環境配慮の旅は、どれだけ選ばれているのか
環境に配慮した旅行商品は、日本でどれだけ選ばれているのか。
公益財団法人日本交通公社の『旅行年報2025』は、「今後1〜2年の間に行ってみたい旅行タイプ」を42種類挙げ、当てはまるものを複数回答で選ばせている。対象は全国18〜79歳の男女で、調査会社のパネルから地域・性別・年代の人口構成比に基づいて割り当てた1,384人。2025年5〜6月の郵送自記式調査だ。
上位は温泉旅行53.9%、自然観光47.4%、グルメ45.2%、歴史・文化観光40.9%と並ぶ。これに対し「環境にやさしい旅行」は1.0%、回答数にして14人だった。42種類のうち、料金負担等を例示した「環境にやさしい旅行」を選んだのは14人にとどまった。
近い選択肢も振るわない。エコツアーは3.6%(50人)、グリーンツーリズムは1.1%(15人)である。
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| 旅行タイプ | 選択率(%) | 回答数(人) |
|---|---|---|
| 温泉旅行 | 53.9 | 746 |
| 自然観光 | 47.4 | 656 |
| グルメ | 45.2 | 626 |
| 歴史・文化観光 | 40.9 | 566 |
| エコツアー | 3.6 | 50 |
| グリーンツーリズム | 1.1 | 15 |
| 環境にやさしい旅行 | 1.0 | 14 |
注:設問の旅行タイプは42種類(ほかに「その他」「この中にはない/旅行には行かない」)。選択率は図Ⅰ-4-1、回答数は表Ⅰ-4-4の印字値。出典:公益財団法人日本交通公社『旅行年報2025』第Ⅰ編
ここで見落とせないのは、選択肢の定義だ。「環境にやさしい旅行」は「旅行中に排出したCO2を減らすための料金負担等、環境に配慮した旅行」と説明されている。
つまりこの設問は、環境への関心ではなく、料金負担とセットの旅行タイプを選ぶかどうかを聞いている。ただし追加額も価格差も示されていないため、1.0%を価格の壁の直接の証拠として扱うことはできない。負担を例示した途端に最下位近くまで沈む、と読めるところまでである。
供給側の動きは、これとは逆を向いている。アゴダとGSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)は2026年8月5日、業界向け研修プログラム「Sustainable Tourism Academy」の日本語対応を発表した。GSTCの基準とパフォーマンス指標、GSTC認証、方針・戦略の策定を学べるコースが、英語やタイ語などに続いて日本語でも提供される。登録ユーザーは3,000名を超えた。
事業者が学び、認証を取るための足場は整いつつある。問題はその先だ。投資したとして、それを客が選ぶのか。以下、日本の6つの調査から何が壁になっているのかを読み解く。
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いくらまでなら払うのか
手がかりになるのが、消費者庁の令和7年度第2回消費生活意識調査だ。2025年10月に全国15歳以上の5,000人を対象に、人口構成比に応じて割り付けて実施された。
「どのような条件であればエシカル消費を実践したいと思うか」を複数回答で聞いた設問がある。最も多かったのは「同種の商品・サービスと価格が同程度であったら」で40.6%。次いで品質・機能が良かったら35.3%、節約につながることが分かったら32.1%と続く。
一方、「実際に社会的課題の解決につながっていることが分かったら」は20.8%だった。価格や品質という自分に返ってくる条件のほうが、社会的意義そのものより広く選ばれている。(注:複数回答のため、同じ人が複数の条件を選んでいる。いずれも5,000人に対する割合)
言葉の浸透度にも差がある。「エシカル消費」を言葉も内容も知らないと答えた人は72.9%。「サステナビリティ」は34.7%で、こちらは比較的通じている。訴求に使う語によって届く範囲がまるで違う。
支払意向はもう一段細かい。エシカル消費を「日常的に/時々実践したい」と答えた2,003人に食料品で許容できる割高幅を聞くと、何らかの割高を許容する人は67.0%と多数派だった。ただし「0%より高いが10%未満」が47.6%で最も多く、10%以上を許容する層は合わせて19.4%にとどまる。実践したい人でさえ、大半は1割未満の上乗せまでしか想定していない。
旅行の文脈でも近い構図が確認できる。沖縄振興開発金融公庫が2024年6月に公表した公庫レポートNo.191(調査は2023年11月)は、サステナブルな取り組みを行う観光関連事業者へ求めることを聞いている。対象は今後沖縄への旅行を希望する全国16〜79歳の男女1,044人である。
最も多かったのは「利便性・快適性を落とさない」で56.4%だった。次いで「取組内容を利用者にしっかり伝える」43.8%、「取り組んだ結果・成果を伝える」43.2%と続く。「取組の背景にある企業姿勢を伝える」も37.3%あり、伝え方への要望が並ぶ。
サステナブルな取り組みを総合的に実施している宿泊施設を利用するかも聞いている。「今までと同価格であれば優先して利用する」が57.1%で最多、「1割以上高くても利用する」は22.2%だった。
快適性は落とさず、価格も上げず、しかし何をしてどうなったかは伝えてほしい。沖縄旅行を希望する層の回答からは、そうした注文が読み取れる。
オフシーズンだけ世界を上回る
では日本人は動かないのかというと、そうとも言い切れない。
ブッキング・ドットコムが2026年1月に35の国と地域で32,500人を対象に実施した調査がある。日本の回答者は1,000人。今後12か月にオフシーズンの旅行を計画すると答えた割合は、日本が49%で調査対象全体の42%を上回った。混雑した観光地を避ける予定は日本40%、全体43%とほぼ並ぶ。
同じ調査で「よりサステナブルな旅行を重要または非常に重要だと思う」と答えた割合は、調査対象全体85%に対し日本は71%だった。意識を聞けば低いのに、オフシーズンという旅行計画では上回る。
ただし挙げられた動機は違う。オフシーズン旅行を計画する人のうち「旅行先への負担を軽減したい」を挙げたのは、調査対象全体で37%。同じ動機を挙げた日本の回答者は24%にとどまる。
落ち着いた目的地を選ぶ理由に「オーバーツーリズムの一因となることを避けたい」を挙げた割合も、全体44%に対し日本は39%だった。
同じ傾向は公的世論調査にも表れる。内閣府の気候変動に関する世論調査では、脱炭素社会の実現に向けて「取り組みたい」と答えた人が89.3%に達した。2025年9〜10月に郵送で配布し、郵送またはインターネットで回収している。有効回収は1,818人(郵送1,152人、インターネット666人)である。
しかし実際に取り組んでいる内容の上位は顔ぶれが違う。こまめな消灯など電気消費量の削減が66.2%、軽装や重ね着による冷暖房の設定温度の管理が60.9%、省エネ家電の購入が48.5%だった。
一方、「今後新たに取り組んでみたい」として「地球温暖化への対策に取り組む企業の商品の購入やサービスの利用」を挙げた人は26.3%である。(注:この設問は、現在すでに取り組んでいると答えた項目を選べない。同じ項目を「現在取り組んでいる」と答えた人は10.5%だった)
ここまでの数字は、調査も設問も母集団もばらばらだ。旅行の計画、現在の行動、今後の意向、支払意向、旅行タイプの選択。測っているものが違う以上、一列に並べて実行率の勾配として読むことはできない。それでも共通するのは、費用の負担を明示的に尋ねた設問ほど数字が小さいことである。オフシーズンを選ぶ、消灯する、設定温度を変える。ここまでは動く。追加の支払いが入ると数字は小さくなる。
若い世代ほど疲れを感じている
ここまでの構図は、「若年層ほど環境意識が高いのだから、訴求を強めれば動く」という通説とも食い違う。
博報堂の生活者のサステナブル購買行動調査2025は、2025年2月に全国16〜79歳の男女5,000人へ実施されたインターネット調査である。対象は直近2〜3か月に食品・飲料・日用品・衣料品などを購入した人に限られ、数値は人口の性年代構成比によるウェイトバック集計後の値だ。
「社会・環境問題に取り組む事に疲れを感じる」への回答は全体で31.6%(あてはまる+ややあてはまる)。年代別では10代が48.1%と最も高く、20代43.0%、30代38.7%と続き、70代は18.2%で最も低かった。
疲れを訴える割合は、10代が最も高く、70代が最も低い。
ただし同じ調査は逆を向いた数字も出している。買い物で社会・環境への影響をどの程度意識しているかを聞いた「社会購買実践度」は、10点満点の平均で70代が5.69点と最も高く、次いで10代・20代の若年層、60代が続く。若年層は疲れを訴える割合が高いと同時に、実践度も高い層である。
「若年層は環境意識が高いから訴求を強めれば動く」も、「疲れているから訴求は逆効果だ」も、このデータからは導けない。疲労感と行動意欲は併存しうる。訴求の量や語り口が購買にどう効くかは、測られていない。
別の入口も示されている。買いたいサステナブル商品として「住んでいる場所や地元など身近なエリアの活性化や暮らしやすさに繋がる商品」を挙げた人は80.4%。「ポイント等により社会や環境への自分の貢献度が分かる商品」は73.7%だった。
地球規模の大きな意義ではなく、自分の生活圏に返ってくる効果や、目に見える貢献であれば反応する。裏を返せば、話の大きすぎる訴求語が疲れを生んでいるという読み方もできる。
なお、訴求語を変えれば行動が増えるとまでは言えない。既存の行動にラベルを付け替えるだけに終わる可能性は残る。検証には意向調査ではなく、実際の予約データが要る。
海外調査でも似た傾向がある
こうした言行の不一致は、日本に固有のものではない。
米国の旅行専門メディアSkiftが2026年7月29日、自社のリサーチ部門の調査「Global Travel Insights: What’s New for 2026」をもとに、サステナビリティは体験として売るべきだという趣旨の記事を掲載した。ただしこの調査の対象国・回答者数・調査時期は公表されていない。
同記事によれば、今後12か月の旅行判断でサステナビリティが重要になると答えた回答者は78%。積極的に選択肢を探し、かつトレードオフも受け入れると答えたのは24%にとどまった。追加費用も追加時間もかからないなら選ぶという回答は32%、どんな状況でも飛行機より鉄道を選ぶことはないという回答は12%だった。
数字の大きさは違うが、構造は日本の調査と重なる。関心は広く存在し、トレードオフの段階で大半が離脱する。
法人需要でも、まだ取引条件ではない
ここまでは一般消費者の話だが、法人の出張やMICEは事情が違う。企業が取引先を選ぶときの条件になりうる領域だからだ。
背景にあるのは、大企業に温室効果ガスの排出量開示を求める制度である。2026年2月20日に公布・施行された改正開示府令により、東証プライム上場のうち平均時価総額1兆円以上の企業は、有価証券報告書にサステナビリティ情報をSSBJ基準で記載することが義務づけられた。適用は原則2028年3月期から、3兆円以上の企業は2027年3月期からだ。
開示が求められる排出量は3つに分かれる。自社が直接出す分がScope1、購入した電気などによる分がScope2、そして取引先や物流を含めたサプライチェーン全体の分がScope3である。SSBJの気候関連開示基準は、このScope3をカテゴリー別に分けて開示するよう求めており、そのカテゴリ6が「出張」にあたる。GHGプロトコルでも環境省・経済産業省のガイドラインでも同じ区分だ。
社員の出張で出た排出量は、発注元企業が開示する数字の一部になる。ここだけを見れば、出張やMICEを発注する企業が旅行会社やホテルに排出量データを求めはじめる、という筋書きが見える。
だが、制度の中身はまだ緩い。SSBJ基準を適用する最初の年度は、Scope3の開示自体を省略できる。数字の正しさを外部が確かめる第三者保証についても、金融審議会のワーキング・グループ報告が、適用開始から2年間は対象をScope1・2とガバナンス・リスク管理に限ることが適当としている。出張者が泊まった宿の排出量をカテゴリ6に含めるかどうかも、そもそも任意である。
実際の商談の場でも、日本で法人出張やMICEの調達に環境要件が課されている比率を示す統計は確認できない。日本政府観光局(JNTO)の国際会議誘致・開催支援を受ける基本条件にも、サステナビリティに関する項目はない。観光庁の報告書では、横浜市が「横浜市の重点施策に合致し、サステナビリティを重視した国際会議への誘致提案書率を30%達成」を5か年計画の目標に掲げている。国内有数のMICE都市で、3割が5年後の目標という段階だ。法人需要でも、いまのところ構図は大きく変わらない。
日本人は環境意識が低い、とよく言われる。国際比較の数字だけを見れば、そう読める。だが、オフシーズンに旅行したいと考える割合は調査対象全体を上回る。低いのは意識ではなく、売り方との適合度だとみるべきだろう。
もっとも、いずれも意向調査であり、売り方を変えれば売れるとまでは言えない。それでも方向は見える。空いている時期に安く快適に旅ができる。地域の生業に触れ、自分の貢献を実感できる。事業者に求められていたのも、快適性を損なわず、取り組みと成果を伝えることだった。
出典
- 公益財団法人日本交通公社「旅行年報2025 第Ⅰ編」
- 消費者庁「令和7年度消費生活意識調査(第2回)の結果について」
- 沖縄振興開発金融公庫「サステナブルツーリズムの実現に向けた日本人観光客の意向調査(公庫レポートNo.191)」
- ブッキング・ドットコム「2026年版『サステナブル&トラベル』に関する調査結果を発表」
- 内閣府「気候変動に関する世論調査(令和7年9月調査)」
- 博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査2025」
- 金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令』等の公布及びパブリックコメントの結果について」
- 観光庁「国際会議におけるサステナビリティ推進事業 業務実施報告書」


