アドベンチャーツーリズムとは 稼ぎの分かれ目はガイドと手配

千歳川をカヌーで下る人たち(北海道)
Photo: Freezer / Unsplash
  • URLをコピーしました!

自然のなかを歩き、地域の暮らしや文化に触れる旅が、訪日観光で地方に消費を落とす手段として期待されている。アドベンチャーツーリズム(AT)だ。2026年3月に閣議決定された観光立国推進基本計画も、ATの推進を明記した。

北海道には、高い金額を払うAT客がすでに来ている。北海道運輸局の調査では、個人手配のAT旅行者が北海道で使った金額は1人平均約43万円で、別の調査による道内の外国人旅行者の3倍を超えた。

調査の方法も客の出身地域も違うため単純には比べられないが、単価の高さはうかがえる。地域が稼げるかどうかの分かれ目は、ガイドと手配を地域が自前で握り、稼げる仕事にできるかにある。

本記事では、ATの定義と市場の数字を押さえる。そのうえで北海道・沖縄・東北・鶴居村の4つの事例から、お金が地域に落ちる条件を一次資料で整理する。

この記事のポイント

  • ATは「自然」「アクティビティ」「文化体験」のうち2つ以上で構成される旅行で、観光庁もこの定義を使う。
  • 北海道の個人手配のAT旅行者の消費は道内の外国人旅行者の3倍超。ただし国籍構成と調査手法が違う。
  • 観光庁の令和3年度の事業者調査では、日帰りのAT商品の約7割が1万円未満だった。
  • 北海道では成約を妨げた最大の要因がガイドの人手不足、沖縄では高付加価値客の窓口の多くが県外のDMCだった。
目次

ATは3要素のうち2つ以上の旅

観光庁は、ATを「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3要素のうち2つ以上で構成される旅行と定義している。旅行者は自分自身の変化や視野の広がり、学びを目的にし、地域ならではの体験を求めるのが特徴だという。

この定義は、業界団体の定義に沿っている。その業界団体であるATTA(アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション)は、北海道庁のATガイド紹介サイトによれば「アクティビティ、自然、文化のうち、少なくとも2つの要素を含む旅」と定義する。

同サイトは、ATを「自分の内面が変わっていくような旅行形態」とも説明している。名前から激しいアウトドアを連想しがちだが、定義が問うのはスポーツの強度ではなく、体験の組み合わせである。自然のなかを歩き、地域の文化に触れれば、それで3要素のうち2つを満たす。

呼び方は2つある。観光庁や観光立国推進基本計画は「アドベンチャーツーリズム」を使う。環境省や北海道、日本政府観光局(JNTO)は「アドベンチャートラベル」を使うことが多いが、指すものは同じだ。本記事ではATと略す。

商品の形も2つに分かれる。環境省の手引書は、ガイドが同行して安全管理や解説、地域との橋渡しを担うガイドツアーと、地図やアプリを頼りに自分のペースで進むセルフガイドツアーを挙げる。同じ手引書によれば、北海道や東北、四国をはじめ各地で、地元のガイドが同行するプログラムが提供されている。

あわせて読む 体験型観光の全体像と、ATを含む各テーマの位置づけは、観光体験の全体像のガイドで整理している。

和室で茶道を体験する外国人客と、点前を教える着物姿の女性 観光体験「コト消費」の全体像 訪日4,236億円が映す「使い道」の変化

北海道のAT客は一般の3倍超を使う

ATの客が実際にいくら使っているかを示す一次資料は多くない。数少ない手がかりが、北海道運輸局が2025年3月にまとめた実証事業の報告書である。

同報告書によると、個人手配のAT旅行者が北海道滞在中に使った平均消費額は432,090円だった。道内の外国人旅行者は128,678円で、AT旅行者は一般の外国人旅行者の約3.4倍を使っている(編集部算出)。報告書自身は「3倍以上」と表現している。

旅行会社で手配したツアーでも差ははっきりしている。1人当たりのツアー全体の金額が20万円を超えた人は、AT旅行者で89%、道内の外国人旅行者で26.8%だった。前半のWEB調査(78件)では、旅行全体の宿泊数は「8日〜13日」が33%で最も多く、「14日〜21日」が31%で続いた。

AT客の消費は一般の3倍超
北海道のAT旅行者と道内の外国人旅行者の比較
AT旅行者道内の外国人旅行者
432,090円平均消費額
(個人手配)
128,678円
89%ツアー20万円超
(旅行会社手配)
26.8%
オセアニア30%
北米26%
欧州17%
アジア25%
国籍の構成アジア80.4%
北海道運輸局
WEB78件
対面169件
調査北海道観光振興機構
令和5年度
外国人分
(注:調査方法と国籍構成が違い、差のすべてがATの効果ではない)
出典:国土交通省北海道運輸局「令和6年度 ATの定着・さらなる活性化に向けた実証事業 報告書」(令和7年3月)をもとに編集部作成

ただし、この比較には注意がいる。第一に、2つの数字は別々の調査から来ている。AT旅行者は本事業の前半のWEB調査78件と後半の対面調査169件、道内の外国人旅行者は北海道観光振興機構の令和5年度調査の外国人分で、調査の方法も時期も違う。

第二に、国籍の構成が大きく違う。AT旅行者はオセアニア30%・北米26%・欧州17%・アジア25%で、道内の外国人旅行者はアジアが80.4%を占める。第三に、AT側は前半と後半の調査で定義を変えている。

3倍の差の一部は、どの国から来た客かの違いで説明できる可能性がある。ATだから3倍使う、と因果で読むのは早い。また、これは北海道の調査であり、日本全体のAT旅行者の数字ではない。

少なくとも今回の調査では、欧米豪の比率が高いAT旅行者に、長めの滞在と高い消費がみられた。ツアー全体に「大変満足」と答えた人は前半調査で90%、後半で80%で、再訪を希望する人は両調査とも90%を超えた。

世界市場の数字は定義で大きく動く

世界に目を広げると、ATの市場規模は推計によって大きく違う。ATTAは2025年の市場規模報告で、2024年の海外旅行者によるATの市場価値を1.16兆ドルとした。2025年9月に世界の旅行支出の統計が出たことを受け、それまでの9,660億ドルから改訂した数字だ。

この報告でATTAは、定義の範囲を広げたと明記している。活動の量ではなく冒険への姿勢で旅行者を捉え直し、「Open to Adventure」にあたる人は国際旅行者の67%にのぼるとした。調査は2025年1〜3月に13か国の約5,000人を対象に行っている。

一方、環境省の手引書が引く民間の推計では、2023年の市場は7,698億ドルで、2030年に1兆ドルを超える見込みとされる。定義と年次が違えば、同じATの市場でも数字は数千億ドル単位で変わる。市場規模は方向をつかむ材料にとどめ、事業計画の根拠にはしないほうが安全だ。

地域にとって意味が大きいのは、お金の落ち方である。ATTAが2025年に公表した事業者調査の要旨によると、2024年に最も売れた旅程の価格は中央値で3,000ドル(8泊)だった。そのうち76%、約2,280ドルが現地のサプライヤーに支払われている。

訪日客の側にも、需要の手がかりはある。観光庁のインバウンド消費動向調査(2025年)で「自然体験ツアー・農山漁村体験」を今回の滞在でした人は8.7%だった。次回したい人は20.4%と2倍を超える。した人のうち満足した人は96.3%である。

自然体験は「したい」が2倍超
訪日客が今回したことと次回したいこと(2025年・全国籍)
訪日客の「自然体験ツアー・農山漁村体験」今回したことと次回したいこと(2025年) 全国籍・地域の複数回答で、自然体験ツアー・農山漁村体験を今回したのは8.7%、次回したいのは20.4%。参考としてスキー・スノーボードは今回2.9%、次回17.9%。自然体験をしたい人は、実際にした人の2倍を超える。 自然体験ツアー・農山漁村体験 今回したこと 8.7% 次回したいこと 20.4% 参考:スキー・スノーボード 今回したこと 2.9% 次回したいこと 17.9%
(注:農山漁村体験を含み、ATと同じものではない)
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」図表6-1・6-2をもとに編集部作成
この図表のデータを見る
項目今回したこと次回したいこと
自然体験ツアー・農山漁村体験8.7%20.4%
参考:スキー・スノーボード2.9%17.9%

観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」図表6-1(全国籍・地域、複数回答)。単位はいずれも%(選択率)。図の帯の全体は25%を表し、棒の長さは選択率に比例する。今回した人のうち満足した人の割合(図表6-2)は、自然体験ツアー・農山漁村体験96.3%、スキー・スノーボード97.1%。

この項目は農山漁村体験を含み、ATと同じものではない。それでも、ATに近い体験をしたい人が、実際にした人の2倍以上いることは読み取れる。なお、日本全体のAT旅行者数や消費額を集計した公的な統計はない。本記事では、北海道の調査と国の調査に限って数字を扱う。

あわせて読む 訪日客の市場全体の動きと主要な数字は、インバウンドの全体像のガイドで確認できる。

雷門・浅草寺周辺を行き交う観光客でにぎわう情景。訪日インバウンドの象徴的なイメージ インバウンドとは 9.5兆円市場を3つの数字で読む

世界大会ATWS2023が残したもの

国がATに力を入れる契機になったのが、2023年9月11〜14日に北海道で開かれたアドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS2023)だ。札幌コンベンションセンターを主会場に、世界64の国と地域から773人が集まった。アジアで初めての実地開催である。

観光庁が2024年3月にまとめた調査によると、大会の直接効果は約1.4億円、間接効果は約2.4億円と試算された。同じ調査が引くATTAの最終報告は、2024〜2026年の3年間で新たなAT旅行者を累計約2万人と見込む。旅行支出は、観光庁の円換算で累計約115億円にのぼる。

115億円は実績ではなく、ATTAが示した見込みの数字である。

参加したバイヤー80名のうち83%が北海道の新しいプランの取り扱いを検討し、新たに扱うプラン数は1人平均3.1件だった。ここから約206件の新しいAT商品が造成される見込みとされた。大会で海外の買い手は動いたが、問われるのはそれを受ける地域の側である。

政策も後に続いた。2026年3月27日に閣議決定された観光立国推進基本計画は、ATを地方誘客や消費拡大の効果が見込まれる分野と位置づけた。ATWS2023の成果も踏まえ、観光コンテンツの造成・磨き上げや販路拡大を支援するとしている。

予算の面では、令和8年度の観光庁関係予算で「国立公園等のインバウンドに向けた環境整備」に178億1,100万円が計上された。前年度の58億6,000万円の約3倍(編集部算出)で、内訳に「国立公園感動体験・アドベンチャートラベル創出」とクマ対策が含まれる。ただし、AT単独の予算額は示されていない。

日本のAT商品は安いという指摘

客は高い金額を払う用意がある。では、日本の商品はいくらで売られているのか。観光庁が令和4年3月にまとめた「アドベンチャーツーリズム ナレッジ集」は、国内の事業者へのアンケートをもとに価格帯を整理している。

回答のあった日帰りの商品(32件)では、約7割が1万円未満だった。宿泊を伴う商品(26件)でも、6割以上が1泊5万円未満である。関係者からは「全体的に安価」という指摘が複数あった。

国内のランドオペレーターからは、国内の事業者は海外の同様のコンテンツの半額以下で販売していることが多い、という声が出ている。

比較の目安として、同じナレッジ集は英語圏のATの消費額の水準を「7日間のツアーで約25~35万円、概ね1日当たり約4~5万円程度とみられます」と整理した。この目安は、北海道運輸局が2019年度に行った調査がもとになっている。

日本側のアンケートは令和3年度、コロナ禍の時期に行われたもので、いまの価格水準とは違う可能性がある。英語圏の目安は7日間ツアーの1日当たりの消費額で、日本側の日帰り商品の価格とは中身も時点も違う。同じナレッジ集も、物価やサービス水準が違うため海外の価格との単純な比較は適切でないと注意している。

数字は直接比べられないが、日本の商品が安いという指摘は、複数の関係者から出ている。安く売れば、ガイドに払える報酬も小さくなりやすい。この点は、後で見るガイドの確保の問題にもつながる。

地域に消費を残す3つの論点

客と単価がそろっていても、そのお金が地域に落ちるとは限らない。観光庁の2024年3月の調査は、日本のATの課題を整理した。そのうえで提言の見出しに「ATを推進していくためには、地域レベルで、稼げるガイド・ガイド事業者の育成をはじめとする各種の取組が必要」と書いている。

同じ調査は、ソフト面の課題の筆頭に「適応力の高いATガイドの不足」を挙げる。アクティビティと英語、地域の文化・歴史や自然の解説力を兼ね備えたガイドが少ない。背景には、ガイドへの需要や収入が不透明なことがある。行政がガイド育成の予算を充てても志願者が集まらない、という課題も挙がっている。

対策として示されたのは、ガイドへの適切な報酬の設定と待遇の改善、そして地域を結ぶDMCの組成だった。観光庁のナレッジ集によれば、DMCは企業を指し、地域を訪れた旅行者に体験を提供する業務が主軸となることが多い。プロモーションなどのマーケティングを主軸とするDMO(観光地域づくり法人)とは役割が違う。

国の提言と各地の報告書を重ねると、地域に消費を残すための論点は3つに整理できる(以下の整理は、複数の一次資料をもとにした本記事のもの)。1つ目は、客を案内するガイドが地域にいて、それで食べていけること。2つ目は、地域の宿やガイド、移動を束ねて海外の旅行会社に売る手配の窓口(DMC)を、地域の中に持つこと。

3つ目は、長い滞在に見合う広域の旅程を組めることだ。これは2つ目の手配の窓口が担う仕事でもあり、ガイドと手配の2つが地域の外にあると、広域の旅程も外で組まれることになる。

本記事の整理では、ガイドと手配の窓口が地域の外にあれば、客は来ても旅程を組む主導権は外に残る。

地域に消費を残す3つの論点
論点ごとの詰まりと、本記事の事例
①ガイド ②手配(DMC) ③広域の旅程
(②の窓口が組む)
求められる
こと
客を案内する人材が
地域にいて
それで食べていける
宿・ガイド・移動を
束ねて海外に売る
窓口を地域に持つ
長い滞在に見合う旅程を
県境をまたいで組む
一次資料が
示す詰まり
ガイド面の不成約理由の
最多は人手不足
(53%・回答13件)
繁閑差で収入が不安定
北海道は送客が道内の
DMCを通っていない可能性
沖縄は県外DMCが窓口に
AT層の来日目的は
1か所にとどまらない
単一エリアで
完結しにくい
本記事の
事例
北海道
鶴居村
沖縄
北海道
東北
道東
①ガイド
②手配(DMC)
③広域の旅程(②の窓口が組む)
求められること
案内する人材が地域にいて食べていける
宿・ガイド・移動を束ねて海外に売る窓口を地域に持つ
長い滞在に見合う旅程を県境をまたいで組む
一次資料が示す詰まり
ガイド面の不成約理由の最多は人手不足(53%・回答13件)・繁閑差で収入が不安定
送客が道内DMCを通っていない可能性・沖縄は県外DMCが窓口
来日目的は1か所にとどまらず、単一エリアで完結しにくい
本記事の事例
北海道・鶴居村
沖縄・北海道
東北・道東
出典:観光庁「ATWS2023を契機としたアドベンチャーツーリズムの推進に向けたヒアリング・アンケート調査結果」、国土交通省北海道運輸局「令和6年度 ATの定着・さらなる活性化に向けた実証事業 報告書」、日本政府観光局(JNTO)の事例記事(沖縄・東北)、環境省「国立公園におけるアドベンチャートラベル推進にむけた手引書」をもとに編集部作成

以下、4つの事例を、それぞれがどの論点を示しているかという観点で見ていく。

成約を止めたのはガイドの人手

客がいても受けられない

ATWS2023の開催地である北海道で、大会の後に何が起きたか。北海道運輸局の報告書は、大会で商談した道内の事業者に、その後の状況を聞いている。

回答した14事業者のうち64%が、問い合わせや成約が「あった」と答えた。成約した例には、欧州発のフォトツアー18名・9泊で受注見込み額939万円、欧州発の7名・12日間で400万円といった規模の大きな案件がある。

一方、成約に至らなかった理由をガイドの面から聞くと(回答13件)、最も多かったのは「外注部分の人手が足りないなど物理的に不能だった」で53%だった。「顧客が希望するクオリティやレベル」は23%にとどまる。

報告書は、成約を妨げる最大の要因がガイドの人手不足であることは明確だと結論づけた。少なくとも商談した事業者の回答では、客がいても受けるガイドがいないことが壁になっていた。

人手が足りない理由について、報告書は北海道の気候の特性から繁閑差が大きく、ガイドが安定した収入を得にくいことが人材確保の支障になっていると書く。事業者からは「催行可否にかかわらずガイドに報酬を出すことができればパッケージもできるが、そうもいかない」という声が記録されている。

別の事業者は「一番のネックはガイドで、専業・兼業両方いるが専業ガイドは昔からの顧客を抱えているため、日程の空いているところしか受けてくれない」と答えた。客がいても、ガイドの日程が空かなければ商品にならない。

道は認定と育成に動いた

道はガイドを握る手を打っている。2023年度に知事がATガイドを認定する制度をつくり、ATTAのガイド基準をもとに要件を定めた。第1弾の認定は2023年9月の11人だったが、2026年8月6日時点の一覧では54人(55件)に増えた。

うち7人はスルーガイドである。観光庁のナレッジ集の整理では、スルーガイドはツアーの初日から最終日まで全行程に同行するガイドを指す。

2026年4月には北海道宿泊税を導入した。その税を活用する事業として、2026年7月には「稼げるガイドの育成に向けたキャリア構築支援事業」を告知している。経営や資金調達、SNS発信のセミナーを8月に札幌と釧路で、実地研修を9月に然別湖で組み、事業者とのマッチング相談会も用意した。

認定という入口に加えて、ガイドが事業として食べていける出口まで手当てする狙いがある。

沖縄の高付加価値客は県外DMC経由

ガイドがそろっても、客を連れてくる窓口が地域の外にあれば、旅程を組む主導権は外に残る。沖縄の事例は、2つ目の論点である手配の問題を示している。

JNTOの事例記事によると、沖縄県と沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は2019年に内閣府沖縄総合事務局の事業でATに着手した。2020・2021年にはAT特化の人材育成を行った。

2024年11月9〜16日には、JNTOのAdventureWEEK2024沖縄で5か国15人のバイヤー・メディアを受け入れている。

同じ記事で、県の担当者は現状を次のように説明する。沖縄の高付加価値旅行は「県外のDMC…や旅行会社等が窓口となって東京や京都などのいわゆるゴールデンルートを経由してから沖縄に関心を持つお客様を送客していただくことが多い」。

そのうえで県の担当者は、ATに対応できるガイドの育成に加えて、「地元で自走できるDMCの充実も含めた受け入れ体制の構築が大きな課題」だと話す。

ガイドの層も薄い。OCVBによると、団体客が多い沖縄では、少人数客を相手にするフリーランスのガイドは非常に限られている。研修は参加条件を設けたうえで、毎回20人程度で行っている。

同じ構図は北海道にもある。北海道運輸局の報告書によると、ATTAの調査で回答者の40%がATWS2023の結果として日本で旅程の販売を始め、42%が新たな目的地に北海道を加えた。

一方で報告書は「その送客が道内のDMCを通して行われていない可能性も推測される」と書き、道内事業者の商品造成力と販売力の強化を喫緊の課題に挙げた。沖縄では県外のDMCが窓口になることが多く、北海道でも送客が道内のDMCを通っていない可能性が指摘されている。

東北は6県を1本の旅程でつないだ

AT旅行者の滞在は長めだ。北海道の前半のWEB調査でも、旅行全体の宿泊数は「8日〜13日」が最も多かった。1つの県や町だけでは、この長さの旅程を埋めにくい。

JNTOが東北で行ったAdventureWEEK2025は、この点を設計の中心に置いた。2025年9月15〜22日、東北6県を7日間で巡るファムトリップを実施し、5か国からバイヤー12人とメディア3人を招いた。軸にしたのは、みちのく潮風トレイルと出羽三山というトレイルである。

JNTOの事例記事によると、この設計は沖縄での教訓から来ている。AT層の来日目的は1か所にとどまらず、広い範囲を巡るプランづくりが必要だと分かったからだ。荒天に備えて、プランBとプランCまで用意した。

それでも課題は残る。参加者からは「なぜ、これほど魅力的なデスティネーションが東京から新幹線で90分の場所にあることが広まっていないのか」という声が出た。

北海道の道東でも同じ動きがある。環境省の手引書によれば、ATWSの際に「道東エリアの関係者同士が初めて名刺を交換する場面」があった。単一のエリアでは完結しにくいことから、民間主導の道東アドベンチャーネットワークが、ワンストップで対応する体制をつくった。

長く滞在するAT旅行者に応える方法の一つが、県境を越えた広域の旅程である。JNTOは3回目のAdventureWEEKを、2026年秋頃に山陰・せとうち地域で予定している。鳥取・島根・岡山・広島などが対象で、中国地方のATネットワークとATTA、JNTOが主催する。

鶴居村はガイド制度で保全と利用を両立

ガイドの仕組みは、自然を守る手段にもなる。釧路湿原国立公園にある北海道鶴居村の事例は、保全と観光利用のルールを、ガイド制度を通じて同時に設計しようとした例である。

人口約2,500人の酪農の村である鶴居村では、土地所有者との調整不足や利用ルールのあいまいさ、人材の不足、インフラの未整備が課題だった。村と教育委員会、観光協会は協議会をつくり、令和6年度に環境省の「国立公園アドベンチャートラベル展開事業」を使って仕組みを整えた。

柱は村独自のガイド認定制度である。講習と救命講習の受講、賠償責任保険への加入、実地研修への参加などを要件とし、認定を受けたガイドが限られた利用エリアで活動する。宮島岬では「ガイド1名につき7名までの引率」とし、散策路は徒歩・乗馬・自転車に限った。

2025年2月には、土地所有者と環境省の事務所との3者で協定を結び、同年4月からの運用に向けて調整を進めた。限られた利用エリアで活動できるのは、講習や救命講習を受けた村の認定ガイドである。

ただし手引書は「村の人口減少によるプレイヤー不足という根本的な課題も、依然として解決すべき課題として残っています」とも書く。運用が始まった後の実績は、公開資料では確認できていない。

ガイドを取り巻く3つの壁

4つの事例のうち、北海道と沖縄、鶴居村では、ガイドやその担い手の不足が課題として出ていた。そのガイドを育て、つなぎとめるうえでは壁が3つある。

育成に1年かかる

1つ目は、育成に時間がかかることだ。観光庁のナレッジ集のアンケート(59事業者)では、訪日向けのガイドの育成について「育成方法はだいたい確立」と答えた事業者は15%にとどまった。

「そのうち問題になりそう」が24%、「喫緊の課題」が22%である。事業者からは「一人前のガイドになるには、数か月~1年程度かかることが多い」という声が出ている。

同じナレッジ集では、確保の手だてとして紹介による採用や学校とのネットワーク、兼業によるスキルシェアが挙がる。農家が冬のアクティビティのガイドを務める、といった形だ。

報酬が見えない

2つ目は、報酬が見えにくいことだ。ガイドの日当や年収を示す公的な統計はなく、国の調査も「需要や収入が不透明」と書くにとどまる。繁閑差の大きい地域ほど、通年で食べていける報酬を組みにくい。

ガイド以外の受け入れも薄い。北海道運輸局の報告書は、成約しなかった課題として、ラグジュアリー層向けの宿の不足や、宗教食・菜食への対応、運転手不足と高いバス料金を挙げる。移動では運転手不足が特に深刻だという。

クマと天候のリスク

3つ目は安全である。環境省の速報値では、令和7年度のクマ類による人身被害は216件・238人で、うち13人が亡くなった。被害人数・死亡者数とも、表のある平成20年度以降で最も多い。令和8年度も7月末までに56件・60人、うち死亡6人にのぼる。

これはAT参加者の被害の数ではない。それでも、屋外で客を連れて歩くATにとって、安全管理の前提が変わったことを示している。令和8年度の国立公園向けの予算にクマ対策が入ったのも、この流れの上にある。

自然相手の催行には天候のリスクもある。JNTOの事例記事によれば、沖縄では受け入れの前々日から記録的な大雨に見舞われ、行程を変えた。

買い手が見る課題

海外の買い手の見方も付け加えておく。JNTOがATWS2023の会場で集めたアンケートでは、日本のAT商品の課題の1位は「ガイドの英語レベルが低い」だった。「距離が遠い」、3位の「情報が不足している」が続く。

ATTAでアジアを担当する國谷裕紀氏は、JNTOのインタビューに答えている。英語力の向上も重要だとしつつ、「より根源的な『コミュニケーション力を磨くこと』もあわせて考える必要がある」と話す。そのうえで、地域主体の取り組みには「複数年での長期計画で、時間、費用、人材を十分に投入することが必要」だとしている。

観光ビジネスの視点

北海道では客も買い手もすでに来ていたが、成約を止めたのはガイドの人手だった。沖縄では、高付加価値の客を運ぶ窓口の多くが県外のDMCだという。

北海道と沖縄の一次資料が示す課題は、客を呼ぶことより、来た客の旅程とお金を地域の中で受け止めることにある。自然の豊かさだけでは、地域の稼ぎにはならない。案内する人と旅程を組む会社が地域の中にいて、それが仕事として成り立つかどうかが問われる。

自治体やDMOがATに予算を振るなら、プロモーションより先に、地域のガイドが年に何日稼働していくら受け取っているか、送客のうちどれだけが地域の中の手配会社を通っているかを数えるべきだ。その数字が見えないままでは、ATの収益が地域にどれだけ残ったのかを確かめようがない。

よくある質問

エコツーリズムとはどう違うか。

環境省の手引書は、ATを高付加価値・インバウンド・広域連携に重きを置く考え方、エコツーリズムを保全と観光の調和を図る考え方として整理している。エコツーリズムにはエコツーリズム推進法があり、入域の制限やガイド同伴の義務化といった手段も使える。同じ手引書は、環境・社会・経済の3側面をKPIで管理するサステナブルツーリズムも別の概念として並べている。

自治体がATに取り組むとき、何から手をつければよいか。

観光庁の2024年3月の調査は、地域レベルで必要な取り組みを6項目に整理している。コンテンツの磨き上げ、販売促進、オペレーションの改善と連携、人材育成、認定制度の整理と活用、地域とのつながりを深めるDMCの強化である。人材育成では、ガイドの技能に加えて、事業者としての経営に関する知識の習得も重要だとしている。

北海道のATガイド認定には、どのような要件があるか。

北海道の知事認定制度は、9分野のアクティビティガイドとスルーガイドに分かれる。認定には分野ごとの資格、上級救命講習などの修了、推薦(スルーガイドを除く)が必要で、推薦者は直近2年間のガイド従事日数を証明する。ATTAのガイド基準(ATGS)を踏まえた制度である。なお観光庁の調査は、各地の認定制度が体系的に把握されていないことを課題に挙げている。

出典

NEWS LETTER編集部が選ぶ注目記事をお届け限定イベントや独自レポートも先行案内ニュースレター登録
  • URLをコピーしました!
目次