旅行会社の勢力図は、この一年でまた動いた。観光庁によると、2025年度(令和7年度)の主要旅行業者44社・グループの総取扱額は3兆9,750億円で、前年度から5.3%増えた。JTBが全体の34.7%を占めて首位を守る一方、2位以下は僅差が続き、2025年度はHISが日本旅行を抜いて2位に浮上した。
海外に目を向けると、Booking HoldingsやAirbnbといったOTA大手は、指標こそ違うが、観光庁が集計する国内主要44社・グループの合計を上回る規模にある。国内の「取扱額」と海外OTAの「Gross Bookings」は集計方法が異なり単純比較はできないが、指標の違いに注意しながら並べると業界の立ち位置が見えてくる。本記事では、国内主要企業のランキング、事業モデル別の7分類、海外OTA・TMC大手との規模比較を、指標の違いに注意しながら整理する。
この記事のポイント
- 2025年度の主要旅行業者44社の総取扱額は3兆9,750億円(前年度比5.3%増)で、JTBが34.7%を占め首位を守る。
- 2位以下はHIS・阪急交通社・日本旅行・KNT-CTが僅差で続き、2025年度はHISが2位に浮上した。
- 旅行会社は総合・ホールセラー・OTA・BTMなど7つの事業モデルに分かれ、1社が複数を兼ねるのが実態だ。
- 海外OTA大手は指標が異なり単純比較できないが、規模では国内主要44社・グループの合計を上回る。
旅行会社ランキングとは 取扱額で見る序列
「旅行会社ランキング」という場合、多くは観光庁が毎月・年度ごとに集計する「主要旅行業者の旅行取扱状況」の取扱額を指す。これは各社が扱った旅行代金の総額であり、預かり額ベースの指標だ。会社の売上高や利益とは別の概念である点に注意したい。
市場全体の規模とJTB一強の構図は、すでに別記事で解説した。本記事はその続編として、(1)取扱額で見る国内外の横並び比較、(2)事業モデル別の7分類、の2点に絞って深掘りする。
あわせて読む 市場全体の規模とJTB一強の構図は「旅行業界の全体像」で解説している。
旅行業界の全体像 市場・旅行会社・OTAをまとめて押さえる
指標の呼び方も会社・国によってばらばらだ。日本の「取扱額」、OTAの「Gross Bookings(GB)」「Gross Booking Value(GBV)」、上場企業の「Revenue(売上高)」、出張管理会社(TMC)の「Total Transaction Value(TTV)」は、いずれも規模を示す指標だが定義が異なる。
なぜいま業界地図が動いているのか
旅行業界の勢力図がここ1年で目立って動いた背景には、いくつかの出来事が重なっている。
国内では、2025年度にHISが日本旅行を抜いて取扱額2位に浮上した。海外では、TMC世界最大手のAmerican Express Global Business Travel(Amex GBT)が2025年9月2日にCWTの買収を完了し、出張管理市場で大規模な業界再編が進んだ。
OTA各社は2026年2月にFY2025通期決算を出そろわせ、Booking・Airbnb・Trip.com・Expediaのいずれも増収を確保した。各社は検索・旅行提案・顧客対応などへの生成AI活用を進めている。予約サイトから、要望を聞いて旅程を提案する相談相手へ。こうした機能が業界地図の次の競争軸のひとつになるだろう。
国内ランキング 2025年度速報の上位5社
▼この図表のデータを見る(2025年度・2024年度比較)
| 順位 | 会社 | 2025年度取扱額 | 2024年度取扱額 | 前年度比の動き |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | JTB(7社計) | 1兆3,784億円 | 1兆3,121億円 | 微増・首位を維持 |
| 2位 | エイチ・アイ・エス(6社計) | 3,820億円 | 3,596億円 | 海外好調で3位から2位へ |
| 3位 | 阪急交通社(2社計) | 3,709億円 | 3,340億円 | 2桁増・4位から3位へ上昇 |
| 4位 | 日本旅行(4社計) | 3,633億円 | 3,606億円 | 微増・2位から4位へ後退 |
| 5位 | KNT-CTホールディングス(4社計) | 3,515億円 | 3,339億円 | 増加・5位を維持 |
(注:2025年度は観光庁「2025年度(令和7年度)主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計」(2026-06-15公表)、2024年度は同「2024年度(令和6年度)主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計」(2025-06-06公表)による。対象社数は2025年度44社・2024年度43社で母集団が1社分異なる)
観光庁の速報によると、2025年度(令和7年度)の主要旅行業者44社・グループの総取扱額は3兆9,750億4,956万円で、前年度比105.3%だった。部門別では海外旅行が107.1%、外国人旅行(インバウンド)が112.9%、国内旅行が103.5%といずれも増加している。
会社別では、JTB(7社計)が1兆3,784億3,152万円で首位を守り、JTB7社計で44社合計の34.7%を占める。2位以下は僅差の集団で、エイチ・アイ・エス(6社計)3,820億円、阪急交通社(2社計)3,709億円、日本旅行(4社計)3,633億円、KNT-CTホールディングス(4社計)3,515億円と続く。前年度は日本旅行が2位だったが、2025年度はHISが日本旅行を上回り2位に浮上した。
構造的なトレンドとしては、2024年度時点で総取扱額は対2019年度比81.0%とコロナ前を回復しきっていなかった。もっとも2024年度第4四半期(1〜3月)は対2019年度比118.8%と初めてコロナ前を上回った。続く2025年度の総取扱額も、前年度比5.3%増加した。楽天トラベルは観光庁統計に取扱額の掲載がなく、規模を一次資料で把握することはできない。
各社の決算を見ると、取扱額と売上高は別の指標だ。JTBの連結売上高(2025年3月期)は1兆733億円、営業利益149億円だった。HISの連結売上高(2024年10月期)は3,433億円で前期比36.1%増、営業利益108億円・純利益87億円で5期ぶりに黒字化した。ただし観光庁の取扱額(2025年度)とは対象期間・対象会社・会計上の定義が異なるため、単純な大小比較はできない。取扱額は旅行取引の総額、売上高は各社の会計方針に基づいて計上される収益であり、利益や手元に残る資金とは異なる。
事業モデルで見る旅行会社の7分類
同じ「旅行会社」でも、稼ぎ方はまったく違う。取扱額の序列だけでは業界の構造は見えないため、本記事では旅行会社の事業を理解しやすくするよう、編集部が便宜上7つの類型に整理した。業界共通の公式分類ではなく、1社が複数の類型にまたがるのが実態で、たとえばJTBは総合・ホールセラー・BTM・ランドオペレーターの機能を同時に持つ。
- 総合旅行会社(フルライン):JTB・KNT-CT・日本旅行・東武トップツアーズ。国内取扱額の上位を占める。
- ホールセラー(募集型企画旅行の卸):旅行商品を造成し、提携する旅行会社や販売チャネルに供給する機能。ジャルパック・ANA Xなどが例に挙げられる。
- リテール/メディア販売特化:阪急交通社・クラブツーリズム(KNT-CT傘下)・読売旅行。メディア販売型パッケージが主力。
- OTA:国内は楽天トラベル(取扱高非開示)・エアトリ、海外はBooking Holdings・Expedia Group・Trip.comなど。Airbnbは民泊・体験特化で商品構成が異なる。
- BTM・TMC(出張管理):Amex GBT(2025年にCWTを買収)・BCD Travel。企業の出張・MICEを管理する法人向け事業。
- ランドオペレーター(DMC・地上手配):現地の交通・宿・ガイドを手配するB2Bの裏方。JTBもグローバルDMC事業を展開している。
- 教育・団体特化:修学旅行・団体旅行を主戦場とする分野で、総合社の法人部門と地域中堅が担う。教育旅行市場の詳しい内訳は別記事で扱う。
あわせて読む 教育・団体特化の市場規模や費用構造は、教育旅行・修学旅行市場を扱った記事に詳しい。
教育旅行・修学旅行市場とは 市場規模の試算と費用高騰の実態
7分類とは別に、母体(鉄道系・航空系・生協農協系)で色分けする見方もある。JR東海ツアーズ・JR東日本びゅう・東武・名鉄・西鉄などは鉄道系、ジャルパック・ANA Xは航空系、農協観光は生協・農協系に位置づけられる。
海外OTA・TMCの規模と、指標という壁
国内の取扱額と海外プレイヤーの規模を並べたくなるが、ここに最大の落とし穴がある。指標の定義がそもそも異なるからだ。
指標の違い(この記事での扱い方)
| 指標 | 意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 取扱額(日本) | 旅行代金の総額(預かり額ベース) | 観光庁の主要旅行業者44社が対象。売上高ではない |
| Gross Bookings/GBV(OTA) | 予約された旅行代金の総額 | 取扱額に近い概念だが集計対象・相殺方法が各社で異なる |
| Revenue(OTA・上場企業) | 総予約額のうち会社の取り分 | マーチャントモデルとエージェンシーモデルで計上方法が違い、比率も揃わない |
| TTV(TMC) | 出張管理の総取引額 | 法人向け出張・MICEの取引総額。B2Cの取扱額とは対象が異なる |
(注:本記事の数値はいずれも各社公表資料の原通貨表記のまま掲載し、換算は参考情報にとどめる)
原通貨で並べると、各社の規模感が見えてくる。Booking Holdings(FY2025・12月期)はGross Bookings 1,861億ドル(前年比+12%)、Revenue 269億ドル(+13%)で、売上の内訳はマーチャント177.6億ドル・エージェンシー79.7億ドル・広告その他11.9億ドルと、マーチャント比率が高まっている。Airbnbは同期間でRevenue 122億4,000万ドル(+約10%)、GBV 913億ドル、宿泊・体験の予約数(Nights & Experiences Booked)は5億3,300万泊(+8%)だった。Airbnbは宿泊・体験に加えてシェフや写真撮影などの「サービス」も扱うマーケットプレイスで、ホテル中心のOTAとは商品構成が異なる点に注意したい。
中国発のTrip.com GroupはNet Revenue 624億元(約89億ドル・+17%)で、原通貨は人民元だ。Expedia GroupはFY2025通期でGross Bookings 1,196億ドル、Revenue 147億ドルといずれも前年比8%増えた。
出張管理(TMC)分野では、Amex GBTがFY2025(2026年3月発表)でRevenue 27億1,800万ドル(+12%)、Adjusted EBITDA 5億3,200万ドル(+11%)、純利益1億1,100万ドルで黒字転換した。CWT買収の完了(2025年9月2日)が寄与しており、TTVは通期で約363億ドル(10-Kベース)に達した(FY2024実績は305億ドル)。
Booking HoldingsのGross Bookings(1,861億ドル)やAirbnbのGBV(913億ドル)は、1ドル=約162円(2026年7月12日時点・編集部換算)で円換算するとそれぞれ約30兆円・約15兆円規模となり、観光庁が集計する主要44社・グループの総取扱額(約3.98兆円)を上回る水準になる。ただし取扱額・Gross Bookings・GBVは集計対象や計上基準が異なるため、為替換算後でも厳密な順位づけはできない。
「旅行会社ランキング」と聞いて思い浮かぶ取扱額の序列は、実は各社の強さをほとんど説明しない。預かった旅行代金の総額で数えるJTBと、予約仲介の取り分で数える海外OTAは、そもそも土俵が違うからだ。この業界地図で見るべきは順位の上下ではなく、どの事業モデルでどう稼ぐかにある。海外OTAがマーチャント化とAIによる旅程提案で「取り分」を厚くするいま、取扱額で並べた序列は、業界の実力差をますます映さなくなっていく。
あわせて読む ランキングに並ぶOTAが、法律上どういう立場で予約を扱っているかは、こちらで詳しく扱っている。
OTAとは 比較サイトとの違いから手数料・登録まで
よくある質問
出典
- 観光庁「2025年度(令和7年度)主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計」
- 観光庁「2024年度(令和6年度)主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計」
- JTB「2025年3月期 決算概要」
- HIS「2024年10月期 決算短信」
- Booking Holdings「FY2025 Q4 Earnings Release」
- Airbnb「FY2025 Q4 Shareholder Letter」
- American Express Global Business Travel「FY2025 Q4 Financial Results」
(注:2026年7月29日の配信後ファクトチェックにより、阪急交通社の順位変動を観光庁「主要旅行業者の旅行取扱状況」に基づき「3位を維持」から「4位から3位へ上昇」に訂正した。数値は2026年7月29日時点。)
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