ホテルの稼ぐ力を高めるレベニューマネジメントとは

Photo: Getty Images / Unsplash+
  • URLをコピーしました!

レベニューマネジメント(Revenue Management、以下RM)とは、需要を予測して価格と客室の売り方を調整し、収益を最大にする経営手法だ。「適切な部屋を、適切な価格で、適切な客に、適切なタイミングで売る」という考え方に集約される。もとは航空業界で生まれ、現在はホテルなど宿泊業でも広く使われる収益管理の考え方になっている。

判断の軸になるのが RevPAR = 平均単価 × 稼働率という指標だ。稼働だけを追うと単価が崩れ、単価だけを追うと稼働が落ちる。RMは、この綱引きを需要予測でさばき、RevPARや利益を見ながら最適な売り方をさがす。

人手不足とインバウンドによる単価上昇が重なるいま、限られた部屋と人員から収益を引き出すRMの重要性が増している。本記事では定義・仕組み・KPIを整理し、上場ホテルの開示から平均単価・稼働率・RevPARがどう動いたかまでを読み解く。

この記事のポイント

  • レベニューマネジメントは需要予測で価格と在庫を動かし収益を最大化する経営手法だ。
  • 判断の中心KPIはRevPAR(=平均単価×稼働率)で、稼働と単価の綱引きをさばく。
  • 仕組みはデータ収集・需要予測・価格と在庫の最適化・検証を回すサイクルである。
  • もとは航空業界で生まれ、いまはホテル・レンタカーなど幅広い業種に広がった手法だ。
  • 共立メンテナンスやJHRの開示では、稼働を保ちつつ単価を上げてRevPARを伸ばす動きが確認できる。
目次

レベニューマネジメントとは何か

レベニューマネジメント(RM)とは、需要を予測して価格と客室の売り方を調整し、収益を最大化する経営手法だ。よく引かれる定義に沿えば、「適切な在庫(部屋)を、適切な価格で、適切な顧客に、適切なタイミングで売る」という考え方に集約される。

ここでいう収益とは、単なる売上ではない。同じ100室のホテルでも、安売りで満室にした日と、単価を保って8割を売った日とでは、残る利益が変わる。RMは「どれだけ埋めるか」と「いくらで売るか」を同時に設計し、その掛け算を最大にすることをめざす。イールドマネジメント(Yield Management)とほぼ同じ意味で使われる。イールドは航空業界で使われてきた収益・利回りの考え方で、限られた座席在庫から得る収益を高める発想がRMのもとになった。

判断の物差しになるのが、宿泊業の代表的なKPIだ。客室稼働率がどれだけ埋まったか、平均客室単価がいくらで売れたか、そして両者を掛け合わせた RevPAR(販売可能客室1室あたりの宿泊売上)が客室部門の収益力を見る代表的な指標になる。三つは RevPAR = 平均客室単価 × 客室稼働率の式で表される(稼働率は80%なら0.8として掛ける)。

RMは、この指標を「測る」だけでなく「動かす」ための技術だと考えるとわかりやすい。

あわせて読む 稼働率や単価といった各指標の読み方は別記事で詳しく扱っている。

ホテルの「稼ぐ力」を測る3指標 稼働率・単価・RevPAR

なぜ今あらためて語られるのか

RMは新しい概念ではない。それでも近年あらためて注目されているのは、日本の宿泊業を取り巻く条件が変わったからだ。理由は大きく二つある。

一つは、単価が収益を動かす局面に入ったことだ。インバウンド需要の回復と円安を背景に、客室単価は上昇局面にある。共立メンテナンスやJHRの開示でも、平均単価・RevPARの上昇が確認できる。都市部の繁忙期など稼働が天井に近い局面では、収益を伸ばす主役は単価に移る。もっとも地方やオフピークでは稼働の余地がなお残る。需要のピークを取り切って単価を引き上げるには、勘や前年踏襲ではなく、需要予測にもとづく値付けが要る。

もう一つは、人手不足だ。限られたスタッフと客室数で利益を出すことが、宿泊業の生存条件になりつつある。政府もこの課題を後押ししている。政府は関係省庁の連携で2025年6月に「省力化投資促進プラン ―宿泊業―」をまとめ、自動チェックイン機や配膳ロボットなどの省人化とあわせ、少ない人員で収益を出す方向を促した。観光庁は宿泊業の生産性向上を政策課題に掲げている。

稼働率だけを追う発想から、平均単価とRevPARを見ながら収益を設計する発想へ、重心が動いている。その転換を支える技術がRMだ。単価を上げる局面だからこそ、稼働・単価・収益を一体で設計する発想の価値が高まっている。

仕組みと需要予測

レベニューマネジメントのサイクル。データ収集→市場セグメント→需要予測→価格・在庫最適化→検証

RMは、思いつきで値段を上下させることではない。次のサイクルを回す仕組みだ。

まず ①データ収集。過去の予約実績、これからの予約の入り具合、周辺のイベントや競合の価格を集める。次に ②市場セグメント。同じ客室でも、早く予約する旅行客と直前に動くビジネス客では、価格への反応が違う。客を分けて考える。

そのうえで ③需要予測。いつ・どの客層の需要がどれだけ来るかを読む。この予測の精度が、システム全体の性能を大きく左右する。予測ができたら ④価格と在庫の最適化に移す。RMの打ち手は、大きく分けて価格・在庫(客室の配分)・販売促進・販売チャネルの4系統だ。需要が強い日は価格を上げて安いプランを絞り、弱い日は需要を作る施策を打つ。

最後に ⑤検証。結果を実績と照らし、次の予測に反映する。RMの本質は一度きりの値決めではなく、予測と検証を回し続けるループにある。

このサイクルには、宿泊業でも使われる在庫コントロール手法がある。代表例の一つがオーバーブッキングだ。一定のキャンセルが出ることを見込み、満室数より少し多めに予約を受ける。キャンセルによる空室の損失を防ぎ、満稼働に近づける狙いがある。ただし受けすぎれば部屋を用意できず、代替宿泊の手配や補償、信用の低下を招く。実績のキャンセル率と対応ルールを前提に慎重に運用する手法である。

販売チャネルの管理も重要だ。自社サイト・OTA(予約サイト)・店頭では、手数料や客層が異なる。どのチャネルにどの価格でどれだけ在庫を出すかも、RMで解決すべき課題になる。

ダイナミックプライシングやRMSとの関係

RMを語るとき、よく一緒に出てくる言葉が二つある。ダイナミックプライシングとRMSだ。混同しやすいので整理しておく。

ダイナミックプライシング(DP)は、需要に応じて価格をこまめに動かす「価格設定」の手法だ。RMとの関係でいえば、RMが「誰に・いつ・いくらで・どれだけ売るか」を決める枠組み全体で、DPはそれを価格の面で実行する戦術の一つにあたる。RMは価格だけでなく、在庫配分やチャネル設計まで含む広い概念で、DPはそのなかの価格の担い手と考えると混乱しない。

RMS(レベニューマネジメントシステム)は、需要予測や価格調整を支えるソフトウェアだ。予約データや競合価格を取り込み、推奨価格や在庫配分を出す。ホテルではPMS(客室管理システム)や予約データと連携して動く。RMSベンダーの説明では、近年はAIを活用し、需要予測からチャネル別の価格最適化を支援する方向に高度化しているとされる。

ただし、RMは大規模なシステム投資がなければ始められないものではない。予約実績や競合価格を整理し、需要を読んで値付けを見直すところからでも着手できる。道具が主役なのではなく、需要を読んで価格と在庫を設計する規律が主役だ。

航空からホテルへ、広がりの歴史

RMの発想は、もともと航空業界で生まれた。1978年の米国の航空規制緩和で、航空会社は自由に運賃を決められるようになった。そこへ格安航空が台頭し、大手は価格競争にさらされる。

この局面で、アメリカン航空は座席在庫を需要に応じて細かく管理する「イールドマネジメント」に取り組み、専用のシステムを開発した。同じ座席でも、早く予約する客には安く、直前の客には高く売り分ける発想である。

この手法をホテル業界に持ち込んだのが、米ホテル大手のマリオット・インターナショナル(当時のCEOビル・マリオット)だった。「イールド(yield)」は航空の用語でホテルにはなじまないため、「レベニューマネジメント」と呼び替えたとされる。以後、大手ホテルを中心に需要予測にもとづく価格と在庫の最適化が収益管理手法として広がり、2000年ごろまでに航空・ホテル・クルーズ・レンタカーの各社へ普及した。いまでは小売やレジャーの一部にも応用が広がる、業種を超えた収益管理の手法になっている。

歴史を振り返ると、RMが広がる場面には共通点がある。供給がすぐには増やせず、売れ残りが在庫として消えてしまう商売――客室・座席・時間貸しのサービス――ほど、需要予測にもとづく値付けの効果が大きい。ホテルの客室はまさにその典型で、「今夜売れなかった部屋」は翌日に持ち越せない。だから需要を読んで売り切る技術が効く。

日本の上場ホテルに見る実践

共立メンテナンス ドーミーイン事業のRevPAR・平均単価・稼働率の推移。単価主導でRevPARが伸びる
この図表のデータを見る
FY2025 実績FY2026 実績FY2027 予想
平均単価(千円)15.816.717.5
RevPAR(千円)13.714.815.6
客室稼働率(%)86.988.989.2

(注:ドーミーイン事業の同一条件比較〔2024年4月以降開業を除外〕。FY2027は会社予想。)

RMで重視するKPIの動きは、上場ホテルやホテルREITの開示から確認できる。とくにRevPARや平均単価を開示する企業を見ると、単価と稼働の変化がRevPARにどう表れたかを読み取れる。

ドーミーインを運営する 共立メンテナンスは、その一例だ。ドーミーイン事業の2026年3月期は、RevPARが前期の13,700円から14,800円へ伸びた。客室稼働率は86.9%から88.9%へ、平均客室単価は15,800円から16,700円へ上がっている。稼働を高い水準で保ったまま単価を引き上げ、RevPARを伸ばした構図だ。同社は「RevPAR上昇に伴う増収」を増収要因として明記しており、ホテル事業は増収・増益となった。

注目すべきは、同社が翌2027年3月期の見通しで 「ダイナミックプライシングによるレベニューマネジメントを徹底継続」と明言している点だ。RMとダイナミックプライシングを収益戦略の柱に据えていることが、一次資料から読み取れる。翌期予想でもドーミーインの単価をさらに引き上げる計画を織り込む。

指標をそろえて開示しているのがホテルREITだ。投資判断のためRevPARを直接出す。ジャパン・ホテル・リート投資法人(JHR)の変動賃料等導入29ホテル合計では、2026年1〜5月累計で平均客室単価20,156円・RevPAR16,912円・客室稼働率83.9%となり、同社が開示する前年同期比で単価・稼働ともに改善した。

ホテルREITの月次開示は、RMで重視する稼働率・平均単価・RevPARを外から追える数少ない一次データだ。ただしこうした数字の改善は、RM施策の効果とインバウンド・円安という市場全体の追い風が重なった結果で、両者の寄与は開示資料からは分けられない。REITの数値は投資法人が保有・対象とする特定ポートフォリオの実績で、全国平均や中小施設の平均とは母集団が異なる点にも注意する。

事業者・ポートフォリオ平均単価客室稼働率RevPAR
ドーミーイン事業(共立メンテナンス・FY3/26通期・同一条件)16,700円88.9%14,800円
リゾート事業〈共立リゾート〉(共立メンテナンス・FY3/26通期)48,300円82.1%39,700円
変動賃料等導入29ホテル(ジャパン・ホテル・リート・2026年1〜5月累計)20,156円83.9%16,912円

(注:共立メンテナンスの2事業はFY3/26通期〔2025年4月〜2026年3月〕、ジャパン・ホテル・リートは2026年1〜5月累計で、集計期間・対象が異なり単純比較はできない。共立の千円開示を円換算。ドーミーインは2024年4月以降開業を除外した同一条件比較。)

同じ「ホテル」でも、業態で数字の桁は変わる。共立メンテナンスのリゾート事業(共立リゾート)は、2026年3月期の平均客室単価が48,300円と、ドーミーインの3倍近い。RMの考え方は多くの業態で応用できるが、適正な稼働水準も単価水準も、効果の出方も業態ごとに違う。数字を比べるときは「どのタイプの、どの分母か」をそろえるのが前提になる。

観光ビジネスの視点

RMは「値上げのテクニック」と誤解されやすい。だが本質は、稼働・単価・利益を同時に見ながら収益を設計する、経営の考え方だ。稼働率だけを追うと安売りに傾き、単価だけを追うと稼働を落とす。最終の物差しをRevPARに置き、稼働と単価の綱引きをさばくところに、この手法の値打ちがある。

しかもRMは、必ずしも大型投資を前提にしない。予約実績と競合価格を整理し、需要を読んで値付けを見直すことからでも、収益改善の余地は探れる。人手不足とインバウンド単価上昇が重なるいま、限られた部屋と人員から収益を引き出す規律として効いてくる。

共立メンテナンスがダイナミックプライシングを戦略の柱に掲げ、稼働を高く保ったまま平均単価とRevPARを伸ばしたのは、その一例だ。稼働率だけを単独の目標にせず、収益と利益の指標で経営を見直せるかが、今後の宿泊経営の論点になる。

よくある質問

レベニューマネジメントとダイナミックプライシングはどう違うのか。

レベニューマネジメントは「誰に・いつ・いくらで・どれだけ売るか」を決める枠組み全体で、価格だけでなく在庫配分やチャネル設計まで含む。ダイナミックプライシングは、そのうち価格を需要に応じてこまめに動かす手法だ。RMが上位の枠組み、DPはそれを価格面で実行する戦術と位置づけると混乱しない。

RMの中心的な指標は何か。

RevPAR(販売可能客室1室あたりの宿泊売上)だ。RevPAR=平均単価×稼働率で表され、稼働と単価を一つの数字に統合している。稼働率だけ、単価だけを追うと収益を見誤るため、両者を掛けたRevPARを一次の物差しにし、原因分解に稼働率と単価を使うのが基本だ。

小さな宿でもレベニューマネジメントはできるのか。

小規模でも取り入れられる。大規模なシステム投資がなくても、予約実績・これからの予約の入り具合・競合価格を整理し、需要を読んで値付けを見直すところから始められる。まずは繁忙日と閑散日で価格に差をつけ、結果を検証して次に生かすサイクルを回すことが出発点になる。

なぜ今レベニューマネジメントが重視されているのか。

インバウンド需要の回復や円安などを背景に客室単価が上昇局面にあり、需要のピークを取り切る値付けの価値が高まっているためだ。あわせて人手不足で、少ない人員と客室から利益を出す必要も強まっている。稼働で稼ぐ余地が縮むほど、単価を設計して収益を伸ばすRMの重要性が増す。

ホテルREITのRevPARを自社の目標にしてよいか。

そのまま目標にはしない方がよい。ホテルREITの数値は投資法人が対象とする特定ポートフォリオの実績で、全国平均や中小施設とは母集団が違うからだ。RevPARの水準は業態・立地・客室数で大きく変わる。自施設と条件の近い相手と比べ、絶対値より「市場との差」で成績を見るのが現実的だ。

<出典>

NEWS LETTER編集部が選ぶ注目記事をお届け限定イベントや独自レポートも先行案内ニュースレター登録
  • URLをコピーしました!
目次