マリオットが崩す「Z世代神話」 富裕層の若者は4つの顔を持つ

屋外の低い塀に並んで腰かける3人の若者
Photo: Jordan Gonzalez / Unsplash
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2,800人が映すZ世代の素顔

米ホテル大手マリオット・インターナショナルのラグジュアリー部門(Luxury Group by Marriott International、中国を除くアジア太平洋=APEC)は2026年7月1日、Z世代の富裕旅行者を分析した報告書を公表した。報告書のタイトルは「Beyond The Gen Z Myth: Four Distinct Luxury Mindsets Reshaping Travel in Asia Pacific(Z世代神話を超えて:アジア太平洋の旅行を再定義する4つのラグジュアリー観)」。Z世代の類型分析と、富裕層全体の旅行動向の2部構成になっている。

調査はオーストラリア、インド、インドネシア、日本、シンガポール、韓国、タイ、ベトナムの8市場が対象で、主にレジャー目的で国際旅行を頻繁に行う富裕層に聞いた。各市場の富裕層上位10%にあたる層から350人ずつ、計2,800人が回答し、うち18〜29歳のZ世代は1,200人を占める。調査期間は4月24日から5月19日までだった。

報告書の主張は明快だ。「単一のZ世代旅行者は存在しない」。若者をひとまとまりの層として扱う従来の見方を退け、価値観の異なる4つのラグジュアリー観に分けて捉えるべきだとした。

半数超が自腹で、自分で決める

報告書がまず崩すのは、Z世代を「親任せで受け身の旅行者」とみなす通説である。調査では半数超が自分で旅費を負担し、約半数が旅程のすべてを自分で計画していた。好む同行者は親・家族が最多の51%で、少人数グループでの旅行も17%増えた。彼らは受け身の参加者ではなく、旅の設計者だと位置づける。

目的地を選ぶ際の重視点もはっきりしている。地域社会との交流や文化への没入を挙げた人が87%で最も多く、食の発見(86%)、自然への近さ(86%)、ウェルネス(85%)が続いた。安全性や質の高いサービス、パーソナライズは前提としつつ、体験の中身を厳しく見る姿勢がうかがえる。旅行の計画にAIツールを既に使う人も23%いた。

ラグジュアリーの定義は4つに割れた

報告書の核心は、Z世代を4つの類型(アーキタイプ)に切り分けた点にある。それぞれ「ラグジュアリー」の定義が大きく異なる。

最大層は「コノシュア・トラディショナリスト(目利きの伝統派)」で34%を占める。ブランドの評判やサービス、職人技といった昔ながらの価値を重視する層だ。79%が常にラグジュアリーホテルに泊まり、91%がブランドの評判を予約の判断材料にする。66%が1〜2か月前に予約する計画派でもある。

次いで「フューチャー・プルーファー(未来投資派)」が30%。旅を長期的な健康への投資と捉える。97%が滞在中にウェルネス施設を使い、95%が館内の医療専門家へのアクセスを重視する。ウェルネスに追加出費を厭わない人は57%で、Z世代平均の20%を大きく上回った。

「クワイエット・ラグジュアリスト(静けさ派)」は20%。常時接続の時代に、あえて「つながらないラグジュアリー」を選ぶ。全員(100%)が旅行中のデジタル利用を制限し(Z世代全体では63%)、85%が知られざる目的地を志向する。

最後の「カルチュラル・リクレイマー(文化回帰派)」は16%。アイデンティティや家族の継承と旅を結びつける層だ。全員が家族旅行の計画に主体的に関わり(Z世代全体43%)、65%が支払いの最終決定者となる(同36%)。家族ゆかりの地を「非常に重視する」人が50%と、Z世代平均の33%を上回った。

各類型の主な特徴は次の通りである。

類型構成比ラグジュアリーの定義主な数値多い市場
目利きの伝統派34%ブランド・評判・サービス91%が評判で予約判断シンガポール・タイ
未来投資派30%ウェルネスへの投資57%が健康に追加出費豪州・インド
静けさ派20%デジタルからの断絶100%がテック利用を制限インドネシア
文化回帰派16%伝統・家族・文化没入65%が支払い決定者ベトナム・日本

(注:「多い市場」は業界メディアによる担当者インタビューに基づく、8市場内での相対的な偏り。各市場350人・Z世代はその一部のため、参考値として読む)

日本のZ世代はどの顔か

この4類型は市場によって濃淡がある。日本のZ世代富裕層は、8市場の中では「文化回帰派」に相対的に振れやすく、「未来投資派」は相対的に少ないと位置づけられた。文化・伝統・家族の継承といった訴求が、日本の若い富裕層には届きやすい可能性を示す。

ただし、これはあくまで他国と比べたときの偏りである。文化回帰派は全体でも16%にとどまり、未来投資派は30%と2番目に大きい。日本国内でもウェルネス志向の層は無視できない規模で存在するとみるのが自然だ。日本市場もまた、単一像では語れない。

富裕層全体では別の変化も出ている。旅行の回数を絞り、1回あたりの滞在を延ばす動きだ。国際レジャー旅行の滞在日数は平均7泊から9泊へ延びる見込みで、「頻度から深さへ」と重心が移る。

背景には、Z世代が次の主力消費層に育つという構造がある。NielsenIQなどの調査では、Z世代の世界の消費力は2030年までに12兆ドルへ拡大すると見込まれる。マリオット側も動いている。同社のOriol Montal氏(アジア太平洋〈中国除く〉ラグジュアリー担当リージョナル・バイス・プレジデント)は業界メディアに対し、今回の知見は今後5〜10年のホテル開発の指針になると述べた。今年JW Marriott Hotel Tokyoに導入した「Mindful Rooms」は未来投資派に、The Luxury Collectionは文化回帰派に響くとする。需要拡大を受け、今後開発する次世代型ジムの面積を3割大型化する検討や、ファミリールーム商品の開発も進めているという。

あわせて読む 高付加価値旅行者の消費構造と、訪日市場の全体像は、それぞれこちらで詳しく解説している。

観光ビジネスの視点

若い旅行者に向けたインバウンド誘致では、写真映えするスポットづくりが有力な入口になりやすい。その効果を否定する必要はない。ただ今回の調査は、その水面下で別の価値観が広がっていることを示す。静けさ派は20%、文化回帰派は16%を占める。前者はデジタルから離れる時間や知られざる目的地を、後者は家族や伝統の継承を重視する。方向は違うが、どちらも派手な高級感や映えだけでは捉えにくい層だ。静けさ派に至っては全員が旅行中のデジタル利用を制限していた。日本の観光資源にはこの価値観と相性のよいものが多い。温泉や庭園、地方の食や職人技は、映えを足さずとも没入と静けさを提供できる。映え一本に寄せるのではなく、こうした「見せない価値」の受け皿も併せて用意しておくことが、この層を取りこぼさない鍵になる。

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