フードホールとは 輸入された業態名と、共用席をめぐる実務

高い天井の下に飲食店が並び、共用の客席が置かれたフードホールの内観
Photo: Ludovic Charlet / Unsplash
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フードホールという言葉が、駅ビルや再開発の発表資料に出てくる。フードコートと何が違うのかを説明した記事も多い。

ところが、根拠を探すと見つからない。公的にも業界的にも、両者を分ける基準は示されていない。

理由ははっきりしている。この語は日本の制度から生まれたのではなく、海外の施設名として入ってきた業態名だからだ。輸入されたのは呼び方であって、定義ではない。

本記事では、この言葉がどこから来たのかをたどり、施設が発表資料で実際に公表していることと、共用の席をどの店の設備として扱うかという実務を整理する。

この記事のポイント

  • フードホールは輸入された業態名である。現在の形の起点は、2014年にリスボンのマーケットホールに開いたTime Out Marketで、編集者が店を選ぶことを売りにしていた。
  • 日本の法令には区分がない。日本ショッピングセンター協会がウェブで公開している用語解説にも載っていないが、これはSC統計のための定義集であり、業態名を収録する性格のものではない。
  • 同協会は2018年5月号の会報誌で「フードホール」を特集している。業界が扱っていないわけではない。
  • 実務で効くのは名前ではなく席の扱い。国税庁のQ&Aは、席が施設側の所有でも、設備設置者と店との合意があればその店の飲食設備に該当するとしている。
  • ただし該当すれば自動的に10%になるわけではない。持ち帰りか店内飲食かは顧客への意思確認などで判定する。フードホールで起きる「他店の飲み物の持ち込み」「館外への持ち出し」は、このQ&Aが直接扱っていない。
目次

この言葉はどこから来たか

現在使われている意味でのフードホールは、海外の施設名として入ってきた。

うめきた2期のグラングリーン大阪に出店したTime Out Marketは、シティガイド「Time Out」の編集者が監修する施設として発表されている。最初の店舗は2014年、リスボンの歴史的建築物にあるマーケットホールに開いた。 その後2019年に北米の主要5都市、2021年にドバイへ広がった。

大阪の店舗は、南館の地下1階で2025年3月21日にグランドオープンすると発表された。約3,000㎡に、厳選されたレストラン17店舗と2つのバー、イベントスペースを集積する構成である。

「マーケットホール」は市場の建物を指す語で、そこに編集者の選定という要素が乗ったものが、日本ではフードホールと呼ばれるようになった。輸入されたのは業態名であって、境界線ではない。

「定義がない」はどこまで言えるか

では、国内でどこまで「無い」と言えるのか。

法令には区分がない。食品衛生法とその施行令が定めているのは営業の種類であって、飲食店が何軒集まった空間をどう呼ぶかではない。

業界団体の側はやや込み入っている。日本ショッピングセンター協会がウェブで公開している「SCの定義/用語解説」に、フードコートもフードホールも載っていない。ただしこの一覧は、SC面積や店舗面積、キーテナントの業態区分といった、SC統計を取るための定義集である。業態フォーマットの名前を収録する性格のものではない。

一方で、同協会は会報誌「SC JAPAN TODAY」の2018年5月号で「フードホール ~SC空間の新潮流~」という特集を組んでいる。マーケットアイの欄には「広がりを見せるフードホール その定義と可能性」という外部識者の寄稿が載る。協会自身の公式定義ではないが、8年前の時点で業界誌が正面から扱っている。同協会は「新版 SC 用語辞典」という出版物も出している。

行政の文書にも語そのものは出てくる。国土交通省が公民連携の先行事例として公開した盛岡市の資料には、施設の区分表に「2階東棟 フードホール 飲食テナント」という行がある。

共用の席は、どの店の設備になるか

名前で線を引けない一方、席については行政の解釈がある。しかもこちらは、店の税額に直接効く。

国税庁の「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」に、問47「フードコートでの飲食」がある。ショッピングセンターのフードコートに出店するラーメン店からの質問で、テーブルや椅子はセンターの所有で自社の設備ではない、それでも「食事の提供」になるのか、という内容だ。

答えはこうである。飲食設備とは、飲食料品を提供する事業者が設置したものでなくても、設備設置者と飲食料品を提供している事業者との間の合意等に基づき、その設備を顧客に利用させることとしている場合は、これに該当する。

判定を分けるのは、席を誰が持っているかではない。その席を客に使わせる取り決めがあるかどうかである。

同じQ&Aは対象をさらに広くとる。テーブルのみ、椅子のみ、カウンターのみであっても、飲食目的以外の施設等に設置されたテーブル等であっても、これらの設備が飲食料品の飲食に用いられるのであれば飲食設備に該当する。バスターミナルの待合スペースに置いた椅子も、同じ扱いになる。

ただし、飲食設備に当たることと、その売上が10%になることは同じではない。持ち帰りか店内飲食かは、顧客への意思確認を行うなどの方法で判定することとされている。 コンビニのイートインについての問41に、その方法まで書かれている。

そして、フードホールで起きることの一部は、このQ&Aが直接扱っていない。品川インターシティのフードホールは、同じフロアのブルワリーレストランで買ったクラフトビールを持ち込めるとし、テイクアウトした料理を館外のガーデンやアトリウムで楽しむ導線も提案している。他店から持ち込んだ飲み物はどちらの店の店内飲食にあたるのか。館外へ出た料理は持ち帰りなのか。同Q&A全75頁に「フードホール」の語は出てこない。

(注:引用したのは平成28年4月/平成30年1月改訂版。問番号は改訂で変わることがある)

なお、食品衛生法の側は別の制度である。営業の許可は営業を営もうとする者が都道府県知事から受けるもので、対象は同法第54条にいう営業の施設、同法施行令第35条が挙げる32業種の第1号が飲食店営業である。共用の客席を誰の施設として扱うかを定めた規定は、当方が探した範囲では見当たらなかった。

あわせて読む 食を観光資源としてどう設計するかは、ピラー全体を見渡すこちらで整理している。

市場の屋台に並ぶ串料理。賑わう食市場(錦市場とみられる)の情景。フードツーリズムのイメージ フードツーリズムとは 飲食費2兆円を「地方」と「単価」に変える

施設が公表しているのは要件ではなく設計

フードホールを名乗る施設は、発表資料で何を打ち出しているのか。書かれていることだけを並べる。

同じ「フードホール」でも、公表している中身は重ならない
2施設が発表資料で明示している要素(右は品川インターシティの「SHINATERRACE KITCHEN」)
Time Out
Market Osaka
品川
インターシティ
編集者が監修店の選び方記載なし
約3,000㎡
17店+2バー
規模記載なし
記載なし座席ソファ・ベンチ
電源付き席
記載なし注文方法モバイル
オーダー
記載なし持ち込み他店のビール可
記載なし持ち出し館外で飲食
バー2店酒類ブルワリー
(注:「記載なし」は、その施設が公表した発表資料にその要素の記述が見当たらないという意味であり、実際に備えていないことを示すものではない)(注:Time Out Market Osakaは三菱地所2024年10月8日発表とオリックスほか2022年5月19日発表、品川インターシティは日鉄興和不動産2026年1月19日発表による。「持ち込み」は同じフロアのブルワリーレストランで買ったクラフトビール、「持ち出し」はテイクアウトした料理を館外のガーデン等で楽しむ導線を指す)
出典:三菱地所、オリックスほか、日鉄興和不動産の各発表資料をもとに編集部作成

そろっていない。座席の種類やモバイルオーダーに触れる施設もあれば、店の選び方だけを打ち出す施設もある。共通の要件として読める並びにはならない。

念のために書いておくと、複数の店の料理を共用席へ持ち寄ること自体は、フードホールに固有ではない。持ち寄りを禁じている旨を公表しているフードコートは、当方が確認した範囲では見当たらなかった。

通過点に食を置く型は昔からある

観光の文脈で目を引くのは、交通や買物のために人が来る施設に食を足す形である。

国内で資料をたどれる例が盛岡バスセンターだ。旧盛岡バスセンターは昭和35年4月に開業し、老朽化などを理由に平成28年9月で営業を終えた。市は平成29年3月に敷地を先行取得し、公民連携の代理人方式で建て替えを進める。

事業主体として設立されたのが盛岡ローカルハブ株式会社で、にぎわい施設の敷地は借地である。民間施設の整備費は11億1,300万円と資料に記載されている(注:ホテル・温浴施設・子育て支援施設を含む民間施設全体の額であり、フードホール単体の費用ではない。資料の表記は1,113,000千円で、読みやすさのため編集部が換算した)。

新しい盛岡バスセンターは令和4年10月4日に開業した。1階東棟にマルシェ、1階西棟に待合室と券売所と飲食テナント、2階東棟にフードホールが置かれている。3階はホテルと温浴施設、ジャズミュージアム、屋上広場である。

新しいのは、バスを待つ場所に食があること自体ではない。旧バスセンターは昭和35年の開業以来、地域のバス交通とにぎわいの創出に寄与してきたと市の資料にある。2018年の業界誌特集にも、ケーススタディの1本として広島バスセンターの「バスマチフードホール」が並んでいる。変わったのは、誰を入れるか、酒を出すか、どこまで持ち出させるかという設計のほうである。

名乗らずに運用してきた市場

名前を持たないまま、買う場所と食べる場所をつないでいる施設もある。

那覇市第一牧志公設市場は1950年に開設され、1972年の一度目の建替えを経て、2023年に二度目の建替えでリニューアルオープンした。市の説明によれば、1階には75店舗が軒を連ね、精肉・鮮魚・生鮮食品などを扱う。2階には食堂が並ぶ。

地元で「持ち上げ」と呼ばれる運用がある。1階で買った精肉や鮮魚を2階の食堂へ持ち上げ、有料で調理してもらう仕組みだ。市の営業案内にも「1階持ち上げ食材(精肉・鮮魚)調理ラストオーダー 午後7時45分」「調理は有料、一部商品に限ります」と載っている。

共用席も業態名も持たないまま、買う導線と食べる導線を有料の調理でつないでいる。フードホールが設備で解いていることを、この市場は運用で解いている。 市は、この市場を拠点としたマチグヮーが県外や海外からの観光客に人気の観光地として注目を集めている、とも書いている。

市場に飲食を組み込む計画は、いまも動いている。北九州市が2026年4月に公表した旦過市場の新商業施設の公募資料では、2階の商業フロア448坪を「北九州の様々な食を堪能できる店舗が集積した」空間とし、地域事業者や北九州産食材の使用が望ましいとされている。店の選び方を公募の条件に書き込んでいる点で、Time Out Marketが売りにした編集者の選定と発想は近い。

観光ビジネスの視点

品川インターシティが2026年3月に打ち出したのは、テイクアウトした料理を館外のガーデンやアトリウムで食べさせる導線だった。席を増やさずに滞在を伸ばす手で、床を広げられない駅ビルやバスターミナルの改装には効く。ただし持ち出した分が店内飲食にあたるのかは、国税庁のQ&Aが正面から答えていない。館外に出す設計をするなら、席の合意と一緒にこの線引きを所轄の税務署に確かめておきたい。

よくある質問

フードホールとフードコートに法律上の区別はあるか。

ない。食品衛生法もその施行令も、営業の種類を定めているだけで、飲食店が集まった空間の呼び方には触れていない。

共用の客席は誰の設備として扱われるのか。

消費税の判定では、所有者ではなく合意で決まる。国税庁のQ&Aは、飲食料品を提供する事業者が設置した設備でなくても、設備設置者と提供事業者との間の合意等に基づき顧客に利用させているなら、その事業者の飲食設備に該当するとしている。ただし飲食設備に当たることと売上が10%になることは別で、持ち帰りか店内飲食かは顧客への意思確認などで判定する。

バスターミナルや市場のベンチも飲食設備になるのか。

同じQ&Aは、飲食目的以外の施設に設置されたテーブル等でも、飲食料品の飲食に用いられるのであれば飲食設備に該当するとしている。飲食のために置いた席かどうかは判定を左右しない。

「フードホール」と名乗る必要はあるか。

少なくとも法令上、名称の使用を認定する制度や要件は設けられていない。那覇市第一牧志公設市場のように、名前を持たないまま買う場所と食べる場所をつないでいる施設もある。

フードコートを作り替えればフードホールになるか。

名称を変えるだけでは何も変わらない。本記事で挙げた施設が発表資料で示しているのは、店の選び方、座席の種類、モバイルオーダー、館内外の動線といった個別の設計である。先に決めるのは、どんな滞在をさせたいかのほうだ。

出典

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