秋田県がクマ対策予算を2.2倍に、各地で対策を強化
秋田県は2026年度、クマ被害防止対策の予算を6億1,966万円に拡充した。前年度当初の2億8,519万円から約2.2倍に増やす。
出没情報の共有システム「クマダス」のスマートフォンアプリを開発し、現在地の近くの出没情報を知らせるプッシュ通知を加える。AIやドローン、センサーカメラを使った出没抑制の新技術実証にも取り組む。

背景には、全国でクマの出没が急増し、人身被害が過去最多を更新した状況がある。環境省が都府県から集計した2025年度のクマ出没情報は、速報値で50,801件となり、前年度の20,513件の約2.5倍に増えた。
北海道は出没数を公表しておらず、この集計には含まれない。また、集計方法は都府県によって異なる。
人身被害は216件、被害者は238人に上り、被害者数と死亡者13人はいずれも過去最多となった。都府県別の出没情報は秋田県が13,592件で最も多く、岩手県が9,739件で続いた。
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指定管理鳥獣から緊急銃猟まで、2年で動いた国の制度
制度面でも、この2年間に国の対応が相次いで拡充された。国は2024年4月16日、ヒグマとツキノワグマを指定管理鳥獣に追加した。ただし、絶滅のおそれがある四国4県のツキノワグマ個体群は対象外である。
続いて2025年9月1日には「緊急銃猟」制度が施行された。クマなどが人の日常生活圏に侵入し、危害防止が緊急に必要で、銃猟以外では迅速な捕獲が困難であり、避難などによって弾丸が住民に到達するおそれがない場合に、市町村長が一定の技能を持つ捕獲者に銃猟を委託できる。
2025年11月には、市街地などに出没したクマを駆除する任務で、警察官が特殊銃(ライフル銃)を使用できるようにする規範改正も施行された。
政府の関係閣僚会議は2026年3月27日、「クマ被害対策パッケージ」を体系的に実施する「クマ被害対策ロードマップ」を策定した。クマが生息する37都道府県への照会では、クマの捕獲作業に従事する自治体職員は784人で、2030年度までにこれを2,500人へ、はこわなを5,527基から1万基へ、クマ撃退スプレーを7,093本から2万本へ増やす目標を掲げる。
観光との関わりでは、観光庁と連携した「インバウンドを含む登山客等への多言語情報発信」や、国立公園などのキャンプ場への電気柵・フードロッカーの整備が盛り込まれた。観光庁は2025年12月19日、餌やりやポイ捨ての禁止、距離の確保を示す「クマ対策の観光ピクトグラム」3種類を公開している(英語表記は参考扱い)。
| 2024年4月 | 指定管理鳥獣ヒグマとツキノワグマを追加。絶滅のおそれがある四国4県は対象外 |
|---|---|
| 2025年9月 | 緊急銃猟市町村長が技能を持つ捕獲者に銃猟を委託できる制度が施行 |
| 2025年11月 | 規範改正市街地の駆除任務で警察官が特殊銃を使用可能に |
| 2026年3月 | ロードマップ「クマ被害対策パッケージ」を体系化し、2030年度目標を設定 |
秋田だけではない、予算・人材・技術・多言語で動く自治体
自治体の動きは、いくつかの類型に整理できる。
捕獲枠
- 対策予算の増額
- 許可捕獲上限の引き上げ
- 市町村への補助
- 秋田=予算2.2倍
- 長野=337→675頭
- 新潟=補助率10割
- ガバメントハンター採用
- 対策員の公務員化
- 警察の駆除チーム
- 岩手=5人採用
- 長野=対策本部設置
- 新潟県警=PT運用
- AIカメラ実証
- ドローン活用
- 出没マップ
- 札幌=AIカメラ
- 富山=クマっぷ
- 高崎=ドローン
- 多言語チラシ
- 相談デスク
- 野営場の閉鎖運用
- 日光=4言語チラシ
- 山形=相談デスク
- 上高地=閉鎖マニュアル
第一に、予算と捕獲枠の拡大である。長野県は2025年11月15日からの1年間、クマの許可捕獲上限を平常年の337頭から出没年の675頭へと約2倍に引き上げた。新潟県は予算規模約8,000万円の緊急支援事業を設け、市町村への補助率を10分の10(全額補助)とした。
第二に、人材と体制の強化だ。岩手県は狩猟の担い手を職員として抱える「ガバメントハンター」を5人新規採用したと報じられている。長野県はクマ対策員を2025年10月から非常勤の公務員として位置づけ、全庁横断の対策本部を設けた。新潟県警は2026年6月3日、緊急時に警察官がライフル銃を使う「クマ駆除対応プロジェクトチーム」の運用を始めたという。
第三に、AIカメラやドローンを活用する事例がある。北海道の札幌市西区では、NTTドコモのAIカメラを使い、常時映像とリアルタイム検知を組み合わせる実証が2026年5月から11月まで行われているという。
富山県の事例紹介では、AIカメラの活用で初動を「従来の1時間以上から約10分に短縮した」とされる。群馬県高崎市は、赤外線での調査用と、スピーカーで追い払う用のドローン2種の導入方針を示し、24時間対応の「クマ出没SOS緊急ダイヤル」も開設した。
第四に、観光客への周知である。ここは観光地にとって最も実務に近い。栃木県日光市は日本語と英語・中国語簡体字・韓国語・タイ語の4外国語で啓発チラシを用意した。
山形県はやまがた観光情報センターに「クマ相談デスク」を設け、案内を多言語でも掲載している。長野県は観光客向けリーフレットや等身大パネルを道の駅や主要駅に置き、上高地では出没レベルが最高段階に達すると小梨平などの野営場を閉じる実践マニュアルを運用している。
クマ被害で閉鎖・休業が相次ぐ
クマの出没や人身事故を受け、登山道やキャンプ場の利用を停止する例も出ている。北海道・知床では、2025年8月の羅臼岳の死亡事故を受けて登山道が閉鎖され、2026年7月5日にいったん解除されたものの、7月9日に再び閉鎖、16日に再開された。
近くの国設知床野営場では、管理人が取材に対し、バンガロー予約の3〜4割、場合によっては5割がキャンセルとなり、前年に比べた予約数も約3割減ったと説明している。
富山県では立山・室堂周辺で登山道が一時閉鎖され、称名滝の遊歩道は人身被害を受けて通行止めとなり、再開時に高周波のクマよけ装置を3か所に設けた。山形市の西蔵王公園キャンプ場は2025年10月の目撃を受けて当面の利用を休止した。日本オートキャンプ協会の調査では、回答した122施設のうち45.1%にあたる55施設がキャンセルや減収を経験したという。
| 知床・羅臼岳 | 2025年8月の死亡事故で登山道を閉鎖。2026年7月に再開と再閉鎖を経て16日に再開 |
|---|---|
| 立山・称名滝 | 登山道を一時閉鎖。称名滝は通行止めののち、クマよけ装置3か所を設けて再開 |
| 西蔵王公園 (山形) | 2025年10月の目撃を受けて当面の利用を休止 |
| キャンプ場全般 | 日本オートキャンプ協会の調査で、回答した122施設の45.1%がキャンセルや減収を経験 |
なお秋田県は、2025年度の人身被害が59件・67人で、うち4人が死亡した。被害者数は都道府県別で最多だが、県は観光客の被害は確認されていないとしている(2026年7月時点の報道による)。県は2026年4月時点の生息数を2,400〜5,800頭、中央値3,900頭と推定している。
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観光危機管理とは 災害に強い観光地をつくる4つの段階
2026年はクマの出没情報が5万件を超え、秋田県は対策予算を前年の2.2倍に増やした。クマ対策は旅行者の安全だけでなく、繁忙期の集客にも関わる経営課題となっている。
観光事業者に求められるのは、危険度を自ら判断することではない。自治体などが発信する最新の出没情報や警報、施設・登山道の閉鎖情報を、旅行者へ確実に届けることだ。国も、訪日客を含む登山者への多言語発信を進める方針を示している。自社サイト、予約確認メール、現地の掲示で案内先を統一し、情報が更新されたらすぐに差し替えられる体制を繁忙期前に整えておきたい。
出典
- 環境省「クマに関する各種情報・取組」
- 観光庁「クマ対策の観光ピクトグラム」
- 秋田県「令和8年度当初予算(案)概要」
- 長野県「ツキノワグマによる人身被害への緊急対応」
- 日本オートキャンプ協会「クマ被害に関するキャンプ場アンケート」


