売上は過去最高、それでも減益
シリーズ「決算で読む観光ビジネス」の今回は、2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)を開示した航空2社を取り上げる。日本航空(JAL)とANAホールディングスは、どちらも第1四半期として過去最高の売上を計上した。それでも利益の落ち方は分かれた。
ANAは2026年7月29日に第1四半期の決算を発表した。売上高は6,727.3億円で前年同期比22.6%増、営業利益207.8億円(43.5%減)、経常利益225.1億円(37.3%減)である。純利益は194.1億円で、減益率は15.4%にとどまった。
JALは8月3日に同じ四半期の決算を開示した。売上収益は5,237億円で11.2%増、EBIT(利払い・税引き前の利益)は127億円で72.1%減。親会社の所有者に帰属する四半期利益は53億円で、80.2%減となった。会社はプレスリリースで「第1四半期で過去最高収益を達成」としている。
ただし、これらの利益額を並べて優劣は語れない。JALはIFRS(国際会計基準)、ANAは日本基準で決算を作っている。JALのEBITは、日本基準の営業利益とも経常利益とも一致しない。
増収率も同じだ。ANAの22.6%増には、日本貨物航空(NCA)を2025年7月1日から連結した効果が含まれる。航空事業の売上高に当期579億円が乗り、前年同期には入っていない。
| 日本航空(JAL) | 項目 | ANAホールディングス |
|---|---|---|
| IFRS (国際会計基準) | 会計基準 | 日本基準 |
| 2026年8月3日 | 開示日 | 2026年7月29日 |
| 5,237億円 (11.2%増・1Qとして過去最高) | 売上 | 6,727.3億円 (22.6%増・1Qとして過去最高) |
| EBIT 127億円 (72.1%減) | 主要な 利益指標 | 営業利益 207.8億円 (43.5%減) |
| 53億円 (80.2%減) | 純利益 | 194.1億円 (15.4%減) |
| 43.4% (前年同期 31.2%) | 実効税率 | 19.5% (前年同期 34.2%) |
| 1,100億円 (20.1%減) | 通期の 純利益予想 | 960億円 (43.2%減) |
国際線でわかれた二社の稼ぎ方
両社とも国際線が収益を引っ張った点は共通している。だが稼ぎ方は逆だった。なお集計の範囲はそろっておらず、JALはフルサービスキャリア2社の国際線、ANAはANAブランドの国際線である。
JALの国際線は有償旅客数194.75万人で0.4%減。供給(有効座席キロ)は0.7%減にとどまり、座席利用率は84.9%と1.2ポイント下がった。一方で旅客1人あたりの単価は108,676円と14.9%上がっている(単価は短信のセグメント別売上収益と有償旅客数からの編集部算出)。
ANAの国際線は旅客数236.3万人で14.3%増。供給を4.0%増やしたうえで座席利用率は85.1%と5.7ポイント上がり、旅客収入は2,476億円で20.0%伸びた。単価は104,763円で、上昇率は5.0%にとどまる。
JALは供給をほぼ据え置いて単価を上げ、ANAは供給を増やして席を埋めた。会社の説明も対照的である。
JALは短信で、インバウンド需要と日本発のビジネス需要を挙げている。加えて「燃油サーチャージテーブルの引き上げや中東における外国航空会社の運休に伴う需給のひっ迫」を受けたレベニューマネジメントが奏功し、単価が前年より大きく上昇したと書く。
ANAは決算説明資料で「訪日・日本発需要が好調に推移」としたうえで、「価格弾力性は想定と比べて限定的」と評した。値上げをしても客足が落ちにくかった、という読みである。
この図表のデータを見る
| 会社 | 項目 | 当期 | 前年同期比(%) |
|---|---|---|---|
| JAL | 有償旅客数 | 194.75万人 | ▲0.4 |
| JAL | 旅客単価 | 108,676円 | +14.9 |
| JAL | 供給(有効座席キロ) | 12,731百万席キロ | ▲0.7 |
| JAL | 座席利用率 | 84.9% | ▲1.2pt |
| ANA | 有償旅客数 | 236.3万人 | +14.3 |
| ANA | 旅客単価 | 104,763円 | +5.0 |
| ANA | 供給(有効座席キロ) | 15,651百万席キロ | +4.0 |
| ANA | 座席利用率 | 85.1% | +5.7pt |
注:供給と座席利用率は図には含めていない参考値で、座席利用率の増減はポイント(pt)表示。供給はいずれも有効座席キロ(ASK)で、ANAの資料表記は「座席キロ」。JALの旅客単価は、決算短信のセグメント別売上収益に示された国際線旅客収入211,648百万円を有償旅客数1,947,506人で割った編集部算出値。ANAの旅客単価は決算説明資料の開示値で、いずれも百万円単位の収入から算出されているため、この表の億円・万人に丸めた数字で割り戻した値とは一致しない。集計範囲は両社で異なり、JALのフルサービスキャリア事業の国際線は日本航空と日本トランスオーシャン航空の2社でLCCを含まない。ANAはANAブランドのみでピーチ・アビエーションを含まない。出典:日本航空「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」、ANAホールディングス「2027年3月期 第1四半期 決算説明資料」
国内線では単価の向きが入れ替わる。JALは旅客数が2.7%減っても、単価は6.5%上昇した(編集部算出)。ANAは旅客数3.9%増・座席利用率4.0ポイント上昇の一方、開示された単価は2.7%下がっている。
ANAは運賃体系の変更とシステム移行にともない「イールドマネジメントに課題」があったとし、第2四半期以降に良化する見通しを示した。
あわせて読む 国際線の座席がどこに向けられているかは、こちらで詳しく解説している。
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燃油費の増え方は並べられない
減益の主因は燃油である。ANAの決算説明資料によれば、シンガポール・ケロシンは1バレルあたり81.4ドルから182.5ドルへ124.2%上がった。ドバイ原油も68.0ドルから112.5ドルへ65.4%上昇し、為替は1ドル145.2円から159.2円へ9.6%の円安に振れた。
JALの航空燃油費は1,488.9億円で、前年同期の940.2億円から58.4%増えた。営業費用全体は5,168.5億円で18.7%増えたが、その増加分のおよそ3分の2は燃油費である。燃油以外の増加は7.8%にとどまる。
ANAの燃油費・燃料税(航空事業)は1,875億円。会社が示す前年差は869億円の増加である。ただし、この2つの増加額を直接比べて優劣は語れない。ANAの科目は燃料税を含み、連結したNCAの分も入る。JALの科目は連結損益計算書の「航空燃油費」で、範囲の定義がそろわない。
ANAは中東情勢による第1四半期の収支影響を金額で開示している。市況急騰による燃油費の増加が710億円のマイナス。これに対し運賃と燃油サーチャージが200億円、燃油ヘッジが160億円、コスト削減などが30億円のプラスで、差し引き320億円のマイナスだった。
会社はこの影響を「想定と比べて、およそ半分に抑えられた」と説明する。燃油の高騰で増えた費用をどれだけ回収できたかを示すカバー率は55%で、期初の第1四半期計画の21%から改善した。なお通期の収支影響は、4月30日時点で600億円のマイナスを見込んでいる。
燃油ヘッジは国内線の消費量を対象とし、国際線は原則としてヘッジせず燃油サーチャージで対応する。ANAは決算説明資料でそう説明したうえでヘッジ比率も開示している。今回参照したJALの決算短信に、同様の比率の開示は見当たらない。
JALが挙げた「収益多角化」の中身
JALは短信で、変動の極めて大きい外部環境下でも「国際路線事業の外貨獲得力と非航空事業による収益多角化を両輪に連結黒字を堅持しました」と説明している。セグメントを見ると、この一文の意味がはっきりする。
フルサービスキャリア(FSC)事業のEBITは8.1億円の赤字で、前年同期の307.2億円の黒字から沈んだ。LCC事業も1.3億円の赤字である(前年同期は42.4億円の黒字)。連結の黒字を支えたのは、マイル・金融・コマース事業の120.5億円(17.6%増)とその他事業の26.7億円だった。
ANAのセグメントは区分が違う。航空事業の売上は6,208億円で24.9%増、営業利益は181億円で48.7%減である。ただしANAの航空事業にはPeachもNCAも貨物も含まれ、LCCを独立させているJALとは切り方がそろわない。
貨物は両社とも伸びた。JALの国際線貨物郵便収入は355億円から541億円へ52.4%増。会社はアジア=北米間の需要を捉え「医薬品・AI関連部品等の高単価貨物」の取り込みに注力したとしている。
ANAの国際貨物はNCAを含めて1,087億円で157.2%増えた。ただしANA単体では583億円で、伸びは37.9%である。
純利益の差を広げたのは税率
指標が違うので減益率をそのまま比べることはできない。ただし各社の中で利益段階を追うと形が違う。JALはEBITの72.1%減に対して純利益が80.2%減と、下の段階ほど落ち込みが深い。一方のANAは、営業利益が43.5%減っても純利益は15.4%減で済んだ。
JALの実効税率は前年同期の31.2%から43.4%へ上がった(編集部算出)。税額そのものは減ったが、税引前利益がそれ以上に減ったためである。
ANAは逆に34.2%から19.5%へ下がり、加えて投資有価証券の売却益20.5億円を特別利益に計上した。営業段階ですでに開いていた差を、税率の動きと一過性の損益がさらに広げた。
ここにも注意がいる。IFRSには特別損益の区分がなく、同じ性質の損益がどこに表示されるかは資産の分類などによって変わる。「ANAには一過性の利益があってJALにはなかった」とは言えない。
通期予想は両社とも据え置いた。JALは売上収益2兆950億円(4.1%増)、EBIT1,800億円(17.4%減)、当期利益1,100億円(20.1%減)を見込む。ANAは売上高2兆7,700億円(9.1%増)、営業利益1,500億円(31.0%減)、純利益960億円(43.2%減)である。
JALはIFRSのため経常利益の区分がなく、EBITとANAの営業利益も別の指標だ。利益の項目で両社に共通するのは、純利益だけになる。
ANAは決算説明会の質疑で、第1四半期が上振れたにもかかわらず据え置いた理由を「市況前提の不確実性」と説明した。同じ資料では、第2四半期の国内線について「大阪・関西万博の影響で好調だった前年同期の実績を下回る見込みです」とも述べている。
この四半期で表に出たのは、席が増えても取りやすくなるとはかぎらないという事実だ。JALは供給をほぼ据え置いて単価を14.9%上げた。ANAは供給を4.0%増やしたが、座席利用率は85.1%と5.7ポイント上がっている。供給が増えても利用率がそれ以上に上がれば、旅行会社から見た座席の取りやすさは変わらない。
ここでいう単価は旅客収入を旅客数で割った平均であり、団体や旅行会社向けの仕入れ運賃そのものではない。追うべきは単価か席数かの二択ではなく、燃油サーチャージの適用テーブルと各社の座席供給計画の両方になる。ANAは国内線について万博の反動で前年同期を下回る見込みだと明言しており、その答え合わせは第2四半期の決算で付く。
出典
- 日本航空株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」
- 日本航空株式会社「2027年3月期第1四半期決算について(2026年8月3日)」
- ANAホールディングス株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
- ANAホールディングス株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明資料」
- ANAホールディングス株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明会 質疑応答」


