観光列車とは 全国の代表例と商品設計の違い

由布岳を背に走る観光列車「或る列車」(JR九州)
Photo: nikochan555 / photoAC
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全国で観光列車が相次いで生まれている。2026年だけでも、南海電鉄の「GRAN 天空」が4月に走り出し、近鉄のレストラン列車「Les Saveurs 志摩」が11月に運行を始める予定だ。

観光列車は、鉄道による移動に食事・車窓・デザイン・地域との交流を組み合わせ、「乗ること自体」を旅行商品にした列車である。2013年に登場した「ななつ星in九州」以降、1泊2日で1名あたり数十万円から100万円級のクルーズトレインも登場した。

ただし、観光列車が儲かるかどうかを単体で公表している例は少ない。本記事では、観光列車の定義から全国の代表例、そして「乗ること」を売る事業がどう設計されているのか解説する。

この記事のポイント

  • 観光列車とは、移動手段ではなく「乗ること自体」を目的にした列車である。
  • 形は幅広く、既存車両を活用する列車から専用新造のクルーズトレインまである。
  • クルーズトレインの旅行代金は、2名1室・1泊2日で数十万〜100万円級にのぼる。
  • 採算や経営効果を公表する例は限られ、沿線の体験や消費と結びつける設計が問われる。
目次

観光列車とは何か

観光列車という言葉はよく使われるが、明確な統一定義があるわけではない。日本民営鉄道協会は一般的な説明として、観光列車を「旅行をするための移動手段として鉄道を利用するのではなく、鉄道に乗ること自体が旅行の目的となるような、通常の列車とは異なる魅力的な外観や内装をもつ列車」などと紹介している。

つまり観光列車の本質は、車両の豪華さそのものではなく、「移動の手段」から「旅の目的」へと役割が入れ替わっている点にある。移動手段としての役割が中心の一般の列車に対し、観光列車は乗っている時間そのものを売る。

区分の幅は広い。既存車両を改装した列車もあれば、専用に新造した豪華な寝台車もある。料金も、1万円台の食事付き乗車プランから、1泊2日で1名あたり100万円級の旅行商品まで大きく開く。この記事では、その幅を「乗ること自体を商品にする」という共通点でくくって見ていく。

観光列車が再び広がる背景

観光列車は、実は新しい発明ではない。1950〜60年代には大手私鉄が特別列車を走らせていたが、自家用車や観光バスの普及で需要が縮んだ。再び脚光を浴びたのは2010年代で、シニア世代の増加とインバウンド需要の拡大がその背景にある。

もう一つの背景が、地方の鉄道が置かれた厳しい経営環境だ。新幹線・在来幹線・都市鉄道以外の路線を運行する「地域鉄道(ローカル鉄道)」の事業者は、2025年4月1日時点で98社ある。国土交通省の最新の集計となる2023年度は、96社中80社、約8割が経常収支ベースで赤字だった。

(注:この赤字は各社全体〔鉄軌道業〕の経常収支であり、観光列車単体の収支ではない。国交省は2023年度についてコロナ禍の影響にも触れている。ここでは「各地の鉄道が観光を切り口に誘客へ動く背景」として示す。)

厳しい環境のなかで、鉄道会社は車両の改造やイベントで沿線の資源と結びつけ、乗客を呼び込もうとする。観光列車は、その代表的な打ち手の一つとして各地に広がってきた。

「乗ること自体」を商品にする仕組み

観光列車の商品設計
「移動」に乗る時間の価値を足して、一つの旅行商品にする
ふつうの列車
移動
速く安く運ぶ
観光列車が足す
体験
食事・車窓・デザイン・地域との交流
生まれる商品
乗る旅
乗ること自体が目的
(注:足す要素の組み合わせは列車ごとに異なる。既存車両を活用する列車から、専用新造のクルーズトレインまで幅がある)
出典:日本民営鉄道協会「鉄道用語事典」をもとに編集部作成

観光列車が「乗ること自体」を商品にするとき、鉄道会社は移動に何を足しているのか。民鉄協は、観光列車の代表的な事業モデルとして、①既存車両を改装してコストを抑える、②食事の提供やアテンダントによる案内など新しいサービスを加える、③地方自治体や地域産業とタイアップする、の3点を挙げる。

ただし、これはあくまで「代表例」だ。観光列車の商品形態は一様ではなく、既存車両を活用する列車もあれば、専用車両を新造するクルーズトレインもある。食事、車窓、内装、案内、沿線での体験といった要素を、列車ごとに異なる形で組み合わせているのが実際だ。

たとえばJR九州は、公式サイトに掲載する10本の観光列車を「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と呼び、「乗ることそのものが、忘れられないイベントになる」列車と位置づけている(日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、このD&S列車一覧とは別枠である)。

デザイン(車両やしつらえ)とストーリー(沿線の物語)を組み合わせるという発想は、料金帯を問わず、多くの観光列車に通じる設計の考え方だ。

全国の代表的な観光列車

観光列車は北海道から九州まで各地にあり、規模も料金も幅広い。ここでは代表的なものを、運行会社・区間・運行開始年・タイプで一覧にした。

全国の代表的な観光列車
運行会社・区間・運行開始でみる代表例
クルーズ列車ななつ星in九州(JR九州)九州を周遊/2013年〜
TRAIN SUITE 四季島(JR東日本)首都圏発着で東日本を巡る/2017年〜
TWILIGHT EXPRESS 瑞風(JR西日本)京都〜下関ほか山陽・山陰/2017年〜
観光特急D&S列車(JR九州)ゆふいんの森・36ぷらす3など10本を九州各地に展開
地域・私鉄ろくもん(しなの鉄道)軽井沢〜長野の食事付き/2014年〜
GRAN 天空(南海電鉄)難波〜極楽橋/2026年運行開始
Les Saveurs 志摩(近鉄)名古屋〜賢島のレストラン列車/2026年運行開始
(注:料金は日数・部屋・人数で条件が異なるため本表には含めない。詳細は本文を参照)
出典:各社公式サイト・国土交通省資料をもとに編集部作成

観光列車の形はさまざまだが、本記事では便宜上、専用新造の高単価クルーズトレイン、大手JRが体系的に展開する観光特急、地域鉄道が既存資源で走らせる列車、という代表的なグループに分けて設計の違いを見ていく(これらに収まらないレストラン列車なども各地にある)。

事例で見る設計の違い

クルーズトレイン:高価格帯の「乗ること自体」を売る旅行商品

観光列車のなかで最も高単価なのが、専用の新造車両で走るクルーズトレインだ。その先駆けが、JR九州が2013年10月15日に運行を始めた「ななつ星in九州」=日本初のクルーズトレインである。7両編成・定員20名で、旅行代金は2026年秋冬コース(第29期)の1泊2日・2名1室利用で1名あたり70万〜95万円にのぼる。

大手JRはこれに続いた。JR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」は2017年5月1日に運行を開始した。2026年12月〜2027年3月出発の冬コースは、2名1室利用の1名あたりで1泊2日47万〜67万円、2泊3日75万〜105万円である。JR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」も2017年6月17日に走り出した。第31期(2026年12月〜2027年2月出発分)には、京都と下関を結ぶ1泊2日の片道型コースと、京都発着の2泊3日周遊型コースが設定されている。1名あたりの旅行代金は、1泊2日で約38.5万〜97.5万円、2泊3日で約66万〜144万円、募集人数は各出発日最大34名だ。

これらの旅行代金は、宿泊・食事・観光を含んだ旅行商品としての価格である。2名1室でそろえた1泊2日の1名あたりでは3列車とも100万円弱までだが、2泊3日や1名1室ではこれを上回る。定員がいずれも数十名と少なく、「乗ること自体」を体験の中心に据えて設計している点が共通する。

JR九州のD&S列車:観光特急としての体系化

クルーズトレインほど高額ではないが、日帰りや短時間で楽しめる観光特急を体系的にそろえたのがJR九州だ。公式サイトに載るD&S列車は、ゆふいんの森、A列車で行こう、かわせみ やませみ、あそぼーい!、ふたつ星4047、指宿のたまて箱、海幸山幸、或る列車、36ぷらす3、かんぱち・いちろくの10本にのぼる(別枠でクルーズトレインのななつ星in九州)。

九州各地の路線に個性の異なる列車を配し、車両デザインと沿線の物語をそろえて「乗ること」を目的化する。同じ鉄道会社が、料金帯の違う観光列車を面としてそろえている点に、JR九州の設計の特徴がある。

地域鉄道の観光列車:既存資源で誘客に挑む

一方、地域鉄道の事例では、既存の車両や沿線資源を生かして観光列車を走らせている。国土交通省が2019年に公表した「地方鉄道の誘客促進に関する調査(事例集)」には、観光列車のほかアニメとの連携や駅の活用など、複数の誘客策の事例が集められている。

資料が紹介する事例の一つが、しなの鉄道の観光列車「ろくもん」だ。調査当時の年間利用者は約1万2,000人と紹介されている(食事付きプランの料金は2026年時点で1万8,500円から。国交省資料に載る1万4,800円は調査当時の数字)。

数字に表れにくい効果も紹介されている。ろくもんの事例では、メディア掲載やSNSでの話題化による認知の向上、地域との連携といった効果が挙げられている。なお、しなの鉄道は「ろくもん」とは別の誘客施策として、旧型車両(115系)の塗装復元費用をクラウドファンディングで調達し、5日間で目標の290万円を集めた。

2026年の新たな動き

観光列車を活用した新たな取り組みは2026年も続いている。南海電鉄は2026年4月24日、難波駅と極楽橋駅を結ぶ新観光列車「GRAN 天空」の運行を開始した。4両編成で、窓向きの座席や食事付きプラン、アテンダントサービスを備え、高野山への参詣・観光需要を取り込む(従来の観光列車「天空」は同年3月20日に定期運行を終えた)。

近鉄は、名古屋と賢島を結ぶレストラン列車「Les Saveurs 志摩(レ・サヴール 志摩)」を2026年11月1日に運行開始する予定だ。伊勢志摩の海の幸を生かしたフレンチを提供する。JR東海も、JTBグローバルマーケティング&トラベルと組み、三島駅から富士宮駅まで富士山を望むインバウンド専用の特別列車を企画した。ツアーは2025年11月27日に発売され、列車の設定期間は2026年3月19日〜12月22日である。

あわせて読む 航空・鉄道・バスを含む交通全体の見取り図や、訪日客の鉄道移動については、こちらもあわせて読みたい。

観光列車が抱える課題

華やかな観光列車も、事業として成功しているかどうかは、外からは判断しにくい。

理由の一つは、効果を測るデータが少ないことだ。観光列車単体の収支や、運行を始めた前後で沿線の利用者がどう変化したかを公表している事業者は限られる。地域鉄道は2023年度、96社のうち80社が会社全体で赤字だった。しかし、観光列車が経営改善にどれだけ貢献しているかは、公表資料だけではわからない。

もう一つは、一度に運べる人数が限られることだ。高価格帯のクルーズトレインは、定員が数十人にとどまる。ただし、定員が少ないから採算が悪いとは限らない。収益性は、旅行代金や運行回数、稼働率に加え、車両費や運行費などを含めて判断する必要がある。こうしたデータをまとめて公表している例も少ない。

観光列車は、話題を集めることと、事業として利益を上げることが必ずしも一致しない。列車そのものの魅力だけでなく、乗客を沿線の飲食店や宿泊施設、体験サービスへ誘導し、地域全体にお金が回る仕組みをつくれるかも重要になる。

観光ビジネスの視点

同じ「乗ることを楽しむ列車」でも、狙いは異なる。JR九州は、料金帯の違う10本のD&S列車を九州各地で運行している。一方、しなの鉄道の「ろくもん」は、既存車両と沿線資源を生かし、鉄道や地域の知名度向上、地域との連携を目指している。

観光列車の価値は、豪華さや料金の高さだけでは決まらない。特に地域鉄道では、列車単体の収支だけでなく、乗客を沿線の宿泊・飲食・体験へつなげられるかが重要だ。列車の話題性を沿線での消費に変える仕組みが問われる。

よくある質問

観光列車とは普通の列車と何が違うのか。

目的が違う。一般の列車は移動手段としての役割が中心だが、観光列車は乗っている時間そのものを楽しむことを目的にした列車だ。車両のデザインや内装、車内での食事、沿線の景色や地域との交流などを組み合わせ、「乗ること自体」を旅行商品にしている。

観光列車の料金はどのくらいか。

幅がとても広い。地域鉄道の食事付き乗車プランなら1万円台のものもある(しなの鉄道「ろくもん」は2026年時点で1万8,500円から)。一方、専用車両で走るクルーズトレインは宿泊・食事・観光を含んだ旅行商品で、2名1室・1名あたりの目安は、ななつ星in九州が2026年秋冬の1泊2日で70万〜95万円、四季島が2026年度冬の1泊2日で47万〜67万円。2泊3日や1名1室では100万円を超える。日数・部屋・人数の条件で大きく変わる。

日本初のクルーズトレインは何か。

JR九州の「ななつ星in九州」で、2013年10月15日に運行を始めた。7両編成・定員20名の豪華寝台列車で、その後にJR東日本の「四季島」(2017年)、JR西日本の「瑞風」(2017年)が続いた。本記事では、この3列車を代表的なクルーズトレインとして取り上げた。

観光列車は儲かるのか。

一概には言えない。観光列車単体の採算や、鉄道会社全体への経営効果を公表している例は限られる。地域鉄道は2023年度に96社中80社が会社全体で赤字だったが、観光列車がどこまで経営を支えているかは公表資料からは見えにくい。話題性や認知向上、地域連携といった数字に表れにくい効果も指摘されている。

2026年に新しく走り始める観光列車はあるか。

ある。南海電鉄の「GRAN 天空」が2026年4月24日に難波〜極楽橋で運行を開始した。近鉄のレストラン列車「Les Saveurs 志摩」は同年11月1日に名古屋〜賢島で運行を始める予定だ。ほかにもJR東海がインバウンド向けに富士山を望む特別列車を企画するなど、新たな取り組みが続いている。

出典

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