ChatGPTで宿を探す時代へ
IHGホテルズ&リゾーツ(IHG)は2026年6月3日、対話型AIのChatGPT内で動く公式アプリを公開したと発表した(アトランタ発)。
利用者はChatGPTに話しかけるだけで、100カ国以上に広がるIHGの7,000軒超のホテルを検索して比較・検討できる。
このアプリはスマートフォンに入れる種類のものではなく、ChatGPT上でそのまま使える公式の検索機能だ。旅行者の好みに応じてChatGPTがIHGのホテルを提案し、リアルタイムの空室状況や料金、地図、館内設備(アメニティ)を会話の流れの中で示す。発見から比較までを途切れさせない設計だ。
ただし予約そのものはChatGPT内では完結しない。ホテルを選んだあとは、IHGの直販チャネル(自社予約サイト・アプリ)へ案内され、そこで予約を仕上げる仕組みだ。
IHGは続けて、自社の予約サイトIHG.comとロイヤルティアプリ「IHG One Rewards」にも会話型検索を近日中に追加する予定だとしている。固定の検索枠やキーワードに縛られず、自分の言葉で条件を伝えて宿を探せるようにする狙いだ。
米国客の「半数」がAIで計画
背景にあるのは、AIで旅行を計画する人の急増だ。旅行調査会社フォーカスライト(Phocuswright)の調査「The AI Surge」によれば、米国の旅行者の半数超がすでにAIを旅行計画に使っている(旅行者の69%がAI要約で旅を検討という調査もある)。
あわせて読む Amadeusの調査による旅行者のAI活用実態は、こちらで詳しく解説している。
旅行者の69%がAI要約で旅を検討、ホテルは「客室の売り方」再設計へ
IHGもこの結果を発表のなかで取り上げた。宿選びの入口が、検索エンジンから対話型AIへ移りつつあるという認識だ。
同社の最高プロダクト・技術責任者(CPTO)であるジョリー・フレミング氏は、「世界では毎晩100万人を超えるお客様が当社に宿泊している。
計画から予約、滞在までをより滑らかにするためにAIを活用する」と述べ、AIと人のおもてなしを組み合わせる方針を強調した。
IHGは21のホテルブランドを抱え、世界100カ国超に7,000軒・100万室超を展開する大手だ。ロイヤルティ会員「IHG One Rewards」は1億6,000万人を超える。これだけの在庫と会員基盤を、AIの入口に接続したことになる。
それでも予約は直販で守る
IHGの動きは単独の出来事ではない。2026年に入ってから、世界の主要ホテルチェーンが相次いでChatGPTアプリや会話型検索を投入している。
下の表のとおり、各社が入口づくりを急ぐ一方で、予約の完結や顧客との接点は自社の直販チャネル(自社サイトやアプリでの予約)に寄せている。
| ホテルチェーン | AI導入の動き | 時期 | 予約の完結場所 |
|---|---|---|---|
| IHG | ChatGPTアプリを公開。自社サイト・アプリにも会話型検索を追加予定 | 2026年6月 | 自社直販 |
| アコー(ALL) | ChatGPTアプリを公開 | 2026年1月 | 自社直販 |
| ハイアット | ChatGPTアプリと自然言語検索を展開 | 2026年3月 | 自社直販 |
| ウィンダム | ネイティブChatGPTアプリ(約8,400軒を地図・カードで探索) | 2026年 | 自社直販 |
| ヒルトン | ChatGPTアプリの提供を表明。自社「AIプランナー」をベータ提供。OpenAI・Google・Anthropicを併用 | 2026年4月表明 | 自社直販 |
| マリオット | 自社サイト・アプリに自然言語検索。GoogleのAIモード経由の予約処理も構築 | 2026年 | 自社直販+Google AIモード |
ここで見落とせないのが、入口を開きながら予約と決済は自社の直販チャネルに残すという各社共通の構えだ。
当初OpenAIはChatGPT内で決済まで完結させる仕組み(インスタント・チェックアウト)を推し進めていたが、2026年に入って発見・調査の支援へと軸足を戻したと報じられている。ホテル予約は分単位で変わる料金、料金種別ごとに異なるキャンセル規定、通貨をまたぐ決済、予約後の対応など複雑さが大きいことが背景とみられる。結果として各社は「発見はAIに開き、取引は自社で握る」構えで足並みをそろえつつある。この構図は各社の警戒感の裏返しでもある。マリオットとヒルトンは、AIプラットフォームが予約をOTA(Booking.comや楽天トラベルなどのオンライン旅行会社)に流し、送客コストの上昇やブランドへの忠誠度の低下を招きかねないリスクを、相次いで投資家向けの開示資料で指摘した。
IHGがChatGPTでは探させるだけにとどめ、予約を直販へ誘導する設計は、大手各社が模索する「発見はAIに開き、予約と顧客接点は自社で握る」という方向性をよく表している。
IHGの狙いは、相反する二つの力を同時にさばくことにある。発見が対話型AIへ移るなかで「入口にいなければ選ばれない」という攻めと、決済まで外部に渡せばOTAと同様の仲介コスト・送客依存・顧客データの外部化を招くという守りだ。
入口はAIに開き、予約と顧客との接点は自社に残す。これが各社に共通する答えだ。
日本でも、会員基盤と在庫データを持つ大手はAIアプリ化に動けるが、独立系や中小の宿はOTAやAIエージェント経由の送客に依存しやすくなる。直販比率と一次データ(会員情報や宿泊履歴)をどう持つかが、AI時代の収益力を左右する。
<出典>
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