簡易宿所はなぜ増えるのか 16年で約2倍

Photo: Helena Lopes / Unsplash
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簡易宿所は、旅館業法が定める3つの営業種別の一つだ。宿泊する場所を多数人で共用する構造の施設が対象で、ゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、ドミトリーなどが、構造・設備によっては該当する。

旅館・ホテル営業と比べると、玄関帳場(フロント)の設置義務がなく、宿泊者を10人未満とする場合は面積基準が人数比例になるなど、制度上の違いがある。施設数は長期的に増加している。背景の一つに、年間180日以内という提供日数の制限がある民泊(住宅宿泊事業)から、通年で営業できる旅館業へ移る動きがある。本記事では、簡易宿所の定義・面積などの要件・許可の考え方と、増加の背景までを行政の一次情報にもとづいて解説する。

この記事のポイント

  • 簡易宿所は宿泊場所を多数人で共用する構造を主とする施設の営業種別だ。
  • ゲストハウス・カプセルホテル・山小屋・ドミトリーなどが代表例にあたる。
  • 客室の延床は33㎡以上、宿泊者10人未満なら3.3㎡×人数以上でよい。
  • 簡易宿所には玄関帳場の設置義務がないが、宿泊者名簿の作成・保存などの義務は残る。
  • 民泊にはない通年営業ができる旅館業許可として、施設数が長期的に増えている。
目次

そもそも簡易宿所とは何か

旅館業法上の宿泊種別と民泊の位置づけ。共用構造と玄関帳場の有無で旅館ホテル・簡易宿所・民泊を整理

簡易宿所は、旅館業法にもとづく営業種別の一つだ。旅館業法は、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を、①旅館・ホテル営業、②簡易宿所営業、③下宿営業の3つに分けている。この2つ目が簡易宿所営業だ。

法律上の定義はこうだ。簡易宿所営業とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業(下宿営業を除く)をいう。ポイントは「多数人で共用する」という点にある。旅館・ホテル営業と異なり、宿泊する場所を複数の宿泊者で共用する構造・設備を主とする点に特徴がある。

簡易宿所も旅館業の一種なので、営業には都道府県知事(保健所を設置する市の市長・特別区の区長)の許可が必要だ。この点は旅館・ホテル営業と変わらない。

ゲストハウスもカプセルも該当

「多数人で共用する構造」という定義から、簡易宿所には多様な施設が含まれる。代表例として、ゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、ドミトリーなどが挙げられる。また、一部の民宿なども簡易宿所として営業している。

(注:これらの業態名は旅館業法の条文に列挙されているわけではない。「多数人で共用する構造・設備を主とする」という定義にあてはまる代表的な施設を、編集部が例として整理したものだ。同じ業態名でも、実際にどの種別で許可を取るかは、施設の構造・設備に応じて保健所が判断する。)

共通するのは、個室を1人で占有するより、寝台や部屋など、宿泊する場所を複数の宿泊者で共用する構造が中心という点だ。カプセルホテルのように就寝スペースが小さく区切られていても、フロア全体を多数人で共用する構造であれば簡易宿所にあたる。

項目旅館・ホテル営業簡易宿所営業住宅宿泊事業(民泊)
許認可許可(旅館業法第3条)許可(旅館業法第3条)届出
客室・延床面積1客室7㎡以上(寝台設置は9㎡以上)延床33㎡以上(宿泊者10人未満は3.3㎡×宿泊者数)住宅で実施(旅館業の面積基準は適用外)
玄関帳場設置が想定(代替設備でも可)不要不要
営業日数の上限なしなし年180日以内

(注:旅館業法・同施行令にもとづく国の基準。自治体の上乗せ条例で基準が加わる場合があり、特定の数値は所管の保健所に確認したい。)

簡易宿所の要件で最初に押さえたいのが面積基準だ。客室の延床面積は33㎡以上が原則だが、宿泊者の数を10人未満とする場合は「3.3㎡×宿泊者数」以上でよい。これは平成28(2016)年の施行令改正で緩和されたものだ。たとえば宿泊者を6人までとする場合、客室部分の延床面積として3.3㎡×6人=19.8㎡以上が一つの基準になる。この緩和により、10人未満の小規模施設では、人数に応じた面積基準で判断されるようになった。

構造設備には、公衆衛生上の基準がある。適当な換気・採光・照明・防湿・排水の設備を設けること、宿泊需要を満たすだけの入浴設備・洗面設備・便所を備えること(近くに公衆浴場がある場合は入浴設備の例外がある)、そして階層式の寝台(二段ベッド等)を設ける場合は上下段の間隔を1m以上とることなどが定められている。

さらに、これらの構造設備の細目は、都道府県(保健所設置市・特別区)の条例で上乗せされることがある。同じ簡易宿所でも、自治体によって求められる基準に差が出る点には注意が要る。全国一律の数字だけで判断せず、必ず所在地の保健所・条例を確認する必要がある。

フロントは要らない、しかし…

簡易宿所が旅館・ホテル営業と大きく違うのが、玄関帳場(フロント)の扱いだ。旅館・ホテル営業では原則として玄関帳場(またはICT等による代替設備)の設置が求められるのに対し、簡易宿所営業には構造設備基準として玄関帳場に関する規定がなく、設置義務がない。

ただし、玄関帳場がなくても、旅館業法上の義務まで省けるわけではない。無人で運営する場合も、宿泊者名簿の作成・保存(第6条)は必要だ。無人運営時の本人確認の方法や緊急時の対応をどう整えるかは、所在地の保健所に確認する必要がある。玄関帳場がいらないことは、運営体制まで不要という意味ではない。

許可の手続きは旅館業に共通で、施設ごとに営業前に受ける。管轄の保健所への事前相談から始め、申請・検査を経て許可を得る。実務上は、旅館業法だけでなく、消防・建築など関係法令への適合も確認が必要になる。

あわせて読む 許可取得の手続き全体の流れは旅館業法の解説記事で整理している。

旅館業法の全体像 許可・3種別・罰則の基本

民泊とは何が決定的に違うか

簡易宿所を理解するうえで欠かせないのが、住宅宿泊事業(民泊)との違いだ。

簡易宿所の施設数推移(2009→2025年3月末)。23,429から44,901施設へと16年で約2倍に増加
この図表のデータを見る
年(3月末)旅館・ホテル営業簡易宿所営業
2009年58,65423,429
2019年51,00437,308
2024年(令和5年度末)51,03841,909
2025年(令和6年度末)52,94644,901

衛生行政報告例。旅館業許可施設全体は2025年3月末(令和6年度末)で9万8,338施設。

民泊(住宅宿泊事業)は、旅館業の許可を持たない者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業で、年間の提供日数が180日以内に制限されている。これに対し、簡易宿所は旅館業の許可を受けた営業なので、営業日数の上限がなく通年で営業できる。この「180日の壁」の有無は、両者を分ける重要な違いの一つだ。

実際、制度施行の初期には、廃止を届け出た民泊のうち約6割が「旅館業または特区民泊への転用」を理由に挙げていた(観光庁調査、2019年9〜10月)。180日の壁を越えて通年で事業を続ける経路として、旅館業の許可取得が選ばれてきたことがうかがえる。ただしこの調査はコロナ禍前の時点のもので、翌2020年の調査では「収益が見込めない」が廃止理由の最多に変わっている。

16年で約2倍、増加の理由

簡易宿所の施設数は、長期的に増加している。令和6年度末(2025年3月末)時点の簡易宿所営業は4万4,901施設で、旅館業許可施設全体(9万8,338施設)の中でも存在感を増している。同時点の旅館・ホテル営業は5万2,946施設だ。長期でみると、簡易宿所は2009年3月末の約2万3,000施設から増加を続けている。

増加の要因を行政の一次情報だけで特定することはできない。ただし制度面では、前章で触れた民泊の180日上限との違いに加え、10人未満の場合の面積基準の緩和(3.3㎡×人数)が、小規模物件で簡易宿所を選ぶ際のポイントになっている。旅館・ホテル営業が横ばいで推移するなかでも、簡易宿所は増加が続いている点は、宿泊事業への参入の形が多様になっていることをうかがわせる。

事例に学ぶ、共用の活かし方

簡易宿所ビジネスのイメージをつかむために、「多数人で共用する」という特徴を強みに変えた事例を、タイプ別に見ていく。

開かれたラウンジを核にする型。 株式会社Backpackers’ Japanは、賃貸した古民家やビルを簡易宿所として登録し、宿として運営してきた。東京・入谷の「toco.」(2010年)を皮切りに、蔵前「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」、京都・河原町「Len」、東日本橋「CITAN」の4軒を展開する。各施設の1階などにカフェ・バーを兼ねたラウンジを置くのが特徴で、同社代表への取材記事によれば、その来店者の約7割は宿泊者ではない地元客、宿泊利用者の約8割は外国人観光客だという。地域に開いた交流の場が、安さだけではない価値になっている。

カプセルを進化させる型。 株式会社グローバルエージェンツが手がける「The Millennials」は、IoTで操作する「スマートポッド」を備えた進化系カプセル(簡易宿所)だ。2017年の京都を皮切りに渋谷・博多へ広げ、ラウンジやワークスペース、24時間使えるキッチンなど共用部に全体の約2割の面積を割く。取材記事や同社発表によれば、稼働率は好調で利用者の約9割が訪日外国人。併設するコワーキングとあわせて「泊まる×働く」需要を取り込んでいる。

まちに客室を散らす型。 SEKAI HOTEL(東大阪・布施、2018年〜)は、商店街の空き家を旅館業の許可を取って客室にし、受付や食事・入浴を地元の店に担わせる「まちごとホテル」だ。2024年の宿泊者アンケートでは「この街に泊まること自体が旅の目的」と答えた人が6割を超え、2019年には日経MJ賞の最優秀賞も受けている。共用という発想を、一軒から街全体へと広げた例といえる。

観光ビジネスの視点

簡易宿所は、旅館・ホテル営業と比べて、玄関帳場の設置義務がなく、宿泊者を10人未満とする場合は面積基準も小さくてよい。制度面での間口が比較的広い種別だ。

だが、間口が広いことは、競争のしやすさの裏返しでもある。民泊の180日上限に縛られない代わりに、簡易宿所は同じ立地に増える競合と通年で向き合うことになる。制度上の要件を満たすことは、あくまで出発点にすぎない。 共用型という形態を、ゲスト同士の交流やローカル体験といった、個室主体のホテルには出しにくい価値に変えられるか。そこが簡易宿所の経営を分けるのではないだろうか。

よくある質問

簡易宿所とは何か。

旅館業法が定める営業種別の一つで、宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を主とする施設の営業をいう。ゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、ドミトリーなどが代表例だ。営業には都道府県知事等の許可が要る。

旅館・ホテル営業とは何が違うのか。

大きな違いは玄関帳場(フロント)と面積基準、そして共用を前提とするかどうかだ。旅館・ホテル営業では原則として玄関帳場(ICT等の代替設備でも可)が求められ、客室は7㎡以上(寝台設置は9㎡以上)が要る。一方、簡易宿所には玄関帳場の設置義務がなく、延床33㎡以上(宿泊者10人未満なら3.3㎡×人数以上)でよい。多数人での共用を前提とする点も異なる。

どのくらいの広さが必要か。

客室の延床面積は原則33㎡以上だ。ただし宿泊者を10人未満とする場合は「3.3㎡×宿泊者数」以上でよい。平成28年の施行令改正で緩和された。加えて、都道府県の条例で基準が上乗せされる場合があるため、所在地の保健所への確認が要る。

民泊とはどう違うのか。

民泊(住宅宿泊事業)は年間180日以内という提供日数の上限がある。簡易宿所は旅館業の許可を受けた営業なので営業日数の上限がなく、通年で営業できる。180日を超えて営業したい場合は旅館業の許可を取得する必要があり、簡易宿所はその選択肢の一つだ。

玄関帳場がなくても本人確認はどうするのか。

玄関帳場の設置義務はないが、宿泊者名簿の作成・保存などの義務は残る。無人で運営する場合の本人確認の方法や緊急時対応の整え方は、所在地の保健所に確認するとよい。

なぜ簡易宿所は増えているのか。

施設数は長期的に増加している。制度面では、10人未満の場合の面積基準や、民泊の180日上限との違いが、事業者が制度を比較する際のポイントになる。制度施行初期には、廃止した民泊の約6割が旅館業・特区民泊への転用を理由に挙げていた(観光庁調査、2019年)。

<出典>

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