外国語で旅行の案内を依頼する観光事業者にとって、全国通訳案内士は知っておきたい国家資格だ。国家試験に合格し、住んでいる都道府県に登録すれば、全国で活動できる。
2018年の法改正で、資格がなくても有償で案内できるようになった。一方、全国通訳案内士の名称は、国家試験と登録を経た人だけが使える。登録者は2万7,670人だが、観光庁が主に通訳案内で生計を立てていると見込む人は3,000〜4,000人程度だ。全国通訳案内士は、登録者が多く見えても、通訳案内で生計を立てている人は限られる。
観光庁・日本政府観光局(JNTO)・法令の資料をもとに、2018年改正後の制度と試験、登録者の偏りを確認する。案内を依頼する側が確かめたい点も整理する。
この記事のポイント
- 2018年の改正で業務独占は廃止され、無資格でも有償で案内できるが、名称独占は残っている。
- 登録者2万7,670人のうち東京都が33%、50代以上が86%を占め、言語別では延べ登録の72%が英語だ。
- 主に通訳案内で生計を立てている登録者は、観光庁の概算で3,000〜4,000人程度と見込まれる。
- 2024年の中間とりまとめは、地域や言語の偏在そのものより、需要に対応できるガイド人材の確保を課題とした。
全国通訳案内士の資格でできること
通訳案内士法は、報酬を得て通訳案内を仕事にする人を対象とした法律だ。ここでいう通訳案内とは、外国人に付き添い、外国語を使って旅行に関する案内をすることを指す。
法律が定める資格は2つある。全国通訳案内士は、国家試験に合格し、住んでいる都道府県で登録を受けることで全国で活動できる。
一方、地域通訳案内士は、自治体が行う研修を受けて登録し、特定の地域で活動する資格だ。本記事では、全国通訳案内士を取り上げる。観光庁が全国通訳案内士に求める力は、高度な外国語能力、日本全国の歴史・地理・文化などの知識、訪日客への対応力である。
2018年改正で変わった仕事のルール
2018年1月4日、改正通訳案内士法が施行された。観光庁の通訳ガイドテキストによると、改正の背景には通訳案内士の不足があった。大都市部への集中や、対応できる言語の偏りも目立っていた。
2018年の改正では、主に3つの点が変わった。
無資格でも有償案内が可能に
改正前は、報酬を得て通訳案内ができるのは資格を持つ人だけだった。これを業務独占という。観光庁の中間とりまとめによると、2018年の改正で業務独占は廃止された。
資格がなくても、有償で通訳案内の仕事をすることが法律上できる。無資格の外国語ガイドには、都道府県への登録義務もない。中間とりまとめは、国もその活動実態を把握できていないと記している。
資格がない人は名乗れない
仕事ができるようになっても、名称の使用には制限が残る。これが名称独占だ。
通訳案内士法第52条は、全国通訳案内士でない人が「全国通訳案内士又はこれに類似する名称」を使うことを禁じている。地域通訳案内士についても、第60条に同じ決まりがある。資格を持たずに「全国通訳案内士」と名乗ると、第64条第4号により30万円以下の罰金に処される。
研修は5年ごとの受講義務
資格を持つ人には、研修を受ける義務も加わった。全国通訳案内士は、登録研修機関が行う研修を一定の期間ごとに受講しなければならない。
法第30条は受講の間隔を「三年以上五年以内」と定め、施行規則では5年ごととしている。登録そのものを5年ごとに更新する制度ではなく、研修を受ける義務である。
観光庁の作業部会報告では、2018年の改正法施行前からの登録者と、施行後2019年3月末までの登録者を合わせた24,751名のうち、2024年1月時点の未受講者は14,157名、約57%だった。受講期限は2024年4月1日であり、1月時点ではまだ期限まで時間があった。
一方、調査の回答者4,294名では、「受講した」が70.0%、「受講予定」が14.0%だった。2つの調査結果は母数が異なるため、単純には比較できない。
受講を「未定」または「受講しない」と答えた689人には、理由も聞いている。複数回答で多かったのは、「なんとなく後回しにしている」(29.3%)、「更新するために受講が必要だと知らなかった」(22.9%)、「時間的な負担が大きい」(21.6%)だった。
あわせて読む 通訳案内士の団体が一般社団法人になった動きと、登録研修機関の顔ぶれは、こちらで詳しく解説している。
通訳案内士の団体連合会が法人化 16団体が加盟
試験は受験資格不問、合格率は1割前後
全国通訳案内士になるには、国家試験への合格が必要だ。観光庁の試験ガイドラインでは、受験資格は不問とされ、年齢や学歴による制限はない。試験は、筆記(第1次)と口述(第2次)の2段階で行われる。
筆記の科目は、外国語、日本地理、日本歴史、産業・経済・政治・文化の一般常識、通訳案内の実務だ。口述では通訳案内の実務を問う。
対象は、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語の10言語である。受験手数料は14,850円だ。
筆記試験には免除制度もある。一つの言語で筆記に合格した人が、同じ言語の次回の試験を受ける場合、申請すれば筆記が免除される。一つの言語で合格した人が別の言語を受験する場合も、申請によって日本地理などの筆記が免除される。
JNTOの公表によると、2025年度の受験者は3,987人だった。第1次試験の合格者は1,071人で、JNTOの表では合格率27.6%となっている。第2次試験の合格率は50.3%だ。
最終合格者は585人で、受験者に対する最終合格率は14.7%だった。なお、受験者数には筆記試験の免除者も含まれている。
最終合格者数には年によって差がある。以下の括弧内は、受験者に対する最終合格率だ。
- 2021年度:347人(9.1%)
- 2022年度:571人(16.4%)
- 2023年度:436人(12.0%)
- 2024年度:385人(10.0%)
- 2025年度:585人(14.7%)
合格者の言語は英語に集中している。2025年度の最終合格585人のうち、英語は500人で、85.5%を占めた(編集部算出)。
中国語は29人、韓国語は12人、スペイン語は20人だった。一方、ロシア語の最終合格者は0人である。
2026年度の筆記試験は8月16日に行われた。口述試験は11月29日、最終合格の発表は2027年1月22日の予定だ。筆記試験の合格者数は、2026年10月21日時点では公表されていない。
合格後も必要な登録手続き
国家試験に合格しただけでは、全国通訳案内士を名乗れない。原則として住所地の都道府県に登録を申請し、登録証の交付を受ける必要がある。試験の事務を担当するのはJNTO、登録の事務を担当するのは都道府県だ。
登録申請では、登録申請書に健康診断書などを添える。これは施行規則第16条に定められている。都道府県は、心身の障害によって業務を適正に行えない人などに該当すると認めた場合、登録を拒否する。
登録後も、一定の条件に当たると登録が取り消される。法第25条では、欠格事由に該当するようになった場合や、不正な手段で登録したと分かった場合、都道府県知事は登録を取り消さなければならない。研修の受講などの義務に違反した場合は、登録の取消しか、期間を定めた名称使用の停止を命じられることがある。
登録者2万7,670人に見える偏り
観光庁の検討会資料によると、全国通訳案内士の登録者は27,670名(2025年4月1日現在)である。前年の27,312名から358名増えた。
この27,670名は、重複を除いた実人員だ。複数の言語で登録している人を言語ごとに数えた延べ人数は、27,950名となる。
この図表のデータを見る
| 区分 | 人数(言語は延べ) | 割合 |
|---|---|---|
| 登録先の都道府県(登録者27,670人・実人員) | ||
| 東京都 | 9,137人 | 33.0% |
| 神奈川・千葉・埼玉 | 6,741人 | 24.4% |
| 1都3県の計 | 15,878人 | 57.4% |
| その他の道府県 | 11,792人 | 42.6% |
| 言語(延べ登録27,950・複数言語を重ねて数える) | ||
| 英語 | 20,112 | 72.0% |
| 中国語 | 2,836 | 10.1% |
| その他の8言語 | 5,002 | 17.9% |
| 年代(登録者。割合のみ公表) | ||
| 10代以下 | — | 0.01% |
| 20代 | — | 0.3% |
| 30代 | — | 2.9% |
| 40代 | — | 10.7% |
| 50代 | — | 25.5% |
| 60代 | — | 31.3% |
| 70代以上 | — | 29.1% |
観光庁「第1回 全国通訳案内士の研修の高度化等に向けた検討会 資料2」(2025年4月1日現在)をもとに編集部算出。登録先の都道府県は登録者の実人員(27,670人)、言語は延べ登録(27,950)が母数。年代の割合は四捨五入のため合計が100%にならない。50代以上は50代・60代・70代以上の合計(85.9%)。
東京圏に偏る登録者
都道府県別で最も多いのは東京都の9,137人で、全体の33.0%を占める。続く神奈川県は3,308人、千葉県は1,914人、埼玉県は1,519人だ。1都3県の合計は15,878人で、全国の57.4%に達する(編集部算出)。
関西では、大阪府が2,201人、兵庫県が1,438人、京都府が1,126人となっている。北海道は546人、愛知県は832人、福岡県は606人だ。
英語は延べ登録の7割超
言語別では、延べ登録27,950のうち、英語が20,112で72.0%を占める。次いで中国語が2,836、韓国語が1,353、フランス語が1,167と続く。タイ語は39だ。
ここで使っているのは言語別の延べ人数である。登録者27,670人の72%が英語という意味ではない。
50代以上が大半を占める
年代別では、60代が31.3%で最も多く、70代以上が29.1%で続く。60代以上を合わせると60.4%になる。
50代も25.5%を占め、50代以上の合計は85.9%だ。一方、20代は0.3%、30代は2.9%にとどまる。
生計を立てる人は3,000〜4,000人の見込み
登録者数と、実際に通訳案内の仕事をしている人数は同じではない。観光庁は、主として通訳案内を仕事にして生計を立てている登録者を、3,000〜4,000名程度と見込んでいる。これは複数の通訳案内士団体への聞き取りにもとづく見込みであり、統計ではない。
資料には、生計を立てると判断する収入額の基準や、調査の時点が書かれていない。アンケートには兼業の人が29.0%いるため、この見込みを案内の仕事をしている人の総数と捉えることもできない。
観光庁は2023年12月、全国通訳案内士を対象にアンケートを実施した。調査票を送ったのは21,514名で、回答は4,294名だった。
回収率は約2割である。したがって、回答者の傾向が登録者全体の分布と一致するとは限らない。
未就業の回答者が過半数
アンケートで資格の活用状況を聞くと、「未就業」が55.4%と過半数を占めた。「兼業」は29.0%、「専業」は15.6%だった。
未就業の理由も複数回答で尋ねている。最も多かったのは「現在の仕事を退職・引退するつもりがないため」の44.1%だ。続いて「仕事の獲得方法が分からないため」が35.6%、「希望する一定の収入が見込めないため」が27.0%だった。
兼業の人では、通訳案内士として得る収入の割合が「10%以下」という回答が54.0%で最も多かった。
年収400万円以上は6.0%
専業・兼業と答えた1,916人について、2023年の見込み年収を調べると、400万円以上は6.0%だった。内訳は、1,000万円以上が0.3%、500万円以上1,000万円未満が2.2%、400万円以上500万円未満が3.5%である。
最も回答が多かった年収帯は、10万円以上50万円未満の22.9%だった。1日1案件あたりの平均報酬は、「2万円以上3万円未満」が35.5%で最も多い。次いで「3万円以上5万円未満」が24.6%となっている。
仕事の依頼元では、回答者の68.4%が旅行会社からの依頼や紹介を挙げた。登録している人材派遣会社からのオファーを挙げた人も28.9%いた(複数回答)。
春と冬で異なる依頼状況
通訳案内の仕事には、季節による差がある。専業・兼業の回答者では、春(3〜5月)は「引き受けられない時がある」が34.1%で最も多かった。
これに対し、冬(12〜2月)は「たまに依頼がある」が49.5%を占める。「まったく依頼が無い」という回答も19.6%あった。ガイドの仕事は季節に偏り、冬は専業・兼業の49.5%が「たまに依頼がある」にとどまり、19.6%が「まったく依頼が無い」と答えている。
国は偏在をどう見ているか
全国通訳案内士の登録者は、東京・英語・50代以上に集中している。2018年の法改正では、大都市部への偏在や対象言語の偏りが、改正の背景として挙げられていた。一方、観光庁が2024年6月にまとめた中間とりまとめは、着目点が違う。
中間とりまとめは、「地域や言語による偏在が直接の課題ではなく、ガイド人材全体として需要に対応できるようにすることが必要」と記している。改正の背景を述べた観光庁のテキストと、活動の実態調査を踏まえた中間とりまとめとでは、資料の性格が異なる。
地域の偏在については、ガイドが居住地以外で活動することで、ある程度は対応できるとした。実際、全国と地域の通訳案内士を合わせた活動中の回答者2,090人のうち、関東に住む人は1,007人いた。その中には、近畿でも活動する人が381人いる。
ただし、別の地域からガイドを呼ぶ場合は、移動や事前の下見にコストがかかる。言語の偏在については、登録者の比率ではなく、需要と供給の関係で捉えている。
英語は登録者が多いものの、需要に対応できない時期がある。イタリア語やフランス語も、月によってガイドが不足する。一方、中国語のガイドについては、パッケージ団体ツアーで雇われる機会がほとんどなくなっているとの報告があった。
中間とりまとめは、ガイドの定着には「継続して業務があること」が重要だとし、閑散期の底上げを挙げている。年代は、活動中と答えた2,090人(全国と地域の合算)でも50代以上が86.8%(編集部算出)を占め、若い担い手を増やすことが要ると書く。
研修の高度化と登録手続きの見直し
観光庁は2026年3月、「全国通訳案内士の研修の高度化等に向けた検討会」を設置した。第1回は3月3日、第2回は6月29日に開かれた。検討するのは、基礎研修、5年ごとの定期研修、登録手続きの簡素化の3点である。
基礎研修は、試験に合格した人が業務を始めるにあたって受ける研修だ。観光庁の検討会資料によると、現状では登録研修機関が任意で行っている。
その内容や進め方には、ばらつきがある。登録研修機関は、2025年4月時点で10団体だ。
第1回の検討会では、基礎研修を義務にすべきではないという意見が出た。民間団体の強みを生かすべきだ、資格を持たないガイドにも受講してほしい、といった意見もあった。
第2回では、ガイドの働き方に応じたキャリアパスの素案が示された。基礎研修・法定研修・各種研修の全体像も整理されている。この整理では、基礎研修は任意、法定研修は5年に1回、各種研修は任意とされた。
観光庁の検討会資料によると、2026年3月に閣議決定された観光立国推進基本計画にも、基礎研修や定期研修の受講を促す方策を講じる旨が盛り込まれた。登録手続きでは、健康診断書の扱いが見直しの対象になっている。
2025年の地方分権改革の提案では、健康診断書の省略を求める要望が出た。理由は、申請者の通院の負担と、都道府県が内容を確認する際の事務負担である。
同年12月の閣議決定では、2025年度中に結論を得るとされた。ただし、その結果は確認できていない。第1回検討会の議事概要には、健康診断書の提出をやめ、誓約書の提出に変える方向について、委員から異議がなかったとの記録がある。
一方、2026年10月1日時点の施行規則第16条には、健康診断書の規定がまだ残っている。
案内の依頼前に確かめたい3点
全国通訳案内士の資格があるかどうかだけでは、実際に誰に何を頼めるかは判断できない。ここまでの資料から、案内を依頼するときに確かめたい点は3つある。
1つ目は、言語と時期だ。専業・兼業の回答者では、春に「引き受けられない時がある」が34.1%で最も多かった。ただし、これは言語別の集計ではない。
イタリア語やフランス語でも、月によって不足するという報告がある。希望する言語と日程で対応できるかを確かめる必要がある。
2つ目は、研修の受講状況だ。5年ごとの研修は法律上の義務となっている。違反すると、登録の取消しなどの対象になりうる(法第25条第3項)。
3つ目は、実際に案内の仕事をしているかどうかだ。アンケートの回答者では55.4%が未就業で、専業は15.6%だった。資格を持って登録されていることと、現場で案内していることは別の情報である。
資格の有無は、案内の実績や稼働状況とは別の情報だ。登録者数だけでは、実際に案内している人数は分からない。公表されているのは、団体への聞き取りにもとづく生計の見込みと、回収約2割のアンケート結果だけである。
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全国通訳案内士の登録者は2万7,670人だが、主に通訳案内で生計を立てていると見込まれるのは3,000〜4,000人程度である。登録者数だけでは、実際に依頼できる人数は分からない。
観光庁は、ガイドの定着には継続した仕事が重要で、閑散期の底上げが人材の底上げにつながるとみている。専業・兼業の人では、春に34.1%が「引き受けられない時がある」と回答した。冬は49.5%が「たまに依頼がある」、19.6%が「まったく依頼が無い」と答えている。
言語と地域が決まっているなら、冬のうちに依頼を出して、顔の見える関係をつくっておく手がある。これは国の見解ではなく、数字をもとに考えた一つの手だ。旅行会社や宿泊施設、DMO(観光地域づくり法人)なら、たとえば冬のモニターツアーや研修を、言語と地域の合うガイドに頼むことができる。
よくある質問
出典
- 観光庁「第1回 全国通訳案内士の研修の高度化等に向けた検討会 資料2」
- 観光庁「通訳案内士に対するアンケート調査 集計結果まとめ」
- 観光庁「ガイド人材の活性化に係る検討会 中間とりまとめ」
- 観光庁「通訳案内研修(法定研修)に係る作業部会の報告」
- 日本政府観光局(JNTO)「全国通訳案内士試験」
- e-Gov法令検索「通訳案内士法」




