米欧でも観光人材は逼迫、それでも日本が最も深刻な理由

無人のホテルフロントカウンター。開いたノートパソコンとデスクランプが置かれている
Photo: Dylan Calluy / Unsplash
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観光の人手不足は世界共通の構造問題

観光業の人手不足は、日本だけが抱える固有の課題ではない。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が2025年9月に公表した報告書『The Future of Work in Travel & Tourism(旅行・観光の働き方の未来)』は、2035年に世界の旅行・観光部門で需要が供給を4,300万人超上回り、必要な労働力の16%が満たされなくなると推計した。中でもホスピタリティ部門(宿泊・飲食など)の不足は860万人にのぼり、必要水準の約18%が欠ける見込みだ。

つまり「人が採れない」は世界の観光業に共通する前提になりつつある。各国は同じ働き手を奪い合う構図にあり、日本の人手不足もこの世界的な潮流の一部として起きている。

なぜ世界で人手が足りないのか

理由は大きく三つに分けられる。

第一に、旅行需要そのものが伸び続けている。WTTCは2035年までに世界の旅行・観光部門で9,100万人分の新規雇用が生まれると見込む。観光は成長産業であり、必要な働き手の数も増え続けている。

第二に、先進国では働き手の総数が細っている。OECDは雇用見通し2025の巻頭社説で「職不足から労働力不足へ(From job shortage to labour shortage)」と題し、人手不足を加盟国共通の構造問題に位置づけた。OECD全体でも2060年までに生産年齢人口1人あたりが支える高齢者の数は67%増える見込みで、観光に限らず労働力の奪い合いが起きている。

第三に、観光業はその奪い合いで不利な側に回りやすい。一般に観光・宿泊業は他産業より賃金が低めで、労働時間も不規則、繁閑の差も大きい。コロナ禍では多くの人材が他業種へ移り、そのまま戻らなかった。米国でも宿泊・飲食の離職率が全産業平均を大きく上回るのは、こうした人の出入りの激しさを映している。

あわせて読む 日本の宿泊・飲食業の賃金と、観光人材の全体像は、それぞれこちらで詳しく解説している。

整理すると、「人手不足は世界共通」の土台は需要の拡大と先進国共通の人口減にある。そのうえで観光業は、賃金や労働条件の弱さゆえに、どの国でも限られた働き手を取り合う競争で後手に回りやすい。賃金は不足を生む原因というより、観光業がその競争で負けやすい理由だといえる。

日本は「相対的な深刻度」で調査20経済圏の最大

同じ報告書の中で、日本の位置づけははっきりしている。日本の旅行・観光部門は2035年に供給が需要を29%下回ると予測され、調査対象の20経済圏で最も大きい。次いでギリシャ(-27%)、ドイツ(-26%)が続く。供給不足の「率」で見れば、日本は調査対象20経済圏の中で最も高い。

ただし不足の「絶対数」では話が変わる。人数のギャップが最大なのは中国の1,690万人で、インド1,100万人、EU640万人と続く。市場規模の大きい国ほど不足する人数も大きくなるためだ。日本が突出するのはあくまで需要に対する不足の比率であって、不足する人数そのものではない。この二つを混同しないことが、各国比較を読むうえで必要だ。

米欧の現況統計でも逼迫は続く

将来推計だけでなく、足元の統計でも人手不足は確認できる。米国では、労働省労働統計局(BLS)の求人・労働異動調査(JOLTS、季節調整済み)で、宿泊・飲食サービスの自発的離職率が2026年4月に4.0%と、全産業計の1.9%を倍以上上回った。人材の定着が課題であることを示す指標の一つだ。

欧州はやや様子が異なる。Eurostatによると、宿泊・飲食サービス活動(NACE分類I)の欠員率(職業空席率)は2025年第4四半期にユーロ圏2.5%・EU2.4%で、全産業(ユーロ圏2.2%・EU2.0%)より高いものの、前年同期比では低下した。コロナ後の急回復で生じた逼迫が、欧州ではいくらか和らいできた局面だといえる。

世界共通とはいえ、現況の強弱には差がある。欧州では欠員率の低下という緩和の兆しも見えるのに対し、日本では逼迫感が高止まりしている。日銀短観(2025年6月調査)の雇用人員判断DI(全規模・全産業)は-35となり、企業の強い人手不足感を示している。

日本を突出させているのは人口動態

なぜ日本の深刻度が相対的に高いのか。背景にあるのは人口動態だ。OECD雇用見通し2025の日本に関する分析によると、日本の生産年齢人口は1995年の8,730万人をピークに、2024年には7,370万人へと16%減った。同じ期間に高齢者を支える負担を示す老年従属人口指数は21%から49%へと倍以上に上がっている。2023年から2060年にかけては、生産年齢人口がさらに31%減り、老年従属指数は74%まで高まる見込みだ。

人手不足が先進国共通の構造問題であることは先に見たとおりだが、日本はその速度と深さが際立つ。生産年齢人口が減るペースも、高齢者を支える負担の重さも、先進国の中でとりわけ大きい。世界共通の労働力制約を、日本は特に厳しい人口動態のもとで受けているということだ

各国比較には限界がある

ここまでの数字は、出典も「不足」の意味も同じではない点に注意がいる。WTTCの数値は2035年の需要と供給のギャップを示す将来推計(率)であり、Eurostatの欠員率はある時点で埋まっていないポストの割合を示すストック指標、日銀短観のDIは企業が感じる過不足の主観指標だ。本記事が米国について示した4.0%はBLSの自発的離職率で、1か月の間に自発的に職を離れた人数を雇用者数で割ったフロー指標にあたる。欧州の欠員率とはそもそも測っている対象が異なり、加えて対象事業所や季節調整の有無、産業分類も違うため、水準をそのまま並べて優劣を論じることはできない。

それでも、指標の性格は異なるが、いずれも同じ方向を指している。観光の人手不足は米欧でも確認される世界共通の現象であり、その中で日本は厳しい人口動態ゆえに構造的な深刻度が相対的に高い。「日本だけが例外的に苦しい」のではなく、「世界共通の問題を、日本が特に厳しい人口動態のもとで受けている」というのが、数字に整合する見方である。

観光ビジネスの視点

人手不足を「日本固有の問題」と捉えると、打ち手を見誤る。これは世界共通の構造問題であり、各国が外国人材・自動化・賃金で同じ働き手を奪い合う土俵に、日本は人口減というハンディを背負って立っている。しかも背負うのは人口減だけではない。宿泊・飲食の賃金は国内で最も低い水準にあり、そこに円安が重なれば、世界の奪い合いで外国人材を引き寄せる力も弱まる。だとすれば、頑張って採用するという発想だけでは勝てない。「人は十分に採れない」を前提に、省人化への投資と、賃金・労働環境の改善による定着を同時に進めるしかない。日本が最も厳しい条件にあるという事実は、悲観の理由ではなく、対策を最も急ぐべき理由だ。

出典

(注:2026年7月29日の配信後ファクトチェックにより、米国の4.0%が自発的離職率(フロー指標)である旨を明示し、欧州の欠員率(ストック指標)と同列に扱わないよう記述を改めた。あわせて見出しの「世界最大」を調査対象の20経済圏に限定した。数値は2026年7月29日時点。)

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