オンラインツアーは、Zoomなどのオンライン会議ツールを使って現地ガイドがライブ配信し、参加者が自宅から双方向でやり取りする観光体験の仕組みだ。2020年のコロナ禍でHIS・ベルトラが相次いで参入し、HISは2022年8月時点で累計25万人が体験するまでに広がった。ただし渡航が再開した現在、市場が右肩上がりに拡大しているわけではない。Airbnbは対面体験のみで2025年に事業を再ローンチし、オンライン枠を復活させなかった。本記事では、仕組み・商品バリエーション・収益モデルと、国内外の現在地を整理する。
この記事のポイント
- オンラインツアーはコロナ禍の渡航自粛下で、HIS・ベルトラが2020年に相次いで開始した仕組み。
- HISは2022年8月時点で累計25万人が体験し、2021年以降は月間約1万人ペースで推移してきた。
- Airbnbはオンライン体験を縮小させ、2025年の再ローンチも対面体験のみでオンライン枠を含まない。
- 拡大が続いているのではなく、下見・文化体験・アクセシビリティ・送客という特定用途への残存が実態に近い。
オンラインツアーとは何か
オンラインツアー(オンライン体験旅行)とは、Zoomなどのオンライン会議ツールを使って現地ガイドがライブ配信し、参加者が自宅から双方向でやり取りしながら観光体験を楽しむ仕組みを指す。似た言葉に「バーチャルツアー」があるが、こちらは録画映像・CG・360度映像なども含む広い概念で、オンラインツアーはそのうち現地とライブでつながる双方向型を指すことが多い。両語はしばしば同義で使われており、厳密な定義の違いより「ライブか収録か」で見分けるのが実務的だ。
使用ツールはZoomが主流で、事業者やプランによってはPortなど別のツールを使う場合もある。所要時間はプランごとに幅があるが、30分〜1時間程度が目安だ。
なぜコロナ禍で急拡大したのか
オンラインツアーは、渡航自粛が始まった2020年を境に、HIS・ベルトラといった旅行会社が相次いで参入する形で広がった。HISは2020年4月17日にオンライン体験旅行のサービスを開始し、ベルトラも同年7月17日に「ベルトラ・オンライン・アカデミー」を開設した。ベルトラは開設の狙いについて、渡航自粛で影響を受けた海外の提携ツアー会社・ガイドの事業継続を支える意味合いも明かしている。ベルトラは開設時点で、現地ツアー約12,000件・催行会社約4,000社・150カ国・会員約200万人のネットワークを土台にサービスを組み立てている。
体験者数はその後も伸び続けた。HISは2021年2月28日時点で72の国と地域、累計3,500コース以上を催行し、体験者数は5万人を超えた。HISの決算期末にあたる同年10月末までの累計催行本数は約5,000本に達し、翌11月には体験者数が15万人を突破した。2022年8月には累計25万人を突破し、2021年以降はひと月あたり約1万人のペースで体験者が増え続けてきた。
この図表のデータを見る
| 時点 | 累計体験者数 |
|---|---|
| 2021年2月 | 50,000人 |
| 2021年11月 | 150,000人 |
| 2022年8月 | 250,000人 |
HISオンライン体験ツアー(現IKU×MIRU)の累計体験者数。2022年8月以降は月間約1万人ペースで推移(HIS発表)。
「モノ付き」から法人貸切まで、広がる商品設計
料金は事業者・内容によって幅がある。ベルトラ・オンライン・アカデミーは1時間あたり数十ドル前後の価格帯で商品を並べた(例:ドリームキャッチャー制作USD38、ウフィツィ美術館講座EUR30、カリフォルニアワインUSD20)。
商品設計も一様ではない。特産品・食材・制作キットなどを事前に送付し、画面の前で味わったり作ったりする「モノ付き」プランが定番となり、HISは神戸牛付き50,000円、インドカレーセット付き3,000〜8,000円、地酒付き桜ツアー2,500〜5,480円といった商品を展開した。ライブ映像で現地の商品を見ながら購入する「ライブコマース」型のコースもあり、HISの「韓国コスメショッピングツアー」などが例に挙がる。企業の社内イベントやレクリエーション向けの団体貸切プランも商品化されている。支払いはオンライン決済(クレジットカード)が基本で、10名以上の貸切等は見積もり・振込にも対応する。
収益源も一本ではない。オンラインツアーの収益モデルは、参加費に加え、物販・ライブコマース送客・企業向け貸切研修・自治体のプロモーション予算という複合構造で成り立っている。HISはDMM英会話やアサヒ飲料といった異業種とのコラボ企画でも新規顧客層の開拓を試みた。法人・官公庁・教育機関向けには「オンラインツアー(企業向け)」を独立サービスとして提供する動きもある。
コロナ後、誰が続けているのか
2026年7月時点で、HISはサービス名を「IKU×MIRU」に変え、予約サイトを稼働させながら事業を継続している。本記事で確認した事業者の中では、2020年の開始から継続性がもっとも明確な事例だ。
ベルトラも提供を続けており、2026年には完全貸切の「ドバイ旧市街オンラインツアー」など新商品を投入した。会社全体の規模は、開設時の現地ツアー約12,000件・催行会社約4,000社・会員約200万人から、2026年5月時点で現地ツアー約22,000件・催行会社約8,000社・150カ国・会員約260万人・体験談約66万件へと拡大している。ただしこれは会社全体の規模であり、オンラインツアー単独の実績数値は公表されていない。
一方、民泊仲介プラットフォーム世界最大手のAirbnbは異なる道をたどった。コロナ対応として2020年4月に始めた「Online Experiences」はその後縮小に転じ、2023年4月に新規Experiencesの受付を一時停止、2024年6月には基準未達の体験約5,000件を削除したと報じられている。2025年5月に650都市・5カテゴリでExperiencesを再ローンチした際も、対面体験のみでオンライン/バーチャル体験は含まれなかった。終了時期は特定できないが、Airbnbに限らず大手プラットフォーム全体でオンライン体験への追加投資は限定的だった可能性がある。
| HIS | ベルトラ | Airbnb (海外) |
|
|---|---|---|---|
| 開始年月 | 2020年4月 | 2020年7月 | 2020年4月 |
| 2026年時点 の状況 | 継続中 (「IKU×MIRU」で提供) | 継続中 2026年に貸切プランを再販売 | 2025年再構築は 現地型体験が中心 |
| 単独の実績 | 累計25万人 (2022年8月時点) | 非公表 (会社全体は拡大) | 非公表 (オンライン再開は未確認) |
| 位置づけ | 下見・文化体験の 柱の一つ | 貸切・法人向けに 軸足 | オンライン体験の 再開は確認できず |
(海外)
国内の市場規模については、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2020年時点で95.9億円、年間成長率約30%と推計した資料がある。ただしこれはコロナ特需下の2020年時点の推計にとどまり、その後の同種の一次統計は確認できていない。
コロナ後にオンラインツアーが姿を消したわけではない。HISは対面旅行が再開した後も体験者数が持続していると説明している。HISは旅先の下見・予習という用途も前面に押し出している。渡航が難しい高齢者や小さな子どものいる家庭、身体に障害のある人が自宅で旅を体験できるアクセシビリティ用途も、ベルトラが開設当初から明示してきた価値だ。
あわせて読む 体験型サービスの広がりと、旅行業の全体像は、それぞれ別の記事で扱っている。
HIS・ベルトラとAirbnbで対応が分かれた背景には、パンデミックで急いだオンライン化全般に共通する構図がある。サブスクや動画配信でも同じことが起きたように、平時に戻ればオンライン移行策の多くは本業の脇に追いやられる。生き残った側に共通するのは、下見・文化体験・アクセシビリティ・送客という別の機能に位置づけ直した点にある。オンラインツアーは渡航の単純な代替としてではなく、下見・予習や送客導線など特定用途に組み込む形で残っていくと想定される。
よくある質問
出典
- HIS:オンライン体験旅行とは(公式FAQ)/ニュースリリース(オンライン体験ツアー サービス開始)/ニュースリリース(累計25万人突破・韓国コスメショッピングツアー)/プレスリリース(体験者15万人突破・PR TIMES)/IKU×MIRU(現行サービス)
- ベルトラ:プレスリリース(ベルトラ・オンライン・アカデミー開設)/会社概要プレスリリース/完全貸切でドバイの旧市街を巡るオンラインツアーを販売開始(PR TIMES)
- PhocusWire「Airbnb removing dozens of experiences」
- Airbnb Newsroom「2025 Summer Release」
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「オンラインツアー市場に関する調査」




