花火大会の「存続の危機」 火薬・警備・担い手の三重苦と財源設計

市街地の夜空に一斉に開く花火。手前に街明かりが広がる
Photo: eto / photoAC
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値上げ45大会、中止・未定は5大会

帝国データバンク(TDB)が7月22日に公表した2026年の主要な花火大会の調査で、有料席を設けた84大会のうち45大会が値上げし、5大会が開催中止・未定になったことがわかった。調査の対象は、平年の動員客数が10万人以上(2023年調査時点)の全国106大会である。

運営費が上がるなか、値上げで収入の確保をはかる大会がある一方、実行委員会の高齢化やスタッフ不足、物価高、会場の事情などから開催を見送る大会も出ている。

背景にあるのは運営費の上昇だ。TDBは要因として、警備会社やイベント企画会社への委託費、人手不足による人件費の高騰、円安と中東情勢の緊迫化による火薬原料の値上がりと調達難、椅子やテントなど備品レンタル代の値上げを挙げる。

本記事では、このうち「火薬・警備・担い手」の三つに絞って費用が膨らむ理由を整理し、大会側がどう開催費を確保しているのかを、実際の収支から読み解く。

火薬・警備・担い手、三つの重荷

一つ目は火薬、つまり花火玉そのものの価格である。打ち上げ花火は号数が上がるほど高い。

新潟煙火工業の価格表では、直径約30cmの10号玉(尺玉)が1発7万1,940円、二尺玉が76万320円、三尺玉が178万2,000円となっている(いずれも税込・玉代のみで、打ち上げにかかる実費は別途)。

TDBは、円安と中東情勢の緊迫化で火薬原料が値上がりし、調達も難しくなっていると指摘する。火薬原料の値上がりも、開催費を押し上げる要因の一つである。

二つ目は警備費である。花火大会では雑踏事故を防ぐ警備が欠かせないが、その担い手が足りない。

経済産業省がまとめた分析は、警備業の人手不足を数字で示している。保安職業従事者の有効求人倍率は2025年に6.55倍と、全職業平均の1.12倍を大きく上回る。警備業界では60歳以上が約47%を占めるなど高齢化も進む。

賃金の相場も上がっている。人件費上昇の参考指標として、国土交通省が定める公共工事設計労務単価をみると、2026年3月適用分は全職種平均が前年比4.5%上がり、14年連続の上昇となった。

ただしこれは公共工事の積算に用いる単価であり、花火大会の警備委託費そのものを示す数字ではない。TDBも、警備会社やイベント企画会社への委託費の上昇と、人手不足による人件費の高騰を、運営費が膨らむ要因に挙げている。

三つ目は担い手である。TDBは、これまで花火大会を支えてきた地元商工会や自治会などのコミュニティは高齢化などで縮小が続いている、と指摘する。

地元の実行委員会や自治会、商工会が運営を担う大会では、その支え手が細れば、資金があっても運営そのものが立ち行かなくなる。TDBは、中止・未定となった大会について、地方では実行委員会メンバーの高齢化やスタッフ不足、警備費などの物価高を背景とする見送りが目立つとしている。

運営費を押し上げる三つの重荷
開催費が上がる要因のうち、本記事が取り上げる三つ(帝国データバンクの指摘と関連統計をもとに整理)
要因いま起きていること主な数字
火薬(花火玉)円安と中東情勢を背景に火薬原料が値上がりし、調達も難しくなっている(TDBの指摘)尺玉1発 7万1,940円(玉代のみ)
警備警備員の人手不足と賃金相場の上昇が重なり、警備会社への委託費が上がっている有効求人倍率 6.55倍/労務単価 +4.5%
担い手支えてきた地元商工会や自治会が高齢化で縮小。地方大会では高齢化・スタッフ不足・物価高を背景とする見送りが目立つ(TDB)中止・未定 5大会(106大会中)
出典:帝国データバンク「2026年 主要花火大会 有料席導入・価格調査」、国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」、経済産業省「安全・安心を守るサービス〜警備業〜」、新潟煙火工業「煙火価格表」をもとに編集部作成

収支が映す現実 18億円の大会は何で成り立つか

費用が膨らむなか、大会はどう開催費をまかなっているのか。全国有数の長岡まつり大花火大会を運営する長岡花火財団の令和7年度予算をみると、その構造がはっきりわかる。

収入・支出はともに約18億3,000万円。収入で最も大きいのは有料観覧席の販売で、約12億5,000万円と全体の約68%を占める。

次いで企業などからの協賛金が約3億4,000万円(約18%)、駐車場協力金が約1億5,000万円(約8%)、補助金が約7,600万円(約4%)と続く。補助金はその大半が長岡市からの派遣職員人件費補助金である。

寄付金はわずか246万円で、収入全体の0.1%にとどまる。長岡に関していえば、協賛金と補助金を合わせても収入の2割強で、有料観覧席はその3倍を稼ぐ。

長岡花火の収入と支出
長岡花火財団 令和7年度予算(単位=百万円)
長岡花火財団 令和7年度予算の収入内訳と支出内訳 単位は百万円。収入計1,834のうち有料観覧席の販売が1,248で最大、協賛金338、駐車場協力金146、補助金76、その他23、寄付金2。支出計1,831のうち会場設営事業費が452で最大、花火打上293、安全対策242、交通対策217、観覧席販売215、その他の事業費242、管理費170。安全対策と交通対策の合計459は花火打上事業費293の約1.6倍。 収入 計1,834百万円 有料観覧席の販売 1,248 協賛金 338 駐車場協力金 146 補助金 76 その他 23 寄付金 2 支出 計1,831百万円 会場設営事業費 452 花火打上事業費 293 安全対策事業費 242 交通対策事業費 217 観覧席販売事業費 215 その他の事業費 242 管理費 170
(注:単位は百万円、編集部が四捨五入。濃い青は収入・支出それぞれの最大項目、中間色は安全対策事業費と交通対策事業費。両者の合計459は、花火打上事業費293の約1.6倍。)
出典:長岡花火財団「令和7年度 事業計画及び収支予算」をもとに編集部作成
この図表のデータを見る
収入項目金額百万円
有料観覧席の販売約12億4,813万円1,248
協賛金約3億3,838万円338
駐車場協力金約1億4,601万円146
補助金約7,582万円76
その他(各種販売・業務委託料・運用益・雑収益)約2,344万円23
寄付金246万円2
経常収益計約18億3,425万円1,834
支出項目金額百万円
会場設営事業費約4億5,201万円452
花火打上事業費約2億9,333万円293
安全対策事業費約2億4,212万円242
交通対策事業費約2億1,704万円217
観覧席販売事業費約2億1,456万円215
その他の事業費約2億4,170万円242
管理費(人件費・施設費ほか)約1億7,048万円170
経常費用計約18億3,122万円1,831

出典:長岡花火財団「令和7年度 事業計画及び収支予算」。事業費計は約16億6,075万円、管理費計は約1億7,048万円。なお「大会運営事業費」(約15億175万円)は花火打上・会場設営・安全対策・交通対策・観覧席販売などを束ねる親科目のため、本表では内訳の各費目を掲げた。単位換算・構成比は編集部算出。

支出も重い。最も大きいのは観客席や会場を設営する会場設営事業費の約4億5,200万円で、花火の打ち上げそのものにかかる花火打上事業費が約2億9,300万円、安全対策事業費が約2億4,200万円と続く。

安全対策事業費と交通対策事業費の合計は約4億5,900万円で、花火の打ち上げ費の1.5倍を超える。観客を安全に集め、さばくための費用が、花火そのものを上回る規模になっている。

ただしこれは長岡の令和7年度予算が示す構成であり、他の大会に同じ内訳を当てはめることはできない。長岡では観覧席の販売が収入の約7割を占め、開催費を支える最大の財源になっているが、同じ組み立てをどの大会でも取れるわけではない。

あわせて読む 有料席の価格差と、経済波及効果の読み方は、それぞれ別の記事で扱っている。

寄付とクラウドファンディングはどこまで支えになるか

開催費の一部を確保する方法として、寄付やふるさと納税型のクラウドファンディングを活用する大会もある。

横浜市の第52回金沢まつり花火大会はクラウドファンディングサイトのREADYFORで目標250万円を掲げ、8月5日時点で191人から約190万円を集めた。使途は花火の購入・打ち上げ費、警備費、運営費だという。

千葉県の手賀沼花火大会は我孫子市がふるさと納税型のガバメントクラウドファンディングで目標100万円を、大分県の津久見市はつくみ港まつり花火大会で「これまで通りの打ち上げ数を維持し次世代に継続する」ための寄付を、それぞれ募っている。

ただし、ふるさと納税型のクラウドファンディングで集まる額は、いまのところ大きくない。ポータルサイト「ふるさとチョイス」の花火特集には、各地の実績が掲載されている。

松江水郷祭で約128万円、川崎市制記念多摩川花火大会で約31万円など、数十万円から百万円台の案件が目立つ。長岡の場合、寄付金は246万円で収入全体の約0.1%にとどまり、観覧席の販売や協賛金に比べれば補助的な位置づけだ。

それでも、地域の内外から支援を募る手段として、クラウドファンディングを使う事例は各地にある。

松江水郷祭のように、協賛・補助金を中心とした従来のかたちでは開催が難しくなったとして、有料観覧席(1人5,500円から)へ本格的に舵を切り、「税金に頼らない収入の確保」を掲げる大会も出てきた。

その有料席の価格がどこまで開いているかは、別記事で詳しく扱った。有料席、協賛金、補助金、寄付、駐車場協力金。どの財源をどう組み合わせるかが、大会ごとの課題になっている。

観光ビジネスの視点

花火大会を続けていくには、開催費と担い手を安定して確保する仕組みが欠かせない。長岡まつり大花火大会の令和7年度予算では、有料観覧席の収入が全体の約68%を占め、協賛金と補助金を合わせた2割強を大きく上回る。一方、寄付やふるさと納税を活用したクラウドファンディングで開催費を補う大会もある。

ただし、どの方法が適しているかは大会によって異なる。有料席の収入は集客規模や会場の条件に左右され、地域の支援体制にも違いがある。大切なのは、協賛金、補助金、有料席、寄付などを地域の事情に合わせて組み合わせ、特定の財源だけに頼らない仕組みをつくることだ。花火大会を存続できるかどうかは、持続可能な資金と運営の体制を築けるかにかかっている。

出典

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