農村で体験や宿泊の事業を始めたい人、地域で旅行者を受け入れる体制をつくる人に向けて、アグリツーリズムという言葉を解説する。似た言葉にグリーン・ツーリズムと農泊があり、3つはよく並べて使われる。
3つの違いは、誰が主役かに注目すると整理しやすい。本記事では、アグリツーリズムを農家が自分の農場で客を迎える事業、農泊を地域単位で進める政策と取り組み、グリーン・ツーリズムを農村で過ごす滞在型の余暇活動として捉える。この見方は本記事のもので、公的な定義ではない。
以下では3つの定義と成り立ちを押さえ、日本とイタリアの規模を比べたうえで、体験を商品として売るときの価格の目安を見る。
この記事のポイント
- アグリツーリズムは農場を舞台にした観光を指す言葉で、日本の法律に定義はない。
- グリーン・ツーリズムは1992年に提唱され、「農泊」の名前での国の支援は2017年度に始まった。
- 農泊の支援に採択された地域は、2025年度末で701地域になった。
- 統計で見える農場の観光事業は小規模な経営体が多く、観光農園の営業日数は平均で年95日である。
- イタリアでは2万6,360の農場が法律に基づいて客を迎え、客の半数超が外国人。
- 農泊地域の体験プログラムの平均料金は3,442円で、料金分布では4,000円未満の区分が計7割になる。
アグリツーリズムとは農場が舞台の観光
アグリツーリズムは、農業(アグリカルチャー)と観光(ツーリズム)を合わせた言葉だ。アグリツーリズムは、農場を舞台に、農業と結びついた宿泊や食事、収穫などの体験を提供する観光を指す言葉として使われる。国によって制度や対象の範囲は異なる。本記事では、農業者が自分の農場を使って営む観光事業という意味で使う。
アグリツーリズムを法律で定義している国に、イタリアがある。イタリア国立統計研究所(ISTAT)の資料によれば、イタリアの法律は、農業者が自らの農場を使い、耕作・林業・畜産と結びつけて行う受け入れやもてなしの活動をアグリツーリズモとしている。現行の法律は2006年に定められた。
対象になる活動は、宿泊、主に自家産や地域の農場の産品を使った食事の提供、ワインを含む自家産品の試飲・試食、そして農場の内外で行うレクリエーションや教育、ハイキングなどである。細かな基準は州ごとの法律で決める。
米国農務省経済調査局は、農場で提供される狩猟や釣りなどのレクリエーション、宿泊などのもてなし、祭りやふれあい動物園などの娯楽をアグリツーリズムとして扱っている。
一方、日本の法令にこの言葉は出てこない。e-Govの法令検索で全文を検索しても、「アグリツーリズム」は0件で、「アグリ・ツーリズム」と表記を変えても同じだった(2026年9月時点)。
近い制度はある。1994年に制定された農山漁村余暇法は、主として都市の住民が余暇を利用して農村に滞在しつつ行う「農作業の体験その他農業に対する理解を深めるための活動」を定義している。
人を宿泊させ、こうした活動に必要なサービスを提供する営業を、農林漁業体験民宿業と呼ぶ。法律の正式名は「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」である。
統計では、農林水産省の6次産業化総合調査が、農家や農業法人などの農業経営体が営む観光農園・農家民宿と、農業経営体や農協などが営む農家レストランを数えている。本記事で確かめた公的統計には、アグリツーリズムを直接数えたものはなく、この3業態が近い指標になる。
主役に注目すると違いが見える
グリーン・ツーリズムと農泊は、アグリツーリズムと生まれた時期も、指すものも異なる。
グリーン・ツーリズムは、1992年にグリーン・ツーリズム研究会の中間報告が提唱した言葉だ。農林水産省の資料によれば、定義は「緑豊かな農村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ、滞在型の余暇活動」である。欧州で農村に滞在してバカンスを過ごす過ごし方が広がっていたことを踏まえたものだった。
1992年の定義は、グリーン・ツーリズムを旅行者の余暇の過ごし方として書いている。誰が宿や体験を売るかは、定義に入っていない。
政策用語としての農泊は、ずっと新しい。農林水産省の2017年度予算資料によれば、2016年3月の「明日の日本を支える観光ビジョン」に「滞在型農山漁村の確立・形成」が盛り込まれ、2017年度予算で「農泊」の推進に50億円がついた。
狙いは「持続的なビジネスとしての『農泊』」の推進で、政策目標には2020年度までに農泊地域を500地域つくることを掲げた。
農林水産省は現在、農泊を「農山漁村に宿泊し、滞在中に地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ『農山漁村滞在型旅行』」と定義する。国の支援は地域単位で行われ、法人化された中核法人を中心に、宿泊や飲食、体験の事業者、自治体などが参加する地域協議会が支援を受ける。宿の経営者が単独で申請することはできない。
農泊では、泊まる宿が農家である必要はない。農林水産省の資料は、農泊の宿泊の例として農家民宿のほか、古民家の一棟貸しや廃校を改修したホテルを挙げている。なお、農泊も法律で定義された言葉ではなく、予算と政策の中で使われてきた言葉である。
| アグリ ツーリズム |
農泊 | グリーン・ ツーリズム |
|
|---|---|---|---|
| 注目する 単位 | 農家 | 地域 (協議会・中核法人) | 旅行者 (過ごし方) |
| 指すもの | 農場を舞台に農業と結びついた宿泊・食事・体験を提供する観光 | 農山漁村に泊まり、食事や体験を楽しむ滞在型旅行 | 農村で自然・文化・交流を楽しむ滞在型の余暇活動 |
| 定義・ 制度化 | 日本は定義なし。イタリアは法律で定義(現行法は2006年) | 2016年の観光ビジョンを受け2017年度に予算化 | 1992年に研究会の中間報告が提唱 |
| 日本の 主な数字 | 観光農園4,350経営体、農家民宿770経営体 | 採択701地域、延べ867.6万人泊 | 農泊地域のような統一的な集計単位はない |
ツーリズム
ツーリズム
3つを並べると、グリーン・ツーリズムは旅行者の過ごし方として定義され、農泊は旅行を指す言葉だが国の支援は地域単位で組まれ、アグリツーリズムは本記事では農家の事業として捉える。注目する単位がそれぞれ違う。
訪日客の関心と国の目標
自然や農村での体験には訪日客の関心がみられ、国も農泊の拡大目標を掲げている。
観光庁のインバウンド消費動向調査によれば、2025年に訪日客のうち「自然体験ツアー・農山漁村体験」をした人は8.7%だった。次回したい人は20.4%と2倍を超え、した人の満足度は96.3%だった。ただしこの項目は自然体験ツアーを含み、農村の体験だけの数字ではない。
訪日客の泊まる先は偏っている。農林水産省の資料が引く観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、2024年(暦年)の外国人延べ宿泊者数の84.6%が、東京や大阪、京都など上位10都道府県に集中した。
国は農泊を地方に客を呼ぶ手段と位置づけている。2026年3月に閣議決定された観光立国推進基本計画は、農泊を地方誘客の項目に置き、2029年度までに農泊地域の延べ宿泊者数を1,200万人泊、宿泊などの売上額を2,200億円にする目標を書き込んだ。
支援に採択された農泊地域は701
地域単位の農泊から数字を見る。農林水産省の資料によれば、農泊地域は2017年度の206地域から2024年度には673地域になり、2025年度末には701地域になった。ここでいう農泊地域は、農山漁村振興交付金で農泊推進の支援に採択された地域を指す。いま受け入れを続けている地域の数と同じとは限らない。
農泊地域での延べ宿泊者数(泊まった人数に泊数をかけたもの)は、2024年度に867.6万人泊だった。コロナ禍前の2019年度の589.2万人泊を上回っている。このうちインバウンドは74.8万人泊で、比率は2019年度の6.4%から8.6%に上がった。
受け入れる宿は、673地域で5,742軒ある。国の支援で整備された古民家の宿は、2017年度の11軒から2024年度には累計123軒になった。
課題は単価だ。農泊地域の平均宿泊費は、2024年度末時点で1万3,196円だった。同じ資料は比較として、観光庁の旅行・観光消費動向調査(2024年)の観光・レクリエーション旅行の1泊あたり宿泊費1万8,940円を挙げる。
集計の時点と方法は異なるが、資料はこの差を「高付加価値化が課題」と説明している。宿泊などの売上額は、2024年度に1,598億円だった。
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統計で見る農場の観光事業の規模
農場が自ら営む観光事業の規模を、統計から見る。アグリツーリズムを直接数えた統計はないため、6次産業化総合調査の2024年度の結果から観光農園と農家民宿を取り上げる。農家レストランは農協などが営むものを含むため、ここでは外した。
観光農園は4,350の農業経営体が営み、年間販売金額は391億円だった。1経営体あたりの平均は900万円だが、販売金額が100万円未満の経営体が29.2%、100万〜500万円が30.9%で、500万円未満が約6割を占める。
観光農園の営業日数は、1経営体あたり平均で年95日である。果実を扱う経営体が90.3%を占める(複数回答)。ただし、営業日が1年のどこに集まっているかは、この統計からは分からない。
農家民宿は、観光農園より規模が小さい。旅館業法の許可を得て営む農家民宿は770経営体で、年間販売金額は49億円、1経営体あたりの平均は638万円だった。販売金額が100万円未満の経営体が46.7%で、小規模な経営体が多い。
営業日数は平均で年133日、延べ宿泊者は1経営体あたり年650人である。770経営体のうち外国人が泊まったのは410で、宿泊者全体に占める外国人の割合は9.2%だった(編集部算出)。
この数字を読むときは、対象の範囲に注意がいる。調査が数えるのは農業経営体が営む事業だけで、農業を営まない法人が運営する宿や、旅館業法の許可によらない農家民泊は入っていない。統計で見えるのは、農家による受け入れの一部である。
農泊地域の5,742軒と農家民宿の770経営体も、数えている対象が違う。
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イタリアは農場ごとに認可
アグリツーリズムを法律で定めるイタリアの数字を並べる。ISTATが2026年3月に公表した2024年の調査によれば、認可を受けたアグリツーリズモは2万6,360経営体で、前年より0.9%増えた。
うち宿泊を提供するのは2万1,449経営体で、全体の81.4%を占める。宿泊客は470万人、延べ1,710万泊で、平均滞在は3.6日だった。宿泊客の54.8%は外国人で、外国人の滞在は平均4.2日と長い。
アグリツーリズムが生み出した金額(経済価値)は19億3,400万ユーロで、1経営体あたり約7万3,300ユーロになる。イタリアの市町村に当たる自治体(コムーネ)の63.7%に、少なくとも1軒がある。
米国農務省の2022年農業センサスによれば、米国でアグリツーリズムとレクリエーションの収入があった農場は2万8,617あり、収入の合計は12億5,926万ドルだった。
ただし日本の数字とそのまま比べることはできない。イタリアは、宿泊や食事、試飲・試食などアグリツーリズモの活動の認可を受けた農業経営体を数える。日本の6次産業化総合調査は、観光農園や農家民宿といった業態ごとに数えている。制度も対象の範囲も違う。
位置づけにも違いがある。農林水産政策研究所の報告は、イタリアの特徴を2つ挙げる。イタリアは法律でアグリツーリズムを「農業を補完するもの」と位置づけ、食事には地域産や品質保証された産品を求めている。制度の単位で見ると、イタリアは農場ごとに認可し、日本の農泊は地域を単位に支援を組んでいる。
体験はいくらで売られているか
日本で体験を商品として売るとき、目安の1つになるのが価格だ。農林水産省の実績調査によれば、農泊地域の体験プログラムの平均料金は1回3,442円だった。
同じ資料の料金の分布では、1,000円未満が14%、1,000円台が19%、2,000円台が17%、3,000円台が20%だった。分布では、4,000円未満の区分が計7割になる。1万円以上は4%である。この分布が地域ごとの平均値なのか個々のプログラムなのかは、資料に明記されていない。
この図表のデータを見る
| 料金(1回) | 構成比(%) |
|---|---|
| 1,000円未満 | 14 |
| 1,000〜1,999円 | 19 |
| 2,000〜2,999円 | 17 |
| 3,000〜3,999円 | 20 |
| 4,000〜4,999円 | 9 |
| 5,000〜5,999円 | 11 |
| 6,000〜6,999円 | 0 |
| 7,000〜7,999円 | 2 |
| 8,000〜8,999円 | 2 |
| 9,000〜9,999円 | 1 |
| 10,000円以上 | 4 |
農林水産省「農泊をめぐる状況について(令和8年8月13日時点)」の図「平均体験プログラム料金分布(円/回)」から読み取った値。地域ごとの平均値の分布か個々のプログラムの分布かは原資料に明記されていない。原資料は整数の百分率で表示しており、合計は99%。平均料金は3,442円。図では6,000〜9,999円の4区分を1本にまとめている。
1地域あたりの体験プログラム数は、2018年度の16.4から2022年度には11.7まで減り、2024年度は15.8だった。2018年度の水準にはまだ届いていない。1地域あたりの食事施設数は3.9に増えている。
農家と地域の取り組み事例
農林水産省は農泊全体について、高付加価値化を課題に挙げている。同省の資料が紹介する事例から、農家と地域の取り組みを見る。
栃木県大田原市のmomo farmは、16ヘクタールで米や麦をつくる農家だ。修学旅行などの受け入れを続けてきたが、2022年に築100年の蔵や納屋を改修し、一般の旅行者も泊まれる宿を始めた。
宿泊者には、田植えや稲刈り、生き物調査、オーナーとの共同調理のほか、酒米や酒の仕込みの体験も用意している。宿は長女、体験は長男が担当する。宿泊と食事を切り離す泊食分離のスタイルをとったことで、近くの小売店や飲食店の収益も増えたという。
価格の面では、長野県佐久市のSAKU酒蔵アグリツーリズム推進協議会の取り組みがある。現役の酒蔵での蔵人体験を、宿泊込みの2泊3日で1人8万9,800円の商品にしている。2023年度のインバウンドの比率は40%だった。
奈良県明日香村は2025年、国連の観光機関UN Tourismが選ぶ「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」に認定された。農林水産省の資料は評価点として、昔ながらの農家を改装した宿や、地域の文化に根ざしたアクティビティを挙げている。
農泊地域へのアンケートでは、地域の食を最大限に生かす取り組みに意欲的な地域が71%、農山漁村の体験で現場への理解を深める取り組みに意欲的な地域が73%あった。後者の65%は教育旅行の受け入れにも意欲を示している。
農泊地域とそれ以外の地域の違いについては、農林水産省が農林業センサスを使った分析を公表している。2015年から2020年にかけて、農泊地域を含む市町村の農業経営体は、それ以外の市町村と比べて農業関連事業の売上と通年で雇う人数の伸びが大きく、その差は偶然とは言えない水準だった。
ただし、農泊が差の原因かどうかまでは、この比較からは言えない。
あわせて読む 体験と食を組み合わせて単価を上げる考え方は、食の観光の全体像のガイドでも取り上げている。
フードツーリズムとは 飲食費2兆円を「地方」と「単価」に変える
統計で見える範囲では、農場が自ら営む観光事業は小規模な経営体が多く、営業日数も限られる。観光農園の営業日数は平均で年95日で、販売金額500万円未満が約6割を占める。旅館業法の許可を得た農家民宿に限れば770経営体で、100万円未満が46.7%である。
これに対し、国の農泊の支援は、法人化された中核法人を中心とする地域協議会を単位に組まれている。この数字と制度を並べると、農家が宿まで自前で持たなくても、協議会や中核法人がつくる滞在商品に自分の体験を組み込んでもらう道が、日本の支援の枠組みに沿った選択肢になる。
イタリアでは、認可を受けたアグリツーリズモの8割が宿泊を扱い、農場ごとに認可を受けている。日本で国の支援が向かう単位は、農場ではなく地域である。
よくある質問
出典
- 農林水産省「農泊をめぐる状況について(令和8年8月13日時点)」
- 農林水産省「グリーン・ツーリズムの定義と推進の基本方向」
- 農林水産省「平成29年度予算の概要 『農泊』の推進」
- 農林水産省「6次産業化総合調査 令和6年度」(e-Stat)
- ISTAT「Le aziende agrituristiche in Italia – Anno 2024」
- 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」


