旅館業法の全体像 許可・3種別・罰則の基本

Photo: Susann Schuster / Unsplash
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旅館業法は、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業のルールを定めた法律だ。ホテルも旅館もゲストハウスも、この一本の法律のもとで営業している。営業には都道府県知事などの許可が要り、施設は面積や衛生の基準を満たさなければならない。

この法律は近年、二度にわたって大きく変わった。2018年の改正で「ホテル営業」と「旅館営業」が「旅館・ホテル営業」に統合され、無許可営業への罰則も引き上げられた。

2023年の改正では、宿泊拒否事由のうち「特定感染症の患者等」の明確化や、カスタマーハラスメントへの対応が定められた。本記事では、旅館業法の対象・種別・要件・手続き・罰則と、直近の改正までを行政の一次情報にもとづいて整理する。

この記事のポイント

  • 旅館業は宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、都道府県知事等の許可がいる。
  • 営業種別は旅館・ホテル営業/簡易宿所営業/下宿営業の3つに分かれる。
  • 2018年改正で種別が統合され、無許可営業の罰金上限は3万円から100万円に上がった。
  • 2023年改正で宿泊拒否事由を「特定感染症の患者等」に明確化し、カスハラ対応と名簿への連絡先追加が入った。
  • 許可のほか実務では消防・建築など他法令の確認も要り、住宅宿泊事業(民泊)とは別枠だ。
目次

旅館業法とはどんな法律か

旅館業の3営業種別と住宅宿泊事業(民泊)の位置マップ。許認可・面積基準・玄関帳場・営業日数制限の有無を整理

旅館業法は、1948年に制定された法律だ(昭和23年法律第138号)。所管は厚生労働省で、公衆衛生の観点から宿泊営業を規律している。法律の目的は、旅館業の適正な運営を確保して健全な発達を図り、公衆衛生と国民生活の向上に寄与することだと第1条に定められている。

法律が定める「旅館業」とは、施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいう。ここでの「宿泊」は寝具を使って施設を利用すること、「営業」は社会性をもって継続反復されることを指す。つまり、寝具を備えた施設に、料金を取って、繰り返し人を泊める行為が旅館業にあたる。

旅館業は都道府県知事(保健所を設置する市の市長・特別区の区長)の許可を受けなければ営めない(第3条)。営業種別は、①旅館・ホテル営業、②簡易宿所営業、③下宿営業の3つに分かれる。

旅館業許可施設数の推移(2009→2025年3月末)。簡易宿所が増え旅館・ホテルは横ばい、全体98,338施設
この図表のデータを見る
年(3月末)旅館・ホテル営業簡易宿所営業
2009年58,65423,429
2019年51,00437,308
2024年(令和5年度末)51,03841,909
2025年(令和6年度末)52,94644,901

衛生行政報告例。旅館業許可施設全体は2025年3月末(令和6年度末)で9万8,338施設。

施設の数を見ておく。2025年3月末(令和6年度末)時点の営業許可施設は9万8,338施設で、前年度から4,863施設(5.2%)増えた。主な内訳は、旅館・ホテル営業が5万2,946、簡易宿所営業が4万4,901で、残りは下宿営業(491施設)だ。

長期でみると、旅館・ホテル営業は2009年度の約5万9,000施設から減って近年はほぼ横ばい、簡易宿所営業は同じ2009年度の約2万3,000施設から4万5,000施設近くへと増えてきた。旅館・ホテルが減って簡易宿所が増えるのが、旅館業のこの十数年の構図だ。

誰が対象になるのか

旅館業法の対象は、寝具を備えた施設で料金を取り、継続反復して人を宿泊させる営業だ。ホテル・旅館・ゲストハウス・カプセルホテル・民宿など、名称にかかわらずこの要件にあてはまれば旅館業として許可が要る。

区別が問題になりやすいのが住宅宿泊事業(民泊)との関係だ。住宅宿泊事業は、営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業で、年間の提供日数が180日以内に制限されている。

180日を超えて恒常的に営業したい場合は、旅館業(簡易宿所営業など)の許可を取るか、特区民泊の枠組みによることになる。同じ「人を泊める」でも、年180日以内の民泊と、恒常営業の旅館業は別の制度だ。

宿泊者を受け入れる営業者には、法律上いくつかの共通義務がある。代表的なのが宿泊拒否の制限と宿泊者名簿だ。

営業者は、法律に列挙された事由を除き、原則として宿泊を拒めない(第5条)。また、宿泊者名簿を備え付け、正確な記載を確保する措置を講じたうえで作成し、一定期間保存しなければならない(第6条・施行規則で3年間)。

営業種別ごとの要件・基準

項目旅館・ホテル営業簡易宿所営業下宿営業住宅宿泊事業(民泊)
許認可許可(第3条)許可(第3条)許可(第3条)届出
客室・面積の基準1客室7㎡以上(寝台設置は9㎡以上)延床33㎡以上(10人未満は3.3㎡×宿泊者数)面積の特段の定めなし住宅で実施(旅館業の面積基準は適用外)
玄関帳場設置が想定(代替設備でも可)不要不要不要
営業日数の上限なしなしなし年180日以内

(注:旅館業法・同施行令にもとづく国の基準。自治体の上乗せ条例で基準が加わる場合があり、特定の数値は所管の保健所に確認したい。)

3つの営業種別は、想定する施設の形態によって基準が異なる。

旅館・ホテル営業は、施設を設けて宿泊料を受け人を宿泊させる営業のうち、簡易宿所営業・下宿営業以外のものをいう。客室の床面積は1客室7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上)と定められている。フロントにあたる玄関帳場は設置が想定されるが、後述する代替設備でも足りる。

簡易宿所営業は、宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を主とする施設の営業だ。ゲストハウスやカプセルホテル、山小屋などが該当することが多い。ただし分類は名称ではなく、実際の構造・設備によって判断される。客室の延床面積は33㎡以上(宿泊者を10人未満とする場合は3.3㎡×宿泊者数以上)で、玄関帳場は不要だ。

あわせて読む 玄関帳場が不要になる簡易宿所の詳しい基準は別記事で解説している。

簡易宿所はなぜ増えるのか 16年で約2倍

下宿営業は、施設を設け、1か月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業をいう。

いずれの種別でも、公衆衛生の観点から換気・採光・照明・防湿・排水などの構造設備基準を満たす必要がある。さらに、これらの細目は都道府県(保健所設置市・特別区)の条例で上乗せされることがあり、自治体によって差がある。

許可申請から営業開始までの手続き

許可申請から営業開始までの流れ。保健所への事前相談→消防・建築の適合確認→申請→検査→許可→営業開始

旅館業の許可は、施設ごとに、営業を始める前に受ける必要がある。おおまかな流れは次のとおりだ。

まず、施設の所在地を管轄する保健所への事前相談から始める。構造設備の基準や必要書類は自治体ごとに違うため、計画段階で相談しておくと手戻りが少ない。並行して、消防法・建築基準法など他法令への適合を確認する。用途地域の制限や用途変更の要否は、この段階で押さえておく必要がある。

次に、必要書類をそろえて許可申請を行う。申請後は保健所による施設の検査があり、構造設備が基準を満たしていることが確認されると許可が下りる。許可を受けて初めて営業を開始できる。許可は営業開始の前提であり、無許可での営業は後述の罰則対象になる。

なお、具体的な申請書類・手数料・審査期間は自治体によって異なる。実際の手続きは、必ず管轄の保健所・自治体の案内を確認してほしい。

罰則と行政処分

無許可での営業や、法律に基づく命令への違反には罰則がある。無許可営業等の罰金の上限は100万円で、その他の違反は50万円が上限だ。この金額は後述の2018年改正で大きく引き上げられたものだ。

許可を受けた営業者に対しても、行政は監督の手段をもつ。保健所は営業者に対して報告徴収・立入検査を行うことができ(第7条)、基準に適合しない場合には改善命令(第7条の2)を出せる。

法令違反や基準不適合などがある場合には、営業許可の取消しや営業停止(第8条・停止は最長1年)もあり得る。許可は取ったら終わりではなく、基準を満たし続けることが営業継続の条件になる。

さらに2018年改正では、無許可営業者に対しても報告徴収・立入検査・緊急命令ができるしくみが新設され、暴力団排除の欠格要件も加えられた。

2018年・2023年の改正で何が変わったか

旅館業法は近年、二度の大きな改正を経ている。

2018(平成30)年6月15日施行の改正は、営業種別の統合と規制強化が柱だった。それまで別々だった「ホテル営業」と「旅館営業」を「旅館・ホテル営業」に一本化し、両者で異なっていた構造設備基準を緩和した(規制緩和)。

同時に、無許可営業への罰金上限を3万円から100万円へ、その他違反を2万円から50万円へと大幅に引き上げた。この改正は、住宅宿泊事業法(民泊新法)と同じ2018年6月15日に施行されている。民泊の広がりを背景に、正規の許可を取りやすくする規制緩和と、無許可営業への罰則強化が同時に進んだかたちだ。

あわせて施行令も改正され、最低客室数など一部の構造設備要件が見直された。玄関帳場についても、設置に代えて代替設備で足りることになった。

代替設備の要件は、①事故等の緊急時に迅速な対応ができること、②宿泊者名簿の正確な記載・鍵の受け渡し・宿泊者以外の出入りの確認ができること、の2点だ。一定の代替設備により、従来型の玄関帳場を置かない運営も可能になった。

ただし、緊急時対応や本人確認・鍵の受け渡しなどの機能は満たす必要がある。これは無人・省人化を検討する事業者にも関わる制度改正の一つだろう。

2023(令和5)年12月13日施行の改正は、宿泊の現場で起きる問題への対応が中心だった。コロナ禍での宿泊拒否をめぐる議論や、従業員へのカスタマーハラスメントへの関心の高まりが背景にある。主な変更は大きく三つだ。

一つは、宿泊拒否事由の明確化だ。宿泊を拒める事由の一つを、「伝染性の疾病」から「特定感染症の患者等」へと明確化した。

二つ目は、カスタマーハラスメントへの対応だ。社会通念上相当な範囲を超える要求を反復・継続するなど、一定の要件を満たす場合には宿泊を拒否できるようになった。ただし、営業者が恣意的に宿泊を拒めない原則は変わっていない。

三つ目は、宿泊者名簿と研修に関する見直しだ。名簿の法定記載事項に「連絡先」が追加され、「職業」の記載義務が撤廃された。あわせて、感染防止や特に配慮を要する宿泊者への対応について、従業者への研修が努力義務となった。

観光ビジネスの視点

旅館業法の近年の改正は、宿泊事業の参入・運営に関する規制緩和と規制強化が併存している。2018年の種別統合と玄関帳場の代替設備容認により、フロント常駐を前提としない運営を検討しやすくなった面がある。人員配置や運営コストにも関わる変化で、開業時の運営設計に影響し得る。

一方で、無許可営業への罰金上限を3万円から100万円へと引き上げた事実は見落とせない。規制緩和と規制強化が同居しているのが近年の旅館業法で、事業者に問われるのは「どの枠組みで営むか」を最初に正しく選ぶことだ。

民泊で始めるのか、簡易宿所の許可を取るのか、旅館・ホテル営業に踏み込むのか――その選択が、営業日数の上限、必要な設備、負う義務を大きく左右する。

よくある質問

旅館業法の「旅館業」とは何か。

施設を設け、宿泊料を受けて、継続反復して人を宿泊させる営業をいう。寝具を使って施設を利用させることが「宿泊」にあたる。ホテル・旅館・ゲストハウスなど名称は問わず、この要件にあてはまれば旅館業として都道府県知事等の許可が要る。

営業種別にはどんな違いがあるのか。

旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3つがある。旅館・ホテル営業は1客室7㎡以上(寝台設置は9㎡以上)、簡易宿所営業は多数人での共用を主とする施設で延床33㎡以上(10人未満なら3.3㎡×人数以上)、下宿営業は1か月以上を単位とする宿泊料を受ける営業だ。

民泊とは何が違うのか。

住宅宿泊事業(民泊)は年間180日以内という提供日数の上限があり、旅館業とは別の制度だ。180日を超えて恒常的に営業したい場合は、旅館業(簡易宿所営業など)の許可を取るか、特区民泊によることになる。

無許可で営業するとどうなるのか。

無許可営業等は罰則の対象で、罰金の上限は100万円だ。2018年改正で3万円から引き上げられた。無許可営業者に対しても報告徴収・立入検査・緊急命令ができるしくみが設けられている。

2023年の改正で何が変わったのか。

宿泊拒否事由の一つを「特定感染症の患者等」として明確化し、一定要件を満たすカスタマーハラスメントへの宿泊拒否を可能にした。あわせて宿泊者名簿の法定記載事項に連絡先を追加して職業の記載義務を外し、従業者研修を努力義務化した。

許可を取るにはどこに相談すればよいか。

施設の所在地を管轄する保健所が窓口だ。構造設備の基準や必要書類は自治体ごとに違うため、計画段階での事前相談が実務上の出発点になる。あわせて消防法・建築基準法など他法令への適合も確認する必要がある。

<出典>

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