旅行業法は、旅行業を営む者に登録を義務づけ、取引の公正と旅行の安全を守る法律だ。第1種から地域限定までの旅行業4区分に旅行業者代理業を加えた登録制度、企画旅行と手配旅行の区別、営業保証金・基準資産・旅行業務取扱管理者・標準旅行業約款といった中核ルールを定める。本記事では、対象・要件・手続き・罰則・最新動向を、行政の公式情報にもとづいて整理する。
この記事のポイント
- 旅行業は登録制で、第1種は観光庁長官、第2種以下と代理業は都道府県知事に登録する。
- 登録区分は旅行業4区分(第1種・第2種・第3種・地域限定)と旅行業者代理業の計5区分で、扱える旅行の範囲が異なる。
- 営業保証金の供託が必要だが、旅行業協会の保証社員になれば供託は免除され、代わりに本来額の5分の1にあたる分担金を納める。
- 企画旅行と手配旅行の区別、営業所ごとの取扱管理者、標準旅行業約款が実務で押さえるべき3点だ。
なぜ旅行業は登録制なのか
旅行業法(昭和27年法律第239号)は、1952年7月18日に公布された旅行業の基本法だ。目的は、登録制度の実施と業務の適正な運営の確保、旅行業協会の適正な活動の促進を通じて、旅行取引の公正を維持し、旅行の安全を確保し、旅行者の利便を増進することにある(第1条)。所管は観光庁で、第1種旅行業の登録行政庁は観光庁長官が担う。
旅行業は、旅行者に対して旅行の企画、運送・宿泊等の手配、旅行相談などを報酬を得て行う事業だ。実務上は旅行者と運送・宿泊機関のあいだに立つ場面が多いが、法律上の範囲はそれだけにとどまらない。旅行者があらかじめ代金を払い旅行の実施は後日というケースが多いことから、事業者が破綻すれば旅行者が損害を受けやすい。旅行業法は、登録・保証金・約款・管理者という複数の仕組みで旅行者を保護する。本記事では、その土台となる法制度を解説する。
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どこからが「旅行業」なのか
「旅行業」とは、報酬を得て、旅行業法第2条第1項第1号から第9号までに掲げる行為を行う事業をいう。ただし、専ら運送サービスの提供者のために代理契約を結ぶ行為だけを行うものは除かれる。これに対し「旅行業者代理業」は、報酬を得て、特定の旅行業者のためにその行為を代理して契約を締結する事業を指す(第2条第2項)。
旅行業が扱う契約は、大きく二つに分かれる。「企画旅行契約」は、旅行業者が旅行計画を作り、運送・宿泊などを組み合わせて旅行者と結ぶ契約だ(第2条第4項)。募集型(パッケージツアー)と受注型(旅行者からの依頼を受けて計画を作る旅行。修学旅行や社員旅行などの団体旅行が代表例だが、個人のオーダーメイド旅行も含む)があり、契約の性質や事業者が負う対応範囲が手配旅行とは異なる。一方「手配旅行契約」は、旅行者の依頼を受けて運送・宿泊などを代理・媒介・取次ぎによって手配する契約をいう(第2条第5項)。企画旅行か手配旅行かで、事業者が負う責任と必要な登録区分が変わる。
報酬を得て行う旅行の相談も旅行業務にあたる。第2条第1項第9号は「旅行に関する相談に応ずる行為」を旅行業務に含めており、手配や予約を伴わなくても、有償で旅行プランの相談・作成を事業として行えば旅行業に該当する。
一方で、旅行業者から依頼を受け、報酬を得て運送・宿泊などを手配するランドオペレーターは「旅行業」ではなく旅行サービス手配業として別の登録が必要になる。逆に、運送・宿泊事業者が自社サービスを直接売る行為や、報酬を得ない情報提供は旅行業にあたらない。
次の図で、登録が要る行為と要らない行為を整理する。

5つの登録区分と資金の目安
旅行業・旅行業者代理業を営もうとする者は、登録を受けなければならない(第3条)。登録は、旅行業4区分(第1種・第2種・第3種・地域限定)に旅行業者代理業を加えた5区分に分かれる。第1種は観光庁長官、第2種・第3種・地域限定・代理業は都道府県知事が登録先となる。
登録区分ごとの扱える範囲
第1種は、海外・国内を問わず募集型企画旅行を含むすべての業務を扱える。第2種は、海外の募集型企画旅行の実施だけができず、国内の募集型、海外・国内の受注型、手配旅行は扱える。第3種は、募集型企画旅行が拠点区域内(営業所の所在市町村・隣接市町村・観光庁長官が定める区域)に限られる一方、受注型企画旅行と手配旅行は海外を含め制限なく扱える。地域限定は、募集型・受注型の企画旅行と手配行為のすべてが拠点区域内に限定される。なお、下表の「扱える旅行」は自ら企画・実施できる範囲を示す。他社(主に第1種)が実施する募集型企画旅行を代理販売する行為は、第2種・第3種・地域限定でも認められる。区分ごとの登録先・扱える範囲・資金要件をまとめると、次のとおりだ。
| 区分 | 登録先 | 扱える旅行 | 基準資産額 | 営業保証金 |
|---|---|---|---|---|
| 第1種 | 観光庁長官 | 海外・国内の募集型/受注型/手配 すべて | 3,000万円 | 7,000万円 |
| 第2種 | 都道府県知事 | 海外募集型のみ不可(他は可) | 700万円 | 1,100万円 |
| 第3種 | 都道府県知事 | 募集型企画旅行は拠点区域内のみ/受注型企画旅行・手配旅行は制限なく可 | 300万円 | 300万円 |
| 地域限定 | 都道府県知事 | 企画・手配とも拠点区域内に限定 | 100万円 | 15万円 |
| 旅行業者代理業 | 都道府県知事 | 特定の旅行業者の代理として契約 | ― | ― |
(注:基準資産額は旅行業法施行規則第3条、営業保証金は取引額400万円未満・別表第一の下限。営業保証金は取引額の増加に応じて段階的に増える。第1種は海外募集型の取引額に応じ別表第二の額を加算する。旅行業者代理業に財産的要件がないのは、所属する旅行業者との代理業契約が前提で、旅行の責任主体が所属旅行業者側にあるためだ。このほか第1種の新規登録には登録免許税9万円がかかる。第2種以下は都道府県が定める登録手数料が別途必要で、金額は自治体ごとに異なる。)
登録の有効期間と拒否要件
登録の有効期間は5年で、継続するには更新登録が必要だ(第6条の2・第6条の3)。更新の申請は、有効期間満了日の2月前までに行う。登録の拒否要件は第6条に11号にわたって定められ、登録取消しから5年を経過しない者、禁錮以上の刑または旅行業法違反による罰金刑から5年を経過しない者、暴力団員等、破産して復権していない者、取扱管理者の選任が確実でない者、財産的基礎の要件に適合しない者などが該当する。
基準資産額と営業保証金
財産的基礎の中心が基準資産額だ。資産の総額から繰延資産・営業権と負債総額を差し引き、さらに営業保証金(保証社員は弁済業務保証金分担金)を控除して算定する。営業保証金は、旅行業を始める前に供託し、その届出をしなければ事業を開始できない(第7条)。供託は主たる営業所の最寄りの供託所に対して行い、有価証券で充てることもできる(第8条)。
弁済業務保証金(協会加入による軽減)
営業保証金の負担を軽くする仕組みが、旅行業協会の弁済業務保証金制度だ。協会の保証社員になれば、本来の営業保証金の「5分の1」にあたる弁済業務保証金分担金を協会に納めればよく、自ら営業保証金を供託する義務が免除される。実額は取引額400万円未満の下限で第1種1,400万円・第2種220万円・第3種60万円・地域限定3万円だ。協会がまとめて供託する仕組みで、旅行者への弁済も担保される。分担金を納めないと社員の地位を失い(第49条)、弁済の限度額は本来供託すべき営業保証金額を下回らない(第48条第5項)。
旅行業協会は、観光庁長官が日本旅行業協会(JATA)と全国旅行業協会(ANTA)を指定している。社員になれるのは旅行業者等と旅行サービス手配業者に限られる(第41条)。協会の業務は、苦情の解決、研修、弁済業務、指導、調査研究・広報だ(第42条)。
旅行業務取扱管理者の選任
営業所ごとに、1人以上の旅行業務取扱管理者を選任しなければならない(第11条の2)。従業員が1人だけの営業所でも適用される。管理者は他の営業所と兼任できないのが原則だ。例外は地域限定旅行業に限られ、営業所間の距離など一定の要件を満たせば1人の管理者が複数営業所を兼任できる。管理者試験は総合・国内・地域限定の3種類があり、海外を扱うなら総合、国内のみなら国内または総合、拠点区域内のみなら地域限定でも足りる。試験は総合をJATA、国内をANTA、地域限定を観光庁が実施する。管理者には5年ごとに旅行業協会の研修を受講させる義務もある。営業所を出すたびに有資格の管理者が必要になるため、資格者の確保が新規参入や多店舗展開の実務上の制約になりやすい。
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登録から営業開始までの流れ
登録から営業開始までの流れは、区分によって窓口が異なるものの、大枠は共通している。まず、第1種は観光庁長官、第2種以下と代理業は都道府県知事に登録を申請する。申請にあたっては、基準資産額の要件を満たし、営業所ごとの取扱管理者の選任が確実であることが求められる。
登録を受けたら、営業保証金を最寄りの供託所に供託し、その旨を登録行政庁に届け出る。この供託と届出を済ませるまでは、登録を受けていても事業を開始できない(第7条)。協会の保証社員になる場合は、営業保証金の供託に代えて弁済業務保証金分担金を協会に納める。有効期間は5年なので、満了の2月前までに更新登録を申請して事業を継続する。取引額が増えれば、別表に応じて営業保証金(または分担金)を積み増す必要がある。手続きの詳細や必要書類は、登録先の行政庁が案内する様式に従って準備したい。
無登録・名義貸しへの罰則
旅行業法は、無登録営業や不正な登録を重く罰する。登録を受けずに旅行業・代理業を営んだ場合、不正の手段で登録を受けた場合、名義貸しをした場合などは、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される(第74条/併科あり)。名義貸しや他人に経営させる行為そのものが禁止されている(第14条)。
このほか、営業保証金の届出前に事業を開始した場合は100万円以下の罰金(第77条)、業務停止命令に違反した場合は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(第76条)が定められている。個別ケースの適用は所管行政庁の判断によるため、ここでは条文にもとづく概要にとどめる。
近年の改正と登録業者数のいま
近年の動きで押さえておきたいのが、標準旅行業約款と手配業の制度だ。標準旅行業約款は、観光庁長官・消費者庁長官が定めて公示し、同じ約款を用いれば認可を受けたものとみなされる(第12条の3)。現行の基礎は平成16年国土交通省告示第1593号で、2009年の消費者庁設置以降は観光庁・消費者庁の共管となっている。最終改正は令和8年3月9日の観光庁・消費者庁告示第一号(2026年4月1日適用)だ。 約款は募集型・受注型・手配旅行・渡航手続代行・旅行相談の各契約の部で構成される。
あわせて読む 標準旅行業約款について詳しくはこちら。
もう一つが、旅行サービス手配業(ランドオペレーター)の登録制度だ。平成29年法律第50号で新設され、2018年に施行された。運送・宿泊の手配、通訳案内士以外の者による有償の通訳案内の手配、免税店での物品販売の手配を業として行う者は、都道府県知事の登録を受ける(第23条)。手配業者も営業所ごとに旅行サービス手配業務取扱管理者を選任し、5年ごとの研修を受ける。あわせて、令和4年の刑法改正(拘禁刑化)を受け、罰則の「懲役」は「拘禁刑」に整理された(2025年6月1日施行)。
登録業者数は、令和8年(2026年)4月1日現在で旅行業者が計9,774者(第1種599・第2種3,224・第3種5,081・地域限定870)、旅行業者代理業450者、旅行サービス手配業3,901者で、総計14,125者だった。第1種は東京の324者が最も多く、大阪45者、愛知31者が続く。
旅行業法の近年の動きは、消費者保護を一段と厚くする方向にある。2018年の旅行サービス手配業(ランドオペレーター)の登録義務化は、その表れだ。一方で、参入のハードルを一律に上げているわけではない。第1種は基準資産3,000万円・営業保証金7,000万円が必要だが、地域限定や第3種なら負担は大きく下がり、協会加入でさらに5分の1になる。手配業にいたっては基準資産も営業保証金も求められない。つまり旅行業法は、消費者保護を強めつつも、狭い領域から小さく始める入口をいくつも残している。ただし実務上のボトルネックは資金より人材だ。営業所ごとに有資格の管理者が要るため、資格者の確保が追いつかなければ出店ペースは頭打ちになる。区分の選択は、資金計画だけでなく管理者の採用計画とセットで考える必要がある。
よくある質問
<出典>
- e-Gov法令検索「旅行業法(昭和27年法律第239号)」
- 観光庁「旅行業法の概要」
- 国土交通省「標準旅行業約款(平成16年告示第1593号)」
- 一般社団法人日本旅行業協会(JATA)「『旅行業』とは」


