民泊ビジネスの稼ぎ方と「180日の壁」

Photo: Jakub Żerdzicki / Unsplash
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民泊はいま、旅行者の受け皿として無視できない規模になっている。プラットフォーム大手Airbnbの活動だけで2024年に日本のGDPへ7,700億円寄与し、そのゲストの7割は海外からの旅行者だ。住宅を宿泊に使うこのビジネスを全国で使える制度の一つが、届出制の「民泊新法」(住宅宿泊事業法)だ。

ただし、この制度で営む民泊には年間180日という営業日数の天井がある。この上限が、収益構造と事業のたたみ方・伸ばし方を大きく左右する。

本記事は、民泊を「制度」ではなく「ビジネス」として読み解く。市場の実像、誰がどう稼いでいるか、180日の壁とその越え方、参入の実務までを解説する。

この記事のポイント

  • Airbnbの活動は2024年に日本のGDPへ7,700億円寄与し、そのゲストの7割が海外からの旅行者だ。
  • 民泊の実務は予約・清掃・ゲスト対応など多岐にわたり、運営代行に委ねられることが多い。
  • 民泊新法の営業は年180日が上限で、これが収益の天井になり業態転換の動機にもなる。
  • 参入では物件・立地・管理規約・他法令の4点を先に固めるのが手戻りの少ない順番だ。
  • 制度としては届出制・住宅要件・3プレイヤー・自治体条例の確認が要点になる。
目次

7,700億円が動く民泊の現在地

民泊3制度(旅館業法の簡易宿所/民泊新法/特区民泊)の違いを整理した比較マップ(概念図)

まず市場の大きさを押さえておく。プラットフォーム大手Airbnbの公式発表によると、同社の活動は2024年に日本のGDPへ7,700億円寄与した。これは日本の旅行・観光GDPの1.6%にあたる。雇用は8万7,800人、賃金は1,400億円を支えたという(オックスフォード・エコノミクスがAirbnbの委託で試算)。

この数字が示すのは、少なくともAirbnbの活動を見る限り、民泊関連の利用が観光消費に一定の規模を持つということだ。Airbnbのゲストは7割が海外からの旅行者で、同社の利用ではインバウンド色が強い。観光庁の民泊新法統計でも、直近報告では宿泊者の外国人比率は63.7%となっている。Airbnbの平均滞在は3日、宿泊費以外にも1日あたり平均2万6,000円を使うとされ、周辺の飲食・小売にも波及する。

制度の側から見ると、住宅宿泊事業として全国で使える制度の一つが届出制の民泊新法だ。観光庁「施行状況」によると、2026年3月13日時点の届出は累計6万1,605件、うち事業廃止を除いた有効な届出住宅は3万9,575件だ。施行直後(2018年6月)の2,210件と比べれば、届出は大きく増えている。

日本政策投資銀行(DBJ)も、都市型民泊に着目したレポートで、建築費・地価の高騰や人手不足でホテル供給に陰りが生じうるなか、都市部の既存住宅ストックを活かす民泊が宿泊供給を補う可能性に着目している。

稼ぐのは誰か──事業モデルの中身

民泊ビジネスの担い手は、大きく分けて「自分で貸す個人ホスト」と「事業として複数室を回す事業者」がいる。後者を支えているのが運営代行だ。

民泊の運営には、予約サイトの掲載・価格調整・多言語のゲスト対応・清掃手配・チェックイン・宿泊者名簿の作成といった細かな実務が絶えず発生する。これを専門にこなすのが運営代行会社だ。運営代行を使えば、オーナーの実務負担は下げられる。ただし物件の要件・届出・管理規約・他法令の確認まで代行に委ねきれるわけではなく、これらはオーナー側にも残る。

事業モデルの収益は、単純化すれば「客室単価(ADR)×稼働率×稼働日数」で決まる。運営代行はこのうち単価と稼働率の改善を、価格調整とOTA集客の技術で狙う。ただし、民泊新法の物件には稼働日数の側に180日という天井がある。次の節で、この壁が収益にどう効くかを見る。

なぜ「民泊だけでは厳しい」のか

民泊新法の最大の制約は、年間180日という営業日数の上限だ。1年の半分しか泊められないため、単価×稼働率が高くても、稼働日数が頭打ちになる。

一部の運営代行会社は、この壁への対応策として、マンスリー賃貸との併用を打ち出している。民泊は180日で止まるが、残りの期間をマンスリー賃貸などで埋めれば、1室の月商は大きく変わりうる。

180日の壁は、事業のたたみ方にも表れる。観光庁の施行状況では、これまでの届出6万1,605件に対して事業廃止が2万2,030件にのぼる。

廃止の理由はさまざまだが、そのなかには、180日の上限がない旅館業(簡易宿所など)や特区民泊への転用も含まれるとされる。ただし廃止理由の内訳割合は、最新の統計で確認が必要だ。

民泊新法は単体で完結する事業というより、宿泊ビジネスに参入するときの選択肢になりやすい制度だといえる。その先の選択肢として、簡易宿所の許可取得や、対象区域であれば特区民泊への移行がある。

あわせて読む 民泊新法のその先の選択肢として、簡易宿所の許可取得や特区民泊への移行も検討の余地がある。

届出より先につまずく落とし穴

民泊の届出から営業開始までのステップを示した概念図

民泊を始めるとき、制度の要件よりも先につまずきやすいのが、物件と立地の条件だ。参入前に確認したい落とし穴を挙げておく。

第一に、自治体条例の上乗せだ。民泊新法は全国共通だが、多くの自治体が条例で区域・期間の制限を上乗せしている。住居専用地域では平日の営業を制限し週末に絞る、といった制限もあり、想定した180日をフルに使えないことがある。収益計画を左右するため、物件所在地の例規は着手前に確認したい。

第二に、マンションの管理規約だ。分譲マンションでは規約で民泊が禁止されている場合がある。物件を押さえてから発覚すると計画が崩れるため、規約は早めに確認したい。

第三に、他法令の適合だ。民泊新法の要件を満たすだけでは届出は完結しない。消防署に事前相談し、消防用設備が宿泊施設として適合していることを示す「消防法令適合通知書」を得ること、建物によっては建築基準法上の手続きが要る。これらには一定の期間がかかる。

手続き自体は、観光庁の民泊制度運営システムからオンラインで届け出られる。家主不在型なら、届出の前に住宅宿泊管理業者との委託契約が必要だ。物件・立地・規約・他法令の4点を先に固めてから届出に進むのが、手戻りの少ない順番だ。

民泊新法のしくみ

ビジネスの土台になる民泊新法のしくみを、ここで改めてまとめておく。

住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)は2018年6月15日に施行された。所管は観光庁・国土交通省・厚生労働省だ。旅館業法が「許可」制なのに対し、民泊新法は届出制で、都道府県知事等へ届け出れば営める。営業日数は前述のとおり年180日が上限になる。

「住宅」と認められるには、台所・浴室・便所・洗面設備の4点(設備要件)と、現に生活の本拠として使われているなどの居住要件を満たす必要がある。事業者は家主が同じ建物に住む家主居住型と、住まない家主不在型に分かれ、不在型は原則として住宅宿泊管理業者への委託が要る。

関係者は主に3区分だ。住宅宿泊事業者は届出制で届出先は都道府県知事等、住宅宿泊管理業者は登録制で登録先は国土交通大臣、住宅宿泊仲介業者は登録制で登録先は観光庁長官となる。宿泊契約の代理・媒介を外部に委託する場合は、住宅宿泊仲介業者または旅行業者に委託しなければならない。

罰則もある。たとえば、無登録で住宅宿泊管理業を営んだ者、不正の手段で住宅宿泊管理業・住宅宿泊仲介業の登録を受けた者、名義貸しをした者などは、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金等の対象になる。住宅宿泊事業者の虚偽届出や業務停止命令・廃止命令違反は、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金等の対象になる。なお、届出をせずに有償で反復継続して宿泊サービスを提供する場合は、住宅宿泊事業法上の届出民泊ではなく、旅館業法上の無許可営業の問題になる。

あわせて読む 無許可営業となる境界線や許可種別の違いは旅館業法の解説記事で詳しく扱う。

旅館業法の全体像 許可・3種別・罰則の基本

空き家を宿に 地方での可能性

都市のインバウンド受け皿という顔の一方で、民泊は地方で別の役割を担い始めている。全国で800万戸を超えるとされる空き家を、宿泊の場に変える動きだ。

Airbnbは、新潟県佐渡市、北海道釧路市、長野県飯田市などの自治体・地域団体と連携協定を結び、空き家活用や交流型観光、関係人口づくりに取り組んできた。同社の発表によると、2024年上半期には、Airbnbを通じて1,270以上の市町村で宿泊施設が新たに提供されるようになった。2025年10月にはJTBと「地域未来にぎわい工房」を立ち上げ、2028年までに全国125地域での展開を目指すとした。先行事例の北海道上ノ国町では、住民や高校生が参加するDIYやワークショップを通じて空き家2軒を宿泊施設に転換し、将来的には町全体で30〜40軒への拡大を目指している。

狙いは宿を増やすことだけではない。ホストが地元の店や見どころを客に伝えることで周辺の消費が生まれ、民泊は移住や関係人口の入り口にもなりうる。年180日という上限も、地方で「空き家を手放さず、本業を宿に縛られずに活かす」使い方とはむしろ相性がよい。

伸びる民泊、絞られる特区民泊

民泊ビジネスは、追い風と逆風の両方を受けている。

追い風は、インバウンドの拡大とホテル供給の制約だ。訪日需要が伸び、建築費・地価・人手不足で新規ホテルが建ちにくいなか、既存住宅を活かす民泊の相対的な意義は高まっている。DBJが都市型民泊に着目したのも、この文脈だ。

逆風は、規制と近隣対応だ。騒音・ごみは民泊の制度設計上も重要な論点で、自治体が条例で区域・期間の制限を設ける例もある。民泊で伸びるかどうかは、立地の集客力だけでなく、近隣と折り合いながら運営を続けられるかにかかっている。

同じ「民泊」でも、2つの制度は足元で逆の方向へ動いている。全国で使える届出制の民泊新法は、2026年3月時点で届出が累計6万件を超え、増加基調が続く。一方、指定区域に限られる認定制の特区民泊は、最大の集積地だった大阪で局面が変わった。苦情の急増を背景に、大阪市は新規の認定申請の受付を2026年5月末で終了し、大阪府内でも多くの地域が新規の受け付けを止めた。

新規参入という一点で見れば、民泊新法は門戸を開いたまま件数を伸ばし、特区民泊は最大の受け皿だった大阪で門戸を狭めている。同じ「民泊」でも、これから始めやすい制度とそうでない制度に分かれつつあるのが、足元の状況だろう。特区民泊の詳しい経緯は前述の記事で扱っている。

観光ビジネスの視点

民泊新法の設計は、参入を届出制で軽くしつつ、180日という天井で歯止めをかけたものだ。だからこの制度は、単体で稼ぎ切る事業というより、宿泊ビジネスの「入口」として機能しやすい。届出が増える一方で旅館業や特区民泊への転用もあるとされるが、その内訳や届出増との関係は、別途の確認が要る。

事業として見れば、勝負どころは180日をどう扱うかにある。半分しか泊められない前提で、残りの期間をマンスリー併用で埋めるか、旅館業許可や特区民泊など上限のない業態を目指すかを、早い段階で比較しておきたい。

参入するなら、180日で何がどこまで見えるのかを先に描くことだ。立地の集客力、清掃・運営の回し方、近隣との折り合いを、上限のある期間で小さく確かめ、次の一手につなげる。180日を前提に立地や運営体制を小さく検証する場として捉えるのも一つだろう。

よくある質問

民泊ビジネスは儲かるのか。

立地・単価・稼働率しだいで、単純な答えはない。ただし民泊新法の物件には年180日の上限があり、稼働日数が頭打ちになる。単価と稼働だけでなく、180日をどう埋めるかが収益を左右する。

自分で運営する必要があるのか。

家主不在型では、住宅宿泊管理業者への委託が原則として必要になる。加えて、予約サイトの掲載・価格調整・ゲスト対応・清掃・名簿作成などを運営代行に任せるケースも多い。オーナーは物件を用意して委託する形が中心だ。

180日を超えて営業したい場合はどうするのか。

民泊新法の範囲を超えるため、旅館業法の許可(簡易宿所など)を取るか、対象区域であれば特区民泊の認定によることになる。これらは営業日数の上限がない。ただし特区民泊は、最大の集積地である大阪市をはじめ多くの実施地域で新規受付を終了しているため、エリアの確認や、旅館業への切り替えといった出口の検討が必要だ。

マンションでも民泊はできるのか。

分譲マンションでは管理規約で民泊が禁止されている場合がある。また自治体の条例で区域・期間の制限がある場合もある。管理規約と自治体の例規の両方を、物件を決める前に確認したい。

始めるには何から手をつければよいか。

物件・立地・管理規約・他法令(消防・建築)の4点を先に固め、そのうえで観光庁の民泊制度運営システムから届け出るのが手戻りの少ない順番だ。家主不在型なら届出前に管理委託契約が要る。自治体窓口と所管消防署への早めの相談が出発点になる。

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