バス運転手の不足が深刻になっている。日本バス協会は2023年、必要な運転者を確保できなければ路線バスの減便・廃止や貸切バスの受注制限につながりうるとしたうえで、2030年度には運転者が約3.6万人不足すると試算した。実際、各地で路線の減便・廃止の事例もみられる。
背景には、有効求人倍率が全職業平均の約1.9倍という採用難、平均年齢56.0歳という高齢化、全産業より低い賃金と長い労働時間、そして2024年4月の「2024年問題」が重なっている。本記事では、いま何がどれだけ不足しているのかを公的統計から読み解き、観光ビジネス(とくに貸切バスと二次交通)への影響を分析する。
この記事のポイント
- 日本バス協会は2023年、2022年の輸送規模の維持などを前提に、2030年度のバス運転者が約3.6万人不足すると試算した。
- バス運転者の有効求人倍率は2.04倍(2025年度)で、全職業平均(約1.10倍)の約1.9倍。採用は厳しい状況にある。
- 平均年齢は56.0歳(全産業44.4歳)、年間収入額は約453万円(全産業546万円)と、高齢化と待遇差が重い。
- 2024年4月施行の改善基準告示の改正(2024年問題)で拘束時間などの上限が厳しくなった。
- 観光への影響は貸切バス(インバウンド・団体)の受注制限と、路線廃止による二次交通の空白として表れる。
2030年にバス運転者は約3.6万人不足
バス運転手不足の将来像を示す代表的な数字の一つが、日本バス協会の需給試算だ。
同協会は2023年に、2022年の輸送規模を維持し2024年問題に対応する前提で、2030年度に必要な運転者は約12.9万人であるのに対し供給が約9.3万人にとどまり、約3.6万人(約28%)が不足すると試算した。
不足がすでに現実の採用難として表れていることは、有効求人倍率でも確認できる。バス運転者の有効求人倍率は2025年度で2.04倍と、全職業平均(約1.10倍)の約1.9倍の水準にある。1人の求職者に対して2件の求人がある計算で、2025年度時点の採用環境の厳しさを示している。
経営環境も厳しい。国土交通省の資料によると、2024年度は路線バス事業者の73.7%が赤字だった。路線バス事業者の多くが赤字である一方、各地では減便・廃止の事例もみられる。
需要の回復と担い手側の変化
需要を示す指標には、回復した部分と未回復の部分が混在する。乗合バスの輸送人員(年間の延べ利用者数)は2024年度(年度ベース)で3,806百万人(約38億人)となり、コロナ前(2019年度 4,258百万人)の約89%まで回復した。訪日外国人数も2025年(暦年ベース)に4,268万人と過去最高を更新した。
担い手の側はどうか。国土交通省の事業者報告ベースでは、2024年度末のバス運転者数は乗合81,016人・貸切40,947人の計121,963人だった。
大型バスの運転に必要な大型二種免許の保有者は2025年末で749,150人となり、10年前(2015年 964,383人)から約22%減った。保有者の年齢構成も高齢に偏っており、60歳以上が61.9%を占める一方、30歳未満はわずか0.9%にとどまる。免許保有者は現役運転者と同じ母数ではないが、潜在的な担い手層の変化を示す補助指標として、高齢化と減少の傾向がうかがえる。
観光需要と関係が深い指標の一つが、貸切バスの輸送人員である。2024年度は229百万人で、ピークだった2013年度(約329百万人)の約7割にとどまる。ただし減少はコロナ禍以前から進んでおり、2018年度は約298百万人、2019年度は約275百万人と、ピークからすでに約17%減っていた。コロナ前の2019年度と比べれば約8割強まで戻った計算になる。
貸切バスの輸送実績がピーク時の7割水準にとどまったまま、インバウンドや団体旅行の需要回復局面を迎えつつあり、運転手不足がその供給側の制約として顕在化しやすい局面にある。
なぜ集まらないのか?賃金・労働時間・高齢化の問題
なり手が集まらない背景を考えるうえで、待遇と働き方に関するデータは重要な手がかりとなる。
バス運転者と全産業平均の比較(2025年)
| 指標 | バス運転者 | 全産業平均 |
|---|---|---|
| 平均年齢 | 56.0歳 | 44.4歳 |
| 年間収入額 | 約453万円 | 546万円 |
| 年間労働時間 | 2,376時間 | 2,076時間 |
(出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2025年)
バス運転者の平均年齢は56.0歳で全産業(44.4歳)より11.6歳高く、年間収入額は約453万円と全産業(546万円)より約93万円低い。
労働時間も長い。バス運転者の年間労働時間は2,376時間で、全産業平均(2,076時間)より約300時間長い。こうした労働時間の長さは、採用を考えるうえでの課題の一つになっていると考えられる。
年齢、収入、労働時間などのデータは、採用環境を考えるうえでの課題を示している。女性の参入が少ないことも課題の一つとされている。給与水準は他産業と比べて見劣りし、大型二種免許の取得というハードルもある。免許保有者の年齢構成も高齢に偏っており(前掲)、若年層の担い手確保が今後の課題となる可能性がある。
2024年問題と赤字構造
数字の背後には、制度と経営の二つの事情がある。一つが、いわゆる「2024年問題」だ。2024年4月に改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)が改正され、バス運転者の拘束時間や休息期間の基準が厳しくなった。
具体的には、年間拘束時間は原則3,300時間以内(一定の条件を満たす貸切バス等は労使協定により3,400時間まで)、休息期間は継続11時間を基本(努力義務・最低基準は9時間)とされ、時間外労働の上限も年960時間が適用された。
同じ輸送規模を維持する場合、1人あたりが乗務できる時間の上限が下がった分、より多くの運転者の確保が必要になる。日本バス協会の需給試算も、この2024年問題への対応を前提として算出されている。
もう一つの課題が、路線バス事業の厳しい収支環境だ。2024年度には路線バス事業者の73.7%が赤字だった。また、日本バス協会によると、路線バス事業の赤字はコロナ禍の2020〜2022年度の3年間で累計約4,000億円に上った(2022年度は推計値を含む)。こうした赤字構造のもとでは、賃上げや採用投資の原資を確保しにくくなる可能性がある。
長期的な路線の廃止も進んでいる。国土交通省の資料によると、乗合バスでは2008年度から2024年度までの累計で約27,080kmの路線が廃止された。2025年度には、ある事業者が5路線13系統を廃止し、別の2系統を減便した結果、対象系統全体の便数が42.7%減った事例もある。
あわせて読む 観光と交通の全体像は、こちらで詳しく解説している。
観光と交通の全体像 航空・鉄道・バス・MaaSのいま
個別の減便・廃止の原因は一様ではないが、運転手不足がその一因として指摘されている。地域の足をどう支えるかという論点は、観光と交通の全体像とも重なる。
バス運転手不足は、観光ビジネスの現場では二次交通の細りとして表れる。国土交通省の資料によると、乗合バスの路線は2008年度から2024年度までの累計で約27,080km廃止され、2025年度にも5路線13系統の廃止と2系統の減便で対象系統の便数が42.7%減った事例がある。観光地へのアクセスを担う路線が減れば、鉄道駅などから目的地までの移動が難しくなり、代替交通が乏しい地域ほど回遊や滞在への影響は大きくなる。運転手不足は人材の問題であると同時に、観光地の集客基盤にも関わる問題だ。
よくある質問
出典
- 公益社団法人日本バス協会「国土幹線道路部会ヒアリング資料(令和5年10月5日・資料4)」(2030年度の運転者需給試算・路線バス赤字額)
- 厚生労働省「統計からみるバス運転者の仕事」(有効求人倍率=職業安定業務統計/平均年齢・年間収入額・年間労働時間=賃金構造基本統計調査/輸送人員=国土交通省 貨物地域流動調査・旅客地域流動調査)
- 厚生労働省「改善基準告示(バス運転者)」(2024年4月改正・拘束時間・休息期間・時間外労働の上限)
- 警察庁「運転免許統計 令和7年版」(大型第二種免許保有者数・年齢構成)
- 国土交通省「第三次国土形成計画のモニタリング(資料2)」(2026年4月・路線廃止キロ・赤字事業者割合・減便廃止事例)
- 国土交通省「数字でみる自動車2026」(バス事業の運転者数・2024年度末)
- 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」2025年(推計値)
(注:2026年7月29日の配信後ファクトチェックにより、貸切バス輸送人員のピークを「2018年頃」から2013年度に訂正し、コロナ禍以前からの減少を追記した。数値は2026年7月29日時点。)
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