客は2割減でも収入は倍 二重価格が観光地に問うもの

青空を背に白い天守がそびえる世界遺産・姫路城
Photo: Svetlana Gumerova / Unsplash
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全国へ広がり国も指針づくり

住民と観光客とで料金を分ける「二重価格」が、各地の観光地に広がっている。

世界遺産の姫路城は2026年3月に市民以外の入城料を引き上げ、北九州市の小倉城も4月に続いた。京都市はバス運賃での導入を決め、金沢市や国の美術館・博物館も検討に入っている。こうした動きを受け、観光庁も制度づくりに乗り出した。2026年4月27日に「観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会」の初会合を開き、国内外の事例を踏まえて、自治体や民間施設が料金を自律的に検討できるよう、ガイドラインの策定を目指す。座長は矢ケ崎紀子・東京女子大教授が務める。

村田茂樹長官は3月の会見で、料金設定は一義的に各施設が決めるものとしたうえで、運営の持続可能性のために国内外の事例を整理する考えを示した。ガイドラインでの二重価格の位置づけや策定時期は「検討中」だが、年度内、つまり2027年3月までの取りまとめが視野に入る。

カギは「国籍」でなく居住地

海外の二重価格には、国籍で分けるものと、住む地域で分けるものがある。エジプトのピラミッドやインドのタージマハルは外国人を対象にした国籍ベースだが、フランスのルーヴル美術館は2026年からEEA(欧州経済領域)域外の居住者を値上げする居住ベースだ。

日本の自治体の多くはこの居住型に近く、区分の基準を国籍ではなく住んでいる場所に置いている。姫路城の市民料金の対象は「姫路市内に住所を有する人」で、外国籍でも市内在住なら1000円、日本人でも市外在住なら2500円を払う。

国内の主要テーマパークで初めて二重価格を採り入れたジャングリア沖縄も、同じ考え方だ。1日券は海外在住者が8800円、国内在住者が6930円で、分けるのは住んでいる場所だ。

国籍ではなく居住区分で線を引くため、在留カードを持つ在住外国人も住む場所に応じて日本人と同じ料金が適用され、法的にも国籍差別には当たらないと整理されている。この居住区分が、自治体が進める日本型の核心になっている。

城からバス、美術館へ拡大

先行する姫路城は、効果を数字で示した。姫路市によると、導入から1か月の3月、入城者数は前年同月比で約17%減ったが、収入は約2億7000万円と前年の約2倍に達した。

入城者が2割近く減っても収入はおよそ倍増し、市は年間で約10億円の増収を見込む。市は当初から2割減を織り込んでおり、減少は想定内としている。

動きは交通や文化施設にも広がる。北九州市は小倉城の入場料を現行350円から36年ぶりに改定し、市内居住者400円、市外居住者500円とした。京都市は均一区間のバス運賃を市民200円、市民以外350〜400円に分ける「市民優先価格」を2027年度中に導入する方針で、路線バスでの大規模な二重価格は全国初となる。

国の施設は少し事情が異なる。文化庁は国立西洋美術館など7施設に対し、訪日客らの料金を割高にする二重価格を2031年3月までに導入するよう検討を求めた。財務省の試算では、訪日客の料金は一般の2〜3倍程度になると見込まれる。

対象として想定されているのは訪日客で、在留カードを持つ在住外国人は割高料金の対象に含めない方向だ。ただし、窓口で誰を訪日客と見分け、どう確認するかは検討課題として残っている。

あわせて読む 高付加価値旅行者の実像と、訪日市場の全体像は、それぞれこちらで詳しく解説している。

一方、金沢市は6月補正予算案に調査費200万円を計上し、21世紀美術館など市有の文化・スポーツ施設での二重価格導入の検討に入った。あわせて2026年7月1日からは、日本人を含む出国者にかかる国際観光旅客税(出国税)が1000円から3000円に上がる。訪日客にとっては、施設と国の両面で負担が増えることになる。

施設(国・種別)区分の基準地元・居住者非居住・外国人倍率
姫路城(日本・入城料/18歳以上)居住1,000円2,500円2.5倍
小倉城(日本・入場料)居住400円500円1.25倍
京都市バス(日本・均一運賃/2027年度予定)居住200円350〜400円最大約2倍
ジャングリア沖縄(日本・1日券)居住6,930円8,800円約1.3倍
国立の美術館・博物館(日本・2031年方針/東京国立博物館の試算)訪日客(基準は検討中)1,300円3,100円約2.4倍
ルーヴル美術館(フランス・2026年〜)居住(EEA域内/域外)22ユーロ32ユーロ約1.5倍
タージマハル(インド・入場料)国籍50ルピー1,100ルピー約22倍
(注:各施設・各社の公表資料および財務省の試算をもとに編集部作成。倍率は地元・居住者料金に対する非居住・外国人料金の比。通貨が異なるため施設間の絶対額は比較できず、比較できるのは倍率のみ。京都市バスと国立施設は予定・方針段階の数値である。)

本人確認の手間と残る課題

二重価格を成り立たせるには、誰を居住者とみなすかを見分ける仕組みが要る。姫路城はマイナンバーカードや運転免許証などでの住所確認を、小倉城は身分証の提示を求める。京都市はさらに進んで、国土交通省との実証実験に取り組んだ。

マイナンバーカードを交通系ICに紐づけ、運賃箱にかざすだけで市民かどうかを瞬時に判別する仕組みを、京都市は確かめている。市外から通勤・通学・通院する人には、定期運賃の据え置きや多頻度割引で負担を和らげる構えだ。

外国人や域外からの来訪者に高い料金を求めること自体は、世界の観光地では珍しくない。日本でも論点は「差をつけるか否か」より、その先の運用へと移りつつある。在住外国人や頻繁に訪れる市外住民が割を食わないか、確認の手間が現場の負担にならないか、といった課題が各地で問われている。

観光ビジネスの視点

二重価格を「外国人の狙い撃ち」と身構える必要は、実はそれほどない。エジプトやインドなどでは外国人や域外向けの料金が長く定着し、旅行者の側にも一定の理解がある。

海外で外国人料金が受け入れられてきたのは、増えた収入を遺跡や文化財の保護と維持に充てるという目的が、利用者に共有されているからだ。もちろん日本でも、住民感情や「隠れた入場税」と受け止められる反発がないわけではない。

裏を返せば、日本の二重価格で問われるのも料金差の是非ではなく、姫路城の年間約10億円のような増収を何に使うかを示せるかどうかだ。観光庁が年度内にまとめる指針でも、価格の線引き以上に使途の透明性が信頼を左右する。料金表より先に増収分の行き先を語れた施設から、旅行者の納得は広がるはずだ。

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