花火大会の経済効果とは 長岡花火110億円を分析

夕暮れの空に大きく開く長岡花火のスターマイン
Photo: yososaku310 / photoAC
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経済効果額はどう計算されるのか

夏になると、各地の花火大会に「経済効果○億円」という数字が並ぶ。花火は、一年のうちの数日に域外から人を集める、地域にとって数少ない装置である。だからその効果を測ろうとする試みが絶えない。

ただ、その「経済効果」が何を指しているのかは、あまり語られない。経済波及効果とは、来訪にともなう消費が地域の生産をどれだけ誘発したかを産業連関表で推計した数字である。自治体や主催者、地元企業の手元に残った利益ではない。

その中身まで開示した資料が出た。日本政策投資銀行(DBJ)は2026年、長岡まつり大花火大会の経済波及効果を新潟県内で約110億円と試算している。対象は2025年8月2・3日の2日間で、来訪者は57.6万人と推計された。

内訳は直接効果が約72.5億円、第一次波及効果が約24.6億円、第二次波及効果が約12.9億円。算出には2015年の新潟県産業連関表を用いている。前提が変われば額は数倍動く。読み方まで含めて検証したい。

この110億円は、有料観覧席の販売数34万人ではなく、会場周辺の来訪者全体を対象にした値だ。有料席の34万人ベースでは、経済波及効果は約96億円、その前提となる新規需要額は約74.5億円と試算されている。90.8億円という新規需要額は、57.6万人ベースのほうの数字である。

来訪者57.6万人は、位置情報ビッグデータをもとにした2日間の推計値だ。実売の有料席34万人とは数え方が違う。来場者アンケートでは「大変満足」が64.9%、「概ね満足」が32.3%で、満足したという回答が9割を超えた。ただしこれは2023〜2025年の来訪者を合わせた回答者1,954人の集計である。

試算の起点になるのが新規需要額だが、その中身も来場者の消費だけではない。交通費・宿泊費・外食費・土産代に加えて、チケット代、駐車場代、長岡花火財団が受け取る協賛金が含まれる。

費目別の単価も母集団に注意がいる。宿泊費33,333円は来訪者全体の平均ではなく、宿泊したと想定した4.3万人に適用された単価である。外食費は4,695円、土産・買い物費は4,598円、交通費は県外客4,345円・県内客2,477円で、長岡市内からの来訪者の交通費は0円として扱われている。

57.6万人ベースへの拡張にも前提がある。DBJは、有料観覧席を購入していない来場者には宿泊費・外食費・駐車場代の支出がないものとして試算した。110億円はこの仮定を含んだ数字だ。

宿泊キャパシティ不足で需要が県外へ流出

波及の源泉として効くのは、その地域の外から来た人の支出である。地元の人がふだんの買い物を花火の日に振り替えても域内の総需要は増えにくいが、域外客の宿泊費や交通費は域内の需要を押し上げる。

来場者の広がりは大きい。DBJが人流データから拡大推計した来訪者57.6万人の内訳は、新潟県外が27.8万人で約48%を占める。長岡市を除く新潟県内が15.9万人(約28%)、長岡市が13.9万人(約24%)である。花火の3週間前を測ると県外比率はわずか4%で、この2日間だけ域外客が集中していることが分かる。ただし当日と3週間前では用いた人流データの提供元が異なり、DBJは両者の集計方法も異なると注記している。

別に実施したアンケートでは、新潟県外からの来訪者は半数以上が1泊以上している。ただし人流分析とアンケートは母集団も手法も異なる調査であり、県外客の割合が効果額をいくら押し上げたかを直接示すものではない。

支出の全額が域内に残るわけでもない。新規需要額約90.8億円のうち、県外へ流出した分を除いた県内需要額は約72.5億円である。DBJは、県内の宿泊キャパシティ不足などにより宿泊需要の一部が県外へ流れているとも指摘している。

同じ大会でも対象地域で9分の1になる

規模の違う大会を並べると、桁の幅が見えてくる。山梨県の神明の花火(市川三郷町)は第35回大会で来場約18万人、山梨県内への経済波及効果は約24.4億円と推計されたと町が公表している。京都府の福知山HANABI2025は来場2万人で、福知山市内に約1.1億円と市が試算した。

花火大会来場者(推計)経済波及効果(試算)対象地域スコープ試算・公表
長岡まつり大花火大会約57.6万人(2日間)約110億円新潟県内DBJ
神明の花火(第35回)約18万人約24.4億円山梨県内市川三郷町
福知山HANABI2025約2万人約1.1億円福知山市内福知山市

ここで注意がいる。3つは対象地域が「県内」と「市内」で異なり、使う産業連関表も別々だ。金額をそのまま横並びで比べ、優劣を論じることはできない。来場者数は結果を左右する一要素にすぎず、消費単価や宿泊率、域外からの調達比率、そして試算の対象範囲によって額は変わる。

対象範囲の重みは、ひとつの試算のなかにもはっきり出る。経済効果.NETは土浦全国花火競技大会について、全国で約107.5億円、茨城県内では約12.0億円と試算した。同じ大会・同じ試算でも、範囲を県内に絞ると9分の1近くまで縮む。

長岡でも似たことが起きる。経済効果.NETは2024年大会について、新潟県内で約146.6億円、全国に波及した額まで含めると約331.8億円と、範囲を分けて公表している。DBJの新潟県内110億円と並べるなら県内どうしの146.6億円であり、全国ベースの331.8億円を持ってくれば3倍の開きに見えてしまう。対象年も算出方法も異なるうえ、範囲を確かめないまま額だけを引くと、数字が一人歩きしかねない。

同じ理由で、大曲の花火の約129億円(経済効果.NETによる2023年大会の全国ベース。秋田県内では約57.5億円)や、隅田川花火大会の約211億円(関西大学の宮本勝浩名誉教授による2023年の推計)も、推計主体と対象地域を確認せずに他の大会と並べることはできない。宮本名誉教授は2023年の全国の花火大会による経済効果を約2兆2,590億円と推定しているが、対象大会数や来場総数は本稿では確認できなかった。いずれも産業連関表による推計であり、その場で動いた現金でも、地域に残った利益でもない。

長岡の課題は周遊 訪問先はどれも1割未満

そのDBJのレポートで、110億円と並んで目を引くのが周遊の乏しさである。花火来訪者が長岡市外の新潟県内で訪れた先は、最も多い弥彦神社でも8.3%、次いで新潟市中心部が5.9%にとどまった。どのスポットも回答は1割に満たず、DBJは県内の他の観光地への周遊は限定的だと結論づけている

DBJは、花火の前後の日程で県内を周遊してもらう余地があるとしている。域外から2日間で57.6万人が集まっても、消費は花火当日と会場周辺に張りついているということだ。総額を押し上げる余地は、花火そのものよりも当日の外側に残っている。

泊める、回す、原資をつくる 効果を広げる打ち手

集客を地域の消費へ広げる打ち手
泊める・回遊・継続の3系統と、それを支える原資(施策イメージ)
泊める(宿泊)
宿泊
前後泊を促す宿泊プラン、翌日に使える周遊パス付き、有料席と宿泊のセット販売で日帰りからの転換を促す
回遊させる(周遊)
周遊
市内の飲食・観光へ誘導するクーポンやマップ、地域共通の決済基盤で消費動向を把握し翌年の設計に反映
翌日・翌シーズンへ
継続
前夜祭や翌日イベント、通年化(大曲の春夏秋・毎月花火)、資料館など常設施設と産業基盤の活用
費用を賄い再投資
原資
ふるさと納税や有料席で開催費を確保し、その原資を周遊・宿泊の施策へ回す

打ち手は大きく三つに整理できる。第一に、前後泊を促す設計だ。翌日に使える周遊パスや観光チケットを組み込んだ宿泊プラン、有料席と宿泊のセット販売は、日帰りから宿泊への転換を促しうる。

第二に、回遊の仕掛けである。会場周辺にとどまりがちな人流を市内の飲食や観光へ誘導するクーポンやマップが考えられる。地域共通のデジタルクーポンや決済基盤を整え、参加店舗の同意とデータ連携の仕組みまで用意できれば、消費動向を翌年の設計に生かせる可能性がある。

第三に、費用を賄う仕組みだ。帝国データバンクの調査によると、警備などの委託費、人手不足による人件費、火薬原料、備品レンタル代の上昇が運営費を押し上げている。ふるさと納税や有料席で開催費を確保し、その原資を周遊・宿泊の施策へ回せるかが問われる。

あわせて読む 運営費の高騰で開催そのものを見送る大会も出はじめている。存続の危機に立つ花火大会の実情はこちらで詳しく扱った。

市街地の夜空に一斉に開く花火。手前に街明かりが広がる 花火大会の「存続の危機」 火薬・警備・担い手の三重苦と財源設計

年間を通じた活用例として参考になるのが、秋田県大仙市の「大曲」である。大曲の花火は8月の全国花火競技大会に加え、4月の「春の章」、10月の「秋の章」の3大会で構成される。大仙市は「毎月花火が打ち上がるまち」を掲げ、1月から12月までの花火行事の年間予定を公表している。2018年には花火伝統文化継承資料館「はなび・アム」が開館した。

DBJ東北支店は2020年に「花火の産業化戦略」を提言している。その背景には、秋田県の花火製造出荷額約8.7億円(全国の約5%)や、大仙市に立地する5社の煙火製造業者という産業基盤がある。集客に製造と文化を組み合わせ、花火を年間の地域資源として扱う構えだ。

海外にも先例がある。台湾の離島・澎湖では、2002年5月の航空機事故で冷え込んだ観光を立て直すため、2003年に第1回の海上花火節が開かれた。2026年は5月4日から8月25日まで、過去最多の33回を打ち上げる。約100店舗のナイトマーケットや星空シネマなど滞在型の企画を重ね、花火を夏季観光の主軸に据えている。

ただし花火だけで支えきれるわけではない。澎湖県政府旅遊処の統計として報じられたところでは、2026年5月の海空の入境旅客は18万3,272人次で、前年同月から約2万7,000人次・13%減った。5月として5年ぶりに20万人次を下回っている。前県政顧問の郁国麟氏は、観光が花火だけになり、文化の物語や旅の深みを欠けば魅力は細るとして、多様な観光資源の必要性を指摘した。

宿泊容量も交通事情も来場者の属性も、大会ごとに違う。どの打ち手がどれだけ効くかは条件しだいで、効果を検証したデータもまだ乏しい。自分の大会の条件に照らして選ぶしかない。

観光ビジネスの視点

経済波及効果は、地域に残った利益ではない。消費がどれだけ生産を生んだかを推計した数字である。したがって、110億円という総額だけでは、地域がどれだけ潤ったかは分からない。長岡のデータでは、花火客が県内の各観光地を訪れた割合はいずれも1割未満だった。重視すべきは、花火の前後で宿泊が何泊増え、市内や県内をどれだけ周遊してもらえたかである。そこが伸びれば、地域に生まれる経済効果も大きくなる。

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