旅行会社の店舗や営業所には、必ず「旅行業務取扱管理者」という国家資格を持つ人がいる。旅行業を営むうえで、法律が営業所ごとに置くことを義務づけている資格だ。
名前は聞いたことがあっても、総合・国内・地域限定という3種類があることや、どれを取ればどこまでの旅行を扱えるのかまで正確に説明できる人は多くない。旅行会社への就職や独立開業を考える人にとっては、最初に押さえておきたい制度でもある。
この記事では、旅行業務取扱管理者がどんな資格で、どんな職務を担うのか。3種類の違いと試験の中身、合格率から見た難易度、そして2025年に大きく変わった受験料までを、行政の一次情報にもとづいて整理する。
この記事のポイント
- 旅行業務取扱管理者は、旅行業者が営業所ごとに選任を義務づけられる国家資格だ。
- 資格は総合・国内・地域限定の3種類で、扱える旅行の範囲と試験科目が異なる。
- 難易度は科目数・出題範囲・合格率から見ると、総合>国内>地域限定の順に負担が大きい。
- 2025年6月に受験手数料が改定され、総合は2倍、国内も引き上げられた。選任後は5年ごとの定期研修も義務だ。
営業所ごとに置く旅行の「管理者」
旅行業務取扱管理者とは、旅行業者が営業所ごとに選任し、取引の公正や旅行の安全、利用者の利便を確保するための管理・監督を行わせる国家資格だ。旅行業法第11条の2が、旅行業者と旅行業者代理業者にこの選任を義務づけている。
旅行の取引は、形のない商品を出発前に申し込み、代金も先に支払うことが多い。契約内容が複雑で、トラブルも起きやすい。そこで各営業所に専門知識を持つ責任者を必ず置き、取引の適正さを担保させるのがこの制度の狙いである。
選任する人数は営業所ごとに1名以上と定められている。管理者を欠く営業所は、この選任義務を満たさない状態になる。
管理者の職務は「業務の管理・監督に関する事務」で、観光庁は具体的に10項目を挙げている。旅行計画の作成、料金の掲示、旅行業約款の掲示と備置き、取引条件の説明、契約書面の交付、企画旅行の広告、サービスを確実に提供するための措置、苦情の処理、契約に関する重要事項の記録と書類の保管、そのほか観光庁長官が定める事項だ。
あわせて読む この制度は、旅行業を営むための土台となる旅行業法や、取引のルールを定めた標準旅行業約款と一体で理解すると位置づけがつかみやすい。
総合・国内・地域限定の3種類がある
旅行業務取扱管理者の資格は、扱える旅行の範囲によって3種類に分かれる。総合・国内・地域限定の3つで、どの範囲の旅行を扱う営業所かによって必要な資格が決まる。地域限定は2018年度に新設された、いちばん新しい区分だ。
3種類の扱える範囲は次のとおりである。
- 総合旅行業務取扱管理者:海外旅行を扱う営業所に必要。海外・国内の両方の旅行を扱える。
- 国内旅行業務取扱管理者:国内旅行だけを扱う営業所に置ける。
- 地域限定旅行業務取扱管理者:営業所の所在市町村と、それに隣接する市町村などの範囲に限った旅行を扱う営業所に置ける。「隣接市町村など」には、離島航路の到達地や駅・空港などの交通拠点がある市町村など、観光庁長官が個別に指定する区域が含まれる場合もある。
上位の資格は下位の範囲もカバーする。総合は国内旅行だけの営業所にも選任でき、国内は地域限定の範囲の営業所にも選任できる。海外まで扱う可能性があるなら総合を、活動範囲が狭い地域密着型なら地域限定を、というように、営業所の事業内容に合わせて選ぶことになる。
管理者は選任された営業所に専任で置くのが原則で、他の営業所との兼任はできない(旅行業法第11条の2第4項)。ただし地域限定旅行業務のみを扱う営業所同士に限り、営業所間の距離の合計が40キロメートル以下、かつ前事業年度の取引額合計が1億円以下であるなど一定の要件(同条第5項・旅行業法施行規則第10条の2・第10条の3)を満たせば、1人の管理者が複数営業所を兼任できる。
試験を実施する団体も資格ごとに異なる。総合は一般社団法人日本旅行業協会(JATA)、国内は一般社団法人全国旅行業協会(ANTA)が、それぞれ旅行業法第69条にもとづく指定試験機関として試験事務を担い、地域限定は観光庁が第11条の3にもとづいて直接実施する。
3種類の違いを一覧にすると次のとおりだ。
| 区分 | 扱える旅行の範囲 | 試験科目 | 実施団体 | 受験手数料 | 合格率(令和7年度) |
|---|---|---|---|---|---|
| 総合 | 海外・国内の両方 | 4科目 | JATA | 1万3,000円(+システム利用料660円) | 26.1% |
| 国内 | 国内旅行のみ | 3科目 | ANTA | 8,000円(+システム利用料660円) | 34.1% |
| 地域限定 | 所在市町村+隣接市町村など | 3科目(範囲限定) | 観光庁 | 5,500円 | 48.1% |
(注:合格率は令和7年度の実績。総合は全受験区分の合計、国内・地域限定は科目免除を含まない「全科目区分」の値で、算出の母集団が異なるため単純な横並び比較はできない。それでも科目数・出題範囲の違いと合わせて見ると、総合の負担が相対的に重いことがうかがえる。)

試験科目と合格基準
試験は資格ごとに科目数と範囲が違う。総合は4科目、国内と地域限定は3科目で、合格には各科目で満点の60%以上が必要になる。
総合の4科目は、旅行業法及びこれに基づく命令、旅行業約款・運送約款及び宿泊約款、国内旅行実務、海外旅行実務だ。国内は海外旅行実務を除いた3科目になる。地域限定も3科目だが、範囲が狭められており、航空運送約款や全国地理、航空に関する運送関係などが出題から除かれる。
総合の配点は、旅行業法100点、約款100点、国内旅行実務100点、海外旅行実務200点の計500点だ。海外旅行実務の比重が大きく、地理・語学・出入国関係まで問われる点は、総合の負担を重くしている一因といえる。
受験資格に制限はない。年齢・国籍・学歴を問わず誰でも受験でき、実務経験も必要ない。旅行会社に勤めていない学生や社会人が、キャリアの準備として受けることもできる(受験停止処分を受けている期間中の人は除く)。
いくつかの科目免除もある。総合には科目合格制度があり、前年度に国内旅行実務・海外旅行実務のいずれか、または両方で合格基準に達した人は、翌年度に限りその科目が免除される。ただし旅行業法と約款には科目合格制度はない。このほか総合研修の修了者は該当する実務科目が免除され、国内試験でも研修修了や前年度の科目合格、地域限定資格の保有に応じた免除区分が設けられている。
申込みから受験・合格発表までの流れ
試験は年に1回で、資格ごとに時期と方式が異なる。総合はおおむね10月下旬の日曜・祝日に、国内は9月上旬から下旬にかけてCBT(コンピューターを使った方式)で、地域限定は9月下旬の日曜に実施される。
受験手数料は資格によって差がある。総合が1万3,000円、国内が8,000円、地域限定が5,500円で、総合と国内はこれにシステム利用料660円が別途かかる。
たとえば全国旅行業協会が実施する令和8年度の国内試験は、申込みが2026年6月18日から7月15日まで、受験期間が2026年9月3日から25日まで(CBT)、合格発表が2026年10月16日という日程が示されている。CBT方式では期間内に会場と日時を選んで受験する形になる。

選任義務を欠くとどうなるか
旅行業務取扱管理者の選任は、旅行業を営むうえでの前提条件だ。管理者を欠く営業所は、旅行業法上の選任義務を満たさない状態になる。新たな管理者を選任するまで、その営業所は旅行業務に関する契約を締結できない(旅行業法第11条の2第2項)。
管理者が退職・異動などでいなくなった場合は、速やかに新たな管理者を選任し直す必要がある。営業所を新設・増設する場合も、その営業所に選任する管理者を確保する必要がある。
選任した後にも義務が続く。旅行業者と旅行業者代理業者は、選任している管理者に5年ごとに旅行業協会が実施する定期研修を受講させなければならない。2018年1月施行の改正で導入された制度だ。
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受験料は2025年に改定、受験者は減少基調
近年の目立つ変化の一つが、受験料の引き上げだ。2025年6月1日、旅行業法施行令の改正により、受験手数料が総合で6,500円から1万3,000円へ、国内で5,800円から8,000円へ引き上げられた(総合はおよそ2倍。地域限定の5,500円は据え置き)。観光庁は、受験者数の減少による試験事業の収支悪化をこの改定の理由として挙げている。なお、この改定は同年10月実施の令和7年度総合試験・9月実施の令和7年度国内試験から適用されており、本記事で示す令和7年度の合格率はいずれも新料金のもとで行われた試験の結果である。
実際、総合の受験者数は令和4年度5,266人→令和5年度4,699人→令和6年度4,680人→令和7年度4,519人と、4年連続で減少している。受験料の改定は、この受験者減という構造と地続きの動きだ。
制度面では、2018年前後に5年ごとの定期研修の義務化や地域限定区分の新設が行われ、その後、2025年には受験手数料も改定された。地域密着で狭い範囲の旅行を扱う事業者にとっては、負担の軽い地域限定という選択肢が加わった意味は小さくない。

この図表のデータを見る
| 区分 | 科目数 | 合格率(令和7年度) |
|---|---|---|
| 総合 | 4科目 | 26.1% |
| 国内 | 3科目 | 34.1%(全科目区分) |
| 地域限定 | 3科目(範囲限定) | 48.1%(全科目区分) |
国内・地域限定は科目免除を含まない「全科目区分」の合格率。免除者を含む合計とは数値が異なる。
旅行者からみれば、旅行業務取扱管理者は普段あまり意識しない存在だ。しかしその役割は、契約書面の交付、取引条件の説明、苦情処理などが営業所で適正に行われるよう管理・監督する点にある。旅行業者等は営業所ごとに業務範囲に応じた旅行業務取扱管理者を選任する必要があり、選任した管理者が欠けた営業所では、新たな管理者を選任するまで旅行業務に関する契約を締結できない。営業を続ける旅行会社にとって、管理者は旅行者保護と取引の公正を支える不可欠な存在といえる。
一方で、総合旅行業務取扱管理者試験の受験者数は令和3年度以降、4年連続で減少している。今後は、2018年の地域限定旅行業務取扱管理者の新設が地域密着型の旅行商品の担い手を広げる狙いを持っていたように、実務に必要な管理人材をどう確保し、育てていくかが問われる。
よくある質問
<出典>
- 観光庁「旅行業法の概要」
- 観光庁「旅行業務取扱管理者試験」
- 観光庁「旅行業務取扱管理者の定期研修について」(PDF)
- 観光庁「旅行業務取扱管理者試験の受験手数料の改定」(報道発表)
- 日本旅行業協会(JATA)「令和7年度 総合旅行業務取扱管理者試験 結果」(PDF)
- 全国旅行業協会(ANTA)「令和7年度国内旅行業務取扱管理者試験 実施状況」(PDF)
- 観光庁「令和7年度地域限定旅行業務取扱管理者試験 実施状況一覧表」(PDF)
- 日本旅行業協会(JATA)「令和5年度 総合旅行業務取扱管理者試験 結果」(PDF・令和4年度参考値を含む)
- 日本旅行業協会(JATA)「令和6年度 総合旅行業務取扱管理者試験 結果」(PDF)
- 日本旅行業協会(JATA)「令和4年度 総合旅行業務取扱管理者試験実施結果」(受験区分別・令和3年度参考値を含む)


