GDS(Global Distribution System)は、航空券やホテルの部屋、レンタカーといった「在庫」を旅行会社に流通させる、業界向けの卸売市場のような予約基盤だ。かつては4社体制と呼ばれたが、統合を経て現在はAmadeus・Sabre・Travelportの主要3社に集約されている。収益源は1予約ごとの仲介料(ブッキングフィー)で、近年はIATAが推進するNDCという仕組みへの対応も広がっている。本記事では、GDSの基本的な仕組みと、NDCとの関係を整理する。
この記事のポイント
- GDSは航空券・宿泊等の在庫を旅行会社に流通させる「卸売市場」のような予約基盤で、起源は1950年代に開発が始まり1960年代に稼働したCRS「SABRE」にさかのぼる。
- かつて4社体制と呼ばれたが、統合を経て現在はAmadeus・Sabre・Travelportの主要3社に集約されている(Travelportは2019年に非公開化)。
- GDSは1予約ごとの仲介料(ブッキングフィー)が主な収益源。Sabreは単価を、Amadeus・Sabreはともに取扱件数をFY2025決算で開示している。
- IATAが推進するNDCは、航空会社がチャネルを問わず商品情報を配信しやすくする仕組みで、GDS各社も対応を広げている。
GDSの正体 航空券流通を支える「裏方」
GDS(Global Distribution System)とは、航空券・ホテル・レンタカーなどの在庫と価格を旅行会社に流通させる予約プラットフォームである。航空会社が座席という商品を並べ、旅行会社がそこから仕入れて客に売る、業界向けの卸売市場のような存在とイメージするとわかりやすい。
個々の航空会社が自社の座席在庫を管理するシステムをCRS(Computer Reservation System)と呼ぶ。これが複数の航空会社の在庫を横断的に扱う形へ発展したものがGDSにあたる。
その原点は、アメリカン航空(当時のCEO C.R. Smith)とIBMが1950年代から開発を進めた航空予約システムSABRE(「Semi-Automated Business Research Environment」の略)だ。1960年に試験稼働を始め、1964年には同社の予約業務全体を担う形で全面稼働した。このSABREが1976年に外部の旅行代理店へ開放され、2000年3月にはアメリカン航空から独立した。
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主要3社に集約された理由
世界の航空流通で大きな存在感を持つGDS事業者は、現在Amadeus・Sabre・Travelportの主要3社である。かつて「主要4社」と呼ばれたのはAmadeus・Sabre・Galileo・Worldspanで、2007年にGalileoとWorldspanが同じTravelportグループへ統合されたことで、現在の3社体制になった。
Travelportは、もとは別々だったGalileo・Apollo・Worldspanという3つのGDSを、統合して運営している企業だ。Travelportは2019年、投資ファンドのSiris CapitalとEvergreen Coast Capital(Elliott傘下)により約44億ドルで非公開化されている。
日本市場にも、かつて独自のGDSが存在した。JAL系のAXESSは1991年に独立会社化され、2021年3月末にサービスを終了した。一方、ANA系のINFINIは現在も稼働しており、株主はANAホールディングス(60%)とアジア太平洋の航空会社連合Everest Investment Holdings(40%)である。
GDSはどう儲けているのか
GDSの基本的な流通構造はこうだ。「航空会社→GDS→旅行代理店→消費者」という流れで、GDSは航空会社側の在庫を旅行代理店の端末にまとめて届ける仲介役として機能する(実際の運賃体系や精算の仕組みは、この記事で扱う範囲を超えて複雑な要素も多い)。予約が入ると、その内容はPNR(Passenger Name Record)と呼ぶ記録として管理され、GDS経由で発券や変更が処理される。
収益の基本は分かりやすい。GDSは1予約が成立するたびに、航空会社などから仲介料(ブッキングフィー)を受け取る。
Sabreが開示する平均ブッキングフィーは、航空予約だけでなく宿泊・地上交通など全ディストリビューション予約を含む会社全体の平均値だ。FY2025は6.07ドルとなり、FY2024の5.98ドルから1%上昇した。
Amadeusは2025年通期(FY2025)にAir Distributionの航空予約を4億8450万件処理し、グループ全体の売上は65.17億ユーロ(前年比+6.1%)だった。なお、Amadeusが開示する「旅客搭乗数22.49億人」は空港の搭乗管理システムなどを扱う別事業(Airline IT Solutions)の指標であり、GDS流通の予約件数とは区別して見る必要がある。
Sabreは継続事業ベースで2025年通期(FY2025)に、航空予約3億850万件を処理した。宿泊・レンタカーなど航空以外も含めた総予約(キャンセル控除後の純計)は3億6530万件で、連結売上は27.71億ドルだった。同年にはホテル関連事業(Hospitality Solutions)をTPGへ売却し、GDS・航空IT事業に経営資源を集中させている。なお、Travelportは非公開企業のため、同水準の一次数値は公表されていない。
GDSを揺るがす新標準「NDC」とは
GDSを語るうえで避けて通れないのが、IATA(国際航空運送協会)が2012年に打ち出したNDC(New Distribution Capability)という仕組みだ。10年以上かけて実装が広がってきたが、今もなお普及の途上にある。従来のGDSは、EDIFACTという昔ながらの定型フォーマットで情報をやり取りしてきた。電報や部内の定型通信のような、決まった様式でのやり取りに近い。これに対しNDCは、システム同士のデータのやり取りで使われるXMLという、より柔軟な形式を用い、航空会社が座席や追加サービスの情報を写真つきでリッチに配信できるようにする標準だ。
IATAは、NDCの目的として、従来型の間接流通では難しかった商品差別化や、写真・動画を含むリッチな商品表示、購買体験の改善を挙げている。NDCは特定の企業だけのものではなく、誰でも実装できるオープンな標準であり、GDS各社もこれを自社の仕組みに組み込んでいる。単純な「GDS対NDC」ではなく、当面は競合しながら併存していく形になりそうだ。
| GDS経由 (EDIFACT型) |
NDC経由 (API型) |
|
|---|---|---|
| データ 伝送形式 | EDIFACT (定型メッセージ) | XML (Offer and Order) |
| 商品の 見せ方 | 定型的な運賃・ 空席情報が中心 | 写真・動画等の リッチ表示が可能 |
| 手数料の 掛かり方 | 1予約ごとの ブッキングフィー | 航空会社が条件を 柔軟に設定 |
| 2020年代 の現状 | Amadeus・Sabre・ Travelportの3社が運営 | GDS各社もNDC接続を 拡大し共存が進む |
(EDIFACT型)
(API型)
GDSはNDCに置き換えられる関係ではなく、GDS各社自身もNDC接続を広げながら当面は併存していく可能性が高い。
IATAはNDCをいつ・どこまで導入するかを各社の判断に委ねており、期限や数値目標は設けていない。なお、NDCへの対応度合いは「Airline Retailing Maturity(ARM)index」という指標で測る仕組みに、2022年に切り替わった。
実際の取り組みを見ると、Amadeusは2025年12月末時点で75件超のNDC配信契約を結んでいる(実装済みの件数は同社の2025年通期開示には示されていない)。Sabreは次世代の商品基盤「SabreMosaic」を軸にVirgin AustraliaやRiyadh Airと提携を結んでいる。
自社のNDC接続数も2025年通期で15件増やして42件とした。(Amadeusの数字は2025年12月末時点の累計、Sabreの数字は2025年通期の増加実績である点に留意したい)。
手数料をめぐる攻防 LufthansaとAAの事例
NDCが広がる背景の一つには、GDSの手数料をめぐる航空会社側の不満もある。Lufthansa Groupは2015年から、GDS経由の予約に「Distribution Cost Charge(DCC)」という追加料金を課しており、従来型のEDIFACT経由では接続するGDSごとに異なる料率が設定されている。GDSを介したNDC接続(Public Model)にも、EDIFACT経由より低いDCCが設定される一方、航空会社との個別契約に基づくNDC接続(Bilateral Model)や自社直販はDCCの対象外とされる。
もともと利幅の薄いLCC(低コスト航空会社)は、従来型でセグメントあたり3〜5ドル程度かかるGDSの手数料を避け、自社サイトでの直接販売を中心にしてきた。ただし2010年代以降は、RyanairやEasyJetなど法人需要を取り込みたいLCCも、NDCやAPIを通じてGDSやアグリゲーター(複数の在庫をまとめる事業者)に接続し始めている。こうした航空会社側のGDS依存を減らす動きは、「ディスインターメディエーション(中抜き)」と呼ばれることが多い。
この構図を象徴する動きとして、American Airlinesの事例がある。同社は2023年4月以降、法人・レジャー双方の旅行会社が利用する従来型GDSから運賃コンテンツを大幅に引き揚げる対抗策を進めたが、旅行会社側からの反発が続いたことなどを受け、2024年5月には方針を転換して撤回している。
LufthansaがGDSごとに料率を変える「DCC」を導入したように、航空会社が流通コストを可視化し、経路によって条件を使い分ける動きは今後も広がりそうだ。日本の旅行会社にとっても、自社が契約しているGDSの手数料体系や、そのGDSのNDC対応がどこまで進んでいるかを把握しておくことが、仕入れコストの差を左右する実務課題になっていくだろう。
よくある質問
出典
- IBM「History of IBM: Sabre」
- Siris Capital「News」
- Sabre「FY2025 Earnings Release」
- Amadeus「2025 Financial Results PR」/「2025 Management review」(2026年2月27日)
- JAL「JALとアマデウス、戦略的パートナーシップを締結」
- 「LUFTHANSA GROUP AIRLINES DCC GUIDELINE」(Lufthansa Group・PDF)
- Travel Weekly「American Airlines reverses course on punitive NDC strategy」


