二次交通とは、空港や新幹線の駅といった拠点から、目的地の観光地や宿泊先までを結ぶ「二層目」の移動を指す。バスやタクシー、デマンド交通、シェアサイクルなどがこれにあたる。
飛行機や新幹線で速く現地に着けても、そこから先の足がなければ観光客は動けない。この「駅から先」を担うのが二次交通だ。
いま地方の観光地では、路線バスの利用減少や交通事業の赤字、運転者不足が進む一方、訪日客は過去最高の水準にある。本記事では、二次交通の定義、なぜ今それが課題なのか、手段の区分、現場が抱える課題、そして各地の解決の取り組みまでを、業界外の読者にもわかるように解説する。
この記事のポイント
- 二次交通とは、空港・新幹線駅などの幹線(一次交通)から観光地までを結ぶラストマイルの移動を指す。
- 担い手のバス・鉄道は運転者不足と赤字で細り、地方の観光地では「駅から先」の便が限られる地域がある。
- 一方で訪日需要は過去最高の水準にあり、京都のように混雑(オーバーツーリズム)が課題になる地域もある。
- 解決策は、周遊バスやAIオンデマンド交通、シェアサイクル、観光型MaaS、日本版ライドシェア、パークアンドライドなど多様だが、決め手は一つではない。
- 国も交通空白の解消やオーバーツーリズム対策の予算で二次交通の基盤づくりを後押ししている。
二次交通とは何か。定義と一次交通との関係
二次交通とは、空港や新幹線の駅などの拠点から、観光地や宿泊先までを結ぶ「二層目」の移動手段を指す。国土交通省北陸信越運輸局は、二次交通を「拠点となる空港や鉄道の駅から観光地までのタクシー等の移動手段」と説明している。
交通を二つの層で捉えると分かりやすい。飛行機や新幹線のように、都市と都市、地域と地域を結ぶ幹線が一次交通だ。そして、降り立った駅や空港から先、実際の目的地までを運ぶのが二次交通にあたる。
あわせて読む 一次・二次の二層で観光交通をとらえる全体像は、こちらで詳しく解説している。
観光と交通の全体像 航空・鉄道・バス・MaaSのいま
何が二次交通に含まれるかは、旅行の行程で果たす役割によって変わる。路線バスやコミュニティバス、観光周遊バス、ローカル鉄道、タクシー、デマンド交通、シェアサイクル、レンタカー、日本版ライドシェアなどが、その場面で「駅から先」を担えば二次交通として働く。
観光庁も二次交通という言葉を政策の中で使っている。2026年度予算の説明では「地方の観光地を結ぶ路線バス等の二次交通について、地方への誘客や周遊円滑化に向けた基盤を整備する」と明記した。二次交通は、地方誘客や周遊円滑化を支える観光政策上の重要な課題として位置づけられている。
運ぶ側が細る、地域交通の担い手不足
二次交通が注目される背景には、正反対の二つの動きがある。移動を「運ぶ側」の地域交通が細る一方で、「運ばれる側」の訪日需要は膨らんでいる。地域によっては、この「駅から先」が観光客の受け入れや周遊の課題になっている。
まず供給側だ。乗合バスの輸送人員は、2023年度時点で2001年度比のおよそ33%減まで落ち込んでいる。事業としても成り立ちにくい。一般路線バス事業者の73.7%が赤字、地域鉄道事業者にいたっては83.3%が経常赤字だ(いずれも2023年度)。
担い手不足も深刻だ。自動車運転従事者の有効求人倍率は2025年1月時点で2.76倍と、全職業の1.20倍を大きく上回る。内訳ではバス運転者が2.60倍、トラック運転者が2.13倍で、いずれも人手不足の強さがうかがえる。日本バス協会は、2030年に必要数の約28%にあたる約3.6万人のバス運転者が不足すると試算している(2022年度の輸送規模などを前提とした業界試算)。
路線の縮小も進む。2008年度から2023年度までに、路線バスの廃止路線延長は累計で約23,193kmに達した。こうした路線の縮小や運転者不足などから、移動手段の確保が課題となる地域がある。国交省の「取組方針2026」(2026年6月公表)は、自治体によるリストアップを基礎に、何らかの対応が必要な地区として、交通空白を全国2,740地区・人口約1,721万人と整理している。同方針は五つの柱の一つに「観光を起点とした地域交通の持続可能性の強化」を掲げ、観光をてこにした地域交通の立て直しを打ち出した。
運ばれる側がふくらむ、インバウンドと混雑
一方で需要側は膨らんでいる。2025年の訪日外客数は4,268万3,600人で、前年比15.8%増の過去最高を記録した(2026年1月21日公表の推計値)。2026年も上半期(1〜6月)の累計で2,108万人と高い水準が続くが、中国市場の伸び悩みなどから前年同期比では2.0%減となった(いずれもJNTO推計値)。
旅行消費額も伸びている。2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円で、前年比16.4%増と過去最高だった。訪問地別に見ると、クルーズ客を除く一般客を対象とした地域調査では、地方部(三大都市圏8都府県以外)の旅行消費額は2兆1,338億円、構成比は24.7%を占める。
この数字だけで地方誘客の余地を測ることはできない。それでも、地方への誘客を進めるうえで二次交通の整備は避けて通れない。地域によっては、観光客を駅や空港から目的地まで運ぶ手段が限られているためだ。
二次交通の課題は「足りない」だけではない。人気の観光地では逆に、公共交通が観光客であふれる混雑も起きている。国は、観光客の集中による過度の混雑やマナー違反などに対応するため、2023年10月18日に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定した。
このパッケージは三つの柱で組み立てられている。観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応、地方部への誘客の推進、そして地域住民と協働した観光振興だ。
二次交通に関わる具体策も並ぶ。供給力の回復、観光客向けの乗合タクシーの導入、混雑する乗り場でのタクシーポーターの配置(東京駅・京都駅)、そしてパークアンドライド駐車場の整備などだ。国はこの枠組みで、先駆的なモデル地域を第1次20地域・第2次6地域の計26地域選定している。
地域交通の供給の細り、観光需要の拡大、一部観光地での混雑。この異なる課題が重なり、いま二次交通への注目が高まっている。
二次交通の手段の区分
二次交通と一口に言っても、担い手は幅広い。運行の形で整理すると、大きく「定時定路線」「需要応答(オンデマンド)」「個人利用」の三つに分けて考えられる。
定時定路線は、決まった時刻に決まった経路を走る手段だ。路線バスやコミュニティバス、ローカル鉄道、そして観光地をめぐる周遊バスがこれにあたる。多くの人をまとめて運べる一方、利用が少ない地域や時間帯では赤字になりやすい。
需要応答型は、利用者の予約に応じて動く手段だ。タクシーに加えて、AIが配車と経路を最適化するオンデマンド交通、そして自家用車を使う日本版ライドシェアがある。担い手や台数が限られる地域で、需要に応じて運行する手段として導入・実証されている。
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個人利用は、観光客が自分で運転・利用する手段だ。レンタカーやシェアサイクルなどがこれにあたる。
この三つとは別に、時速20km未満で公道を走る電動車を活用した小さな移動サービスとして「グリーンスローモビリティ」がある。運転者が乗客を運ぶ形も含む総称で、世界遺産エリアや温泉地といった、ゆっくり周遊したい場所での新しい観光の足として国も導入を後押ししている。
これらをデジタルで束ね、検索・予約・決済を一つにまとめようとするのが観光型MaaSだ。MaaS自体は移動手段そのものではなく、複数の二次交通をつなぐ「まとめ役」にあたる。
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観光地で二次交通が直面する課題
現場では、どんな課題が起きているのか。国交省北陸信越運輸局が2026年3月にまとめた調査は、調査対象地域で確認された二次交通の課題を14項目に整理し、その背景・原因を六つの類型に分類している。
六つの類型とは、需要の時間的な集中・偏在、供給側の制約、地理的条件や交通構造、利用者側の情報・利用のハードル、利害関係者の調整や法令判断、そして災害による需要・供給の不安定化だ。
たとえば、繁忙期に需要が集中して積み残しが起きる一方、閑散期には便を維持できない。運転手不足や営業時間の制約で、夜間には移動手段が限られてしまう。観光地が点在していると、拠点から目的地への移動だけでなく、観光地どうしを結ぶ周遊も難しい。多言語の案内や決済環境が整っておらず、訪日客が使いこなせない。事業者や自治体の間の調整に時間がかかる。こうした課題が、地域ごとに重なり合って現れる。
調査では、事例によってはタクシーの待ち時間が30分以上に及ぶケースや、夜間の移動手段が限られるケースも報告されている。速い一次交通で現地までたどり着いても、その先の移動に時間や制約が生じる。二次交通の弱さは、こうした「駅から先」に現れる。
混雑側の課題もはっきりしている。京都市では、観光シーズンに市バスの混雑が課題となっている。京都市交通局は2025年秋(11月の土日祝12日間)に混雑対策を実施し、地下鉄・バスの1日券(大人1,100円)の利用を案内して地下鉄などへの分散を呼びかけ、市バスへの大型手荷物の持ち込みを控えるよう促した。ただし、東山方面から京都駅への地下鉄への無料振替は、対象の方向や停留所、時間帯、系統を限った措置であり、全面的なものではない。
解決の取り組みと事例
課題が多様なだけに、解決策も一つではない。各地では、混雑の緩和を目的とする取り組みと、細った足を補う取り組みが、地域の事情に応じて進められている。おもな例を見ていく。
まず混雑への対応だ。京都市は市民生活と観光の棲み分けを目指し、2024年6月に京都駅と東山エリア(清水寺・祇園・平安神宮・銀閣寺)を結ぶ観光利用向けの「観光特急バス」の運行を始めた(運賃は大人500円)。ただしこれは混雑対策として導入された取り組みであり、京都市自身の検証資料は、並行する路線の旅客数からは効果を見いだせる状況にないとしている。現時点では、施策の効果をどの指標で測るかも課題として残る。
次に、足を補う取り組みだ。北陸信越運輸局の調査では、地方観光地で多様な解決策が導入・実証されている。石川県内のある都市(報告書では匿名化されている)では、観光ガイドタクシーが年間およそ5,000件・約2万人に利用され(2024年度)、専用サイトの構築や定期研修による質の確保、シェアサイクルの100か所以上への設置などが進んでいる。これは県全体の実績ではなく、一つの都市事例である点に注意したい。
需要応答型の取り組みも確認されている。AIが配車を最適化するオンデマンド交通を365日運行する取り組みや、日本版ライドシェアの導入・実証、シェアサイクルやE-BIKEの配備などが、各地で試みられている。低速のグリーンスローモビリティも、温泉地や世界遺産エリアで観光の足として使われ始めている。
そして、これらをデジタルで束ねる観光型MaaSも各地で実装が進む。トヨタ系の「my route」は2024年9月に累計100万ダウンロードを突破し、関西の「KANSAI MaaS」は大阪・関西万博の閉会時点(2025年10月)で約160万ダウンロードに達した。個々のアプリの詳細は、前述のMaaS解説にゆずる。
国の後押しも厚みを増している。観光庁の2026年度(令和8年度)予算は総額約1,383億円で、うちオーバーツーリズム対策をはじめとする観光地の面的な受入環境整備に100億円が充てられた。地方公共団体や観光地域づくり法人(DMO)が地域一体で行う取り組みを、面的に支援する枠組みだ。
制度面でも、地域交通を面で支える方向へ舵が切られている。2023年10月に全面施行された改正地域交通法は、地域交通の「リ・デザイン(再構築)」を掲げ、自治体と交通事業者が複数年・エリア単位で赤字路線を含めて一括で運行する「エリア一括協定運行事業」などを設けた。
さらに2026年6月には、交通空白の解消を掲げる地域公共交通活性化再生法の改正法が成立・公布された(令和8年法律第35号)。この改正では、地域公共交通特定事業の実施計画を作成する際、自治体が関係者に情報提供などの協力を求めた場合に、正当な理由がなければ応じる義務も設けられた。
制度と予算の両面から、地域が二次交通を「面」で立て直すための土台は整ってきた。ここから先は、各地域がその土台をどう使いこなすかが問われる。
二次交通の解決は難しい。需要や採算を顧みずに便数だけを増やしても続かず、アプリを作っても使う人が乗る車がなければ意味がない。京都のように混雑対策を打っても、効果を確かめるのは容易でない。二次交通は「一つの正解を導入する」問題ではなく、「複数の手段を地域の事情に合わせて組み合わせる」問題である。
さらに利用が限られる地域では、運賃収入だけで運行を維持することが難しいケースが多い。交通単体の収支だけでなく、宿泊・飲食・体験など地域全体にもたらす便益も含めて、費用負担の仕組みをどう組み立てるかが重要になる。
よくある質問
出典
- 国土交通省北陸信越運輸局「地方部における観光と二次交通の現状に関する調査 業務報告書(令和8年3月)」(二次交通の定義・課題14項目/6類型・地域事例)
- 観光庁「令和8年度観光庁関係予算決定概要」(二次交通の基盤整備・面的受入環境整備100億円・観光庁予算1,383億円)
- 国土交通省「地域公共交通の現状(交通政策審議会資料・令和7年6月)」(バス・鉄道の赤字比率・有効求人倍率・廃止キロ)
- 国土交通省「交通空白」解消本部「取組方針2026」(交通空白2,740地区・約1,721万人・観光を起点とした持続可能性強化)
- JNTO(日本政府観光局)訪日外客数「2025年・年間値(2026年1月21日発表)」「2026年6月推計値・上半期累計(2026年7月15日発表)」(2025年=4,268万人/2026年上半期=2,108万人・前年同期比2.0%減)
- 観光庁「訪日外国人消費動向調査 2025年(確報)」(旅行消費額・地方部の地域調査値)


