観光で起業したい。古民家を一棟貸しの宿に変える人、地域の体験ツアーを売る会社を立ち上げる人、空き家でゲストハウスを始める人。インバウンドの回復を追い風に、観光分野への新規参入の動きが目立つ。
少なくとも法人ベースでは、その勢いが数字に表れている。2025年に全国で生まれた新設法人は15万7,011社と過去最多で、社数1,000社以上の業種で増加率がいちばん高かったのが宿泊業(前年比22.4%増)だった。宿泊業の新設法人は3年連続で高い伸びを続けており、新型コロナの5類移行やインバウンド増加が背景の一つとみられる。
このページでは「観光新規事業(開業)」の入口として、何が起きているのか、どんな形態と制度があるのか、お金はどう集めるのかを解説する。主役は宿泊業だが、旅行会社・観光施設・体験・フードといった他の業態の開業にも触れる。
この記事のポイント
- 2025年の新設法人は15万7,011社と過去最多。社数1,000社以上の業種で増加率トップは宿泊業の22.4%増で、3年連続の高い伸びとなった(法人ベースの統計)。
- 宿泊施設を開く主な制度は、旅館業法の許可・住宅宿泊事業法(民泊)の届出・特区民泊の認定の3つ。民泊は届出が累計6万件を超え、いまは適正化が重視される段階に入っている。
- 開業費用は全業種平均で975万円、自己資金の割合は平均22.9%。地方や観光地づくりでは政策金融・補助金を組み合わせる例が多い。
- 宿泊業の新設が伸びる一方で、その倒産は2025年に89件と2年連続で増加。参入のしやすさと事業の続けやすさは別の話になっている。
観光新規事業(開業)とは いま観光で起きている参入のかたち
観光新規事業とは、宿泊施設の開業、観光関連のスタートアップ、異業種からの参入など、観光分野で新しく事業を立ち上げる動き全般を指す。本記事では、法人設立統計で伸びが目立ち、投資・許認可・運営の論点も大きいホテル・旅館・ゲストハウスといった宿泊業の開業を主軸に置く。
捉え方のコツは、「何を立ち上げるか」と「どう立ち上げるか」を分けて見ることだ。何を開くか=宿泊・旅行・施設・体験・飲食のどの業態か。どう開くか=自前で持つのか、ブランドや運営を借りるのか。この二つを分けると、必要な制度・手続きも、集めるお金の形も整理しやすくなる。
観光の開業は、特別な人だけのものではなくなっている。会社を辞めて一棟宿を始める個人から、空き不動産を活用したい地主、観光をデジタルで変えようとするスタートアップまで、入口は広がっている。一方で、許可・資金・人手という現実的なハードルもある。本記事は、その全体像をつかむための地図だ。
この記事で使う主な数字の読み方
観光新規事業の数字は、調査ごとに「何を数えているか」が違う。混同を避けるため、本記事で使う主な指標の意味と注意点を先に示す。
| 用語 | 意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 新設法人数 | 1年間に新しく設立された法人の数(東京商工リサーチ集計) | 個人事業の開業は含まない。法人ベースの動き |
| 宿泊業の増加率(+22.4%) | 新設法人のうち宿泊業の前年比の伸び | 社数1,000社以上の業種での比較。母数は大きくない点に注意 |
| 民泊の届出件数 | 住宅宿泊事業法に基づく届出の累計(観光庁集計) | 廃止分を含む累計。稼働中の住宅数は別に集計される |
| 開業費用(平均975万円) | 開業時にかかった費用の平均(日本政策金融公庫調査) | 業種を限定しない全業種平均。宿泊・施設型はこれより高くなりやすい |
いま観光で開業が増えている 新設法人で宿泊業が伸び率トップ

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| 年 | 宿泊業の新設法人 増加率 |
|---|---|
| 2022年 | ▲1.1% |
| 2023年 | +46.8% |
| 2024年 | +33.4% |
| 2025年 | +22.4% |
社数1,000社以上の業種での前年比。2025年は全業種で増加率トップ。
まず、観光の開業がどれだけ増えているかを押さえたい。
2025年の新設法人は全国で15万7,011社(前年比1.9%増)と、2008年の統計開始以降で過去最多を更新した。そのなかで、社数1,000社以上の業種に絞った増加率のトップが宿泊業(22.4%増)である。宿泊業は2023年に46.8%増、2024年に33.4%増と、新型コロナの5類移行(2023年5月)とインバウンド増を追い風に、3年連続で高い伸びを続けている。コロナ下の2022年が1.1%減だったことを思えば、この数年の変化は大きい。
ただし、伸びの中身は地域に偏る。前年から増えた3,073社のうち、東京都が57.5%とおよそ6割を占める。法人の設立は大都市に集中しやすく、観光の開業も例外ではない。
市場そのものも拡大している。旅館・ホテル市場の規模は2025年度の見通しで事業者売上高ベース約6.5兆円と、過去最高を更新する見込みだ。市場が伸び、参入も増え、観光の開業はいま追い風のなかにある。一方で、財務体質や人手不足の課題を抱える事業者も少なくなく、後述するように開業後の継続性が問われる局面でもある。
開業の形態を整理する 自前・FC・運営受託・リース・証券化
次に「どう立ち上げるか」を見る。宿泊事業の主な形態は、おおむね5つに整理できる。
ポイントは、所有・運営・ブランドの3つの機能を、誰が担うかで類型が分かれることだ。①自前開業(所有も運営も自分)、②フランチャイズ(FC=ブランドを借りる)、③運営受託(マネジメントコントラクト=MC。所有者がオペレーターに運営を委ねる)、④リース(建物を借りて運営する)、⑤不動産証券化(所有と運営を分離し、投資家から資金を集める)。
小さく始めるなら自前やリース、ブランド力を借りたいならFC、運営ノウハウがなければMC、というように、自社が持つ資源(資金・土地・運営力・ブランド)によって向き不向きが変わる。開業の形態選びとは、結局「所有・運営・ブランドのどれを自前で持ち、どれを外から借りるか」の選択だ。大型ホテルの証券化のしくみは観光ファイナンスの領域に深く関わるため、詳しくはそちらで扱う。
あわせて読む 投資・資金の仕組みは、こちらで詳しく解説している。
観光ファイナンスの全体像 17兆円のホテル・旅館資産を動かすお金の流れ
宿泊を開くなら避けて通れない3つの制度 旅館業法・民泊・特区民泊
宿泊施設を開くには、形態に応じた手続きがいる。制度は大きく3つあり、それぞれ手続きの性質が異なる。
第一が旅館業法の許可だ。営業種別は「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3区分で、所管は厚生労働省、窓口は保健所になる(観光庁の所管ではない点に注意)。2018年の改正で従来の「ホテル営業」と「旅館営業」が「旅館・ホテル営業」に統合され、客室の最低数などの要件が緩和された。ゲストハウスやカプセルホテルなど、施設の構造によっては簡易宿所営業が選ばれることが多い。グランピングも施設形態によって扱いが変わるため、自治体・保健所への確認が要る。
第二が住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく届出だ。2018年6月施行で、住宅宿泊事業者は届出制、人を宿泊させられる日数は年間180日が上限となる。第三が特区民泊で、国家戦略特区法に基づく認定を受ければ年間営業日数の上限なく営業できる(ただし2泊3日以上などの最低宿泊日数の定めはある)。
どの制度を選ぶかで、必要な手続きも投資規模も変わる。加えて、建築基準法(用途・構造)や消防法(防火設備)への適合も欠かせない。宿泊の開業は、物件を用意する前に「どの制度で営むか」を決めるところから始まる。
民泊は「拡大」から「適正化」のフェーズに入った

この図表のデータを見る
| 区分 | 件数 |
|---|---|
| 累計の届出 | 61,605件 |
| うち事業廃止 | 22,030件 |
| 稼働中の届出住宅 | 39,575件 |
令和8年3月13日時点。稼働中=累計届出から事業廃止を除いた数。
観光新規事業の第一の論点は、民泊がどの段階にあるかだ。
民泊は、数の面では一定の規模に達している。住宅宿泊事業の届出は2026年3月時点で累計61,605件に達し、廃止分を除いた稼働中の届出住宅は39,575件ある。宿泊実績も伸びており、2025年12月〜2026年1月分の延べ宿泊者数は約165万人泊、宿泊者数ベースで63.7%を外国人が占める。外国人比率が高く、インバウンドの受け皿の一つになっている。
ところが、ここにトレードオフがある。参入のしやすさは、近隣トラブルや違法民泊という別の問題と背中合わせだ。特区民泊は全国の認定居室の9割超(内閣府の集計で約96%)が大阪市に集中してきたが、その大阪市は2026年5月29日に新規申請の受付を終了した。国の第5次観光立国推進基本計画も、民泊の制度運営システムを特区民泊・簡易宿所まで広げ、仲介サイトと連携して違法物件を排除する方針を掲げる。民泊の制度運用は、届出・認定の拡大だけでなく、違法物件の排除や近隣トラブル対策を重視する段階に入っている。これから参入するなら、緩和ではなく適正化を前提に設計する必要がある。
開業ラッシュと倒産増が、同時に起きている
第二の論点は、参入のしやすさと事業の続けやすさのギャップだ。
新設は増えている。一方で、退出も増えている。帝国データバンクによると、宿泊業の倒産は2025年に89件と前年比14.1%増え、2年連続の増加となった。人手不足や人件費・水道光熱費・食材費の高騰、ゼロゼロ融資の返済負担が主な要因とされる。市場が拡大し開業が相次ぐ裏で、続けられずに退出する事業者も増えているのが実情だ。市場が伸びても、旅館・ホテルには財務体質に課題を抱える企業が少なくないとの指摘もある。
ここでのトレードオフは、開けることと続けることの差にある。制度上の選択肢は広がったが、難しいのは開業そのものより、開業後に黒字を保ち続けることだ。法令・条例に適合し、必要な手続きと運営体制を整えれば、制度上の入口には立てる。しかし、人手を確保し、稼働と単価を保ち、上がり続けるコストを吸収できなければ、事業は続かない。新規参入の検討では、開業計画と同じ熱量で、開業後の収益とコストの見通しを描いておきたい。
開業するのは宿泊だけではない 旅行会社・施設・体験・フード
ここまで宿泊を中心に見てきたが、観光の開業はそれだけではない。
たとえば旅行会社。旅行業は登録制で、業務範囲により第1種・第2種・第3種・地域限定旅行業・代理業に分かれる(第1種は観光庁長官、それ以外は都道府県知事が登録する)。注目したいのは入口の変化だ。地域限定旅行業は2016年の118社から2024年には687社へと一貫して増えている。大手向けの第1種が減るなかで、地域の小さな担い手が入る地域限定旅行業は伸び続けている。着地型の体験ツアーを地元で売りたい事業者の受け皿になっているとみられる。手配を担うランドオペレーター(旅行サービス手配業)も2018年の登録制化以降、数を伸ばしている。
観光体験(着地型ツアーやアクティビティ)を有償で企画・実施する場合も、形態によっては旅行業やランドオペレーターの登録がいる。体験提供の新規参入では、まず登録の要否を確認するのが出発点になる。フードは観光と隣接する領域で、飲食業は新設法人の上位常連だが、その開業すべてが観光目的とは限らない。本記事では宿泊・旅行・体験に関連する範囲に絞る。観光施設は、テーマパークやグランピングのような施設投資型の開業で、後述する資金調達の論点と密接に関わる。
業態は違っても、「必要な法令・手続きを確認し、お金を用意し、続けられる収益を設計する」という開業の骨格は変わらない。
あわせて読む 旅行業界の構造は、こちらで詳しく解説している。
旅行業界の全体像 市場・旅行会社・OTAをまとめて押さえる
開業のおカネ 費用の相場と、資金の集め方
開業で誰もが向き合うのがお金だ。相場観と、集め方の基本を押さえたい。
日本政策金融公庫の調査では、開業費用の平均は975万円。「250万円未満」と「250万〜500万円未満」を合わせると4割を超え、小さく始める開業も多い(これは全業種の平均で、宿泊・施設型はこれより高くなりやすい)。資金の出どころは、自己資金が平均22.9%(約279万円)、借入が平均827万円。開業者は40歳代が最多で、女性の比率は25.7%と4年連続で過去最高になっている。
集め方の基本は、自己資金を土台に、融資と支援制度を組み合わせることだ。創業者向けの公的融資としては、日本政策金融公庫の制度がよく使われる(かつての「新創業融資制度」は統合・改称された。最新の名称・要件は公庫で確認)。地方の宿泊開業や観光地づくりでは、日本政策投資銀行(DBJ)・日本政策金融公庫(JFC)・商工組合中央金庫といった政策金融機関に加え、地域金融機関・官民ファンド・補助金を組み合わせる例がある。案件の規模や立地、運営主体によって、自己資金・融資・補助金・ファンドの組み合わせは変わる。国も「スタートアップ育成5か年計画」などで創業を後押ししており、観光分野でも事業再構築補助金の採択事例にグランピング関連の計画が多く見られるなど、補助金を起点にした参入の動きがある。
事業者タイプ別の打ち手
観光の開業といっても、立場によって最初に見るべき数字も初手も違う。自社の立場から整理する。
- 個人・小規模で宿を始めたい人
開業費用は全業種平均で975万円だが、宿泊は物件・改修・消防設備などで大きく変わる。まず自分の物件条件に沿って見積もり、自己資金比率を確認する。初手は簡易宿所など低投資の制度ルートの選定と、日本政策金融公庫の創業融資の検討。
関連ガイド:宿泊業の全体像 - 不動産・土地を持つオーナー
まず自前開業・FC・MC・リースのうち、自社の運営力に合う形態を見極める。初手は運営力がなければMC(運営受託)、ブランドを借りるならFCという形での外部活用の検討。
関連ガイド:宿泊業の全体像・観光ファイナンスの全体像 - 旅行・体験で起業したい人
まず提供する事業に旅行業・ランドオペレーター登録が要るかを確認する。初手は地域内で着地型商品を扱う場合の選択肢となる地域限定旅行業の検討と、着地型商品の設計。
関連ガイド:旅行業の全体像・観光体験の全体像 - 地方・観光地づくりの担い手
まず使える補助金・官民ファンドの枠と、地域金融機関の参画余地を見る。初手はエクイティから補助金までを組み合わせた資金計画の設計(詳細は観光ファイナンスのハブへ)。
関連ガイド:地方創生・DMOの全体像・観光政策の全体像
開業準備はこの順で進める
観光の開業は、思いついた順に動くと手戻りが多い。一般には、次の順で詰めると整理しやすい(基本形の一例)。
- 事業の形を決める。
何の業態を、どの形態(自前・FC・MC・リース等)で開くかを固める。ここが後続の許可・資金をすべて規定する。 - 必要な制度・手続きを確認する。
宿泊なら旅館業法(許可)・民泊(届出)・特区民泊(認定)のどれか、旅行・体験なら旅行業登録の要否を、早い段階で保健所・自治体に確認する。建築基準法・消防法への適合もここで点検する。 - 資金計画を立てる。
開業費用を見積もり、自己資金・融資・補助金の組み合わせを設計する。返済不要の補助金は初期から織り込み、借入負担を下げる。 - 開業後の収益とコストを描く。
稼働率・単価の見通しと、人件費・物価上昇を織り込んだ収支を立てる。開業後に続けられるかは、この段階の精度で決まる。 - 物件・人を確保する。
立地と物件を決め、運営の要となる人手を確保する。人手不足は開業後の最大のリスクになりやすい。
このテーマを深掘りする
本記事で触れた論点は、今後それぞれの専用記事で順次深掘りしていく。
- 宿泊で開く:宿泊業の開業 ・ グランピング開業
- 民泊で開く:民泊(住宅宿泊事業法) ・ 特区民泊
- 運営・新規モデル:ホテルの運営形態(FC・MC・リース) ・ 観光スタートアップ・トラベルテック
宿泊業の新設は3年連続で伸びる一方、その倒産は2025年に2年連続で増えた。立ち上げることと続けることは、別の難しさだ。そして「続けられるか」の多くは、実は開業のもっと手前で決まっている。倒産の主因とされる人件費や物価の上昇は開業後に襲ってくるが、それを吸収できるかは、立地・制度の選び方・資金の組み方という開業前の設計でほぼ決まるからだ。だから「続けられるか」の勝負は、開業の瞬間ではなく、その設計を固める手前から始まっている。
ただし、設計を描き切れば続くわけでもない。開業後の市場は、稼働も単価もコストも動き続ける。そこで効いてくるのは、最初の熱量を保てるか、そして小さな工夫と改善を止めずに続けられるかだ。開業前の設計と、開業後も手を入れ続ける意欲。この二つがそろってはじめて、宿は続く。事業計画を描くときにこそ、開業後の収益設計と、改善を重ねていく覚悟を、同じ熱量で用意しておきたい。
よくある質問
<出典>
- 東京商工リサーチ「2025年の新設法人 最多の15万7,011社(2026年5月)」
- 厚生労働省「旅館業法概要」
- 観光庁「住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行状況」
- 内閣府地方創生推進事務局「特区民泊について(旅館業法の特例)」
- 帝国データバンク「『宿泊業』の倒産・休廃業解散動向(2025年)」
- 日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査(2025年12月)」
- 観光庁「観光地・観光産業における資金調達のポイント集(令和7年3月)」
- 観光庁「旅行業法概要」


