「ツインのスーペリア」「デラックスダブル」。ホテルの客室名は、いくつかの言葉の組み合わせでできている。なんとなく雰囲気で選んでいるようでいて、これらの呼び名にはそれぞれ意味があり、しかも公的な統一規格はない。呼び名も基準も、施設ごとに決めている。
そして施設をつくる側から見ると、客室は宿泊業の売上を生む「商品」そのものだ。どんなタイプの客室を、どんな広さで、いくつ持つか。その設計が、そのホテルの稼働率と客室単価を大きく左右する。
本記事では、客室タイプの基本を整理したうえで、ベッドサイズやバリアフリー客室の基準にも触れ、それが施設づくりや収益とどうつながるのかまで見ていく。
この記事のポイント
- 客室タイプはベッド構成・グレード・機能の3つの軸で呼ばれ、公的な統一規格はない。
- ベッドの幅はシングル約97cmからキング約194cmまであり、JIS規格を元にしたメーカーの寸法だ。
- 一定規模以上のホテル・旅館を新築・増改築する場合、車椅子使用者用客室が客室総数の1%以上必要になる。
- 客室タイプの構成は稼働率や客室単価を考える前提になり、施設づくりの根幹をなす。
客室タイプを分ける3つの軸

客室のタイプは、大きく3つの軸で呼ばれる。この3つが組み合わさって、1つの客室名になる。
1つめはベッド構成だ。シングル(ベッド1台・1人定員)、ツイン(ベッド2台・2人定員)、ダブル(ベッド1台・2人定員)、トリプル(ベッド3台または3人定員)といった呼び名で、その部屋の定員とベッドの数を表す。2つめはグレードで、スタンダード、スーペリア、デラックス、スイートなどが広さや設備の格を示す。
スイートは寝室と居間が分かれた続き間の客室を指すが、デラックスやスーペリアといったグレード名は各社が独自に定義するため、同じ名前でも広さや設備は施設によって異なる。
3つめは機能で、隣室と内扉で行き来できるコネクティングルーム、車椅子でも使いやすいユニバーサルルームなどがこれにあたる。ユニバーサルルームは施設が販売上で使う呼称で、後述する法令上の「車椅子使用者用客室」と必ずしも同じものではない。
「ツインのスーペリア」なら、ベッド2台・中位グレードの客室、という具合に、この3軸を重ねて客室は表現される。繰り返しになるが、これらの呼び名に公的な統一規格はなく、線引きは施設ごとの裁量だ。
ベッドサイズの基本

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| サイズ | 幅 | 長さ | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| セミシングル | 85cm | 195cm | 介護用など |
| シングル | 97cm | 195cm | 1人用の基本 |
| セミダブル | 122cm | 195cm | ビジネスホテルの1人用に多い |
| ダブル | 140cm | 195cm | 2人用1台 |
| ワイドダブル | 154cm | 195cm | 2人でゆとり |
| クイーン | 170cm | 195cm | 2人用(1枚もの) |
| キング | 194cm | 195cm | スイート等の大型室 |
クイーン・キングは2枚に分割したタイプもある。長さは195cmが基本。
客室の中身を左右するのが、ベッド(マットレス)の大きさだ。日本で流通する主なマットレスの幅は、JIS規格を元に各メーカーが定めており、おおむね次のようになる。
セミシングルが幅85cm、シングルが97cm、セミダブルが122cm、ダブルが140cm、ワイドダブルが154cm、そしてクイーンが170cm前後、キングが194cm前後だ。長さはいずれも195cmが基本になる。ただしこれは規格を元にしたメーカーの寸法で、施設やメーカーによって数cmの幅がある。
とくにクイーンやキングは、1枚の大きなマットレスのほか、シングル2枚を並べて構成するタイプもある。
ホテルでの使われ方には傾向がある。ビジネスホテルの1人用ベッドは、シングルより寝返りに余裕のあるセミダブル(幅122cm)を採用する例が多い。一方、スイートなどの大型客室には、幅約194cmのキングが使われる。
ベッドの大きさは、そのまま必要な客室面積と宿泊料の設定に響いてくる。
客室の設備とアメニティ
客室の快適性を決めるのが、設備とアメニティだ。設備面では、部屋ごとに温度を調整できる個別空調か、建物全体でまとめて管理するセントラル空調か、といった空調方式のちがいがある。ほかにもWi-Fiや電源の充実度、水回りがユニットバスかセパレート(浴室とトイレが別)か、遮音・遮光といった要素が、客室のグレードを分ける。
近年は非接触チェックインや客室内タブレットなど、DXにかかわる設備を備える客室も増えている。
アメニティをめぐっては、環境規制の影響が大きい。2022年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法で、宿泊施設が提供する歯ブラシ・くし・ヘアブラシ・カミソリ・シャワーキャップが「特定プラスチック使用製品」に指定された。
これらを大量に提供する事業者には、有料化や声かけ、代替素材への切り替え、フロントでの設置提供といった使用合理化の取り組みが求められる。客室に当たり前のように置かれていたアメニティが見直されているのは、この法律が背景にある。
バリアフリー客室のルール
客室の基準のなかで、法律が明確に数値を定めているのがバリアフリー客室だ。バリアフリー法(高齢者・障害者等の移動等円滑化促進法)が改正され、2019年9月1日から、ホテル・旅館を新築・増改築する際の車椅子使用者用客室の設置基準が引き上げられた。
改正前は「客室総数が50室以上なら1室以上」で足りたが、改正後は「客室総数が50室以上なら、客室総数の1%以上」の車椅子使用者用客室が必要になった。対象は延べ面積2,000㎡以上かつ50室以上のホテル・旅館で、新築だけでなく増築・改築・用途変更も含まれる。
車椅子使用者用客室には、出入口の幅や車椅子が回転できる広さの水回りなど、細かな技術基準もあわせて定められている。
さらに国土交通省は、義務のかからない「一般客室」についてもバリアフリーへの配慮を推奨している。これを受けて東京都は、2019年の条例改正で、一般客室の整備基準を全国で初めて条例化した(対象は床面積1,000㎡以上の建築物)。
高齢化やインバウンドの多様化を背景に、客室のバリアフリーは「一部の特別な部屋」から「施設全体で考えるもの」へと位置づけが移りつつある。
客室づくりのいまのトレンド
近年の客室づくりは、広さや設備をそろえる競争から、「同じ器でどう差別化して単価を取るか」へと重心が移りつつある。内装デザインやコンセプトで個性を出し、物理的な豪華さではなく世界観で客室単価(ADR)を取りにいくライフスタイルホテルは、その典型だ。
客室は、広さや設備という「量」だけでなく、デザインや体験という「質」で単価を取りにいく時代に入っている。
設備面では、部屋ごとに調整できる個別空調が新築ではほぼ標準になり、一括管理のセントラル空調が主だった旧来施設との差別化点になっている。空調方式は快適性だけでなく、光熱費という運営原価にも直結する。
滞在のしかたの多様化も客室に表れており、ロングステイやワーケーションを見込んで、ミニキッチンや大型のデスク・電源を備えた客室も増えてきた。いずれも、限られた器から宿泊単価と滞在日数を伸ばそうとする、施設づくりの工夫だ。
客室の設計が収益を決める
ここまで見た客室タイプや広さは、施設をつくる側にとっては収益設計そのものだ。客室タイプの構成比(シングルやセミダブルを多く持つのか、スイートや多様な定員の部屋をそろえるのか)が、そのホテルの稼ぎ方を規定する。
シングル・セミダブル主体の構成は、手ごろな単価で数多く埋める「稼働率(OCC)重視」の宿泊特化型に向く。いっぽう、スイートや広めの客室、多様な定員構成をそろえれば、高い客室単価(ADR)と幅広い客層を取りにいける。言いかえれば、「どんな客室をいくつ持つか」が、そのホテルの稼働率と客室単価の取り方を大きく左右する。
もちろん稼働や単価は、価格設定や立地、需要、販売力など多くの要因で決まるが、その土台となる器を決めるのが客室構成だ。
あわせて読む 稼働率や単価といった客室指標の詳しい意味は別記事でくわしく解説している。
ホテルの「稼ぐ力」を測る3指標 稼働率・単価・RevPAR
客室の広さは、投資と収益と規制が交わる点でもある。旅館業法は2018年の改正で最低客室数の基準を撤廃したが、客室の広さや採光・換気などの構造設備基準は、いまも都道府県の条例で定められている。広い客室は高い単価を取りやすい半面、同じ延床面積なら持てる客室数は減る。
稼働で稼ぐか、単価で稼ぐか。客室の設計は、この選択とつねに背中合わせにある。
客室は、ホテルにとって最もつくり直しのきかない「商品」だ。メニューや接客は開業後も柔軟に変えられるが、客室の広さやタイプ構成は建物の設計時にほぼ固まってしまい、あとから増やすことも広げることも難しい。
だからこそ「どんな客室をいくつ持つか」の判断は、そのホテルの長期的な収益ポテンシャルを左右する、最も重い意思決定になる。単価の高い部屋をそろえれば稼げる、という単純な話ではない。その立地でどんな客層がどれだけ見込めるかを読み切り、稼働と単価のバランスを最適な客室構成へと翻訳できるかどうかに、施設づくりの巧拙が表れる。
そしてその器は、バリアフリー客室やアメニティのように、社会の要請や環境規制を映しながら少しずつ姿を変えてもいく。
よくある質問
<出典>
- 国土交通省「ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)」
- 仙台市「宿泊事業者の皆様へ(バリアフリー法改正・車椅子使用者用客室の設置基準)」
- 東京都都市整備局「高齢者・障害者等が利用しやすい建築物の整備に関する条例の改正(一般客室の整備基準)」
- 環境省「特定プラスチック使用製品の使用の合理化」
- フランスベッド「マットレスのサイズの選び方」
- 厚生労働省「旅館業法(全文)」


