2024年度の修学旅行費が、中学・高校とも過去最高を更新した。少子化で生徒数が減るなかでも、生徒1人あたりの費用はコロナ前を上回る水準まで上がっている。教育旅行・修学旅行の市場規模を直接示す公的統計は、編集部が確認した範囲では見当たらない。本記事では、編集部試算による市場規模、費用高騰の要因、旅行会社の収益構造、主要プレイヤーの構図を、日本修学旅行協会(JES)・全国修学旅行研究協会(全修協)・観光庁など一次情報にもとづいて紹介する。
この記事のポイント
- 市場規模を示す公的統計はなく、編集部試算で中高国内の修学旅行は年間約1,870億円である。
- 2024年度の修学旅行費は生徒1人あたり中学73,805円・高校114,623円で、いずれも過去最高を更新した。
- 2025年秋の貸切バス運賃改定は、2025年度以降に契約する修学旅行の費用を押し上げる要因になる。
- 高校の海外修学旅行実施率は前年度から上昇したが、実施の大半は引き続き国内である。
教育旅行・修学旅行とは何か
「教育旅行」は、修学旅行・遠足・移動教室・合宿・野外活動などを広く含む上位概念で、修学旅行はその一部にあたる。日本修学旅行協会(JES)は、調査上の区分として「国内修学旅行」「海外教育旅行」「訪日教育旅行」の3系統を用いている。
法令上の位置づけを見ると、修学旅行は学習指導要領の「特別活動」のなかの「学校行事」、さらにその「(4)旅行・集団宿泊的行事」に位置づく(小学校は「遠足・集団宿泊的行事」)。林間学校・臨海学校や、近年増えている探究型の校外学習も、法令上はこの区分に含まれ、独立した法令区分があるわけではない。つまり「修学旅行」という個別の法律・制度があるのではなく、学校教育の一環である学校行事の枠組みのなかで実施されている。
生徒数も減り続けている。中学校の生徒数は310万5千人(令和7年度)で過去最少を更新中だ。高校も287万4千人(令和7年度)で減少が続く。少子化は、教育旅行市場の規模を左右する構造的な縮小要因になっている。
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市場規模の試算

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| 区分 | 参加人数(2024年度) | 平均費用(2024年度) | 試算額 |
|---|---|---|---|
| 中学国内 | 1,042,858人 | 73,805円 | 約770億円 |
| 高校国内 | 962,574人 | 114,623円 | 約1,103億円 |
| 中高国内合計 | ― | ― | 約1,870億円/年 |
修学旅行市場の総額を直接示す統計は、公的機関にもJES・全修協にも、編集部が確認した範囲では見当たらない。そこで本記事では、全修協が集計した実際の参加人数と、JESが調査した平均費用(いずれも2024年度)を掛け合わせ、編集部試算として市場規模を出した。
全修協の調査によると、2024年度の参加人数は中学校が104万2,858人、高校が96万2,574人だった。これにJESの平均総額(中学73,805円・高校114,623円)を掛けると、中学国内が約770億円、高校国内が約1,103億円、中高国内の合計は約1,870億円/年という試算になる。
この試算には限界がある。参加人数は全修協(悉皆に近い集計)、平均費用はJES(抽出調査)と、調査主体・母集団が異なる数値の掛け合わせだ。小学校・海外修学旅行・遠足・移動教室・林間学校や臨海学校は含んでおらず、含めれば市場規模はさらに拡大する。
また、これは生徒側が支払う旅行代金の総和であり、旅行会社の売上や粗利益ではない。教育旅行全体から見れば対象範囲を限定した試算だが、中高国内の推計としても、母集団や調査手法の異なる数値を組み合わせている点に注意が必要だ。
費用はなぜ過去最高を更新したのか

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| 年度 | 中学(総額) | 高校(総額) |
|---|---|---|
| 2019年度 | 64,683円 | 102,737円 |
| 2020年度(コロナ底) | 41,617円 | 75,962円 |
| 2024年度(過去最高) | 73,805円 | 114,623円 |
JESの2024年度調査(速報版)によると、生徒1人あたりの修学旅行費は中学校が平均73,805円だった。内訳は交通費32,131円、宿泊費23,323円、体験活動費6,956円、その他11,394円である。高校は平均114,623円で、交通費53,244円、宿泊費34,398円、体験活動費10,586円、その他13,629円となっている(注:JESは総額と各費目をそれぞれ別に集計しているため、内訳額の合計は総額と一致しない)。
推移を見ると、中学は2019年の64,683円から2020年に41,617円までコロナで落ち込んだあと、2024年に73,805円へ回復し2019年を上回った。高校も2019年の102,737円から2020年に75,962円まで落ち込み、2024年は114,623円と2019年比で11,886円高い水準まで上がった。交通費・宿泊費の上昇が牽引役だ。
この2024年度実績とは別に、今後さらに費用を押し上げる要因も動き出している。国土交通省は2025年9月26日付で貸切バスの公示運賃を改定し、11月1日までに順次適用した。運転者の賃金を全産業平均の水準へ引き上げる原資を確保するのが狙いで、修学旅行のように事前に契約する需要には経過措置(実施日までに運送引受を合意していれば旧運賃を適用できる)が設けられている。
値上げ幅は下限運賃ベースで概ね7〜8%程度で、地域によって幅がある(国交省の報道発表本文には割合の明記がなく、地方運輸局公示の基準額から編集部が試算)。新運賃は、2025年度以降に契約する修学旅行から費用を押し上げる要因になる。
費用を誰が負担するかも論点になっている。埼玉県所沢市では、小学生3.5万円・中学生7.5万円を上限に補助する無償化案が令和8年度当初予算案に盛り込まれたが、2026年3月16日に市議会が反対多数でこの予算案を否決した。市はその後、無償化事業費を除いた修正予算案を再提出し、これが可決・成立している。つまり所沢市の修学旅行費無償化は、検討段階で否決され、予算計上が見送られた事例である。「所沢市が無償化を導入した」という書き方は誤りにあたる。
海外修学旅行は回復傾向、実施の大半は国内
JESの回答校ベースで実施状況を見ると、修学旅行は国内実施が大半を占める。2024年度は中学が国内93.8%・海外4.3%、高校が国内89.3%・海外9.1%だった(いずれも実施校の割合)。
その海外実施率は回復している。高校の海外実施率は前年度の4.2%から2024年度は9.1%へと上昇した。ただしJESの公開資料では設置者別(私立・国公立別)の実施率は示されておらず、私立・国公立のどちらが伸びを牽引したかは判定できない。円安や航空運賃の高止まりが海外実施のハードルになっているという指摘はあるが、この調査から設置者別の因果を読み取ることはできない。
国内にとどまる学校の一部では、旅行の中身を見直す動きもある。JESの「今後の修学旅行のあり方」調査では、今後の実施方法に変化が「ある」と答えた学校が中学32.2%・高校34.5%で、今後取り入れたい体験として最も多く挙げられたのが探究型プログラムだった。これは実際の導入率ではなく、学校側の意向を示す数字である。
班別自主行動(生徒が計画してグループで動く形式)を実施する学校は中学85.5%・高校86.3%と以前から高い水準にあり、そこに探究的なテーマ設定や事前事後学習との接続をどう組み込むかが、今後の論点になっている。
旅行会社の収益構造
修学旅行は、旅行会社にとって独特の収益構造を持つビジネスだ。実施時期は春(4〜6月)と秋(9〜11月)に集中しており、なかでも中学は5月が最も多い。年間を通じた平準化が難しい、季節性の強い団体受注型のビジネスといえる。
受注の入口では、自治体や学校によってプロポーザル方式(企画競争)が用いられる。修学旅行のプロポーザルを一律に規定する国の統一要領はなく、個別の自治体・学校の要領にもとづいて、価格だけでなく企画力・専門性・実行力が評価される。
受注した後の業務範囲も幅広い。旅行会社は契約内容に応じて、下見(現地の事前調査)、添乗、緊急時を含む安全管理、事前学習・事後学習の支援などを担う。
利益率を示す一次数値は各社とも非開示だが、この事前事後の関与や安全管理の実務が、価格だけでは測れない非価格面の評価につながっている。教育旅行は「実施時期が集中する団体受注」「企画・実施体制を含む非価格面の評価」「教育旅行単独の利益率が非開示」という特徴を持つビジネスだと言える。
主要プレイヤーの構図
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旅行会社ランキング・業界地図 JTB3割強の先にある海外OTAとの差
観光庁の「主要旅行業者」統計は、海外旅行・訪日外国人旅行・国内旅行の3区分で公表されており、教育旅行だけを切り出した分離集計はない。
2025年度の各社総取扱額(全事業合算・速報値)は、JTB1兆3,784億円、日本旅行3,633億円、KNT-CTHD3,515億円、東武トップツアーズ1,422億円などだが、これらは教育旅行単独の数値ではない。
上場企業のIR資料を見ても状況は同じだ。KNT-CTHDのIR資料には教育旅行の取扱高・シェアの記載がなく、近畿日本ツーリストが「スクール&スポーツ」事業として担当していることが分かるのみで、セグメント開示は「旅行・受託」の2区分にとどまる。JTB・東武トップツアーズも、教育旅行単独の取扱高は非開示だ。
各社はサービス面の特徴を訴求している。JTBは事前・事後学習や探究学習を組み込んだトータルデザインを提供し、2025年6月には小規模な中学校向けに「らくらくオーダー修学旅行」を始めた。東武トップツアーズは全都道府県に拠点を持ち、教育旅行を提供している。取扱高は非開示のままだが、各社は学習プログラムや商品設計、拠点網などで、それぞれの強みを打ち出している。
教育旅行市場は、対象となる生徒数が縮小する一方で、生徒1人あたりの費用は上昇している。中学校の生徒数は過去最少を更新中で、母集団は今後も縮小する。一方で2024年度の費用は中学・高校とも過去最高を更新し、2025年秋の貸切バス運賃改定は2025年度以降の契約分をさらに押し上げる。加えてJESの調査では、実施方法に変化を取り入れたいと答えた学校が中学32.2%・高校34.5%にのぼり、探究型プログラムへの関心が最も高かった。
旅行会社にとっては、参加人数の量を追うよりも、企画・安全管理・探究学習支援といった提供価値を学校側に明確に示し、それに見合う対価をどう確保するかが、この市場での収益力を左右するだろう。
よくある質問
出典
- 文部科学省「中学校学習指導要領 特別活動」・「学校基本調査 令和7年度(生徒数)」
- 日本修学旅行協会(JES)「2024年度修学旅行実施状況調査(速報版)」(中学校・高校)
- 全国修学旅行研究協会(全修協)「2024年度修学旅行等の実施状況に関する調査」
- 国土交通省「貸切バスの運賃・料金の改定について」
- 所沢市「令和8年所沢市議会第2回(2月)定例会議 施政方針・提案理由説明要旨」
- 東京新聞「所沢市議会 修学旅行の無償化削除 修正予算が成立」


