観光と交通の全体像 航空・鉄道・バス・MaaSのいま

新幹線・空港・バスなど観光を支える交通の情景
Photo: Fikri Rasyid / Unsplash
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観光は、人が動いて初めて成立する。どれほど魅力的な観光地でも、そこへたどり着けなければ消費は生まれない。だから交通は、観光産業の土台であり、最も重要な制約条件のひとつでもある。

2025年の訪日外国人数は4,268万人(JNTO「訪日外客数」推計値・速報)と過去最高を更新し、旅行消費額のうち交通費は9,465億円(2025年・速報)を占めた。一方で、運ぶ側ではバス・タクシー運転者の不足が深刻化し、観光地では混雑が住民生活を圧迫している。移動の需要は伸びる一方で、運ぶ力が細っているのが、いまの観光交通の状況だ。

このページでは「交通」分野の入口として、航空・鉄道・バス・クルーズ・MaaSの全体像と主要な論点、事業者タイプ別の打ち手をまとめて解説する。

この記事のポイント

  • 訪日客の約96%は空路で入国し、国内移動の交通費は2025年の訪日消費の約1割(9,465億円)を占める。
  • 交通は玄関口への「一次交通」と目的地内の「二次交通」に分かれ、満足度と地方分散を左右しやすいのは後者。
  • 主要論点は、広域移動は速くなったのに「駅から先」が動かないことと、運転者不足という担い手の制約。
  • 2024年問題と日本版ライドシェア解禁が、二次交通の再設計を迫っている。
目次

観光と交通とは 旅を動かす一次交通と二次交通

観光における交通とは、旅行者を出発地から観光地へ、そして観光地のなかで運ぶ移動手段の総体を指す。航空・鉄道・バス・タクシー・船舶・レンタカーといった輸送機関に加え、それらをつなぐ予約・決済・経路案内の仕組みまでを含む。

観光ビジネスの文脈では、交通を二つの層で捉えると見通しがよい。ひとつは、空港・港・新幹線駅といった「玄関口」へ大量の人を運ぶ一次交通。もうひとつは、玄関口から目的地内をきめ細かく運ぶ二次交通だ。旅の満足度と地方への波及を左右しやすいのは、華やかな一次交通よりも、目立たない二次交通のほうである。駅までは新幹線で速く着いても、そこから観光地までの足がなければ、旅行者は動けない。

交通は宿泊・飲食・小売・体験のすべてに先立つ。客がたどり着けなければ、ほかの観光消費は始まらないからだ。だから交通は特定業種の話題ではなく、観光に関わる事業者すべてに横断する基盤である。

この記事で使う主な統計の読み方

交通の数字は、調査ごとに「何を数えているか」が違う。混同を避けるため、本記事で使う主な指標の意味と注意点を先に示す。

用語意味注意点
訪日外客数(JNTO)日本に入国した外国人旅行者の数入国経路の大半は空路。観光目的に限らない
交通費(インバウンド消費動向調査)訪日客が日本滞在中の移動に支出した額日本国内の交通が対象。国際線の航空運賃は含まない
国際線旅客数(航空輸送統計)本邦航空会社の国際線旅客外国航空会社の運航分は含まず、訪日客総数とは別の数字
一次交通/二次交通玄関口までの移動/玄関口から目的地内の移動二次交通は路線バス・タクシー・レンタカー等を含む業界用語

日本の玄関は空、足は鉄道とバス

図1 訪日客の約96%は空路で入国し、国内移動は鉄道・バス・タクシーが担う

訪日客がどこから入ってくるかを見ると、交通の流れがわかる。2025年に日本へ入国した訪日客のうち、約96%は空港から入っている。海路(クルーズ)の訪日旅客は176.7万人で、訪日外客4,268万人の約4%にとどまる(クルーズ旅客を差し引いた残りを空路とみなす単純試算で、176.7万÷4,268万=約4.1%)。空の玄関口が、訪日観光の大動脈である。とはいえ海路も回復しており、2025年のクルーズ船寄港は3,117回とコロナ前2018年のピークを上回った。九州・沖縄と横浜が、海の玄関口の中心だ。

その空路も回復が著しい。本邦航空会社の国際線旅客は2025年に2,292万人(前年比13.3%増)と、コロナ前の2019年水準にほぼ戻った。方面別では台湾を含む「その他アジア」が4割を占め、中国・米大陸がこれに続く(2025年の国際線旅客構成比は、その他アジア約40%・中国約16%・米大陸約16%・太平洋約9%・韓国約9%・欧州約7%・オセアニア約3%の編集部算出)。近距離アジアが量を支え、欧米長距離が単価を支える構図は、航空でも同じだ。

国内に入ったあとの移動は、鉄道とバスが主役になる。国内線航空も2025年に1億1,147万人(前年比4.2%増)と過去最高を更新したが、観光の広域移動は新幹線が背骨を担い、目的地内は路線バス・タクシー・レンタカーが担う。訪日客の広域移動を支える乗り放題パス「ジャパン・レール・パス」は2023年に約7割値上げされ、2026年10月にも再値上げが予定されており、周遊コストは上昇傾向にある。訪日消費に占める交通費は9,465億円(約1割)で、宿泊費・買物代・飲食費に次ぐ第4の費目だ。金額の大きさ以上に、交通は「ほかの消費を生むための前提」として効いている。

図2 訪日消費に占める交通費は10.0%・9,465億円で第4の費目
この図表のデータを見る
費目構成比金額
宿泊費36.6%3兆4,617億円
買物代27.0%2兆5,490億円
飲食費21.9%2兆0,711億円
交通費10.0%9,465億円
娯楽等サービス費4.5%4,218億円

観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年暦年(速報)。その他0.1%は表示省略。

交通は一次と二次の二層で読む

交通を事業判断に使うには、輸送機関ごとの役割を「一次交通」と「二次交通」の二層で読み分けるのが要点だ。

図3 一次交通(航空・新幹線・高速バス・クルーズ)と二次交通(路線バス・タクシー・レンタカー・MaaS)の役割

一次交通は、大量の人を玄関口へ運ぶ層だ。国際線・国内線の航空、新幹線、都市間の高速バス、クルーズが該当する。ここはコロナ前水準への回復が進み、北陸新幹線の敦賀延伸(2024年3月)のように供給そのものが伸びている領域もある。規模が大きく、データも揃いやすい。

二次交通は、玄関口から観光地のなかをきめ細かく運ぶ層だ。路線バス、タクシー、レンタカー、コミュニティバス、観光周遊バスなどが該当する。観光客の満足度と消費がこぼれ落ちるのは、たいていこの二次交通の細さが原因だ。そしてこの層こそ、運転者不足という担い手の制約を強く受けやすい。

この二層を分けて見ると、観光交通の課題が整理しやすい。一次交通は「いかに地方空港・地方港へ国際線・クルーズを呼び込むか」という誘致の問題、二次交通は「いかに駅から先の足を確保し、混雑を平準化するか」という運営の問題だ。以下の主要論点は、この二層のせめぎ合いとして読める。

あわせて読む 訪日客の移動需要や市場の全体像は、こちらで詳しく解説している。

雷門・浅草寺周辺を行き交う観光客でにぎわう情景。訪日インバウンドの象徴的なイメージ インバウンドとは 9.5兆円市場を3つの数字で読む

新幹線は速くても、駅からの足が足りない

観光交通の第一の論点は、一次交通の高速化と二次交通の脆弱さのギャップである。

一次交通は確実に便利になっている。北陸新幹線は2024年3月に金沢〜敦賀間が延伸し、東京〜敦賀が最速3時間8分で結ばれた。新幹線網の延伸は、広域での人の流れを塗り替えている。

ところが、その新幹線駅で降りた先の二次交通が細い。広域移動がどれだけ速くなっても、駅から観光地までの足がなければ、人は目的地にたどり着けない。地方では路線バスの減便・廃止が進み、レンタカーやタクシーも台数・運転者が足りない。ラストワンマイル(最後の数キロ)の弱さが、地方の観光消費を取りこぼす大きな構造的要因のひとつになっている。

ここでのトレードオフは、限られた予算をどちらに投じるかである。新幹線延伸や空港誘致といった「玄関口の強化」は効果が見えやすく合意も得やすいが、それだけでは駅から先が空白のまま残る。むしろ、観光MaaS(複数交通の検索・予約・決済を一体化する仕組み)やデマンド交通など、二次交通への地道な投資のほうが、地方の取り分を増やす有力な選択肢になりうる。国土交通省も観光MaaS推進事業で、周遊促進と混雑緩和を一体で進める取り組みを支援している。

インバウンドは伸びても、運ぶ人が足りない

第二の論点は、需要の拡大と担い手の不足という、最も深刻な矛盾だ。

訪日需要は過去最高を更新し続けている。一方で、観光客を運ぶバス・タクシーの現場は人手不足にあえぐ。背景にあるのが「2024年問題」だ。2024年4月から自動車運送のドライバーの時間外労働の上限が年960時間に制限され、拘束時間・運転時間の規制も強化された。安全と働き方の改善は不可欠だが、同じ車両台数でも長時間運行に頼る運行計画は組みにくくなり、実際に走らせられる便数は抑えられている。

担い手不足は運賃にも表れている。国土交通省は貸切バスの運賃・料金制度を見直し、幅運賃を廃して基準額を「下限額」とし、水準を引き上げた。最低運賃は概ね1〜2割上昇し、運転者の賃金引き上げ原資を確保するねらいだ。運ぶ力が希少になった以上、観光交通は「安く大量に」だけを前提にしにくくなっている。

打開策のひとつが、2024年4月に解禁された日本版ライドシェア(自家用車活用事業)だ。タクシー事業者が運行管理する形で、東京・神奈川・愛知・京都など一部から始まり、対象が広がっている。供給の穴を増車で埋めるのか、ライドシェアで埋めるのか、それともMaaSによる需要平準化で埋めるのか。その選択が、地域ごとに問われている(編集部見解。制度は拡大途上で、効果は地域差が大きい)。

あわせて読む MaaSやデータ活用と、地域での交通維持と合意形成は、それぞれこちらで詳しく解説している。

観光客の足が、住民の足を圧迫する

第三の論点は、観光交通の利便性向上と、地域生活との両立だ。

インバウンドの集中は、交通の現場で軋轢を生む。京都では市バスが観光客で混み合い、通勤・通学・通院に使う住民が乗れない事態が問題化した。京都市は2024年6月、主要観光地のみに停車する、自治体運営では全国初とされる観光客特化型の路線バス「観光特急バス」(大人500円・通常運賃の約2倍)を導入し、観光需要を通常の市バスから切り分けようとしている。

これは観光地共通の課題だ。観光客の移動需要が、住民の生活の足を押しのければ、観光そのものへの地域の支持が失われる。交通は、来訪者と住民が物理的に最もぶつかる現場である。

解決の方向は、需要の「分散・平準化」にある。混雑する時間・路線から需要をずらすパークアンドライド、観光客と生活路線を分ける専用バス、MaaSによる回遊の誘導などだ。ただし、これらは住民の生活路線を守る前提で設計しなければ、対立を深めるだけになる。利便性と地域共生は、どちらかではなく両立させる条件設計が問われている。

事業者タイプ別の打ち手

観光交通の論点は業種を横断する。自社の立場から、まず見るべき数字と最初の打ち手を示す。

  • 宿泊事業者
    まず最寄り駅・空港からの二次交通の有無と所要時間を見る。初手は送迎・シャトルの設計と、周辺交通を含めた着地動線の案内強化。
    関連ガイド:宿泊業の全体像
  • 旅行・ランドオペレーター
    まず広域周遊ルートと、新幹線駅・空港からの接続を見る。初手は二次交通を組み込んだ着地型ツアーの造成と、貸切バスの早期手配。
    関連ガイド:旅行業の全体像観光体験の全体像
  • バス・タクシー事業者
    最大のボトルネックは車両でなく運転者だ。まず稼働率と時間外労働の上限を見る。初手は運賃の適正化(新運賃制度の活用)とライドシェア・MaaSとの連携。
    関連ガイド:観光人材の全体像観光DXの全体像
  • 観光施設・DMO
    まず来訪者の交通手段別の内訳と、駅からの離脱率を見る。初手は二次交通の確保とMaaS連携、混雑期の分散誘導。
    関連ガイド:観光施設の全体像地方創生・DMOの全体像
  • 自治体
    まず生活路線の維持と観光需要の両立を見る。初手はパークアンドライド・観光特急バス等による需要の切り分けと、地域公共交通計画への観光の組み込み。
    関連ガイド:地方創生・DMOの全体像観光政策の全体像

観光交通を整える5ステップ

業種を問わず、観光交通の整備は次の順で進めると迷わない。順番が大切で、現状把握を飛ばして施策に走ると、需要のない路線に投資してしまう。

  1. 来ている客の交通手段を把握する。
    自地域の旅行者が、空路・鉄道・自家用車・ツアーバスのどれで来ているか、玄関口はどこかを押さえる。一次交通の入口と、二次交通の利用実態(どの区間で何に乗っているか)を、宿泊施設のチェックイン情報や観光案内所のデータで掴む。
  2. 「駅から先」の空白を特定する。
    最寄りの空港・港・新幹線駅から主要観光地までの動線をたどり、バスの便数・最終時刻・所要時間・運賃を実際に調べる。ここで「乗り継げない」「夕方以降の便がない」といった切れ目が、取りこぼしの正体として見えてくる。
  3. 二次交通を確保する。
    路線バスの維持・増便だけにこだわらず、デマンド交通(予約制の乗合)、レンタカー、観光周遊バス、宿泊施設の送迎を組み合わせる。需要が薄い区間は定時運行より予約制のほうが持続しやすい。担い手不足を前提に、現実的な供給量で設計する。
  4. MaaSで予約・決済・案内をつなぐ。
    個々の交通がそろっても、検索・予約・決済がばらばらでは外国人旅行者は使いこなせない。観光型MaaSやデジタルフリーパスで移動を一体化し、空いている時間帯・ルートへ需要を誘導して混雑を平準化する。
  5. データで検証し、住民生活と両立させる。
    混雑状況や利用実績を継続的に測り、観光需要が生活路線を圧迫していないかを点検する。観光特急バスやパークアンドライドで需要を切り分けつつ、地域公共交通計画のなかに観光を位置づけ、毎年見直す。

このテーマを深掘りする

本記事で触れた論点は、今後それぞれの専用記事で順次深掘りしていく。

  • 一次交通:空港アクセス ・ 新幹線・JRパス ・ 貸切バス・高速バス
  • 二次交通:日本版ライドシェア ・ 観光型MaaS ・ 二次交通・ラストワンマイル
観光ビジネスの視点

訪日4,268万人という数字は、もはや交通の成功を意味しない。問われているのは、その人波を「どこまで、どれだけ快適に」運べるかだ。新幹線や空港という背骨は強くなった。だが観光の取り分は、駅から先の細い毛細血管で決まる。玄関口の華やかな投資より、二次交通という地味なインフラに投資できる地域こそ、これからの訪日需要を取りこぼしにくい。供給が希少になったいま、交通は単なるコストではなく、観光地の競争力そのものになっている。

よくある質問

観光における「一次交通」と「二次交通」は何が違うのか。

一次交通は空港・港・新幹線駅といった玄関口まで大量に運ぶ移動(航空・新幹線・高速バス・クルーズ)、二次交通は玄関口から観光地のなかをきめ細かく運ぶ移動(路線バス・タクシー・レンタカー等)を指す。旅行者の満足度と地方への消費波及を左右するのは、主に二次交通の充実度だ。

「2024年問題」は観光にどう影響するのか。

2024年4月からバス・タクシー等のドライバーの時間外労働が年960時間に制限され、同じ車両でも運べる量が実質的に減った。貸切バスの手配難・運賃上昇につながり、団体ツアーや二次交通の供給力に影響している。対策として日本版ライドシェアやMaaSによる需要平準化が進む。

インバウンドが伸びているのに、なぜ交通が課題になるのか。

需要は過去最高でも、運ぶ側の担い手(運転者)が不足しているためだ。さらに観光客の移動が住民の生活路線を圧迫する混雑問題も各地で起きている。交通は「需要を増やす」より「限られた供給を、住民と両立しながらどう配分するか」が問われる局面に入っている。

<出典>

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