博物館のおよそ半数が、来館者が手を動かす活動を行っている。日本博物館協会が2026年3月に公表した調査によると、2023年度に実技・対話等を伴う体験型の活動を行った館は54.2%にのぼる。
体験には、展示を見せるのとは違う制約がある。同じ時間に受け入れられる人数に上限があることだ。工作台の数も、実験を案内するスタッフの数も、増やすには金と人がいる。
そこで館は2つのことを別々に決めている。限られた定員を誰に渡すかと、料金をどこで取るかだ。この2つは別の設計で、価格をどこに置いたかが、コストが上がったときの受け皿を決める。 本記事では体験型ミュージアムとは何かを法律と統計から整理し、国内3館の実際の値付けから、その受け皿の違いを解説する。
この記事のポイント
- 「体験型ミュージアム」に法律上の定義はない。博物館法は工作室などを設けて使わせることを博物館の事業に挙げ、2022年の改正で「文化資源に関する体験活動」という語が条文に入った。
- 2023年度に実技・対話等を伴う体験型の活動を行った館は54.2%(速報値)。ただしこれは実施率で、常設の工房を持つ館の比率ではない。
- 値上げの受け皿は3つに分かれる。体験ごとの別料金に置くか、入口の変動価格に置くか、受け皿を持たないか。
- 別料金に置いた館では、入館料が開業時から動かないまま体験料だけが上がっていた。
- 自治体が設置する館は、価格の置き場所より前に、価格を動かす手続きから縛られる。
体験型ミュージアムに、法律上の定義はない
体験型ミュージアムとは、来館者が見るだけでなく、手を動かしたり参加したりする展示・企画を主役に置いたミュージアムを指す。ただし「体験型ミュージアム」という区分は、博物館法にも国の統計にも存在しない。 業界と読者のあいだで使われてきた通称である。
もっとも、体験そのものは法律の外にあるわけではない。博物館法は博物館の事業を12号にわたって並べており、その第4号に「一般公衆に対して、博物館資料の利用に関し必要な説明、助言、指導等を行い、又は研究室、実験室、工作室、図書室等を設置してこれを利用させること」を挙げている。実験室や工作室を設けて使わせることは、1951年に制定された当初から博物館の仕事に含まれていた。
法律が体験へ一歩踏み込んだのは2022年の改正である。約70年ぶりの単独改正で、新しい登録制度は2023年4月1日から動き出した。
この改正で第3条に第3項が加わった。博物館は地域の教育・学術・文化の振興と「文化観光」の推進を図り、地域の活力の向上に寄与するよう努める、という条文だ。条文はこの文化観光を、文化資源の観覧や「文化資源に関する体験活動」を通じて文化への理解を深めることを目的とする観光、と定義している。文化資源とは、有形・無形の文化的所産その他の文化に関する資源を指す。
体験活動という語は、観光を通じた地域貢献という文脈で条文に入った。 展示を見せるだけの施設から、体験を通じて地域に人を呼ぶ施設へ。国が博物館に期待する役割は、この改正で書き足された。
なお統計の側で最も近い区分は、日本博物館協会が教育普及活動の分類に用いる「実技・対話等を伴う体験型の活動」だ。本記事もこの区分を手がかりに使う。
あわせて読む ハコを持たない体験まで含めた「コト消費」の全体像は、別の記事で扱っている。
観光体験「コト消費」の全体像 訪日4,236億円が映す「使い道」の変化
数字で見る現在地 1,346館と、体験を行う5割
まず全体の規模を押さえる。文部科学省の社会教育調査によると、2024年10月1日現在の博物館は1,346施設、博物館類似施設は4,426施設ある。前回の2021年度調査と比べると、博物館は41施設増えた一方、類似施設は40施設減った。
この1,346施設には、登録博物館だけでなく博物館法上の指定施設も含まれる。登録を受けた館の数ではない点に注意したい。
来館の水準はどうか。同調査の1施設当たり利用者数は、2023年度間で博物館102,384人だった。この利用者数は入館者だけの数ではなく、学級・講座の受講者数と諸集会の参加者数を足した指標である。
前回調査の対象だった2020年度間は52,611人だから、水準は倍近くまで戻った。ただし比較の相手である2020年度間はコロナ禍と重なる年度で、水準そのものが大きく落ちていた。 公表資料も、この年度の1施設当たり利用者数は前回調査と比較して概ね全施設種で増加した、と記すにとどめている。
コロナ前と比べると別の姿が見える。同じ表には2017年度間の116,131人も並んでいる。2023年度間の102,384人は、コロナ前の水準にはまだ届いていない。
そのうえで体験の広がりを見る。日本博物館協会の令和6年度「日本の博物館総合調査」の速報版によると、2023年度に実技・対話等を伴う体験型の活動を行った館は54.2%だった。同じ表が挙げる座学主体の単発の講演会等は49.3%、現地見学会・観察会等は34.8%、映画会やコンサート等は24.9%、座学主体の連続講座は24.8%で、体験型の活動は教育普及活動5類型のなかで最も実施率が高い。
ここは読み方に注意がいる。この設問が聞いているのは年度内に実施したかどうかで、頻度も規模も問わない。年に一度の夏休みワークショップも、常設の工房を毎日開けている館も、同じ1票として数えられている。常設の体験設備を持つ館の比率ではない。
なお同調査は国内4,368館園を対象とし、2,507館園から有効回答を得たものだ。有効回答率は57.4%で、政府統計の社会教育調査とは母数も設計も違う。設問ごとに回答数も異なるため、比率の母数は設問単位で見る必要がある。
定員の配り方と、価格の置き場所は別の設計だ
体験型に踏み込むと、展示を見せるだけの館にはなかった問題が生まれる。体験は同時に受け入れられる人数に上限があり、その上限を超えた分は誰かに諦めてもらうしかない。麺を作れる台の数も、実験を案内できるスタッフの数も有限だ。以下、この上限を定員と呼ぶ。
見るだけの展示なら、混雑しても人は流れていく。だが手を動かす体験は、1人が使っている間ほかの人は使えない。だから体験型の館は、定員を誰に渡すかを決めなければならない。
配り方には整理券、当日の予約、事前の日時指定などがある。ここで混同しやすいのが、料金を取れば定員が配れるという思い違いだ。有料にしても、満席のときに誰へ渡すかは別の仕組みで決めるしかない。 実際、カップヌードルミュージアム 横浜は有料のマイカップヌードルファクトリーに整理券を出しており、混雑時には整理券が早くなくなると案内している。
定員には、収入を生まない枠もある。同館は学校の教育活動での利用を無料にしており、日本科学未来館も8名以上の団体には常設展を大人500円へ割り引く。学校団体の予約が先に入れば、その分だけ一般客に配れる枠は減る。定員の配分は、収入を生む枠と生まない枠の配分でもある。
そのうえで、館はもうひとつ別のことを決めている。価格をどこに置くかだ。体験ごとに置くのか、入口に集めるのか。そしてこの置き場所は、コストが上がったときにどこを動かせるかを決める。以下、国内3館の実際の値付けを見ていく。
別料金に置いた館 入館料は開業から動いていない
この図表のデータを見る
| 項目 | 2011年9月(開業時) | 2022年10月(改定後) | 2026年1月(改定後) |
|---|---|---|---|
| 入館料(大人・大学生以上) | 500円 | 500円 | 500円 |
| チキンラーメンファクトリー(中学生以上) | 500円 | 1,000円 | 1,200円 |
| チキンラーメンファクトリー(小学生) | 300円 | 600円 | 600円 |
| マイカップヌードルファクトリー(1食) | 300円 | 500円 | 500円 |
| カップヌードルパーク(1回30分) | 300円 | 500円 | 500円 |
いずれも税込。開業時の値は日清食品ホールディングスの2011年1月19日のリリースに載る施設概要による(同リリースでは「チキンラーメン手作り体験工房」「マイカップヌードル ファクトリー」「カップヌードル パーク」と表記)。2022年10月の値は同社の2022年7月11日のリリースによる改定後の金額で、入館料は大阪池田・横浜とも変更なしと明記されている。2026年1月の値は同社の2025年10月20日のリリース(2026年1月31日体験分から適用)とカップヌードルミュージアム 横浜の公式サイト「開館時間・料金」(2026年9月15日時点)による。2022年10月の改定前、チキンラーメンファクトリーの中学生以上は800円・小学生は500円、マイカップヌードルファクトリーは400円、カップヌードルパークは400円だった。カップヌードルパークは3歳以上・小学生以下が対象で、大人は利用できない。
最初はカップヌードルミュージアム 横浜(正式名称・安藤百福発明記念館 横浜)である。日清食品グループが2011年9月17日に開いた企業ミュージアムで、オープンから11年4か月後の2023年1月30日に来館者1,000万人を達成した。
料金の作りは入口と体験で分かれている。2026年9月時点の入館料は大人(大学生以上)500円で、高校生以下は無料だ。一方、体験にはそれぞれ値段が付く。チキンラーメンファクトリーは中学生以上1,200円、小学生600円。マイカップヌードルファクトリーは1食500円。3歳以上・小学生以下が対象のアスレチック施設カップヌードルパークは1回30分500円。麺を味わえるNOODLES BAZAARはハーフサイズの麺料理が1食500円、ミニチキンラーメンが250円だ。それ以外の展示やアトラクションの利用料は無料である。
日清食品ホールディングスが2011年1月に出した開業時の発表資料と並べると、この15年で何が動いたかがはっきりする。開業時の入館料は大人500円だった。同じ資料に載る体験工房の料金は、チキンラーメン手作り体験工房が中学生以上500円・小学生300円、マイカップヌードルファクトリーが1食300円、カップヌードルパークが1回300円である。
入館料は開業時の500円から動かないまま、チキンラーメンファクトリーの中学生以上は500円から1,200円へと2.4倍になった。 いずれも税込表示で、この間に消費税率は5%から10%へ2度上がっている。
直近の改定も同じ場所に当たった。日清食品ホールディングスが2025年10月20日に発表した改定では、2026年1月31日の体験分からチキンラーメンファクトリーの中学生以上が1,000円から1,200円になり、小学生600円は据え置かれた。教育活動での利用は引き続き無料である。改定の理由について、同社のリリースは原材料費や光熱費、人件費の高騰を挙げ、自助努力だけではコスト増を吸収することが困難な状況になった、と説明している。
ここは因果を1つに決めつけないほうがいい。体験料が上がりやすいのは、置き場所を選べたからだけでなく、小麦粉や包材、指導するスタッフという原価が積み上がり、値上げの説明が付くからでもある。ただし、説明の付く場所を持たない館には、上げる場所そのものがない。
変動価格に置いた館 入口1枚に値幅を持たせる
2つ目は森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレスだ。2018年にお台場で開業し、2024年2月9日に麻布台ヒルズへ移転オープンした。
同館の料金はチケット1枚に集約されている。館内に有料の体験メニューを並べる作りではない。その代わり、定員の配り方が価格に組み込まれている。
チケットは事前の日時指定予約が基本で、現地での販売はない。在庫が残っている場合のみ現地で買えるが、その料金はオンラインと異なる。券種は2つある。入場日時を指定するエントランスパスは大人3,600円からで、大人向けは変動価格制のため3,600円から5,600円のあいだで動く。中学・高校生は2,800円、4歳から12歳の子どもは1,500円だ。入場時間を事前に指定しなくてよいフレキシブルパスは、大人・子どもとも12,000円である。
ここで見落としやすいのが、入口に価格を集めた館でも、公表価格を改定せずに実収を動かせるということだ。 変動価格制の3,600円から5,600円という幅は、それ自体が値上げの受け皿になる。混雑する日の価格を上げるだけで、料金改定の発表をせずに単価が動く。
券種の差も同じ考え方の延長にある。入場時間を事前に指定しないフレキシブルパスの12,000円は、日時指定のエントランスパス3,600円から5,600円に対して約2.1倍から3.3倍にあたる。時間の指定は混雑を平準化するための運用に見えるが、指定するかしないかで価格を分けた時点で、それは券種の違いになる。
受け皿を持たない館 体験は整理券で配る
3つ目は日本科学未来館(東京・お台場)だ。科学技術振興機構が運営する科学館で、2001年7月9日に開館した。国の研究開発法人が運営しており、博物館法上の公立博物館ではない。
常設展は大人630円、小学生から18歳以下は210円で、毎週土曜日は18歳以下が無料になる。体験の定員は、この価格とは別のところで配られる。同館は「体験できる人数に限りがある展示などにおいて、整理券が必要な場合がございます」と公式に案内している。
配り方は展示ごとに違う。「ナナイロクエスト」と3階の「おや?っこひろば」は受付時間ごとの整理券を先着順で配り、「プラネタリー・クライシス」と「量子コンピュータ・ディスコ」は番号順の整理券を出す。「AIスーツケース」は当日の予約制で、7階のシアタールームは整理券に加えて常設展か特別展のチケットが要る。
これらの展示には、別途の体験料が設定されていない。 整理券そのものは料金を生まず、定員は来館した当日に、価格ではない基準で配られる。
追加の課金は体験の外側に置かれている。ドームシアターは追加券310円、常設展とのセット券は940円だ。特別展は別料金で、年間パスポートは大人1,250円である。体験そのものではなく、シアター、特別展、再訪のしやすさに値段が付いている。
言い換えれば、この館は体験料という受け皿を持たない。コストが上がったときに動かせるのは常設展の入場料そのものか、シアターや特別展の料金になる。
| 日本科学未来館 | カップヌードル ミュージアム 横浜 |
チームラボ ボーダレス |
|
|---|---|---|---|
| 運営 | 国立研究開発法人 科学技術振興機構 | 日清食品グループ | 森ビル |
| 入口の 価格 | 常設展 大人630円 | 入館料 大人500円 | エントランスパス 大人3,600円〜 (変動価格制) |
| 体験の 価格 | 整理券の展示に 体験料の設定なし | 工房ごとに 600〜1,200円 | 館内に有料の 体験メニューなし |
| 定員の 配り方 | 整理券(先着順・ 番号順)と当日予約 | 一部の工房で 整理券 | 事前の 日時指定予約 |
| 値上げの 受け皿 | なし (入場料・シアター・ 特別展を動かす) | 体験ごとの 別料金 | 入口の変動価格 (3,600〜5,600円) |
自治体の館は、価格を動かす手続きから縛られる
ここまでの3館はいずれも自治体の館ではない。自治体が設置する館では、価格の置き場所より前に、価格を動かす手続きが問題になる。
まず博物館法第26条がある。公立博物館は入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない、ただし維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は必要な対価を徴収できる、という条文だ。ここでいう公立博物館は、地方公共団体または地方独立行政法人が設置する博物館を指す。徴収の可否を定めた条文であって、金額の高低まで決めているわけではない。
金額のほうを縛るのは地方自治法だ。同法は、公の施設の設置および管理に関する事項と、使用料に関する事項を条例で定めなければならないと定めている。観覧料を変えるには条例を変えることになり、そこには議会の審議が挟まる。 値上げが必要になった月に動かせる性質のものではない。
指定管理者制度を採る館ではもう一段ある。同法は、指定管理者に施設の利用に係る料金をその収入として収受させることができ、その利用料金は条例の定めるところにより指定管理者が定める、としている。指定は期間を定めて行われ、指定にあたっては議会の議決を経る。動かせる幅は条例が先に決めており、動かせる時期は指定の期間に区切られる。
体験料をどこに置くかという設計は、この手続きの上に乗る。自治体の館で体験を有料にするなら、その料金を条例のどこに位置づけるか、指定管理者が定められる利用料金の範囲に入れるかを、企画の段階で決めておく必要がある。
更新の原資も、価格の置き場所で決まる
価格の話は、値上げのときだけの話ではない。建物の更新期にも同じことが効いてくる。
日本博物館協会の調査では、施設・設備の老朽化が問題になっていると答えた館が78.0%にのぼった。設置者別に見ると都道府県立は87.5%、市立は81.7%で、自治体が持つ館ほど比率が高い。
老朽化は、いずれ長い休館という形で表に出る。日本科学未来館は施設整備工事のため、2026年10月1日から2027年4月22日まで約半年間休館する。体験の定員を細かく設計しても、更新期が来れば館は長く閉じる。 体験に投じた工夫が収益を生むのは、開いている期間だけだ。
その改修の原資も、価格の置き場所とつながっている。体験に価格を置いていれば、原資は体験の売上に紐づく。入口に集めていれば入場料に紐づく。どちらも持たない館は、交付金や寄附、企業の協賛に頼ることになる。
定員の側にも上限がある。同時に受け入れられる人数を増やすには、設備を足すか、人を増やすか、営業時間を延ばすか、1回あたりの回転を上げるしかない。日時指定で時間帯ごとの混雑をならすことはできても、設備上の受入能力そのものは増えない。
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体験型ミュージアムの検討は、展示の中身から始まることが多い。だが値上げが必要になった日に効いてくるのは、企画の段階で決めた価格の置き場所のほうだ。
指定管理を受けている館なら、料金の設定権は条例と協定の範囲に閉じている。次の指定の期間に入ってから体験料を新設したくなっても、その枠が条例になければ動かせない。
体験の価格をどこに置くかは、次の更新のときに条例と協定へ何を書き込んでおくか、という話でもある。 5年後の値上げ余地は、そこで決まる。
よくある質問
出典
- 文部科学省「令和6年度社会教育統計(社会教育調査の結果)の確定値」
- 日本博物館協会「令和6年度 日本の博物館総合調査 調査結果の概要(速報版)」
- e-Gov法令検索「博物館法」
- 日本科学未来館「開館時間・入館料」
- カップヌードルミュージアム 横浜「開館時間・料金」
- チームラボ「チームラボボーダレス, 麻布台ヒルズ, 東京」


