FITは、観光業界で個人旅行や個人客を指す言葉だ。観光庁の通訳ガイド向けテキストは、FITを「Foreign Independent Tour」の略としている。FITとは、団体ツアーに入らず、個人や家族などの少人数で動く旅行のことだ。
訪日客の多くは、すでにこの形で日本を旅している。観光庁のインバウンド消費動向調査(旧:訪日外国人消費動向調査)では、2025年に団体ツアーに参加した人は9.6%で、残りの約9割は団体に入らずに来日した。
本記事では、FITの意味と団体旅行との違い、統計での数え方、国・地域による差を整理する。あわせて、ガイドや宿など受け入れる側の仕事との関わりを、公的資料の記述から紹介する。
この記事のポイント
- FITは個人や家族など少人数の旅行を指し、旅行会社で予約した人も団体で動かなければFITに入る。
- 2025年の訪日客のうち団体ツアーの参加者は9.6%で、2015年の25.6%から大きく下がった。
- 団体の比率はベトナムやタイ、台湾で高く、米国やドイツは数%にとどまるなど、国・地域で大きく違う。
- ツアーや航空券の申し込みは8割超がウェブ経由で、店頭(旅行会社や航空会社など)は1割台にとどまる。
FITとは団体で動かない個人旅行のこと
FITは英語の略語で、元になる言葉には揺れがある。観光庁の「通訳ガイドテキスト(初版)」は、FITを「個人又は家族等による少人数の外国旅行」と説明する。用語集では「Foreign Independent Tourの略。訪日個人旅行、個人客のこと」としている。
英ウェールズ政府観光局は、旅行業者向けの用語集で、FITを「Fully Independent Tour」や「Flexible Independent Traveller」の略と紹介している。呼び方は違っても、個人や少人数の旅行を指す点は共通している。
同じ用語集は、FITを個人やカップル、家族などの旅行者とし、旅行会社を通じて予約した人も含むと説明する。旅行会社を通じて予約していても、団体で動かなければFITに入る。
FITと対になるのが団体旅行だ。同じ用語集は、団体を、行程が決まったツアーに申し込み、一緒に旅行して同じホテルに泊まる旅行者と説明する。同じ観光地を回ることも多いという。
団体離れは一直線ではない
観光庁のインバウンド消費動向調査は、訪日客に旅行の手配方法を「団体ツアー」「個人旅行向けパッケージ商品」「個別手配」の3つの区分で尋ねている。同調査の2025年の確報(年間の確定値)では、団体ツアーへの参加が9.6%、個人旅行向けパッケージ商品の利用が3.2%だった。航空券や宿を個別に手配した人は87.2%を占める。団体ツアー以外を合わせると90.4%になる(編集部算出)。
観光庁が2026年6月の検討会資料で示した図によると、団体ツアーの参加者は、2015年の25.6%から2025年には9.6%まで下がった。この間に、個別に手配した人は62.1%から87.2%に増えている。
この図表のデータを見る
| 年 | 団体ツアーに参加(%) | 個人旅行向けパッケージ商品を利用(%) | 個別手配(%) |
|---|---|---|---|
| 2015年 | 25.6 | 12.3 | 62.1 |
| 2019年 | 16.9 | 6.5 | 76.6 |
| 2023年 | 10.7 | 3.9 | 85.4 |
| 2024年 | 12.2 | 3.6 | 84.2 |
| 2025年 | 9.6 | 3.2 | 87.2 |
一般客(クルーズ客を除く)・全目的の構成比。2019・2023〜2025年は観光庁「インバウンド消費動向調査(旧:訪日外国人消費動向調査)」各年の集計表(確報)表1-1による。2015年は観光庁「通訳案内士のキャリアパスに関して」(2026年6月)掲載の値。2016〜2018年と2020〜2022年は載せていない(2022年は試算値)。調査は期間中に調査地点や調査票の変更があり、2024年4-6月期から現在の調査名になった。
観光庁の通訳ガイドテキストも、同じ調査をもとに長期の動きを紹介している。観光・レジャー目的の旅行に占める個人旅行の割合は、2012年の約61%から2024年には約83%になったという。
ただし、減り方は一直線ではない。同調査の年ごとの集計表を見ると、団体の比率は2023年の10.7%から2024年は12.2%へいったん上がり、2025年に9.6%へ下がった。中国が2023年8月に日本向けの団体旅行を再開した時期と重なる。一方で、同じ期間に台湾やタイの団体比率も上がっており、中国の再開だけでは説明しきれない。
2026年の速報では、前年の同じ期を下回っている。団体ツアーの参加者は、2026年1-3月期が7.9%、4-6月期が8.8%だった(2次速報)。2025年の同じ期の確報は9.3%と10.0%である。
全体の比率は、各市場の団体参加率の変化に加え、どの国・地域から多く来たかによっても動く。2026年前半は、中国からの団体参加がほぼなくなった時期に当たる。中国からの旅行者に限ると、団体ツアーの参加は1-3月期が0.8%、4-6月期が1.6%にとどまる。
中国外交部は2025年11月、中国の人々に対し、当面は日本への渡航を避けるよう注意を呼びかけた。日本政府観光局(JNTO)の推計値では、2026年1〜8月に中国から日本を訪れた人は290万4,600人で、前年同期より56.7%少ない。
統計では手配方法を3つに分けて数える
インバウンド消費動向調査に、「FIT」という区分はない。手配方法は3つに分けて集計されており、業界でいうFITとぴったり重なるわけではない。
観光庁による同調査の用語の説明では、団体ツアーは「旅行会社等が企画したツアーで、大半の旅程を団体で行動するもの」だ。個人旅行向けパッケージ商品は、往復の航空券(船舶券)と宿泊などがセットになった個人旅行者向けの商品を指す。個別手配は、そのどちらも使わず、航空券や宿泊などを個別に手配することをいう。
| 団体ツアー | 個人旅行向け パッケージ | 個別手配 | |
|---|---|---|---|
| 調査での定義 | 旅行会社等が企画したツアーで、大半の旅程を団体で行動する | 往復の航空券(船舶券)と宿泊等がセットになった、個人旅行者向けの商品 | 団体ツアーもパッケージも使わず、航空券(船舶券)や宿泊等を個別に手配する |
| FITとの関係 | 当たらない | 当たる(団体で動かない) | 当たる |
| 2025年の割合 | 9.6% | 3.2% | 87.2% |
パッケージ
本記事では、団体ツアー以外の2つをFITとみなす。航空券とホテルがセットになった商品も、個人旅行者向けの商品だからだ。
ただ、どこまでをFITに含めるかは資料によって違う。観光庁の通訳ガイドテキストが示す2024年の個人旅行の割合(約83%)は、同調査の観光・レジャー目的の個別手配の割合(83.1%)とほぼ一致する。テキストに算出方法の説明はない。
団体の比率は国・地域で大きく違う
訪日客全体では約9割が団体に入らないが、国・地域ごとに見ると差が大きい。インバウンド消費動向調査の2025年の確報で、団体ツアーの参加率が最も高いのはベトナムの29.0%だ。タイ19.6%、台湾17.8%が続く。
反対に、ドイツとカナダはともに2.3%、米国は3.5%、英国は3.9%だった。
この図表のデータを見る
| 国・地域 | 団体ツアーに参加(%) | 個人旅行向けパッケージ商品を利用(%) | 個別手配(%) |
|---|---|---|---|
| 全国籍・地域 | 9.6 | 3.2 | 87.2 |
| ベトナム | 29.0 | 3.8 | 67.2 |
| タイ | 19.6 | 4.5 | 75.9 |
| 台湾 | 17.8 | 4.6 | 77.5 |
| インド | 12.3 | 2.8 | 84.9 |
| 中国 | 12.0 | 2.0 | 86.0 |
| イタリア | 11.0 | 7.8 | 81.2 |
| マレーシア | 10.8 | 2.4 | 86.8 |
| インドネシア | 9.2 | 2.7 | 88.0 |
| フィリピン | 7.2 | 2.8 | 90.0 |
| 韓国 | 6.6 | 2.5 | 90.9 |
| スペイン | 6.2 | 8.4 | 85.5 |
| 香港 | 5.5 | 4.0 | 90.5 |
| 豪州 | 4.4 | 7.2 | 88.4 |
| 英国 | 3.9 | 4.2 | 91.9 |
| シンガポール | 3.7 | 1.2 | 95.2 |
| 米国 | 3.5 | 2.1 | 94.4 |
| フランス | 2.8 | 4.7 | 92.5 |
| ドイツ | 2.3 | 3.0 | 94.7 |
| カナダ | 2.3 | 2.2 | 95.5 |
| ロシア | 0.6 | 0.8 | 98.6 |
観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年(確報)集計表 表1-1(一般客・全目的)の構成比。図は主な13か国・地域。この表は「その他」を除く20か国・地域を載せている。豪州=オーストラリア。
観光・レジャー目的に絞ると、差はさらに開く。同調査の2025年の年次報告書によると、観光・レジャー目的のベトナムからの旅行者は、約5割が団体ツアーに参加している。ツアーや航空券を店頭(旅行会社や航空会社など)で申し込んだ人も、観光・レジャー目的のベトナムでは5割にのぼる。
中国は、年ごとの振れが大きい市場だ。同調査の集計表によると、中国の団体の比率は2019年に27.1%あった。2023年は、中国政府が日本向けの団体旅行を8月まで再開していなかったため、3.5%にとどまった。2024年は11.9%、2025年は12.0%に持ち直したが、2026年1-3月期・4-6月期の速報では2%を下回っている。
受け入れる側の仕事との関わり
団体ツアーでは参加者がまとまって行動するが、FITでは個人や家族などがそれぞれの旅程で動くことが多い。旅行会社を通じて手配する場合もある。
ガイドの仕事には変化が出ている。観光庁の検討会資料(2026年6月)は、ガイドの仕事の依頼元は旅行会社が主流だが、個人からの手配も増えていると整理している。個人から直接受ける場合は、ガイドが施設との調整や事前・事後の対応も担うことがあり、より多くの能力が求められるという。
インバウンド消費動向調査では、ツアーや往復の航空券をウェブサイトから申し込んだ人が2025年に83.5%を占め、店頭は14.4%だった。2019年はウェブが70.2%、店頭が25.8%で、6年でウェブの比率が13ポイント余り上がった(編集部算出)。この設問が尋ねているのはツアーや航空券の申し込み方で、日本国内の宿や体験の予約経路ではない。
あわせて読む 国内の宿の予約経路については、予約サイト(OTA)の手数料の仕組みをこちらで解説している。
OTA手数料とは 宿が実際に負担する「実質コスト」の正体
宿の規模の問題もある。2026年3月に閣議決定された観光立国推進基本計画は、地方の温泉街などで、団体旅行を受け入れてきた大きな旅館が宿泊需要の変化で廃屋になっている例を挙げる。
個人旅行者向けに規模を縮小すれば再生が見込める場合でも、解体や減築(建物の一部を取り壊して小さくすること)の費用が重く、再生の壁になっているという。計画は撤去や減築への支援を掲げており、訪日客に限らず国内も含めた宿泊需要の話として書いている。
あわせて読む 訪日市場の規模や主要市場の特徴は、インバウンドの全体像のガイドで整理している。
インバウンドとは 9.5兆円市場を3つの数字で読む
2026年に入って団体ツアーの比率が下がったことを、個人旅行化が一段と進んだ証拠と読むのは早い。全体の比率は、各市場の団体参加率だけでなく、どの国・地域から多く来たかでも動くからだ。
2025年の確報で団体の比率が12.0%あった中国は、2026年1-3月期・4-6月期の速報で2%を下回った。渡航注意が出たあとの落ち込みで、旅行者が自ら団体を離れた結果とは言い切れない。
全体の比率が下がっても、団体の需要まで消えたとは限らない。ベトナムやタイ、台湾では、今も2割前後から3割近くが団体で動く。全体の比率の低下だけを根拠に、団体の受け入れ体制を縮めるのは早計だ。
よくある質問
出典
- 観光庁「インバウンド消費動向調査」
- 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」
- 観光庁「通訳ガイドテキスト(初版)」
- 観光庁「通訳案内士のキャリアパスに関して」
- 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年8月推計値)」


