ワーケーションとは、仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた造語だ。 観光庁は、テレワークなどを使い、普段の職場や自宅とは違う場所で仕事をしながら自分の時間も過ごすことだと説明している。
言葉が広まったのは2020年、政府が「新たな旅のスタイル」として推進する方針を示してからだ。ただ、企業への広がりは限られている。観光庁が2024年12月に行った調査では、従業員100名以上の企業の導入率は13%だった。
本記事では、ワーケーションの定義と種類、普及の実態、市場規模の数字の読み方を整理する。そのうえで、受け入れる自治体が何を用意してきたのかを、和歌山県白浜町と長野県の例から見ていく。
この記事のポイント
- 仕事と休暇を組み合わせた造語で、観光庁は休暇型と業務型の2つに大別している。
- 従業員100名以上の企業の導入率は2023年度に17%まで上がったが、2024年12月の調査では13%に下がった。
- 市場規模は2022年公表の民間推計で2023年度1,084億円の予測。ただし国の予算を含む数字だ。
- 白浜町は町営オフィスへのIT企業誘致、長野県は産業立地・IT振興課の事業として受け入れを進めてきた。
ワーケーションとは
観光庁はワーケーションを「Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語」と定義している。テレワークなどを活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすことだ。余暇が主体のものと、仕事が主体のものの2つのパターンがあるとしている。
似た言葉にブレジャーがある。ビジネス(Business)とレジャー(Leisure)を組み合わせた造語だ。出張などの機会を使い、出張先で滞在を延ばすなどして余暇を楽しむことを指す。出張をきっかけにする点が特徴である。
言葉の起こりについて、ワーケーション自治体協議会(WAJ)は観光庁サイトのコラムで「2010年代前半にアメリカで生まれた概念とされています」と述べている。日本で一般に知られるようになったのは、次の節で見る2020年以降だ。
労務の面では、厚生労働省のテレワークガイドラインは、情報通信技術を使って仕事をする場合のワーケーションに触れている。「モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができる」という。情報通信技術を使って働く場合、ワーケーションはテレワークの一形態として扱える。
2020年に政府が推進を打ち出した
ワーケーションが注目を集めたきっかけは、2020年7月の観光戦略実行推進会議だ。観光庁の企業向けパンフレットによると、この会議で「新たな旅のスタイル」としてワーケーション等を推進する方針が政府から示された。当時の官房長官による発信もあった。
観光庁は、ワーケーションやブレジャーを「より長期かつ多くの旅行機会の創出」や「旅行需要の平準化」につながる取り組みと位置づけている。働き方改革や企業の経営課題への対応、地域の活性化にも役立つとしている。
ただし同じページ(2024年7月更新)は、現状を「実践が限定的な状況」と書く。言葉は広く認識されつつあるものの、企業にとっての導入メリットなどの理解が十分に浸透していないという。
この位置づけは、2026年3月27日に閣議決定された観光立国推進基本計画にも引き継がれた。計画はワーケーションなどの促進を通じた「休暇の分散・旅行需要の平準化」を掲げている。そのうえで、ワーケーションは「関係人口の創出や地域活性化にも資する取組として、重要な意義を持つ」と書いた。国の計画は、ワーケーションを関係人口づくりの入口の一つとしても位置づけている。
同じ計画には、選択的週休3日制を企業に広げる方針も入った。新たな旅行機会の創出やワーケーション等の推進の観点から、企業での導入を促すという。年次有給休暇の取得率を2028年までに70%へ引き上げる目標も置いた。
前提となるテレワークは、コロナ禍のあと減っていたが、増加に転じた。国土交通省の令和7年度テレワーク人口実態調査では、雇用型就業者のうちテレワークをしたことがある人の割合は25.2%で、前年度より0.6ポイント増えた。直近1年間のテレワーク実施率も16.8%と、1.2ポイント増えている。
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休暇型と業務型に分かれる
観光庁は2021年3月に作成した企業向けパンフレットで、ワーケーションを休暇と仕事のどちらが主体かで2つに分けている。休暇を主体とする「休暇型」と、仕事を主体とする「業務型」だ。休暇型は休みを主体に旅先でも働く形、業務型は仕事を主体に働く場所を移す形である。
休暇型は「福利厚生型」とも呼ばれる。観光庁の説明では、企業が有給休暇の取得促進など福利厚生を目的に行う場合が多い。有給休暇を使い、リゾートや観光地などでテレワークをする形で、費用は個人負担が基本になる。
業務型はさらに3つに分かれる。地域の関係者と交流し、地域課題の解決策を一緒に考える「地域課題解決型」。場所を変えて職場のメンバーと議論する「合宿型」。サテライトオフィスやシェアオフィスで働く「サテライトオフィス型」だ。観光庁は、出張先で滞在を延ばすブレジャーも業務型に位置づけている。
費用の面でも2つは違う。休暇型は費用を個人が負担するのが基本だ。業務型は仕事として行うため、会社の判断で動く。
導入は1割台、2024年は下がった
観光庁は2020年から、全国の企業600社と、企業で働く従業員2,000人を無作為に選び、ウェブでワーケーションに関する調査を続けている。企業側の回答者は、部長以上の経営者層や総務・人事の担当者だ。従業員側は20〜59歳の会社員で、旅行業や宿泊業など一部の業種を除いている。
以下の認知率と導入率は、いずれも従業員100名以上の企業の値である。ワーケーションという言葉を「良く知っている」「知っている」と答えた企業は、2021年度の76%から2022年度に79%、2023年度には88%に達した。
導入率も2021年度の9%から2022年度に13%、2023年度に17%と、毎年4ポイントほど上がってきた。2024年12月の調査では、認知率・導入率とも前年を下回った。認知率は79%、導入率は13%で、調査報告は「前年より若干減少している」とまとめている。
従業員100名以上の企業の8割が言葉を知っていても、導入しているのは1割強だ。 ただし調査報告は、制度として導入していなくてもテレワークの場所を限定せず、実質的にワーケーションができる企業もあるとしている。
この図表のデータを見る
| 調査年度 | 認知率(%) | 導入率(%) |
|---|---|---|
| 2021年度 | 76 | 9 |
| 2022年度 | 79 | 13 |
| 2023年度 | 88 | 17 |
| 2024年度 | 79 | 13 |
従業員100名以上の企業の値。2021〜2023年度は観光庁「令和5年度 ワーケーション普及促進事業 ナレッジ集」の図から読み取った値(図の表記は「2021年」等、脚注は「2023年度観光庁調査」)、2024年度は「令和6年度 ナレッジ集(子育て世代も参加可能な業務型ワーケーション実証事業)」(調査期間2024年12月15〜25日)の記載による。
導入しない理由と、感じた効果
導入しない理由は、観光庁の2023年度調査で見ることができる。導入していない企業の54%が「業種としてワーケーションが向いていないため」と答えた。主な業種は教育・学習支援業、生活関連サービス業、娯楽業だ。
「テレワークすら導入していないため、ワーケーションまで検討できない」と「『ワーク』と『休暇』の区別が難しいため」も、それぞれ16%あった。働く側にも壁がある。従業員への調査では、「会社でワーケーションは許可されていないためやりたくてもできない」という回答が33%あった。
一方で、導入した企業は効果を感じている。同じ調査で、導入企業の43%が「社員の健康管理や健康増進に関する効果があった」と答えた。「有給休暇取得率が向上した」は41%、「仕事のパフォーマンスが上がった社員が増えた」は39%だった。
従業員が最も感じた効果は「業務効率が向上した」の36%だった。2024年12月の調査報告も、「ワーケーションの実施効果を感じる企業が増えてきている」と書いている。
中身の受け止め方にも違いがある。同じ2023年度調査で、導入企業が取り入れているタイプは「有給休暇利用型」78%、「地域課題解決型」72%が多かった。従業員がワーケーションと聞いて思い浮かべるのは「ノマド型」42%、「有給休暇利用型」40%が多い。
(注:タイプの名称は同調査の選択肢による。観光庁の分類〔休暇型・業務型〕とは呼び方が異なる)
市場予測1,084億円の中身
ワーケーションの市場規模には民間の推計がある。矢野経済研究所が2022年9月に公表した推計では、国内のワーケーション市場は2020年度698億円(見込)、2021年度699億円(見込)だった。2022年度は845億円、2023年度は1,084億円と予測している。
ただし、この数字は宿泊や飲食の売上だけを積み上げたものではない。調査はワーケーションを「休暇を過ごす環境に滞在しながら、仕事をする働き方全般」と定義し、宿泊、地域(飲食等)、研修、国家予算の4分野を対象にしている。国家予算とは、各省庁で予算化された事業の規模だ。
調査のグラフでは、市場のうち大きな部分を国家予算が占めている。 4分野それぞれの金額は公表されていない。
調査は2022年の公表時点で、市場を引っ張っているのは個人で費用を負担するワーケーション実施者だとしていた。そのうえで、日本国内では雇用者である企業の制度整備が進まず、ワーケーション市場の基盤が形成されていないと指摘している。この推計は、宿泊や飲食の売上だけでなく、国の予算まで含めた市場の大きさとして読む必要がある。
平日の需要と企業との接点
受け入れる地域にも狙いがある。観光庁は、行政・地域が得るメリットとして「平日の旅行需要の創出」「交流人口および関係人口の増加」「関連事業の活性化、雇用創出」「企業との関係性構築」「遊休施設等の有効活用」を挙げている。
送り出す企業にとってのメリットには「人材の確保、人材流出の抑止」「有給休暇の取得促進」などを挙げる。
自治体どうしの連携も広がった。経団連とWAJがまとめた事例集(2022年7月)によると、WAJは和歌山県と長野県が全国の自治体に呼びかけ、2019年11月に65自治体で設立した。会員は2021年2月時点で170、2022年7月19日時点で207自治体(1道23県183市町村)に増えている。2022年7月時点の会長は和歌山県知事だった。
観光庁の発表によると、2023年2月18日には和歌山県白浜町でテレワーク・ワーケーション官民推進協議会の設立総会が開かれた。観光庁と総務省に加え、企業や関連団体、個人、地方自治体が参加し、設立時点の会員は139機関だった。2026年の観光立国推進基本計画も、この協議会を通じて普及を図るとしている。
観光庁はモデル実証も重ねてきた。2023年度は企業のニーズに合ったプログラムづくりなどを実証した。2024年度は「子育て世代も参加可能な業務型ワーケーション」の3事業と、「デジタルノマド受入」の5事業を選んでいる。
受け入れ環境の整備には、国の支援も使える。内閣府の資料(2025年6月時点)によると、サテライトオフィスの整備などを支援していた「デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ地方創生テレワーク型)」は廃止された。
現在は「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)」が、サテライトオフィスの整備を含む地域独自の取り組みを支援している。企業版ふるさと納税も、サテライトオフィスの整備に使える。
白浜と長野は企業誘致の延長で受け入れる
WAJの呼びかけ役になった2つの県の取り組みを見ると、受け入れを担うのは観光の部局だけではない。
白浜町の案内によると、町営の「白浜町ITビジネスオフィス」は遊休施設を改修して企業に貸しているオフィスだ。鉄筋コンクリート2階建て、延べ床面積838平方メートルに5室を備え、南紀白浜空港から車で約5分の場所にある。入居企業には、2015年度に進出したセールスフォース・ジャパン、2016年度のNECソリューションイノベータなどが並ぶ。2025年度にも新たに1社が入居した。
和歌山県の担当者は観光庁サイトの事例紹介で、県南部の紀南地域を中心に「ふるさとテレワークの推進やIT企業の誘致に力を入れており、今もそれがベース」と語っている。受け入れ環境の整備で最も大切なのは「人」だとし、施設は「今ある民間の施設を使う」という考え方も示した。
(注:掲載されている人口の表記から、2021年ごろの取材とみられる)
和歌山県では、紀南地域で進めてきたふるさとテレワークやIT企業の誘致が、受け入れの土台になっている。
長野県は「信州リゾートテレワーク」の名で受け入れを進めている。県の公募資料によると、所管は観光部局ではなく、産業労働部の産業立地・IT振興課だ。県は2025年度も推進事業を外部に委託しており、委託事業費の上限は1,498万7,000円(税込)だった。
委託の中身は、広報、推進チームの運営支援、県内外へのPR、共創企業の候補への働きかけの支援である。県は2026年度も同じ事業を公募した。公式サイトには、軽井沢町、白馬村、立科町など県内の多くの市町村がエリアとして載っている。
海外から来るワーケーション層
働きながら旅をする人は、海外からも来る。観光立国推進基本計画によると、日本は2024年3月にデジタルノマド向けの在留資格制度を設けた。出入国在留管理庁の資料によると、海外の勤め先や取引先の仕事を、日本から情報通信技術を使って行う人向けの資格で、日本の企業などに雇われて働くことはできない。年収1,000万円以上などの要件を満たす人が、1年のうち6か月まで滞在でき、更新はできない。
基本計画は、「ロングステイのビジネスインバウンド」が持つ特性やニーズを踏まえた観光地域づくりを支援するとしている。長期滞在に適した受け入れ環境の整備や、複数の地域を周遊・滞在する仕組みづくりも支援の対象に挙げた。
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ワーケーションを旅行商品の一つとしてだけ設計すると、業務型の需要は取りこぼしやすい。従業員100名以上の企業の導入率は13%で、2024年12月の調査では前年を下回った。矢野経済研究所の推計も、2022年の時点で企業の制度整備が進まないと指摘していた。
業務型は、企業が出張や研修として社員を出すと判断して初めて動く。業務型を狙う地域は、宿泊や体験を売るだけでなく、企業と長く付き合う仕組みまで商品に組み込みたい。
和歌山県はIT企業の誘致を受け入れの土台にしてきた。長野県は産業立地・IT振興課が事業を持ち、委託の中身に共創企業の候補への働きかけまで入れている。業務型を狙うなら、地域の宿や施設をまとめて企業の人事や総務に提案できる窓口を用意したい。
よくある質問
出典
- 観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」
- 観光庁「令和5年度 ワーケーション普及促進事業 ナレッジ集」
- 観光庁「令和6年度 ナレッジ集(子育て世代も参加可能な業務型ワーケーション実証事業)」
- 矢野経済研究所「ワーケーション市場に関する調査を実施(2022年)」
- 内閣官房・観光庁「観光立国推進基本計画(本文・令和8年3月27日閣議決定)」
- 国土交通省「令和7年度テレワーク人口実態調査」


