イマーシブ体験の稼ぎ方 定員が決める没入型エンタメの収益構造

曲面の壁一面にピンクと緑の映像が投影された大空間で、中央の円形ステージに2人が座っている
Photo: Alex Shuper / Unsplash
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イマーシブという言葉が、施設の開業発表にも、地域の観光コンテンツ造成にも出てくるようになった。没入型、体験型、参加型と訳語も一定しない。

定義を探しても、たどり着かない。公的に定まった定義は見当たらず、産業分類にも専用の区分はない。 あるのは英語の語義と、事業者が自分の商品につけた名前の束である。

だから業態としてのイマーシブは、言葉より先に数字で見たほうが早い。2026年2月、東京・お台場の「イマーシブ・フォート東京」が開業からおよそ2年で営業を終えた。営業終了が発表されたあと、人気の演目には駆け込みの客が殺到した。それでも施設は営業を終えた。同じ東京で、別のイマーシブ施設は移転から約2年5か月で来館者400万人を超えている。

本記事では、この言葉が何を指しているのかを整理したうえで、その事業がどこで採算に届き、どこで届かないのかを、公表されている定員と料金からたどる。

この記事のポイント

  • イマーシブに公的に定まった定義は見当たらない。日本標準産業分類にも専用の区分はなく、施設は演目の形態に応じて劇場・興行場・テーマパークなどに分かれて分類されうる。
  • 本記事は、演者が観客につく型、謎解き・脱出の型、常設のアート型の三つに分けて見る。客数の上限を何が決めるかが違うためで、業界の公式な分類ではない。
  • 1回あたりの売上の上限は単価ではなく「単価×定員」で決まる。最高単価の演目より、単価が3分の1以下でも定員が約4倍ある演目のほうが上限は大きく、単価の順位と稼げる額の順位は一致しない。
  • イマーシブ・フォート東京は2026年2月28日に営業を終えた。運営会社は「ディープな体験に需要が強く偏る」ことがわかり「施設規模が過大」と判断したと説明している。人気演目の完売が報じられたのは営業終了の発表後である。
  • チームラボボーダレスは移転から約2年5か月で400万人を超え、来館者の約70%が訪日外国人だった(自社のチケット購入者データによる)。
目次

イマーシブ体験とは何か

イマーシブは英語の immersive をそのまま持ち込んだ語である。米メリアム・ウェブスター英英辞典は「何か(活動、あるいは現実の環境や人工の環境)に深く没頭ないし没入することを与える、それを伴う、それを特徴とする」と説明する。immersion(浸すこと)から派生した形容詞で、初出は1929年とされる(注:定義の訳は編集部による)。

つまり語そのものは、観客が何かに深く入り込んでいる状態を指しているだけだ。何をすればイマーシブなのかは、語からは出てこない。

日本での用法を一次資料でたどると、事業者が自分の言葉で説明している。イマーシブ・フォート東京を運営した株式会社刀は、開業を発表したリリースで、イマーシブ体験を「現実かのように当事者として世界や事件にのめり込んでしまう完全没入体験」と書いた。あわせて、その中心に置いたのは「イマーシブシアター」だと述べている。

別系統の説明もある。森ビルとチームラボによるデジタルアートミュージアム「チームラボボーダレス」は、来館者が「境界のないアートに身体ごと没入し、境界なく連続する1つの世界の中で、さまよい、探索し、発見する」体験だと説明する。演者は登場しない。空間と作品の側が観客を包む。

共通しているのは、観客を「観る側」から「その中にいる側」へ移す設計だという一点である。共通するのはそこだけで、あとは事業の作りがまるで違う。

統計の区分にも専用の枠はない。総務省の日本標準産業分類は2023年7月告示の第14回改定が現行だが、そこにイマーシブや没入に相当する区分はない。娯楽業に置かれているのは、映画館、興行場、公園・遊園地、テーマパーク、遊戯場といった項目である。イマーシブを名乗る施設は、演目が演劇に寄れば劇場や興行場に、常設のアトラクション群に寄ればテーマパークに、それぞれ分かれて分類されうる。この分類からイマーシブだけを取り出して市場規模を把握することはできない。

(注:市場規模を掲げた民間の調査レポートは複数流通しているが、本記事では推計の手法と母集団を確認できなかったため扱わない)

三つの型に分けて見る

事業者が実際に名づけた形式を並べてみる。以下は業界の公式な分類ではなく、採算の見方をそろえるために本記事が立てた整理である。

刀が開業リリースの本文で名指しした形式は、イマーシブシアター、イマーシブ・ホラー、イマーシブ・ショー・レストラン、イマーシブ・エスケープ(脱出型)、イマーシブ・ラリー、イマーシブ・アクションメイズなど。このうち3形式は既存の漫画・アニメ・ゲームの作品と組み、来場者がその世界に登場人物の1人として入る設計になっている。

一つめが、演者が観客のそばにつく型である。江戸花魁奇譚では演者が観客のすぐそばで語りかけると報告されている。真夜中の晩餐会は観客2〜3人に1人の演者がついていた。客数の上限は演出の密度で決まり、人手が最もかかる。

二つめが、謎解き・脱出の型である。前掲のレポートは「東京卍リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」を脱出型演劇、「今際の国のアリス The Ultimate」を劇場型謎解きゲームと説明している。後者は定員200人・1回60分と、6演目のなかで最も定員が多く最も短い。1回の人数と回転で稼ぐ作りである。

三つめが、常設のアート型である。デジタルアートミュージアムのように、映像と音と空間の演出で没入させる。チームラボボーダレスは自らを「地図のないミュージアム」と呼び、来館者は境界のない作品群のなかを歩き回る。

同じ「イマーシブ」でも、客数の上限を何が決めるかが三つで違う。演者の数か、1回の人数と回転か、開いている時間か。採算を見るときは、この違いから入ることになる。

1回で見るか、1日で見るか

高単価だから稼げる、とは限らない。

イマーシブ・フォート東京の閉館直後、SOMPOインスティチュート・プラスの岡田豊上席研究員が、全6演目のうち5演目を計13回体験した記録を公開している。そこに残された2026年2月時点の演目から、料金と定員と開催回数を並べたのが次の表である。

1回で見るか、1日で見るかで順位が入れ替わる
イマーシブ・フォート東京の全6演目(2026年2月時点)。1回あたりの料金が高い順に並べた
演目料金
(円)
定員
(人)
満席時の
1回売上
(万円)
満席時の1日売上
(万円・開催回数)
真夜中の晩餐会24,80050約124約248〜372
(1日2〜3回)
江戸花魁奇譚14,80030ほど約44約133〜222
(1日3〜5回)
フォルテヴィータ
の追憶
7,800200弱約156約156
(平日夜1回)
東京卍リベン
ジャーズ
7,800120約94算出せず
(回数の記載なし)
ザ・シャーロック7,800記載なし算出せず算出せず
今際の国のアリス4,800200約96算出せず
(回数の記載なし)
(注:売上はいずれも料金×定員を編集部が計算した満席時の額で、実績値ではない。定員の「200人弱」「30ほど」は出典の表記で、試算では200人・30人を置いている。「フォルテヴィータの追憶」は平日の夜に1回のみの開催。定員または開催回数が出典にない演目は算出していない)(注:「真夜中の晩餐会」の24,800円はディナー込みの料金で、飲食の原価を含む。他の演目と同じ「売上」として単純に比べることはできない)(注:料金・定員・開催回数は、SOMPOインスティチュート・プラスの岡田豊上席研究員が営業終了の発表後に全6演目のうち5演目を計13回体験した記録と、同レポートが参照した公式サイト情報による。演目の構成・料金は同レポートが示す2026年2月時点のもの。同施設の公式サイトは営業終了にともない演目情報の掲載を終えている)(注:演目名は表示の都合で略記した。出典の表記では「東京卍リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」「ザ・シャーロック~ジェームズ・モリアーティの逆襲~」「今際の国のアリス The Ultimate」。「江戸花魁奇譚」は出典が「江戸花魁忌憚」と表記しているが、運営会社である株式会社刀の発表資料の表記に合わせた)
出典:SOMPOインスティチュート・プラス「「イマーシブ・フォート東京」は「満員」だけど「閉鎖」!? ~少人数型アトラクションの課題②~」(2026年3月4日)をもとに編集部作成

1回あたりで見ると、いちばん大きいのは「フォルテヴィータの追憶」になる。7,800円と安いが定員が200人弱あり、200人として試算すれば約156万円。単価が3倍以上ある「真夜中の晩餐会」(24,800円・定員50人)の約124万円を上回る。最も小さいのは「江戸花魁奇譚」で、14,800円という高い単価に対し定員は30名ほど。満席でも約44万円にとどまる。

ところが1日で見ると、順位がまた入れ替わる。フォルテヴィータの追憶は平日の夜に1回だけの開催で、1日の上限も約156万円のままだ。対して真夜中の晩餐会は1日2〜3回、江戸花魁奇譚は多い日で5回・少ない日で3回開かれていた。すべて満席なら1日の上限は、真夜中の晩餐会が約248万〜372万円、江戸花魁奇譚が約133万〜222万円になる。

所要時間が効いてくるのはここである。120分の演目は1日2〜3回、70分の演目は3〜5回。短いほど回数を積める。実際にはこれに準備と入れ替えの時間が加わり、販売率も掛かる。

1回の上限は単価と定員で決まり、1日の上限はそこに回数が掛かる。どちらの単位で見るかを決めないと、演目どうしの比較にならない。

もう一つ、少人数型には人手がかかる。江戸花魁奇譚には20人ほどの演者が立っていた。満席時の1回約44万円を20人で割ると、演者1人あたり約2万円になる。真夜中の晩餐会は観客2〜3人に1人の演者がついていたから、定員50人なら演者は20人前後。1回約124万円を割ると、演者1人あたり5万〜6万円台になる。同じ少人数型でも、単価の差がそのまま人手あたりの売上の差になっている。

課金の設計も途中で変わった。開業時は入場券6,800円に一部演目の追加料金を乗せる方式で、江戸花魁奇譚は追加9,000円、ザ・シャーロック系は追加3,500円だった。2025年3月に入場券を廃止し、演目ごとの個別販売に切り替えている。入場料で床を回す形から、回数と定員で回す形への転換である。

このとき料金の水準は上がっていない。江戸花魁奇譚は合計15,800円から14,800円へ、ザ・シャーロック系は10,300円から7,800円へ下がった。

(注:売上の額はいずれも料金と定員から編集部が試算した満席時の上限であり、実績値ではない。定員の「200人弱」「30名ほど」、演者数の「20人ほど」「観客2〜3人に1人」は出典の表記で、試算では200人・30人・演者20人を置いている。旧料金の合計と差額も編集部の計算による。公式サイトは営業終了にともない演目情報の掲載を終えているため、数値の出所は同レポートによる)

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需要は偏り、施設は2年で終わった

イマーシブ・フォート東京は、東京・お台場のヴィーナスフォート跡地を期間限定で活用する事業として、2024年3月1日に開業した。刀は「テーマパークを超える、完全没入体験」を掲げていた。

営業終了の発表は2025年12月25日、終了日は2026年2月28日だった。開業からおよそ2年である。刀は「事業期間を繰り上げて」終了したと説明しているが、当初の事業期間は公表されていない。

理由は、運営会社自身の言葉が最も明快だ。当初は大人数向けの「ライトな体験」が大半を占めると想定していたが、実際には人数を限定した「ディープな体験」に需要が強く偏ることがわかった。刀はそう説明している。

そして開業2年目にディープ体験中心へ業態を転換した。その結果として「学び得た最適な事業モデルに照らし、本施設規模が過大であると判断」した、というのが同社の説明である。

代表取締役CEOの森岡毅氏は同じ発表で、事業期間を繰り上げて終了する「苦渋の決断」であり、「財務面を含め当初計画との大きな乖離が生じた事実は、経営者として重く、真摯に受け止めております」と述べている。あわせて同社は、この事業で得た知見を活かして「今後も『イマーシブ・エンターテイメント』の発展に挑戦していく」とも表明している。

前掲の岡田氏のレポートは、これに外側からの見立てを加えている。費用の側から挙げているのは2点。大人数型の演目のチケットが期待どおりに売れなければ、広い会場を要する分だけ施設の賃借料が重くのしかかること。少人数型は観客一人当たりの演者が多く、人材確保と人件費の負担が大きかった可能性。いずれも同レポートの見立てで、費用の実額や閉鎖への影響は示されていない。刀の発表に人件費への言及はない。

少人数・高単価の2演目については、前掲の研究員が、高額でありながら完売率が高かったと書いている。ただし同レポートは、この観測が営業終了の発表後に訪問したものであること、発表を受けて購入希望が殺到し最後の月のチケットは発売初日でほとんど売り切れたことも、あわせて記している。終了発表後の完売であって、営業期間を通じた販売実績ではない。

来館者の7割が訪日外国人という施設

同じ東京で、まったく違う数字を出しているのがチームラボボーダレスである。

森ビルの発表によれば、東京・お台場から麻布台ヒルズへ移転オープンしたのは2024年2月9日。それから約2年5か月にあたる2026年7月31日をもって来館者数が400万人を超えたと、チームラボが8月3日に発表した。1日あたりにならすと約4,400人になる。

観光の側から見て重いのは内訳のほうだ。同社の発表では、来館者の約70%は、世界185以上の国と地域から来館した訪日外国人であり、アメリカ、オーストラリア、カナダ、イギリス、ドイツなど遠方からの来館者が約半数を占める。

同社はさらに、2024年2月から2026年6月までに日本を訪問した人のうち、アメリカからの渡航者の約12人に1人、オーストラリアからの渡航者の約9人に1人が来館した、と算出している。

(注:来館者数の出所は、同館公式ウェブサイトのチケット購入者データ〔調査期間2024年2月9日〜2026年6月30日〕であり、第三者による集計ではない。リリースは400万人突破を7月31日時点としながら、このデータの調査期間を6月30日までと記しており、両者の関係は説明されていない。渡航者に占める割合は、この自社データとJNTOの訪日外客統計という、出どころの異なる2つのデータを同社が突き合わせて算出したものである。両者の役割分担はリリースに明記されていない。「約半数」が何に対する割合かも原文は明示していない)

アート型も入場は時間枠で区切るが、枠が細かく、滞在時間は来館者にゆだねられる。演劇型のように演出の密度が1回の客数を直に決めることはない。ただし公表されているのは来館者数だけで、採算も、この数字を生んだ要因も、そこからは読み取れない。そもそも一方は施設のオーナーである森ビルとの共同事業、一方は跡地を借りての期間限定事業で、賃借料の前提が同じではない。

観光ビジネスの視点

江戸花魁奇譚は満席でも1回約44万円だが、1日3〜5回まわして約133万〜222万円。フォルテヴィータの追憶は1回約156万円でも、平日の夜1回だけなら1日も約156万円で止まる。1回で見れば後者が勝ち、1日で積めば前者が勝つ。定員の話が事業の話になるのは、1回の額ではなく1日・1週で積んだ額と、その日に出ていく人件費と賃料を並べたときである。「完売」は、そこまで見ないかぎり事業が回っている証拠にはならない。

よくある質問

イマーシブ体験に公的な定義や統計上の区分はあるか。

日本標準産業分類には専用の区分が置かれていない。イマーシブを名乗る施設は、演目の形態に応じて劇場、興行場、テーマパークなどに分かれて分類されうる。

イマーシブシアターとイマーシブミュージアムは同じものか。

観客を作品の中に入れるという狙いは同じだが、事業の作りが違う。演者が観客につく型は1回の定員が演出の密度で決まり、人手も多く要る。謎解き・脱出の型は1回の人数と回転で稼ぐ。空間で没入させるアート型は演者を置かず、開館している時間のあいだ来場者を通す。

イマーシブの市場規模はどれくらいか。

本記事が参照した範囲では、市場全体の規模を確認できる数字は見つからなかった。公的統計に専用の区分がなく、民間の調査レポートは推計の手法と母集団を確かめられなかった。施設ごとの公表値を個別に見るほうが確実である。

イマーシブ・フォート東京はなぜ2年で終わったのか。

運営会社の刀は、大人数向けのライトな体験を想定していたのに実際の需要が少人数のディープな体験に偏り、その事業モデルに照らして施設規模が過大だったと説明している。少人数の演目は1回あたりの売上に上限があり、広い施設の規模に見合わなかったという構図である。

イマーシブ体験の採算は、何を見れば見当がつくか。

1回の定員と1日の開催回数を置き、そこに単価を掛けて1日・1週の上限を出す。そのうえで販売率を何通りか置いて、どこから固定費を賄えるかを見る。単価の高さだけを見ても、稼げる額にはたどり着かない。

(注:本記事は公表資料にもとづく。株式会社刀への取材は行っていない)

出典

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