観光立国推進基本計画とは?訪日6000万人・消費額15兆円に向けた国の観光戦略

日本の象徴・富士山。観光立国推進基本計画の解説記事のイメージ
Photo: JJ Ying / Unsplash
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2026年3月27日、政府は新しい「観光立国推進基本計画」を閣議決定した。これで5回目の策定となり、計画期間は2026年度から2030年度までの5年間だ。

観光業界で働く人なら耳にしたことのある計画だが、「そもそも何を決めているのか」「前の計画と何が変わったのか」まで説明できる人は意外と多くない。

この記事では、計画の成り立ちから歴史、最新の第5次計画の内容、前回からの変更点とその背景、そして観光事業者への影響までを解説する。

なお本記事では、2007年の第1次以来5回目にあたる今回の計画を、便宜上「第5次計画」と呼ぶ。

この記事のポイント

  • 観光立国推進基本計画は、観光立国推進基本法に基づき政府が定める観光政策の最上位方針。
  • 2026年3月に第5次計画(2026〜2030年度)が閣議決定され、訪日6,000万人・消費額15兆円の目標は据え置かれた。
  • 第4次からの最大の変化は、量的な回復を前提に「質・地方分散・持続性」へ重心を移したこと。
  • 「住んでよし、訪れてよし」に「働いてよし」が加わり、観光産業の稼ぐ力と人材が新たに目標になった。
目次

観光立国推進基本計画は観光政策の最上位方針

観光立国推進基本計画とは、ひとことで言えば「国が観光政策をどう進めるかをまとめた、いちばん上位の設計図」だ。法律である観光立国推進基本法に基づいて政府が作成し、閣議決定を経て正式な国の方針となる。

個別の補助金や規制とは違い、向こう数年間にわたって「何を目指し、どの方向に力を入れるか」という土台を定める文書だと考えるとわかりやすい。

この計画には、大きく3つの役割がある。第一に、目指すべき姿と数値目標を示すこと。第二に、その実現に向けた施策の方向性を整理すること。第三に、国・地方自治体・観光事業者が同じ方向を向くための共通言語を提供することだ。

観光庁や関係省庁の予算編成、自治体の観光戦略、業界団体の提言も、この計画を一つの拠りどころにして組み立てられる。

出発点はビジット・ジャパン

計画の出発点をたどると、2003年に始まった「ビジット・ジャパン・キャンペーン」に行き着く。

当時の日本は、海外へ出かける日本人の数に比べて、海外から訪れる外国人の数が極端に少ない状態だった。輸出大国でありながら観光では「輸入超過」だったわけだ。この不均衡を是正し、観光を経済成長と地域活性化の柱に育てようという機運が高まった。

その流れを法律として裏づけたのが、2006年に成立し2007年1月に施行された観光立国推進基本法だ。それまでの「観光基本法」(1963年制定)を約40年ぶりに全面改正したもので、観光を国家戦略として明確に位置づけた

この法律が「政府は観光立国推進基本計画を定めなければならない」と義務づけたことで、2007年6月に第1次計画が作られる。つまり基本計画は、観光を国の重要政策に格上げした法律とセットで生まれた仕組みなのだ。

「第5次改定」にいま集まる注目

2026年3月に5回目の改定(第5次計画)が閣議決定され、向こう5年間の方針が新たに定まった。

コロナ禍からの回復が想定以上に早く進み、訪日客数も消費額も過去最高を更新したいま、政策の焦点は「いかに多く呼ぶか」から「混雑や人手不足といった成長の副作用にどう向き合うか」へと移った

その転換点を映したのが今回の計画であり、観光に関わる事業者や地域にとって、これからの追い風がどこに吹くかを読む手がかりになる。

第1次〜第4次は時代の課題を映す

計画はおよそ5年ごとに見直され、その時々の課題を映し出してきた。各計画を順に見ていくと、日本の観光政策がどう変化してきたかが立体的に見えてくる。

観光立国推進基本計画 第1次〜第5次の歩みを示す年表

第1次:観光立国の土台づくり

第1次計画(2007年)は、国際競争力の高い魅力ある観光地の形成、観光産業の競争力強化、観光人材の育成、国際観光の振興を主な柱に据えた。

まだ訪日外国人が年間800万人ほどだった時代であり、「これから観光で稼げる国を作る」という基礎工事の段階だったと言える。

第2次:震災復興と裾野の拡大

第2次計画が作られた2012年は、東日本大震災の翌年だった。原発事故の風評もあり、訪日需要は大きく落ち込んでいた。

そのため「震災からの復興」が大きな柱の一つに据えられ、あわせて観光の裾野を広げることや、量だけでなく質を高める視点が新たに加わった。逆境のなかで観光を立て直そうとした計画だ。

第3次:観光先進国への飛躍

第3次計画(2017年)は、訪日ブームが本格化した時期に作られた。前年の2016年には、政府の上位ビジョンである「明日の日本を支える観光ビジョン」が、2030年に訪日外国人6,000万人・消費額15兆円という大きな目標を掲げている

第3次計画はこのビジョンを実行に移す計画として、世界の観光需要を取り込み「観光先進国・日本」へ飛躍することを掲げた。後の計画で繰り返し登場する6,000万人・15兆円という数字は、ここで土台が固まっている。

第4次:コロナ回復と質への転換

第4次計画(2023年)は、新型コロナウイルスによる観光の壊滅的な打撃から立ち直る局面で作られた。ここが大きな転換点だ。

それまでのように高い人数目標を前面に掲げるのではなく、「持続可能な観光」「消費額の拡大」「地方誘客」という3つのキーワードを軸に、量より質を重視する姿勢を鮮明にした

計画期間も2025年までの実質3年間と短く、まずは回復を確実にすることに主眼が置かれた計画だった。一人当たり消費額単価20万円、訪日外国人一人当たりの地方部宿泊数2泊、日本人国内旅行消費額22兆円といった目標が並ぶ。

第5次は量の回復から質へ転換

では、最新の第5次計画は何を打ち出したのか。背景には、コロナ禍からの回復が想定以上に早く進んだという事実がある。

2024年の訪日外国人は約3,687万人、消費額は8.1兆円と過去最高を更新し、2025年はさらに伸びて訪日数約4,268万人(暫定値)、消費額9.5兆円(速報値)に達した。円安も追い風となり、量的な回復はすでに達成された格好だ。

第5次計画は、この回復した勢いを「次の質と持続性」へどうつなげるかを問う計画になっている

戦略産業を目指す5つの方向性

第5次計画が掲げる2030年の姿は、「戦略産業として、日本の魅力・活力を次世代にも持続的に継承・発展させていく観光」だ。観光を、地域経済と日本経済の発展を引っ張る「戦略産業」とはっきり位置づけた点が特徴だ。

実際、訪日消費額9.5兆円がもたらす経済波及効果は約19兆円と試算され、これは自動車産業(17.6兆円)に次ぐ「第2の輸出産業」に当たる規模だ。

そのうえで、力を入れる方向性として次の5つを挙げている。観光の持続的な発展、消費額拡大、地方誘客促進、観光と交通・まちづくりとの連携強化、新技術の活用・本格展開だ。

これらを「住んでよし」「訪れてよし」に加え、新たに「働いてよし」の観光産業を実現するための施策として束ねている。

第5次観光立国推進基本計画の3本柱(誘客と住民生活の両立/国内交流・アウトバウンド/観光地・産業の強靱化)と5つの方向性。2030年に訪日6,000万人・消費15兆円・地方部1.3億人泊を目指す

施策は3本の柱に整理される

具体的な施策は、3本の柱に整理されている。

第一の柱は「インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立」だ。地方への誘客を進めて人を分散させることでオーバーツーリズム(観光公害)を防ぎ、過度の混雑やマナー違反、民泊の適正運営といった個別課題に対応する。海外誘客の具体的な進め方は、下位戦略の訪日マーケティング戦略に整理されている。

あわせて読む 訪日マーケティング戦略の詳細は、こちらで詳しく解説している。

訪日マーケティング戦略、2026年改定の焦点は「単価・地方・多様化」

第二の柱は「国内交流・アウトバウンド拡大」だ。休暇の分散による需要の平準化や、二地域居住・関係人口づくり、そしてパスポート手数料の引き下げなどで日本人の海外旅行(アウトバウンド)も後押しする。

第三の柱は「観光地・観光産業の強靱化」だ。観光DX(デジタル技術による変革)や省力化投資で生産性を高め、観光人材を確保し、災害や国際情勢の変化に強い体制を整える。

2030年の数値目標11項目

第5次計画では、目標が全部で11項目に整理された。すべて2030年を達成年とし、訪日・国内・産業の3つの分野に分かれている。代表的なものを挙げると次のとおりだ。

訪日外国人旅行者数6,000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円、消費額単価25万円、訪日リピーター数4,000万人、訪日外国人の地方部延べ宿泊者数1.3億人泊、住民生活との両立に取り組む地域数100地域、日本人の国内旅行消費額30兆円、日本人の海外旅行者数を過去最高(2,008万人)超え、宿泊業が創出した付加価値額6.8兆円などだ。

第5次観光立国推進基本計画の主要目標 2025年実績から2030年目標へのダッシュボード
この図表のデータを見る
指標2025年実績2030年目標達成率
訪日外国人数4,268万人6,000万人71%
訪日消費額9.5兆円15兆円63%
消費額単価22.9万円25万円92%
国内旅行消費額26.8兆円30兆円89%
地方部の延べ宿泊(訪日)5,873万人泊1.3億人泊45%

なかでも象徴的なのが、訪日リピーターの目標だ。6,000万人のうち、その3分の2に当たる4,000万人をリピーターにするという設計になっている。

リピーターは地方へ足を運ぶ意欲が高く、日本の文化や習慣への理解も深い傾向があるため、量の拡大と地方分散・マナー改善を同時に進める存在として重視されている。

第4次との違いは質・分散・持続性

第4次計画と第5次計画を並べると、政策の重心がどう動いたのかがはっきり見えてくる。

第4次と第5次の目標を比較

項目第4次計画(2023年・目標年2025)第5次計画(2026年・目標年2030)
訪日外国人数2019年水準超えを目指す6,000万人
訪日消費額早期に5兆円15兆円
消費額単価20万円25万円
訪日リピーター数(明示目標なし)4,000万人
訪日・地方部の宿泊(延べ人泊)(なし)延べ1.3億人泊
住民生活との両立地域数(なし)100地域
国内旅行消費額22兆円30兆円
日本人の海外旅行者数2019年水準(2,008万人)超え過去最高(2,008万人)超え
宿泊業の付加価値額(なし)6.8兆円

観光庁が示す5つのポイント

これらの変更点を、観光庁は第5次計画の「5つのポイント」として整理している。本記事でもその枠組みに沿って、今回の計画の要点を確認しておく。

①観光を「戦略産業」として明記
訪日消費額9.5兆円、経済波及効果は約19兆円にのぼり、自動車産業(17.6兆円)に次ぐ「第2の輸出産業」と位置づけた。

②人数だけを追い求めず、内容・質を重視
オーバーツーリズムの未然防止・抑制を強化し、住民生活との両立に取り組む地域数を倍増の100地域に。「観光と交通・まちづくりとの連携」も方向性に明記した。

③「インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立」を柱に位置づけ
訪日6,000万人の3分の2に当たる4,000万人をリピーターとし、地方部の延べ宿泊者数を三大都市圏と同等(1対1)にすることを目指す。

④国内旅行消費額30兆円など日本人の旅行促進
旅行消費額全体の7割を占める国内旅行を30兆円に引き上げ、アウトバウンド(日本人の海外旅行)拡大を新たな柱に据え、パスポート手数料の引き下げにも踏み込んだ。

⑤「住んでよし、訪れてよし」に加え「働いてよし」の観光産業の実現
宿泊業が創出した付加価値額の目標を新たに設け、観光DXと人材確保を推進。宿泊業の平均賃金の推移も注視するとしている。

観光庁が示す第5次観光立国推進基本計画の5つのポイント

背景は回復の速さと体力不足

これらの変化の根っこには、観光が「回復の時代」を終え「成長の副作用に向き合う時代」に入ったという認識がある。

最大の要因は、量的回復のあまりの速さだ。2024年・2025年と訪日数も消費額も過去最高を更新し、円安も相まって、混雑・人手不足といった成長の副作用にどう向き合うかが、より大きな政策課題になった。

代わって前面に出てきたのが、一部地域への集中による混雑やマナーの問題、つまりオーバーツーリズムだ。京都や鎌倉のような人気地ではすでに住民の日常生活に支障が出ており、放置できない段階に達している。第5次が「両立地域100」という目標を新設し、地方分散を強く打ち出したのは、この痛みへの直接的な回答だ。

もう一つの背景が、観光産業そのものの体力不足だ。深刻な人手不足、宿泊業の低い収益性、低い賃金水準といった構造的な弱さが、成長の裏で顕在化してきた。いくら客を集めても、受け入れる側が疲弊しては続かない。

「働いてよし」の追加と宿泊業付加価値額の目標化は、観光を一過性のブームではなく持続可能な産業として鍛え直すための布石だと読み取れる。

まとめると、第5次計画は「もっと多くの人を呼ぼう」から「呼んだ人と地域・産業の双方が幸せになる仕組みを作ろう」へと、観光政策の問いそのものを書き換えた計画だと言える。

量の達成を前提にできるようになったからこそ、質・分散・持続性という難しいテーマに正面から取り組めるようになったわけだ。

海外事例が映す日本の行く先

第5次計画は抽象的な方針だけでなく、各地ですでに動き出している具体策を束ねている。計画自体が挙げる例を見ると、向こう5年の打ち手の輪郭がつかめる。

オーバーツーリズム対策では、生活道路の渋滞対策やパークアンドライド駐車場の整備、地域への入域管理や予約制の導入、文化財の早朝・夜間体験の促進、スマートごみ箱の設置などが並ぶ。混雑そのものを減らす工夫と、来訪者の行動を分散させる工夫の両輪だ。

地方誘客と高付加価値化では、アドベンチャーツーリズムや農泊、ガストロノミーツーリズム(食を軸にした観光)、国際競争力の高いスノーリゾートの形成、首里城の復元や迎賓館などの公的施設の公開・開放が挙げられている。滞在を長くし、単価を上げる体験づくりが軸になっている。

国内交流の分野では、愛知県などが先行する「ラーケーション」(平日に子どもが保護者と校外学習をしても欠席扱いにしない仕組み)による休暇の分散や、二地域居住の促進が盛り込まれた。さらに観光復興として、東日本大震災と能登地域の再生支援も明記されている。

海外に目を向けると、日本が向かう方向の先行例が見えてくる。イタリアのベネチアは2024年、混雑緩和のために日帰り観光客への入場料を世界で初めて導入した。2025年は混雑する54日間に事前予約で5ユーロ(直前は10ユーロ)を課し、2026年は対象を60日に広げる。

スペインのバルセロナは、住宅価格の高騰を背景に、観光客向け短期賃貸(約1万戸超)の営業許可を2028年11月までに全廃する方針を打ち出した。観光と住民生活の両立を、より踏み込んだ規制で進める例だ。

一方ブータンは、観光客から1人1泊100ドルの「持続可能な開発のための負担金」を徴収し、その収入を医療・教育・環境保全に充てる「高付加価値・少人数」モデルで知られる。

入域管理(ベネチア)、民泊・住宅との両立(バルセロナ)、高単価化(ブータン)はいずれも第5次計画の論点と重なり、日本の目標が世界的な潮流の中にあることを示している。

6,000万人・15兆円は世界トップ級

ここからは、計画の数値を国際的な文脈に置いて読み解く。観光立国推進基本計画の目標は、世界の観光大国と比べてどれほどの高さなのでしょうか。

国連世界観光機関(UN Tourism)の集計では、国際観光客到着数は2024年の約14.5億人から2025年は約15.2億人(前年比4%増)へ伸び、コロナ前を上回る水準で推移している。

あわせて読む 世界の国際観光客到着数の動向は、こちらで詳しく解説している。

世界の国際観光客3.07億人 訪日の伸びは世界平均を下回る

国別の確定順位は2024年が最新で、首位はフランスの約1.0億人、次いでスペインの約9,400万人、米国(約7,200万人)と続く。

日本の2024年の訪日3,687万人は前年比47%増の急回復で世界9位前後まで順位を上げ、2025年はさらに4,268万人へ増えた。目標の6,000万人は、これを米国(約7,200万人)やイタリア・トルコ(各約6,000万人)と肩を並べる水準まで引き上げる数字だ。達成すれば、フランス・スペイン・米国に次ぐ世界4〜5位級の到着数を持つ観光大国になる。

観光収入で見ると差はさらに際立つ。2024年の日本の国際観光収入は約547億ドル(約8.1兆円)で世界8位前後。首位の米国(約2,150億ドル)、2位スペイン(約1,065億ドル)からは大きく離されている。

目標の15兆円は、2024年実績の為替水準(1ドル約148円)で換算するとおよそ1,000億ドルに当たり、達成すれば米国・スペインに次ぐ世界3位前後となり、英国(約845億ドル)やフランス(約771億ドル)を上回る観光収入大国になる計算だ。

ここから読み取れるのは、日本が「人を集める順位」以上に「稼ぐ額の順位」を引き上げようとしていることだ。人数で世界トップ5、収入で世界トップ3を狙う設計であり、第5次計画が消費額単価25万円や高付加価値化にこだわる理由とも重なる。(注)国別の順位・金額はUN Tourism 2024年集計が最新の確定値だ。

2025年は世界全体で約15.2億人、日本の国際観光収入も現地通貨ベースで前年比約14%増と伸びたが、国別の2025年確定順位・確定額は未公表のため、ここでは2024年の確定値で比較している。順位は対象年や為替によって変動する。

2030年目標は達成できるのか

では、これらの目標は現実的に達成できるのか。直近の実績の伸びをもとに、本媒体で簡単に試算してみる(あくまで現在のペースが続いた場合の目安だ)。

指標2025年(速報・暫定)2030年目標必要な年平均の伸び直近の伸び(2024→2025)見通し
訪日外国人数4,268万人6,000万人約+7%約+16%射程内(中国動向次第)
訪日消費額9.5兆円15兆円約+10%約+17%射程内
消費額単価22.9万円25万円約+2%約+1%(横ばい)難所
国内旅行消費額26.8兆円30兆円約+2%約+6%射程内
地方部の延べ宿泊(訪日)5,873万人泊1.3億人泊約+17%約+15%最も高い目標
住民生活との両立地域数47地域100地域行政の実行力次第

訪日外国人数、訪日消費額、国内旅行消費額は、直近の伸びが必要なペースを上回っている。このまま推移すれば目標は射程に入り、訪日数はむしろ前倒しで6,000万人に届く可能性すらある。

一方で、注意すべき指標もある。最大の懸念は消費額単価だ。2025年は22.9万円とほぼ横ばいで、必要な伸び(年約2%)すら下回っており、人数増だけに頼らず一人当たりの支出を押し上げる工夫が要る。

地方部の延べ宿泊者数は現状の約2.2倍と最も高い目標だが、直近の伸び(約15%)は必要ペース(約17%)に近く、地方分散の流れを保てるかが鍵になる。両立地域100は、数値の伸びというより行政と地域の実行力に左右される。さらに、訪日数の見通しには大きな前提がある。

2025年の伸びをけん引したのは中国(909万人、前年比30%増)だったが、2025年11月以降は日中関係を背景に渡航自粛の動きが広がり、2026年1月の中国人訪日客は前年同月比約60%減と急減した。

仮に中国が2025年の水準で横ばいにとどまった場合、6,000万人に届くには中国以外の市場だけで年平均約8.7%の伸びが必要になる。

これは全体目標の年約7%より高いハードルで、直近実績(中国以外は2024→2025年で約12%増)を当面下回らずに保てるかが焦点だ。中国がさらに減少すれば残る市場にはより高い伸びが求められ、総量目標の達成時期が2030年より後ろにずれる可能性もある。

実際、JTBの2026年見通しでは、2026年の訪日数を前年割れの約4,140万人(前年比97.2%)と見込んでいる。

つまり、量の目標は中国の動向という不確実性を抱えつつも、他市場が伸びを保てば射程に入る一方、計画が本当に問うているのは「単価(質)」と「地方分散」という難しい2つだということだ。

これは、第5次計画が量から質・分散へ舵を切ったという本記事の見立てとも一致する。

(注)本試算は観光庁・JNTO公表の実績値をもとに本媒体が機械的に算出したものだ。「必要な年平均の伸び」は2025年実績から2030年目標までの年平均成長率、「直近の伸び」は2024年から2025年の増減率を指す。為替や国際情勢によって実績は変動する。

観光ビジネスの視点

基本計画は、今後5年の予算・規制緩和・プロモーションがどこへ向かうかを示す羅針盤だ。

地方部を三大都市圏と1対1にする目標や両立地域100は、政策資源が大都市から地方へ、量から単価へ振り向けられる合図で、滞在を長くし単価を上げるコンテンツを持つ地域・事業者に商機が生まれる。

「働いてよし」と宿泊業の付加価値額目標は、賃金・生産性・観光DXへの投資が評価軸になる前触れで、労働集約からの脱却が宿泊・観光企業の分かれ目になる。

そしてオーバーツーリズム対策が計画に明記された以上、住民と観光客の双方に説明できる「両立の設計」を持てる地域が選ばれていく。

観光は「多く呼ぶ」競争から「選ばれ、稼ぎ、続ける」競争へ。計画を自社の戦略に翻訳できる事業者ほど、次の5年で優位に立てるはずだ。

よくある質問

観光立国推進基本計画と「観光ビジョン」はどう違うのか。

観光ビジョン(明日の日本を支える観光ビジョン、2016年)は2030年の到達点を描いた長期目標だ。一方、基本計画は観光立国推進基本法に基づいて政府が定める実行計画で、ビジョンの目標を達成するための施策と当面の数値目標を具体化する。

計画には法的な拘束力があるか。

計画は閣議決定された政府の方針で、各省庁の施策や予算の拠りどころになる。ただし民泊新法のように事業者を直接規制するものではなく、目指す方向と目標を示す性格のものだ。

訪日6,000万人・消費額15兆円はいつまでの目標か。

いずれも2030年の目標だ。第4次計画から据え置かれ、第5次計画にも引き継がれている。

なぜ「第5次」と数えるのか。

2007年の第1次を起点に、2012年(第2次)、2017年(第3次)、2023年(第4次)と改定され、2026年のものが5回目(第5次)にあたるためだ。

次の改定はいつ頃か。

計画はおおむね5年ごとに見直される。第5次の計画期間は2030年度までで、次の改定はその前後が見込まれる。

<出典>

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