アジア競技大会の食堂契約は5億円 街のガイドは155店舗中23店舗

アーケードの商店街を歩く人たち。名古屋・大須の飲食店や物販店が両側に並ぶ
Photo: Darel Low / Unsplash
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第20回アジア競技大会と第5回アジアパラ競技大会の組織委員会は、アジア競技大会の選手宿泊施設の食事に5億2,438万3,497円の食堂運営契約を結んだ。ハラル・ヴィーガン専用の完全調理済食品を供給する契約は、両大会をまたいで別に結ばれている。

街側にも取組はある。名古屋のガイドマップに載る飲食店155店舗のうち、食の多様性に対応する店は23店舗。前年度は9店舗だった。

同じ「食の多様性対応」でも、大会の中と外では決まり方が違う。片方は契約で先に決まり、もう片方は店が1軒ずつ手を挙げて積み上がる。その違いがどこから来ているのかを、公表された契約書類と自治体・協議会の資料から読み解く。

目次

選手宿泊施設の食は、契約で組み立てられた

組織委が選手向けの食事をどう用意してきたかは、公表された契約書類から読み取れる。

2025年11月17日に公表された契約状況によれば、「選手宿泊施設における食堂運営業務委託」の契約相手方はシダックスコントラクトフードサービスで、契約金額は5億2,438万3,497円。2025年9月5日に総合評価方式一般競争入札で決まっている。

食の多様性に絞った契約も別にある。2025年8月15日に公表された7月契約分に「愛知・名古屋2026大会における選手宿泊施設向けハラル・ヴィーガン完全調理済食品供給業務委託(単価契約)」があり、契約相手方は名鉄観光サービス中部営業本部、2025年7月9日に一般競争入札で締結された。こちらは件名のとおり両大会を対象にしている。

契約金額の欄は細かい。ハラル対応の朝食は1キロあたり肉が5,940円、魚が9,900円、卵が9,240円、豆が6,600円。ヴィーガン対応の豆は4,950円で、ハラルとヴィーガンの両方に対応するスープやパスタソースも別項目で並ぶ。

配送費はアジア大会期間中とアジアパラ大会期間中で別の単価が定められている。専用の食材が、品目ごとの単価まで決められたうえで契約されていた

組織委は2026年8月21日、選手や関係者が使うダイニングホールを報道陣に公開した。メ〜テレの報道によれば、ビュッフェ形式で毎食35品、最大で1時間に1,000人が利用できるという(注:組織委による公式発表は確認できず、報道各社の取材によるもの)。

だが、大会の設計図にあたる文書には具体が書かれていない。アジアパラ競技大会の開催基本計画は全65ページあるが、「ハラール」「ベジタリアン」の語は一度も出てこない。

選手の食事に触れた記述は「食文化や宗教に配慮する」の1文だけで、アジア競技大会の開催基本計画Ver.2も同じである。具体が読めるのは、計画ではなく契約のほうだ。

あわせて読む 食の多様性対応の基礎は、こちらで整理している。

多様な食事対応(ヴィーガン・ハラール等) インバウンドの食事対応とは ハラール・ヴィーガン・アレルギー対応の基礎

街側の対応は、店舗の数で測れる

では選手宿泊施設の外はどうか。こちらは金額ではなく、店舗の数で規模が見える。

名古屋の飲食店を紹介する「なごやめし飲食店ガイドマップ」を発行しているのは、なごやめし普及促進協議会である。事務局を務める名古屋観光コンベンションビューローの発表によれば、2026年8月31日発行の令和8年度版では掲載155店舗のうち23店舗が食の多様性に対応する。内訳はノンポーク・ノンアルコールが21、ハラール肉使用が4、ベジタリアン12、ヴィーガン5(重複あり)。

前年度は掲載130店舗のうち9店舗だった。1年で9から23へ増えている。協議会は同じ年度に、県内・市内の7店舗へ伴走支援も行っている。

この協議会は、愛知県・名古屋市・名古屋商工会議所・愛知県観光協会・名古屋観光コンベンションビューローの5者で構成されている。2015年の設立趣意にもこの5者が名を連ねており、県と市は枠組みの中にいる。

県は独自にも情報を出している。県公式観光サイトのムスリム向けページには対応施設の一覧があり、本誌が2026年9月6日に数えたところ123件が掲載されていた(注:施設カード1件を1件として集計。うち飲食が93件。このページは英語・韓国語・タイ語版にのみ置かれ、日本語版には存在しない)。ただし、そこからダウンロードできる紙のマップPDFは、紙面に「2021.3」とあり2021年3月版のままである。

自治体単独の動きもある。豊田市は市内の飲食・宿泊事業者向けの食の多様性セミナーを2026年4月20日に開くと発表した。定員は先着30人で、告知チラシには参加後の実地指導(5〜7月)やハラール認証の個別相談まで書かれている(注:市の公表資料に実施報告は見当たらず、開催されたかどうかは確認できていない)。

動きが最も速いのは事業者だ。名古屋市緑区のJBイレブンは2026年5月20日、両大会を見据えたムスリム・フレンドリーメニューの開発を発表した。方針は「ノーポーク、ノーラード、ノーアルコール」で、発表時点の提供は4ブランド6店舗。同社が7月に公表したところでは、6月25日から25店舗へ広げている。ハラル認証は取得していないが、調味料などは認証取得品を使うと明記している。

国のモデル事業の採択には、まだ届いていない。観光庁が公募する「多様な食習慣や文化的慣習を持つ訪日外国人旅行者の受入環境整備に向けたモデル事業」は、2025年度の採択9件にも2026年度の採択10件にも、愛知県内の自治体・団体が入っていない。選ばれたのは仙台市、金沢市観光協会、倉敷市、日光市観光協会、北九州観光コンベンション協会などである。

ただし、この名称での公募は2025年度から始まったもので、観光庁は2024年度に前身の「地域一体となったインクルーシブツーリズム促進事業」を措置している。応募件数は公表されていない。

大会は契約で、街は1軒ずつ
アジア・アジアパラ競技大会に向けた食の多様性対応(2026年9月6日時点)
選手宿泊施設街の飲食店
組織委員会3件とも一般競争入札で発注担い手協議会・自治体・事業者なごやめし普及促進協議会の構成団体は愛知県・名古屋市・名古屋商工会議所・愛知県観光協会・名古屋観光コンベンションビューロー
確認できた契約は3件食堂運営業務委託5億2,438万3,497円(多様性対応分の内訳は非公表)/ハラル・ヴィーガン完全調理済食品供給の単価契約(総額非公表・配送費は大会ごとに別単価)/仮設食堂賃貸借7,700万円対応の担保ガイド掲載155店舗中23店舗が対応なごやめし飲食店ガイドマップ令和8年度版。前年度は130店舗中9店舗。ほかに伴走支援7店舗、豊田市のセミナー(先着30人・実施状況は未確認)
選手団・大会期間中単価契約は両大会を対象。食堂運営と仮設食堂の2件は契約件名上「第20回アジア競技大会」のみで、アジアパラ競技大会分を含むかは公表資料から確認できない対象と時間軸一般客・平時から県公式観光サイトのムスリム向け掲載施設は123件(2026年9月6日に本誌が集計)。紙のマップPDFは2021年3月版のまま
出典:愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会「契約状況の公表」(2025年7月契約分・9月契約分・10月契約分)、名古屋観光コンベンションビューロー「「なごやめし飲食店ガイドマップ」令和8年度版を発行」(2026年9月3日)、なごやめし普及促進協議会公式サイト、愛知県公式観光サイトの掲載情報をもとに編集部作成。

街側が動いていないわけではない

ここまでの数字を「街は遅れている」と読むのは早い。反対に読める材料もそろっている。

まず、対応店舗は1年で9から23へ増えた。県のムスリム向け掲載施設も、本誌が同じ基準で数えた2026年6月11日時点の103件から、9月6日には123件へ増えている。食の多様性への対応が広がっていること自体は、数字に表れている。

次に、愛知県が2025年3月の地域活性化ビジョンのロードマップに掲げた「ハラル等への対応店舗のマップ化」は、ゼロから始める話ではない。県は2021年の時点でムスリム向けの紙マップを作っており、Web掲載のほうは更新が続いている。掲げられたのは新規施策ではなく、既存の枠組みの充実だったと読むほうが実態に近い。

それでもなお、両者の性格は違う。組織委の側は、品目ごとの単価と配送費まで契約で定められている。街側の23店舗は、事業者がそれぞれの判断で選んだ結果の積み上げである。決まり方が違うぶん、大会が終わったあとの残り方も違う。

大会が呼ぶ顔ぶれと、平時の客層は違う

その「残り方」を左右するのが、名古屋に実際に泊まる客の構成である。以下は全国の推計と名古屋市内の調査を並べるが、両者は母集団が違う。全国の数字は市場の大きさを、名古屋の数字は足元の客層を示すものとして読み分けたい。

需要の規模そのものは小さくない。観光庁の参考推計では、2025年の訪日ベジタリアン・ヴィーガン等は約221万人で訪日旅行者の約5.2%、訪日ムスリムは約164万人で約3.8%にあたる。飲食費はそれぞれ年間およそ1,077億円、787億円と見込まれる(注:ビジットジャパン重点市場のうち単一国で構成される20カ国を対象に国別比率を乗じた推計で、中東と北欧は母集団に含まない。飲食費は訪日客の飲食消費額全体を構成比で按分したもの)。

伸びも続いている。JNTOの確定値では、2025年のインドネシアは64万577人で前年比23.7%増、マレーシアは63万6,575人で25.6%増。上の推計には含まれない中東地域も25万7,197人で54.7%増と、いずれも全体の伸び15.8%を上回った。

大会には別の顔ぶれが来る。アジアパラリンピック委員会に加盟する45の国と地域のうち、人口の過半数をムスリムが占めるのは25にのぼる。

一方、名古屋に泊まっている外国人の構成はこれとは別の姿をしている。名古屋市の令和6年観光客・宿泊客動向調査で国・地域別の回答が得られた80施設では、2024年の外国人宿泊客は中国28.5%、台湾25.3%、香港11.4%、韓国11.3%で、東アジアの4市場だけで76.5%を占める

インドネシアは1.5%、マレーシアは1.2%。両国を足しても3%に届かない。国籍だけで食習慣は決まらないため、この構成比がそのまま需要の不在を意味するわけではない。ただし、大会期間中に想定される客層と、平時に来ている客層が同じ形をしている保証もない。

大会の需要は10月で終わる。平時の客層は、その後も店の前を通り続ける。どちらに合わせて対応を設計するかで、大会が去ったあとに残るものは変わる。

あわせて読む ハラールの考え方そのものは、こちらで解説している。

ムスリム家族のイフタール(ハラール料理) ハラールとは 意味・ハラール認証・対応の基礎知識
観光ビジネスの視点

大会が来れば、地域の受入環境も整う。そう思われがちだ。しかし名古屋で金額まで確認できるのは、5億2,438万円の食堂運営とハラル・ヴィーガン食の供給契約で、いずれも選手宿泊施設内に限られる。

街の対応店舗も1年で9店から23店に増えたが、掲載155店の一部にすぎない。大会が費用を負担する範囲は整う。しかし、それが街に広がり、定着するかは別の問題だ

外国人宿泊者の8割近くを東アジアが占める名古屋で、大会後も対応を続ける理由を説明できるか。問われるのは、大会後に残る仕組みである。

出典

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