オーベルジュとは、料理を主役に据え、そこに宿泊機能を備えた施設を指す。日本では「泊まれるレストラン」と説明されることが多い。
ただし、この言葉は日本の法律のどこにも定義がない。旅館業法にも、その施行令にも、食品衛生法にも「オーベルジュ」という語は出てこない。
定義を書いているのは、法律ではなく自治体の補助金要領のほうだ。 福井県は業態名を冠した補助金を設け、その要領でオーベルジュを「宿泊施設を有するレストラン」と定めている。
本記事は、この呼び名がどう定義され、なぜいま名指しで求められ、開業に何が要り、経営としてどう組まれているのかを、公的資料と事業者の発表をもとに解説する。
この記事のポイント
- 法令に定義はない。全国共通の定義もない。福井県は補助金の要領で「宿泊施設を有するレストラン」と定めている(同要綱・要領のなかでの定義)
- 開業には旅館業と飲食店営業の許可2本が要る。既存の建物を転用するなら、建築基準法の用途変更の確認も別に生じる
- 旅館業法施行令に客室数の下限はない。簡易宿所営業には従来からなく、旅館・ホテル営業では2018年の改正で廃止された
- 福井県の補助金は補助率25%・上限2億5千万円。交付を受けると、5年間の営業状況報告と、正当な理由なく10年以内に休廃止すれば取り消されうる縛りが付く
オーベルジュとは 法律にない呼び名
オーベルジュは、レストランに宿泊機能を備えた施設を指す言葉として使われている。日本では法令上の業態ではなく、事業者と自治体が使う呼称である。
実際、旅館業法・旅館業法施行令・食品衛生法の条文を通して見ても、「オーベルジュ」の語は一度も出てこない。同じ施設は法令上、旅館業の許可を受けた「旅館・ホテル営業」または「簡易宿所営業」として営まれている。
定義を書いているのは自治体と業界団体だ。福井県の補助金の交付取扱要領は第2条で「オーベルジュ 宿泊施設を有するレストランをいう」と定めている。ただしこれは同要綱・要領のなかで使う用語の定義であって、全国に通用する定義ではない。
業界団体では、日本オーベルジュ協会が「西洋料理を中心に食にこだわったレストラン機能を伴う宿泊施設」としている。
前者はレストランを主語に置き、後者は宿泊施設を主語に置く。もっとも協会は、同じページの前段で「宿泊設備を備えたレストラン」という言い方もしている。
どちらを主に置くかは、定義を書く側でも一定していない。 結局、名乗りや定義文ではなく、施設ごとの実態で見るほかない。
たとえば富山県南砺市利賀村の「L’évo(レヴォ)」は、富山県の観光公式サイトによれば、レストランが26席(カウンター4席・ホール3卓・個室2室)あるのに対し、宿泊はコテージ3棟である。公表されている規模だけを見れば、料飲の器のほうが大きい。
一方で、客室を多く持つ施設も、一棟貸しの宿もオーベルジュを名乗る。呼び名は業態の輪郭より先に広がっている。
福井県は、業態名で補助金を出している
オーベルジュという言葉が近年あらためて聞かれるのは、地方の宿泊を高単価にしたい政策の側が、この業態を名指しで求めているからだ。
今回確認した範囲で、業態名をそのまま制度名に掲げているのが福井県である。制度名は「福井県オーベルジュ誘致推進事業補助金」。補助率は25%、一事業当たりの交付限度額は2億5千万円で、土地造成、施設の建設、既存施設の取得・改修、設備等の取得・移設が対象になる。
規模は小さくない。県の補助金便覧によれば、この補助金の令和6年度(2024年度)の県補助決算額は4億6,118万7千円である。
観光庁が2025年3月にまとめた資金調達の資料によれば、制度は北陸新幹線福井・敦賀の開業(令和6年3月=2024年3月)に向けて始まり、当初の支援期間は令和3年度から令和7年度(2021〜2025年度)だった。新幹線開業に向けた時限的な措置だったわけだ。
ところが県の要領は令和8年4月1日(2026年4月1日)から新たに施行され、支援期間は令和8年度から令和12年度(2026〜2030年度)に更新されている。県の制度ページも、いまは事業の狙いを「北陸新幹線開業効果の持続と沿線外地域への誘客促進」と書く。
要件も変わっている。同じ観光庁の資料が令和7年3月時点で挙げていた補助要件は3つで、そこに県産材や伝統工芸品の使用が含まれていなかった。現行の県の別表は「施設の建材・内装・調度品・什器備品等の一部または全部に、県産材または伝統工芸品を用いること」を第4の要件に置いている。
開業前の呼び水として始めた制度が、開業後の持続策として5年延長されている。
もっとも、4つの要件のうち申請者をいちばん絞るのは1つ目だろう。「世界的に評価の高いシェフが料理を提供するレストランを有すること」という要件である。
要綱にも要領にも、合否を分ける基準は書かれていない。ただし指定申請の様式は「世界的に高い評価を受けている根拠」の記載を求め、ボキューズ・ドオル国際料理コンテストの入賞を例に挙げ、表彰状があれば添付するよう求めている。
なお、今回確認した範囲では、国にオーベルジュを名指しした制度は見当たらなかった。農林水産省が2026年8月にまとめた農泊の資料にも「オーベルジュ」の語は出てこない。ただし方向は重なる。同資料は令和6年度(2024年度)の農泊地域の平均宿泊費を1人1泊13,196円とし、「農泊の高付加価値化が課題」と明記している。
(注:同資料は比較対象として観光庁「旅行・観光消費動向調査」による観光全体の平均宿泊費18,940円を並べているが、前者は農泊地域を対象とした年度集計、後者は全国を対象とした2024年の暦年集計で、母集団も期間も異なる。)
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うちの地域の食は観光資源になるか ガストロノミーの設計
開業に要る許可と確認
オーベルジュを開くのに必要な手続きは、宿と飲食の2本の許可だけではない。
旅館業法は、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を旅館業とし、都道府県知事等の許可を必要としている。料理を調理して提供する以上は、食品衛生法の飲食店営業の許可も別に要る。こちらも許可権者は都道府県知事等で、許可には5年を下らない有効期間その他の条件を付けることができる。
見落とされやすいのが3本目だ。建築基準法は旅館を特殊建築物と位置づけており、既存の建物の用途を変更してこれにあたるものとする場合、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるときは建築確認が必要になる。廃校や古民家を転用する事例では、この手続きが実際の工程を左右する。
宿泊させ、あわせて
料理を提供する施設
- 都道府県知事(保健所を設置する市・特別区は市長・区長)の許可
- 一客室の床面積は7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上)
- 客室数の下限を定めた規定はない
- 都道府県知事等の許可(施行令第35条第1号の「飲食店営業」)
- 許可には5年を下らない有効期間その他の条件を付けることができる
- 旅館は特殊建築物にあたる
- 既存の建物を旅館に用途変更し、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるときは建築確認が必要(政令で指定する類似の用途相互間の変更を除く)
- 6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)
客室の側の基準は緩い。旅館業法施行令は旅館・ホテル営業について、一客室の床面積を7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上)と定め、ほかに換気・採光、入浴設備、洗面設備、便所などを求めている。
だが客室数の下限を定めた規定はない。
厚生労働省が改正時にまとめた資料によれば、2018年6月15日施行の改正で、ホテル営業と旅館営業の営業種別が「旅館・ホテル営業」に統合され、あわせてホテル営業10室・旅館営業5室という最低客室数の基準が廃止された。玄関帳場についてもICT設備での代替が認められている。
ただし、改正前から小規模な宿がなかったわけではない。簡易宿所営業にはもともと客室数の下限がなく、小さな宿は営めた。改正で変わったのは、旅館・ホテル営業として小規模に営む道が開いたことである。
なお福井県の補助を受けようとする施設は、この7㎡ではなく、県が独自に置いた1室40㎡以上という広さの下限を満たすことになる。
売上はどこで立っているのか
小さく作れることと、経営が成り立つことは別だ。
観光庁の資金調達資料が取り上げる福井県坂井市の「オーベルジュほまち三國湊」は、運営する株式会社Actibaseふくいが宿泊運営・料飲・アクティビティ・町並み等整備の4事業を営み、年間売上の9割を宿泊運営と料飲の2事業が占める。裏返せば、体験と町並み整備は合わせて1割ということになる。
料飲と宿泊のどちらが重いかまでは、この数字からは読めない。読めるのは、客室数を積むのではなく、宿と食の単価で売上を作る組み立てになっていることだ。前述のL’évoの26席とコテージ3棟という比率は、その極まった形にあたる。
観光庁の「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドライン」によれば、日本の宿泊事業者の6割以上は資本金1千万円未満の小規模事業者である。
一方で、初期投資は小さくない。同じ資金調達資料によれば、オーベルジュほまち三國湊の開業費用は約12億円で、内訳は出資金9.9億円と福井県の補助金約2億円である。9棟16室の分散型施設で、この規模になる。
資金の集め方も特徴的だ。出資金9.9億円のうち約6割をNTTグループ(NTT西日本、NTTアーバンソリューションズ)が負担し、株主企業は11社にのぼる。物件は所有者から20年契約で賃借し、運営は外部の運営会社に委託している。
自前で土地建物を持たず、地域外の資本と地域の物件を組み合わせる形になっている。 地域に残るのは、雇用と、まち並み整備の事業と、20年の賃料ということになる。
あわせて読む 宿泊事業の資金の集め方そのものは、こちらで全体像を整理している。
誰が作っているのか
作り手の顔ぶれは一様ではない。国内の例を運営の形で分けると、大きく3つになる。
料理人が主導する形。 富山県南砺市のL’évoは谷口シェフの店であり、石川県小松市の「オーベルジュeaufeu(オーフ)」は糸井章太シェフが料理を担う。
eaufeuは小松市の資料によれば、2018年3月に閉校した市立西尾小学校を滞在交流施設として活用し、2022年7月14日に開業した。公式サイトによれば客室は全12室である。
地域企業が器を作り、運営を外に出す形。 前述のオーベルジュほまち三國湊がこれにあたる。観光庁の資料によれば、町家を改修した分散型で、フロント棟を中心に半径800メートルの圏内に客室9棟16室とレストラン1棟が点在する。
ブランドと運営を分ける形。 日本航空の発表によれば、同社初のオーベルジュ事業「JALオーベルジュ富良野」が北海道空知郡中富良野町で2026年12月4日に開業する。2025年12月の発表時点で全10室、いずれも50㎡以上でミニキッチンが付き、販売は2026年7月22日に始まっている。
運営は株式会社日動が担い、JALはブランドの提供と販売支援にあたる。中富良野町を加えた3者の連携事業である。
規模と価格の幅も広い。滋賀県甲賀市信楽町の「欅の宿 縁」は、公式サイトが「一日一組限定の隠れ家一棟貸しの高級宿オーベルジュ」と掲げ、客室の形式は一棟貸、定員は2〜8名である。
福井県の資料に載る福井市の「オーベルジュ フジイフェルミエ」は、素泊まり1泊6,600円から、夕食3,000円、朝食1,000円と、泊まりと食事を分けて示している。
| 施設(所在地) | 運営の形 | 宿泊の規模 | 公表されている料飲の規模・提供の形 |
|---|---|---|---|
| L’évo (富山県南砺市) |
料理人が主導 | コテージ3棟 | レストラン26席(カウンター4席・ホール3卓・個室2室) |
| オーベルジュeaufeu (石川県小松市) |
料理人が主導 | 全12室 | 公表なし(2018年3月閉校の市立西尾小学校を活用し2022年7月開業) |
| オーベルジュほまち三國湊 (福井県坂井市) |
地域企業が整備し 運営を外部委託 |
9棟16室 | レストラン1棟(フロント棟を中心に半径800mの圏内に分散) |
| JALオーベルジュ富良野 (北海道中富良野町) |
ブランドと運営を 分離 |
全10室 (50㎡以上) |
公表なし(2026年12月4日開業予定・販売は2026年7月22日開始) |
| 欅の宿 縁 (滋賀県甲賀市) |
一日一組の 一棟貸し |
一棟貸 (定員2〜8名) |
囲炉裏の間で提供(レストランとしての席数は公表なし) |
| オーベルジュ フジイフェルミエ (福井市) |
小規模の自営 | 公表なし | 素泊まり1泊6,600円に夕食3,000円・朝食1,000円を分けて提示 |
福井県の制度は、作らせて終わりではない。交付要綱は5年間の営業状況報告を義務づけ、正当な理由なく営業開始日から10年以内に休止・廃止または営業規模を大幅に縮小すれば、指定と交付決定を取り消せると定めている。
指定申請の様式は、直近3か年の財務状況、年度別資金計画、営業開始後5年間の事業収支計画まで書かせる。見立てを問われるのは入口の一度で、そこから先は10年の縛りが続く。
補助率は25%のままだ。12億円の事業なら10億円は自力で集めることになる。10年を引き受けられるのは、その調達ができる主体に限られる。
よくある質問
出典
- 福井県「オーベルジュ誘致推進事業補助金」
- 観光庁「高付加価値な観光地づくりに関する資金調達のポイント集(令和7年3月)」
- 農林水産省「農泊をめぐる状況について(令和8年8月13日時点)」
- e-Gov法令検索「旅館業法施行令」
- e-Gov法令検索「建築基準法」




