宿泊業界の全体像 ホテル・旅館・民泊の市場と構造

畳と木製テーブルのある旅館の客室(富士河口湖)
Photo: Filiz Elaerts / Unsplash
  • URLをコピーしました!

日本の宿泊業は、いま大きな転換点を迎えている。帝国データバンクの見通しでは、2025年度の旅館・ホテル市場は事業者売上高ベースで6.5兆円となり、4年連続増・過去最高が見込まれている。

観光庁の宿泊旅行統計(2025年暦年・確定値)によると、延べ宿泊者数は6億6,111万人泊で、そのうち外国人が1億7,992万人泊と全体の27.2%を占めた。市場規模は年度、宿泊者数は暦年で集計期間が異なる点に注意したい。

ただし、市場の拡大が業界全体に一様に広がっているわけではない。客室稼働率はビジネスホテルが75.3%に達する一方、旅館は38.2%にとどまる。宿泊業の倒産は2年連続で増え、新設法人は全業種で最も伸びた。市場規模が拡大する一方で、倒産が増え、債務超過も高水準が続いているのが実情だ。

この記事では、宿泊業の市場規模・業態の違い・経営指標・主要な論点をまとめて解説する。

この記事のポイント

  • 2025年度の旅館・ホテル市場は事業者売上高ベースで6.5兆円となる見通しで、過去最高が見込まれる。
  • 宿泊業はホテル・旅館・簡易宿所が稼働率に差があり、民泊は旅館業とは別制度で管理される。
  • 宿泊経営では満室かどうかだけでなく、稼働率(OCC)と客室単価(ADR)を掛け合わせたRevPARも重要な指標。
  • 市場拡大の一方で倒産が増え、債務超過も高水準が続き、事業者ごとの体力差が課題になっている。
目次

宿泊業界とは 4つの業態と法律の枠組み

宿泊業とは、旅行者や出張者に宿泊と関連サービスを有料で提供する事業の総称である。土台になるのが旅館業法という法律で、営業形態は「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」に区分される。これに加えて、住宅宿泊事業法(民泊新法)にもとづく民泊と、国家戦略特区にもとづく特区民泊が、別の制度として存在する。

かつては「ホテル営業」と「旅館営業」が法律上は別だったが、2018年の旅館業法改正で両者は「旅館・ホテル営業」へ統合された。いまは様式よりも、提供するサービスの中身で施設を語るほうが実態に近いとみられる。

宿泊業は、旅行者の滞在時間や地域での消費に関わるため、観光ビジネスの重要な土台の一つである。国内需要の伸びが限られるなかでは、宿泊単価や客層の設計が、宿泊施設や地域の収益を考えるうえで重要になる。

この記事で使う主な統計の読み方

宿泊の数字は、調査ごとに「誰を・何を数えているか」が違う。混同を避けるため、本記事で使う主な指標の意味と注意点を先に示す。

用語意味注意点
延べ宿泊者数(観光庁)宿泊した人数に泊数を掛けた延べ数実人数ではない。2025年の値は確定値(2026年7月確報)
客室稼働率(OCC・観光庁)提供した客室のうち販売された割合ベッド・定員基準の「定員稼働率」とは別物
市場規模(帝国データバンク)事業者売上高ベースの推計(見通しを含む)公的統計でなく民間推計。年度(4〜3月)区分
施設数(厚生労働省)旅館業法にもとづく許可施設の数民泊(住宅宿泊事業法・観光庁所管)は別集計

市場の全体像 6.5兆円市場と外国人宿泊の拡大

まず市場の規模から見ていく。帝国データバンクの推計では、2025年度の国内旅館・ホテル市場は事業者売上高ベースで6.5兆円となる見込みだ。過去最高だった前年度の6兆652億円を上回り、4年連続の増加が見込まれている。

事業者売上高ベースでは、コロナ禍で落ち込んだ2020年度(3兆174億円)の約2倍の水準だ。なお、この市場規模は旅館・ホテルを対象とした推計で、民泊・簡易宿所を含む宿泊業全体とは範囲が異なる。

旅館・ホテル市場規模の主要年。2025年度は6.5兆円の見通しで過去最高
この図表のデータを見る
年度市場規模(兆円)区分
2018年度5.20実績
2020年度3.02実績
2024年度6.07実績
2025年度6.50見通し

回復局面では、外国人宿泊者数の増加が目立つ。観光庁の宿泊旅行統計(確定値)によると、2025年の延べ宿泊者数は6億6,111万人泊で前年比はわずかに増えた。

外国人が1億7,992万人泊と前年から9.4%増えた一方、日本人は4億8,118万人泊と2.7%減っている。2025年は、日本人宿泊が減る一方で外国人宿泊が増え、宿泊需要の内訳に変化が見られた。

延べ宿泊者数の内訳推移(2019〜2025年)。外国人は2025年に1億7992万人泊
この図表のデータを見る
日本人(百万人泊)外国人(百万人泊)合計
2019480.3115.7596.0
2020311.320.3331.6
2021313.54.3317.8
2022434.016.5450.5
2023499.7117.8617.5
2024494.6164.5659.1
2025481.2179.9661.1

外国人宿泊が延べ宿泊者全体に占める割合は27.2%に達した。国籍別では中国が3,040万人泊で首位、台湾・韓国・米国・香港と続き、上位5の国・地域で外国人宿泊のおよそ6割を占める。

外国人宿泊では、地方部の伸び(前年比15.5%増)が三大都市圏(同4.9%増)を上回っており、宿泊地の広がりが注目される。

あわせて読む 訪日客の宿泊市場と、宿泊税など地域の財源は、それぞれこちらで詳しく解説している。

4つの業態 ホテル・旅館・簡易宿所・民泊

宿泊業をひとくくりに語ると見誤りやすい。同じ「泊まる」でも、業態ごとに稼働率や客層が異なるとみられるからだ。

旅館・ホテル営業は、旅館業法上の中心的な営業形態の一つである。施設の規模は大きくなる傾向にあり、厚生労働省の統計では旅館・ホテル営業の客室数は10年で13.7%増えた一方、軒数はほぼ横ばいだった。1施設あたりの客室数が増えていることがうかがえる。

客室稼働率を施設タイプ別に見ると、ビジネスホテルが75.3%と主な施設タイプのなかで高い水準にある(観光庁・2025年)。

旅館は、和室や食事提供、温泉などと結びつけてイメージされることが多いが、実際のサービス内容は施設によって異なる。客室稼働率は38.2%とホテル系施設より低く、外国人宿泊者比率も11.9%と低い(JTB旅行年報の2024年集計)。ホテル系施設とは客層の違いが大きいとみられる。

なお、延べ宿泊全体の外国人比率27.2%は観光庁・2025年暦年の数字で、旅館の11.9%とは出典・年次が異なるため、厳密な同一比較ではない。

簡易宿所は、ゲストハウスやカプセルホテルなどを含む業態で、施設数が10年で6割以上増え、2024年度末には4万4,901施設に達した。増加の背景には、民泊(住宅宿泊事業法)の年間180日規制を避けて簡易宿所として営業する動きもあるとみられる。施設数の増加が、そのまま市場の健全な拡大を意味するとは限らない。

民泊については、住宅宿泊事業法にもとづく届出住宅が、累計届出約6万件に対し稼働中は約4万件となっている。これとは別に特区民泊が約2万3千居室ある。届出数に対して廃止件数も多く、民泊は参入後の継続状況にも注意して見る必要がある。

施設タイプ別の客室稼働率(2025年)。ビジネスホテル75.3%に対し旅館38.2%
この図表のデータを見る
施設タイプ客室稼働率(2025年)
ビジネスホテル75.3%
シティホテル74.1%
リゾートホテル56.9%
旅館38.2%
簡易宿所29.6%
全体61.6%

経営指標の読み方 OCC・ADR・RevPAR

宿泊事業の状態を見るとき、現場では3つの指標が使われる。OCC・ADR・RevPARだ。言葉は専門的だが、意味はシンプルである。

OCC(客室稼働率)は、用意した客室のうちどれだけ埋まったかを示す割合だ。2025年の全体のOCCは61.6%で、ビジネスホテル75.3%に対し旅館は38.2%と業態差が大きい。ADR(平均客室単価)は、実際に売れた客室1室あたりの平均価格を指す。

そしてRevPAR(販売可能客室1室あたり収益)は、ADRにOCCを掛け合わせた指標で、客室販売の効率を見るための代表的な指標だ。単価を上げても稼働が落ちればRevPARは伸びず、稼働を追って安売りしてもRevPARは頭打ちになる。

ただしRevPARはあくまで客室売上の指標であり、利益そのものではない。光熱費や人件費が上がる局面では、これらのコストを差し引いた利益でも見ないと、収益の実態はつかみにくい。

RevPARの考え方。ADR(客室単価)×OCC(稼働率)で客室販売の効率を見る

宿泊経営では、満室を目指すだけでなく、単価と稼働の掛け算であるRevPARを見ることが重要になる。

この考え方を値付けに落とし込むのがレベニューマネジメントである。需要に応じて価格を変えるダイナミックプライシングも、宿泊業の価格戦略として注目されている。訪日客と国内客で料金差を設ける「二重価格」の事例も出ている。

あわせて読む 指標の定義と価格戦略の実務は、こちらで詳しく解説している。

ホテルの運営形態 所有と運営の分離

宿泊業をもう一歩深く理解するには、「誰が建物を持ち、誰が運営するのか」という視点が役立つ。ホテルの運営形態は大きく4つに分けられる。

所有直営型は、建物を持つ会社が自ら運営する形である。リース型は、所有者から運営会社が建物を借りて経営する形だ。所有者は安定賃料を得る代わりに増益の恩恵を受けにくく、運営会社は売上が落ちても賃料を払い続ける。

運営委託型(MC)は、所有者が運営をホテル運営会社に委ね、運営会社が手数料を受け取る形で、所有・経営・運営が分離するのが特徴だ。フランチャイズ型は、特定のブランドに加盟し、ブランド名と運営ノウハウを使う形である。

ホテル運営の4形態。所有と運営が一体か分離かで分類

どの形態を選ぶかは「不動産で稼ぐのか、運営で稼ぐのか」という事業の方向性に関わる。ホテルでは、所有者と運営者を分ける形態もあり、投資や出店戦略を考えるうえで重要な視点になる。

あわせて読む ホテル投資の詳細はこちらで詳しく解説している。

ノートPCと財務資料を広げ、ペンで数字を確認する2人の手元。観光ファイナンス・投資検討のイメージ 観光ファイナンスの全体像 17兆円のホテル・旅館資産を動かすお金の流れ

稼働率と単価、どちらを優先するか

ここからは、宿泊経営者が直面しやすい論点を順に見ていく。まず、稼働率と単価のどちらを優先するかだ。

需要が強い地域では、価格を上げても客が入りやすい。大阪府は2025年の客室稼働率が78.6%と都道府県別で最も高く、需要の強さがうかがえる。稼働を大きく落とさずに単価を上げられれば、RevPARの改善につながる。

一方で、需要が弱い地域や価格に敏感な客層では、値上げが難しい場合もある。立地と客層に値上げの余地があるなら単価を、需要が薄く価格に敏感なら稼働を、と優先順位を考えるのが基本になる。

判断の出発点としては、まず自施設のOCCを業態平均(2025年はビジネスホテル75.3%、旅館38.2%)と比べるとよい。平均を大きく下回るなら稼働の底上げが先、平均並みで単価が市況より安いなら単価の引き上げが先、と考えると整理しやすい。

素泊まりで稼働を取るか、食事や体験で単価を上げるかは、立地・客層・競合環境によって判断が分かれる。自社にとってRevPARが最大になる組み合わせを探すことが論点になる。

インバウンドと国内客のはざまで

次に、需要の構成をどちらに寄せるかだ。外国人宿泊は9.4%増、日本人宿泊は2.7%減という直近の数字(観光庁・確定値)が、多くの事業者にこの問いを突きつけている。

外国人宿泊者数は増えており、為替水準も訪日需要に影響する要素の一つになる。地方部の外国人宿泊は三大都市圏を上回って伸びており、一部地域では新たな需要を取り込む余地があるとみられる。

ただし外国人需要は、為替・国際情勢・航空便の動向に左右されやすい。特定の国・地域への依存度が高いと、その国の事情で稼働が振れやすくなる点には注意がいる。

日本人宿泊者数は減少しているものの、国内客をどの程度重視するかは、施設の立地や客層によって判断が分かれる。インバウンドと国内客のどちらを重視するかは、施設の業態・地域・価格帯によって異なる。

あわせて読む 市場ごとの客像はこちらで詳しく解説している。

雷門・浅草寺周辺を行き交う観光客でにぎわう情景。訪日インバウンドの象徴的なイメージ インバウンドとは 9.5兆円市場を3つの数字で読む

人手不足は採用か省人化か

人手不足は、宿泊業にとって特に重い課題の一つである。帝国データバンクの調査(2025年10月)では、旅館・ホテル業で非正社員が不足と答えた企業が59.0%と、業種別で最も高い水準が続いている。

対応は大きく2つの方向に分かれる。1つは人材の確保だ。技能実習に代わる「育成就労制度」が2024年6月に法制化され、外国人材の受け入れ制度も変わりつつある。もう1つは省人化で、スマートロックや自動チェックインなどを検討する施設もある。

どちらを優先するかは、施設の規模と立地によって変わる。大規模施設と小規模施設では、省人化投資や採用の打ち手が異なりやすい。人手不足は、人件費や運営体制に影響しうるため、収益管理上の重要な論点になっている。

あわせて読む 受け入れ人材と省人化のデジタル化は、それぞれこちらで詳しく解説している。

あわせて読む 省人化・PMSなどのツールと、人材の確保・育成は、それぞれこちらで詳しく解説している。

なぜ倒産と新規参入が同時に増えるのか

需要が回復するなかでも、宿泊業では倒産と新規参入が同時に増えるという現象が見られる。

帝国データバンクによれば、2025年の宿泊業の倒産は89件と2年連続で増えた(前年は78件)。外国人宿泊者数が増加するなかでも倒産が増えており、需要回復だけでは経営課題が解消していないことがうかがえる。同社は背景として、光熱費・食材費の高騰や人件費の上昇、ゼロゼロ融資の返済本格化などを挙げている。

その一方で、2024年に新しく設立された法人は、宿泊業が前年比33.4%増と、増加率が全業種で最も高かった(東京商工リサーチ)。新規参入の動きも目立つ。

帝国データバンクの調査では、債務超過企業の割合は約3割(2025年度)にのぼる。倒産や債務超過の存在を踏まえると、財務体力の差が事業継続に影響している可能性がある。既存施設の再生や新規開業への投資判断は、今後の宿泊事業を考えるうえで重要な論点になる。

事業者タイプ別の打ち手

宿泊の論点は、立場によって優先順位が変わる。自社のタイプから、まず見る数字と次に読む記事を示す。

宿泊事業の進め方 5つのステップ

業態や立場を問わず、宿泊事業を考えるときは次の順番で進めると論点を整理しやすい。各ステップは、この記事で見てきた指標・客層・価格・人手の論点と対応している。

第1に、自施設の現在地を指標で把握する。
OCC・ADR・RevPARを業態平均や近隣競合と比べ、稼働で負けているのか単価で負けているのかを切り分ける。ここを取り違えると、打ち手の方向もずれやすい。

第2に、狙う客層を決める。
インバウンドか国内か、規模型か単価型かを、自施設の外国人比率・立地・投資余力から判断する。すべての客層を同時に狙うと、限られた人手や予算が分散しやすい。

第3に、狙う客層に応じて受け入れ体制を見直す。
予約方法や案内、決済などが、想定する客層と噛み合っているかを点検する。客層と体制がずれていると、集客しても満足度や再訪につながりにくい。

第4に、収益を最大化する商品を設計する。
素泊まりで稼働を取るのか、食事や体験を含めて単価を上げるのかを決め、RevPARが最大になる価格と商品の組み合わせに落とし込む。

第5に、データで検証して見直す。
稼働と単価の実績を定期的に確認し、重点客層や価格設定を調整する。あわせて人件費やコストの動きも見ておくと、需要が戻っても利益が残らない事態を避けやすい。

それぞれのステップの具体的な進め方は、レベニューマネジメントやインバウンド対応など、各解説記事で掘り下げる。

このテーマを深掘りする

この記事で触れた論点は、それぞれ独立した解説記事で一段深く掘り下げる。記事は「制度を知る」「指標を読む」「業態を学ぶ」「経営を考える」の4系統で整理している。

このテーマをもっと知るための記事リスト

観光ビジネスの視点

市場が過去最高を見込む一方で、宿泊業の倒産は2年連続で増え、新設法人は増加率で全業種トップになった。市場平均の好調は、参入ラッシュと退出ラッシュをならした平均値にすぎない、と編集部は見ている。

2024年に増えた新規参入の多くも、人件費の上昇やゼロゼロ融資の返済が重なる局面では、同じ淘汰の入口に立ちうる。だからこそ、市場全体の数字ではなく、自施設のOCC・ADR・RevPARで稼働と単価のどちらに課題があるかを早めにつかんでおきたい。

よくある質問

民泊・簡易宿所・旅館はどう違うのか。

民泊(住宅宿泊事業法)は届出制で、住宅を使い年間180日まで宿泊サービスを提供できる。一方、簡易宿所と旅館・ホテル営業は旅館業法にもとづく許可が必要だ。簡易宿所は旅館・ホテル営業とは異なる許可区分で、ゲストハウスなどが該当する。

RevPARとは何か。なぜ稼働率だけで見てはいけないのか。

RevPARは販売可能な客室1室あたりの収益で、ADR(客室単価)×OCC(稼働率)で求める。稼働率だけなら安売りでも上がるが、それでは利益が残りにくい。価格と稼働を同時に映すRevPARを合わせて見ることで、客室販売の効率を把握しやすくなる。

宿泊税は今後どうなるのか。

宿泊税は、2026年に約30自治体が新規導入する見通しで、導入数は2025年末の17から約50に増えると報じられている(日本経済新聞・2026年1月時点)。札幌市や仙台市・宮城県などでも導入が予定されており、自治体の観光財源として注目されている。

<出典>

NEWS LETTER編集部が選ぶ注目記事をお届け限定イベントや独自レポートも先行案内ニュースレター登録
  • URLをコピーしました!
目次