作成

2014年の新制度では、当初は「幅運賃制」がとられていた。国が公示する額に対して上限プラス30%から下限マイナス10%までの幅の中で、事業者が運賃を設定する仕組みだ。この幅運賃制は2023年(令和5年)に廃止され、基準額をそのまま下限の目安とする方式へ見直された。あわせて下限額も引き上げられている。さらに2024年3月1日には運賃・料金の公示が改正され、新たに「コミューター車」の区分が加わった。

そして2025年9月26日、地方運輸局長が新たな基準額を公示した。この改定は、バス運転者の賃金引き上げ原資を確保することを目的としている。事業者は9月26日から10月24日までに変更を届け出て、届出日以降、11月1日までの間の任意の日から新しい運賃・料金を順次適用した。特定の日に一斉に切り替わる「施行」ではなく、事業者ごとに順次適用が始まった点が特徴だ。

運賃に上乗せされる3つの料金と、実費

これまで見た運賃に加えて、事業者は一定の「料金」を上乗せして収受できる。運賃に加算できる料金は、深夜早朝運行料金・特殊車両割増料金・交替運転者配置料金の3種類だ。

深夜早朝運行料金は、22時から翌朝5時までの時間帯に点呼・点検や走行の時間が含まれる場合に、その時間に対応する時間制運賃と交替運転者配置料金(時間制の分)に2割を加算するものだ。特殊車両割増料金は、事業者の創意工夫による新しい車両の導入を促す趣旨で設けられた割増で、事業者が任意で設定できる。交替運転者配置料金は、長距離・長時間の運行で2人目の運転者を乗務させる場合の料金だ。

この2人目が必要になるかどうかは、国が定める「交替運転者の配置基準」で決まる。1人の運転者(ワンマン)で走れる一運行の実車距離は、昼間でおおむね500km、夜間でおおむね400kmが上限とされ、これを超える行程では交替運転者の配置が必要になる。ほかに、1日の運転時間は原則9時間まで、高速道路での連続運転は概ね2時間までといった目安もある。ワンマンで組めるか2人乗務になるかは、人件費を通じて見積り総額を大きく左右する分かれ目になりやすい。

一方で、これらの「料金」と混同しやすいのが実費だ。有料道路の通行料、フェリーの航送料、駐車料、ガイド料、乗務員の宿泊費などは、運賃・料金とは別に、必要に応じて利用者が負担する実費として扱う。見積書を見るときは、運賃・料金の部分と実費の部分を分けて確認するとわかりやすい。

(注:フェリーに車両を載せる航送時間は、8時間を上限として時間制運賃の計算対象に含める扱いがある。航送料そのものは実費だが、乗船中の時間の一部が運賃計算に関わる点に注意したい。)

もう一つ、手配後のキャンセルには取消料がかかる。標準運送約款では、配車日の14日前から8日前までは所定の運賃・料金の20%、7日前から配車日時の24時間前までは30%、24時間前以降は50%と定められている(14日前より早い解除は無料)。急な人数変更や中止に備えて、区分を把握しておきたい。

基準額割れは「即違法」ではない

下限の目安を下回った場合にどうなるのかは、2つの場面を分けて理解する必要がある。ここを混同すると、制度を誤って伝えることになる。

1つ目は、公示された基準額を下回る運賃を届け出た場面だ。この場合はただちに処分されるのではなく、変更命令を検討するための調査対象となり、原価計算書などの提出を求められる。調査の結果、道路運送法上の変更命令の要件に該当すると判断されれば、運賃・料金の変更が命じられる。

2つ目は、事業者が自ら届け出た運賃よりも低い額で実際に運送するなど、運賃・料金の届出のルールに違反した場面だ。この届出違反に対する行政処分の基準は、初回の違反で60日車、再違反で120日車の車両使用停止とされている。この基準は2016年12月1日に、それまでの20日車・40日車から引き上げられた。つまり60日車・120日車という重い処分は、あくまで届出のルール違反に対するもので、「基準額を下回った」こと自体の処分ではない。

軽井沢の事故が変えた、安全規制

貸切バスの安全のルールがここまで細かく定められる大きな契機となったのが、2016年(平成28年)1月15日に長野県軽井沢町で起きた貸切バスの転落事故だ。この事故では乗客・乗員15名が亡くなり、26名が重軽傷を負った。多くが大学生だったこともあり、貸切バスの安全確保が社会の大きな課題となった。

事故を受けて、国土交通省は総合的な対策を講じた。事業許可を5年ごとに更新する「更新制」が2017年4月に導入され、許可を取り消された場合に再参入できない欠格期間は2年から5年へ延長された。運行管理者の資格要件の厳格化、夜間・長距離などの運行を対象とした中間点呼、ドライブレコーダーの装着と映像の活用、新たに雇い入れた運転者などへの20時間以上の実技訓練、大型高速バスなどの補助席へのシートベルト設置義務化も進められた。前の章で触れた届出違反への行政処分の引き上げ(2016年12月)も、この時期の対策のひとつだ。

なお、運賃制度と安全規制は、別々の枠組みとして整えられてきた。運賃制度の骨格である時間・キロ併用制は事故より前の2014年に始まっており、事故がすべての出発点というわけではない。ただし適正な運賃の収受は、安全や担い手の確保を支える前提として、政策の上では安全の議論と結びつけて語られてきた。

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セーフティバスは、五ツ星時代へ

利用者や旅行会社が、事業者の安全への取り組み状況を比較できるようにする仕組みが、「貸切バス事業者安全性評価認定制度」、通称セーフティバスだ。この制度は2011年度に始まり、2025年度に大きく見直された。日本バス協会が書類審査と訪問審査を行い、認定委員会での審議を経て、安全への取り組みが優れた事業者を星の数で認定・公表する。

この制度は2025年度の申請から審査基準が改定された。大きな変更点は2つある。1つは、法令遵守に関する事項をこれまでの配点方式から外し、違反が確認された場合は審査を中止して認定しない扱いに改めたことだ。もう1つは、評価の段階を従来の三ツ星(3段階)から五ツ星(5段階)へ拡大したことである。段階が増えたことで、従来の最高だった三ツ星の上に四ツ星・五ツ星が置かれた。新基準での更新認定は683社で、そのうち42社が、制度で初めての四ツ星となっている。

(注:新基準の配点は、安全性に対する取り組み状況の上位事項が55点、事故および行政処分の状況が20点、運輸安全マネジメントの取り組み状況が25点の計100点とされ、総合60点以上が認定の条件となる。認定の有効期間は原則として認定年度の翌々年度末までだ。配点や有効期間の詳細は、日本バス協会の最新の審査基準を確認したい。)

運賃の基準額と、セーフティバスの星は、役割が異なる。基準額は届け出た運賃が妥当かを行政が確認するための基準であり、セーフティバスは事業者の安全への取り組みを評価する制度だ。

観光ビジネスの視点

貸切バスの運賃制度は、2014年の時間・キロ併用制への一本化、2023年の幅運賃制廃止と下限額引き上げ、2025年の基準額改定と段階的に見直された。2025年の改定は、運転者の賃上げ原資を確保するためである。

ただし、基準額の高さは安全性を示すものではない。基準額は行政が届け出運賃を確認する目安であり、安全性はセーフティバス認定などで確かめる必要がある。

また、新基準の適用日は事業者ごとに異なった。相見積りでは旧・新基準が混在する可能性があるため、価格を比べる前に、どちらの基準による見積りか確認したい。

よくある質問

貸切バスの料金は事業者が自由に決められるのか。

すべてが自由なわけではない。国が車種ごとに基準額を公示しており、それを下回る運賃を届け出ると調査の対象になる。届け出た運賃が基準額以上で、適用方法も標準どおりであれば、原則として変更命令の検討は行われない。

同じ行程なのに、会社によって見積りが違うのはなぜか。

基準額が運輸局ごとに異なるうえ、実際の運賃は事業者ごとに設定される。さらに深夜早朝や交替運転者などの料金、高速代・フェリー代などの実費も加わるため、条件が同じでも総額は変わる。

見積書の「運賃」と「料金」と「実費」はどう違うのか。

運賃は時間制運賃とキロ制運賃の合算、料金は深夜早朝・特殊車両・交替運転者の3種類の上乗せ分だ。高速代やフェリー代、駐車料などはこれらとは別の実費として利用者が負担する。

極端に安い見積りは避けたほうがよいのか。

著しく安い見積りは、適用される運賃や内訳を確認したい。ただし価格の低さがそのまま安全性の低さを意味するわけではない。安全への取り組みは、セーフティバスの認定状況などから価格とは別に確認するとよい。

セーフティバスの星は何を表しているのか。

日本バス協会が事業者の安全への取り組みを評価・認定した結果で、2025年度からは五ツ星までの5段階になった。星の数は、審査で得た評価に応じた認定段階を表す。

出典

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