ホテルの組織図は、会社や施設によってかなりちがう。同じ「ホテル」でも、規模や業態、運営方針によって、部門の数も呼び名も、指揮命令の線もそろっていない。それでも大枠は共通していて、たいていは宿泊・料飲・管理といった「部門」に分かれ、その頂点に総支配人(GM)が立つ。
見落とされがちなのは、この部門の切り方が、単なる仕事の分担ではないという点だ。ホテルの部門は、GM以下の職制であると同時に、損益を管理する会計上の区分ともつながっている。どの部門がいくら稼ぎ、いくら使ったかを部門ごとに把握する。その損益管理の考え方と、組織の形はつながっている。本記事では、ホテルの部門構成と職制を整理したうえで、それが「稼ぎ方」とどうつながるのかまで見ていく。
この記事のポイント
- ホテルの組織は宿泊・料飲・宴会・営業・管理などの部門に分かれ、頂点に総支配人が立つ。
- 組織図に決まった正解はなく、規模や業態、チェーンの方針によって部門の数も呼び名も変わる。
- 部門はホテル会計の標準USALIの管理単位ともつながり、人件費や原価は発生した部門にひもづく。
- 宿泊業は労働生産性が全産業平均を下回り、人手不足を背景に組織や人員配置の見直しが課題になっている。
ホテルの組織とは何か

ホテルの組織とは、1つのホテルを動かすための部門と職制の構成を指す。会社全体の組織(本社と各ホテルの関係など)ではなく、ここでは1つの施設のなかの部門分けと役職の話に絞る。
フルサービスのホテルでは、大きく5つの部門で語られることが多い。客室まわりを担う宿泊部門(フロント・客室・予約・ベル)、レストランやバー・調理を担う料飲部門、宴会・婚礼・催事を担う宴会(バンケット)部門、販売促進や広報を担う営業・マーケティング部門、そして人事・経理・総務・施設管理を担う管理部門だ。宴会・婚礼は料飲部門に含める施設もあれば、宴会部門として独立させる施設もあり、線の引き方は施設によって変わる。
ここで先に押さえておきたいのは、ホテルの組織図に「唯一の正解」はないという点だ。規模、業態(宿泊特化型かフルサービスか)、チェーンの方針によって、部門の数も呼び名も指揮命令の線も変わる。同じ図が2つとして存在しない、と言われるほどだ。だからこそ、理解すべきなのは個々の組織図ではなく、「なぜ部門で分けるのか」という考え方のほうになる。
職制 総支配人から現場まで
部門を束ねる縦の系列が職制だ。頂点に立つのが総支配人(GM=General Manager)で、ホテル1館の運営責任者にあたる。経営方針や予算の策定、各部門の統括を担い、そのホテルの数字に最終的な責任を負う。
規模の大きいホテルでは、GMの下に、それを補佐する副総支配人(アシスタントGM)が置かれ、日々のオペレーション管理や部門間の調整を担う。ただしこの役職は必ずあるわけではなく、中小規模やビジネスホテルではGMが直接各部門を統括し、置かないことも多い。その下に、宿泊・料飲などの各部門支配人(部門長・マネージャー)が配置され、現場のスタッフを率いる。
紛らわしいのが「支配人」と「総支配人」の違いだ。総支配人はホテル1館の最高責任者を指すのに対し、「支配人」は特定の部門や領域の責任者を指すことが多い。ただし呼称はホテルによって幅があり、肩書きだけで役割の範囲を判断はできない。
組織論の言葉で言えば、宿泊や料飲のように直接売上を生む部門が「ライン部門」、人事や経理のようにそれを支える部門が「スタッフ部門」にあたる。この区別はホテルに限らないが、ホテルでは宿泊・料飲がライン、管理がスタッフという対応になる。
部門は「会計の単位」でもある

ホテルの部門を語るうえで欠かせないのが、会計とのつながりだ。ホテル業界にはUSALI(Uniform System of Accounts for the Lodging Industry)という、損益を部門別に整理するための標準的な枠組みが広く使われている。これは会計基準(GAAPやIFRS)そのものではなく、宿泊業向けに損益の見せ方をそろえた業界共通の様式だ。
USALIでは、収益と費用が直接ひもづく「営業部門(Operated Departments)」を、宿泊(Rooms)・料飲(Food & Beverage)・その他(Other Operated)に分ける。いっぽう、特定の部門に配分しにくい全館共通の費用――管理一般、販売・マーケティング、IT、施設保守、水道光熱費など――は「非配賦営業費用(Undistributed Operating Expenses)」としてまとめる。
この建て付けのポイントは、組織の部門と会計上の区分が、多くの部分で対応していることだ。人件費や原価は、原則として発生した部門にひもづけて管理される。フロントの人件費は宿泊部門、料理人の人件費と食材費は料飲部門、という具合だ。ただし、組織図の「管理部門」とUSALIの非配賦費用(管理一般・IT・施設保守など)は必ずしも一対一で一致するわけではない。各営業部門でまず「部門利益」を出し、そこから全館共通費を引いて、ホテル全体の営業総利益(GOP)にたどり着く。組織図は、この「部門ごとに稼ぎとコストを見る」という考え方と、深くつながっている。
そのため、部門ごとの収益の質はおのずと違ってくる。一般的な傾向として、宿泊部門は原価や人件費が相対的に小さく利益率が高い。いっぽう料飲部門は食材原価と調理の人件費が重く、利益率は低めになりやすい。宿泊主体のホテルと料飲主体のホテルとで組織の重心が変わるのは、この収益構造のちがいが背景にある。
あわせて読む 部門ごとの原価と利益の構造は、収益構造の解説記事でくわしく扱っている。
ホテルの利益はどこで生まれるか 原価と収益構造の基本
外資系と日系のちがい
同じ部門構成でも、運用の思想にちがいがあると語られることがある。運営受託型の外資系ホテルでは部門別の損益責任(P&L)を明確にする色が濃く、日系は現場一体の運用が強い、といった対比だ。
ただしこれは俗に言われる傾向にすぎず、根拠のある区分ではない。日系でも部門別採算を厳格に見るホテルはあるし、外資系ブランドを日本の運営会社が動かす例も一般的だ。「外資だからこう」と決めつけるより、そのホテルがどの単位で損益を管理しているかを見るほうが、組織の実態に近い。
なぜ今、組織が問われるのか
ホテルの組織が経営課題として語られる背景には、宿泊業の生産性の低さがある。観光庁の令和5年版観光白書によると、従事者1人当たりの付加価値額(2019年)は、全産業の806万円に対し、宿泊業は534万円にとどまる。労働集約的な宿泊業では、限られた人手をどの部門にどう配置するかが、そのまま生産性に直結する。
雇用の構造にも特徴がある。同白書によれば、宿泊業の雇用は非正規の比率が高く(2022年で54%、全産業は37%)、繁忙期と閑散期で必要な人員が大きく動く「波動性」を抱える。年間賃金も宿泊業は346万円と、全産業の497万円を下回る(いずれも2022年)。
こうした事情から、政府は「省力化投資促進プラン ―宿泊業―」(2025年〈令和7年〉6月、観光庁・厚生労働省)を公表し、フロントや清掃・調理に加え、総務・経理といった事務系の業務まで含めて省力化を後押ししている。1人が複数部門を兼ねる「マルチタスク化」で少人数運営に振るホテルもあり、伝統的な部門縦割りが唯一の答えではなくなりつつある。
ホテルの組織図は、単なる人の配置図ではない。組織の配置――どの部門に人と資源を厚く割いているか――を読めば、そのホテルがどこで稼ごうとしているかが見えてくる。宿泊部門が厚ければ客室で稼ぐ設計、料飲・宴会が大きければそちらで稼ぐ設計、という具合だ。だからこそ、人手不足で組織を組み替える局面は、単なるコスト削減ではなく「どこで稼ぐのを守るか」を選び直す作業になる。組織図を人員表としてだけ見るか、稼ぐ力の設計図として読むか。その違いが、これからの宿泊経営で効いてくる。ただし、組織図だけで収益力が決まるわけではなく、部門別の損益や外注の使い方とあわせて見る必要がある。
よくある質問
<出典>
- 観光庁「令和5年版観光白書 概要版(従事者一人当たり付加価値額・宿泊業の雇用と賃金)」
- 観光庁・厚生労働省「省力化投資促進プラン ―宿泊業―(2025年〈令和7年〉6月13日策定/内閣官房ウェブサイト掲載)」
- 「USALI 12th Revised Edition, Deep Dive: Energy, Water, and Waste」(HFTP)


