ビジネスホテルとシティホテルの違いは、なんとなく「価格」で語られがちだ。だが観光庁の統計と旅館業法をあわせて見ると、両者を分ける「ものさし」は一つではない。統計は客層と立地で分類し、法律は両者を区別せず、業界の実務では設備やサービスの幅で語る。
とくに意外なのは、統計上のシティホテルが「宴会場があるから」ではなく、リゾートでもビジネスでもない都市部のホテル、という消去法で定義されている点だ。つまりホテルの種別には「統計上の定義」「法律上の区分」「業界の呼び方」という複数のものさしがあり、どれで語るかで線の引き方が変わる。本記事では、この違いを2025年のタイプ別稼働率まで含めて整理する。
この記事のポイント
- 観光庁の統計はホテルをリゾート・ビジネス・シティに分け、シティは消去法で定義される。
- ビジネスホテルとシティホテルは旅館業法上の区分ではなく、統計と業界実務の呼び名だ。
- 2025年の客室稼働率はビジネスホテル75.3%が全タイプで最も高く、シティホテルは74.1%だった。
ホテルの種別とは何か
ホテルや旅館には、いくつかの「種別(タイプ)」がある。旅館、リゾートホテル、ビジネスホテル、シティホテル、簡易宿所。こうした呼び名は日常的に使われるが、日常の呼び名と、公的な統計や法律上の分類は必ずしも一致しない。
大事なのは、ホテルの種別を語るものさしが一つではないという点だ。統計上の定義、法律上の区分、業界実務の呼び方は、それぞれ別の基準で線を引いている。まずは公的な統計がどう分類しているかを見てから、実務での区別と法律上の扱いを重ねていく。
統計上の定義

日本でホテルの種別を統計上分類しているのが、観光庁の「宿泊旅行統計調査」だ。ここでは宿泊施設を6つに分けている。
まず、和式の構造・設備を主とするものが「旅館」、洋式のものが「ホテル」だ。そのホテルをさらに3つに分ける。行楽地や保養地に建ち主に観光客を対象とするのがリゾートホテル、主に出張のビジネス客を対象とするのがビジネスホテル、そしてリゾートでもビジネスでもない都市部のホテルがシティホテルだ。
ほかに、多人数で寝室を共用するカプセルホテルや山小屋などが「簡易宿所」にあたる。
ここで気づくのは、シティホテル自体が「リゾートホテル、ビジネスホテル以外の都市部に立地するもの」という消去法で定義されている点だ。統計上のシティホテルは、宴会場や結婚式場があるかどうかではなく、「リゾートでもビジネスでもない都市部のホテル」という条件で決まる。この建て付けは、次章で見る実務の感覚とずれるので注意がいる。
ビジネスホテルとシティホテルの違い
統計の定義とは別に、業界の実務や一般的な説明では、設備やサービスの幅に着目した区別がよく使われる。ここでの分かれ目は、客室以外の設備をどれだけ持つかだ。
一般にビジネスホテルは、宿泊機能に絞り込んだ「宿泊特化型」とされる。客室が中心で、レストランや宴会場などの付帯施設は小さい。その分、価格は手ごろで、出張や個人旅行の「泊まるだけ」の需要に応える。東横イン、アパホテル、ルートインといった全国チェーンがよく代表例に挙げられる。
いっぽうシティホテルは、宿泊に加えて宴会場・レストラン・結婚式場などを備えた「フルサービス型」と説明されることが多い。規模が大きく、単価も高い。宿泊料だけでなく、宴会や婚礼、飲食からの売上も経営の柱になる。
いわゆる「御三家」と呼ばれる帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニなどが、フルサービス型の代表としてよく挙げられる。
統計は客層と立地で、実務は設備やサービスの幅で線を引く。同じ「ビジネスホテル」「シティホテル」でも、どちらのものさしで語っているかで意味合いが変わる。
| 観点 | ビジネスホテル | シティホテル |
|---|---|---|
| 統計上の定義(観光庁) | 主に出張・ビジネス客を対象とするホテル | リゾート・ビジネス以外の都市部に立地するホテル(消去法) |
| 旅館業法上の区分 | 「旅館・ホテル営業」(両者で区別なし) | 「旅館・ホテル営業」(両者で区別なし) |
| 客室以外の設備(実務) | 宿泊特化型。付帯施設は小さい | フルサービス型。宴会場・レストラン・婚礼など |
| 価格帯(実務の一般論) | 手ごろ | 高め |
| 2025年 客室稼働率(確定値) | 75.3%(全タイプ最高) | 74.1% |
| コロナ前(2019年)比 | ▲0.5pt(ほぼ回復) | ▲5.4pt(6タイプ中最大の下げ幅) |
| よく挙げられる例 | 東横イン・アパホテル・ルートイン など | 帝国ホテル・ホテルオークラ・ホテルニューオータニ など |
(注:「統計上の定義」「旅館業法上の区分」は一次資料にもとづく。「設備」「価格帯」「例」の行は業界実務・一般的な説明であり、観光庁の統計定義には含まれない。)
数字で見るタイプ別の稼働率

この図表のデータを見る
| 施設タイプ | 2019年 | 2025年(確定) | 増減 |
|---|---|---|---|
| ビジネスホテル | 75.8% | 75.3% | ▼0.5pt |
| シティホテル | 79.5% | 74.1% | ▼5.4pt |
| リゾートホテル | 58.5% | 56.9% | ▼1.6pt |
| 旅館 | 39.6% | 38.2% | ▼1.4pt |
| 簡易宿所 | 33.4% | 29.6% | ▼3.8pt |
全国平均は2025年61.6%。下げ幅はシティ▼5.4ptが6タイプ中最大、ビジネスは▼0.5ptでほぼコロナ前水準。
種別ごとの違いは、客室稼働率の数字にもあらわれる。2025年の客室稼働率(観光庁・確定値)を施設タイプ別に見ると、次のようになる。
ビジネスホテルが75.3%で全タイプ中もっとも高く、シティホテルが74.1%で続く。全体平均は61.6%で、リゾートホテル56.9%、旅館38.2%、簡易宿所29.6%と下がっていく。2025年の確定値では、単価が手ごろで需要のすそ野が広いビジネスホテルが、全タイプで最も高い稼働率になった。
ただし、これはコロナ前からの序列ではない。コロナ前の2019年は、シティホテルの稼働率が79.5%で全タイプ最高、ビジネスホテルは75.8%とその下だった。2019年と2025年を比べると、シティホテルは5.4ポイントの低下で、これは旅館(▲1.4)・リゾート(▲1.6)・簡易宿所(▲3.8)・ビジネス(▲0.5)を上回り、6タイプの中でシティホテルの下げ幅が最も大きい。
ちなみに、全タイプが2019年をやや下回っている(全体でも2025年61.6%<2019年62.7%)。訪日客数が過去最高を更新するなかでも稼働率がコロナ前に届かないのは、宿泊需要が戻る一方で、この間にホテルの客室供給も増えたためだ。稼働率は「延べ宿泊数÷提供した客室数」で決まるので、需要が戻っても供給が増えれば数字は伸びにくい。
もっとも、客室稼働率はあくまで「客室」の埋まり具合を示す指標だ。シティホテルの戻りが弱い要因が、宴会・MICE(会議・催事)・婚礼といったフルサービス部分にあるのか、客室単価の設定や都市部の需要構成にあるのかまでは、稼働率だけでは判断できない。
法律ではどう扱われるか
種別を語るうえで、もう1つ押さえておきたいのが法律との関係だ。結論から言えば、ビジネスホテルとシティホテルは、旅館業法では区別されていない。
旅館業法が定める営業の種類は「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3つだけだ。ビジホもシティも、法律上はまとめて「旅館・ホテル営業」に含まれる。もともとは「ホテル営業」と「旅館営業」が別々だったが、2018年の法改正で1つに統合され、最低客室数の基準なども撤廃された。
つまり、ビジネスホテルとシティホテルという区別は、旅館業法上の営業種別ではなく、観光庁の宿泊統計で使われる施設タイプ(+業界の呼び名)に由来する。厚生労働省の集計では、旅館業の営業許可施設は2024年3月末で93,475施設あり、このうち「旅館・ホテル営業」が51,038施設、「簡易宿所営業」が41,909施設だ。
この区分でもビジホとシティは分かれておらず、両者の内訳を数字で追えるのは、公的統計では主に観光庁の宿泊統計になる。
ビジネスホテルとシティホテルの違いは、単なる「価格」の差ではない。宿泊に絞ったビジネスホテルと、宴会や婚礼まで抱えるシティホテルとでは、そもそも収益の作り方が違う。種別を分ける本質は、立地でも「格」でもなく、この収益モデルの違いにある。宿泊特化型は売上の柱が客室に集中する分、構造がシンプルだ。
フルサービス型は宴会・婚礼が伸びれば大きく稼ぐが、その分だけ景気や催事需要の変動を受けやすい。これが一般的な見立てだ。ただし、今回の稼働率データだけでその優劣が決まるわけではない。
大事なのは、種別を読むときに「統計上の定義」「法律上の区分」「業界の呼び方」のどのものさしで語っているかを、混同せずに押さえておくことだ。
よくある質問
<出典>
- 観光庁「宿泊旅行統計調査 記入要領(施設タイプの定義)」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査 2025年・年間値(確定値)」
- 厚生労働省「旅館業の概要(営業許可施設数)」
- 厚生労働省「旅館業法(全文・附則)」


