訪日消費4兆8,469億円で横ばい 減少したのは買物代

歩行者天国の東京・銀座中央通りを行き交う大勢の人。交差点に「銀座三丁目」の標識が立ち、沿道に百貨店やブランド店のビルが並ぶ
Photo: kiki / Unsplash
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買物代だけが625億円減った

2026年上半期の訪日外国人旅行消費額は4兆8,469億円だった。前年同期の4兆7,846億円から1.3%の増加である(注:観光庁が四半期ごとに公表した値を編集部で合算した。1-3月期は2次速報、4-6月期は1次速報)。

訪日外客数も2,108万4,800人で2.0%の減少にとどまる(注:JNTOが2026年7月15日に公表した上半期累計値。月別値はその後も改定されている)。数も金額も、ほぼ横ばいと言っていい。

ところが観光庁のインバウンド消費動向調査を費目別に割り直すと、様子が変わる。主要5費目のうち減ったのは買物代だけで、1兆2,635億円と前年から625億円(4.7%)落ちている。

宿泊費は3.1%増、飲食費は4.5%増、交通費は0.6%増、娯楽等サービス費は11.3%増えている(注:費目別の前年同期比は公表されていないため編集部が算出)。

主要5費目の外にある「その他」も32億円で15億円減った。ただし消費額全体の0.1%にあたる区分である。

総額が横ばいなのは、減った買物代を他の費目が埋めたからだった。中身は入れ替わっている。

大きく減ったのは買物代
訪日外国人旅行消費額 費目別の増減(2026年上半期・前年同期比/億円)
2026年上半期 訪日外国人旅行消費額の費目別増減 前年同期比の増減額は、宿泊費が535億円増、飲食費が462億円増、娯楽等サービス費が238億円増、交通費が28億円増、その他が15億円減、買物代が625億円減。主要5費目のうち減ったのは買物代だけで、残る「その他」は消費額全体の0.1%にあたる区分。6費目を合わせると623億円の増加。 前年同期からの増減額(億円) 宿泊費 +535 飲食費 +462 娯楽等サービス費 +238 交通費 +28 その他 -15 買物代 -625
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査」2026年1-3月期(2次速報)・4-6月期(1次速報)をもとに編集部作成。上半期の値は四半期の公表値を合算したもので、観光庁が上半期として公表した値ではない。6費目の増減を合わせると623億円の増加。
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費目2026年上半期2025年上半期増減
宿泊費17,816億円17,281億円+535億円
飲食費10,810億円10,348億円+462億円
娯楽等サービス費2,335億円2,097億円+238億円
交通費4,841億円4,813億円+28億円
その他32億円47億円-15億円
買物代12,635億円13,260億円-625億円
合計48,469億円47,846億円+623億円

出典:観光庁「インバウンド消費動向調査」2026年1-3月期(2次速報)・4-6月期(1次速報)。上半期の値は四半期の公表値を合算したもので、観光庁が上半期として公表した値ではない。

ただし伸び率と規模は別に見たい。娯楽等サービス費は2,335億円で、消費額全体の4.8%にすぎない。伸びは大きいが、絶対額では買物代の5分の1に届かない。金額の重心はいまも買物代と宿泊費にある。

免税は逆風、体験は追い風

この違いは、業態によって真逆の意味を持つ。

訪日客の買物代は、上半期で前年を4.7%下回っている。物販の比重が高い事業者ほど、この減り方を正面から受けることになる。一方で体験やアクティビティを売る事業者の前には、11.3%伸びた市場が広がっている。宿泊と飲食もプラス圏にいる。

同じ「訪日客は横ばい」というニュースを見て、免税カウンターの縮小を検討すべき事業者と、体験商品の在庫を増やすべき事業者が、同じ結論を出してしまう。総量の数字だけを見ていると、この分岐に気づけない。

買う市場が抜けて、泊まる市場が入った

なぜ買物代だけが落ちたのか。市場の入れ替わりを見ると説明がつく。

日本政府観光局(JNTO)の訪日外客統計によると、上半期に中国からの訪日客は205万8,200人で、前年同期から56.4%減った。266万人が消えた計算になる。

代わりに韓国が89万人、台湾が69万人、米国が12万人増え、中国以外の合計で223万人の増加となった(注:市場別の増減は公表された上半期累計から編集部が差分を取った)。頭数ではほぼ埋まっている。

問題は、抜けた客と入った客で財布の中身が違うことだ。

2026年4-6月期の1人当たり旅行支出を見ると、中国客の買物代は10万5,914円で、全体平均6万5,425円の1.6倍にあたる。 一方の米国客は宿泊費が15万8,095円で、全体平均9万482円の1.7倍を使う。韓国客は総額9万9,542円・平均3.6泊と、単価も滞在も短い。

買物に強い市場が抜け、泊まる市場と体験に使う市場が増えた。費目別の増減は、この入れ替わりと整合する。

中国は買物、米国は宿泊に偏る
訪日客1人当たり旅行支出の費目内訳(2026年4-6月期・全目的/円)
市場別 訪日客1人当たり旅行支出の費目内訳 2026年4-6月期の1人当たり旅行支出は全体24万4457円。韓国は国・地域のなかで最も小さい9万9542円、台湾19万6641円、中国26万6753円、米国37万8547円と続く。いずれも一般客の値。中国は買物代が10万5914円で全体平均6万5425円の1.6倍を占める。米国は宿泊費が15万8095円で全体平均9万482円の1.7倍にあたる。 宿泊費 飲食費 交通費 娯楽等サービス費 買物代 その他 1人当たり旅行支出(円) 全体 24.4万円 韓国 10.0万円 台湾 19.7万円 中国 26.7万円 米国 37.9万円
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査(2026年4-6月期・1次速報)」をもとに編集部作成。右端は1人当たりの総額。「その他」は数百円のため帯としてはほぼ見えない。「全体」は全国籍・地域の平均で、いずれも一般客(クルーズ客を除く)の値。各費目は丸めた値のため、内訳の合計と総額が1円ずれることがある。
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市場宿泊費飲食費交通費娯楽等
サービス費
買物代その他総額
全体90,48253,14324,62510,59865,425184244,457
韓国30,89027,9937,7273,92628,65035699,542
台湾63,86841,13616,8166,61468,093115196,641
中国78,79353,67417,76210,376105,914234266,753
米国158,09579,10643,86022,55974,823105378,547

出典:観光庁「インバウンド消費動向調査(2026年4-6月期・1次速報)」。単位は円。全目的(観光・レジャーに加え業務や親族知人訪問を含む)の1人当たり旅行支出。「全体」は全国籍・地域の平均。

もっとも、入れ替わりは一様ではない。台湾客の買物代は6万8,093円で、全体平均の6万5,425円を上回る。上半期に69万人増えた台湾は、買物代の落ち込みをいくらか和らげた側にいる。

逆に滞在の長さで効いてくるのが欧米豪だ。英国客は1人45万6,493円・平均14.1泊、豪州客は42万6,949円・15.3泊を使う。

宿泊費だけ取り出すと英国21万7,781円、豪州18万5,097円で、中国客の7万8,793円の2倍を超える。人数の規模は小さいが、宿泊費が3.1%伸びた背景には、この層の積み上がりがある。

なお中国客の1人当たり支出そのものは9.4%増えている。単価が落ちたのではなく、人数が半分になった。中国客の財布が細ったという理解は当たらない。

あわせて読む 中国からの客がなぜ戻らないのか、航空座席という供給側の事情はこちらで扱った。

日本航空の旅客機が空港の誘導路をタキシングする様子。奥にはスカイマークのボーイング737が駐機している 中国の旅行事業者調査で日本は注目先2位 訪日中国人は6月57.3%減

旅行収支の黒字も縮んでいる

国全体の収支にも同じ変化が表れている。

財務省と日本銀行が8月10日に公表した国際収支状況(令和8年上半期中・速報)によると、上半期の旅行収支は3兆1,328億円の黒字で、前年同期から5,225億円(14.3%)縮んだ。受取が6.2%減り、支払が17.9%増えている。

支払側の事情は単純だ。出国日本人数は694万4,600人で5.1%増にとどまるのに、支払は17.9%伸びた。人数ではなく単価が押し上げている。

背景のひとつは為替である。日本銀行の為替相場でドル・円の月中平均を上半期で均すと158.16円となり、前年の148.52円から9.6円の円安になっている(注:月中平均6か月の単純平均。日銀が公表する半期平均ではない)。同じ旅程でも円建ての支払額は膨らむ。

入る額が細り、出る額が膨らむ。半期ベースで前年を下回るのは2半期連続で、2025年下半期も4.3%下回っていた。

8月は総数まで9.6%減った

この入れ替わりが上半期限りのものかどうかは、足元を見れば見当がつく。

JNTOの推計では2026年7月の訪日外客数は344万2,100人で、前年同月から0.1%増とほぼ横ばいだった。ところが8月は309万8,900人で9.6%減と、総数そのものが落ちている。

中国は7月が42万8,200人で56.1%減、8月は41万8,000人で59.0%減。下げ幅はむしろ広がった。

埋める側は伸び続けている。8月の韓国は85万500人で28.7%増、台湾は66万6,000人で7.3%増。8月として過去最高を記録した市場も14ある。中国が抜けて他市場が埋める構図そのものは変わっていない。

変わったのは、埋めきれなくなったことだ。 1〜8月の累計では訪日外客数が2,762万6,300人で2.7%減となり、上半期の2.0%減から下げ幅が広がっている。

出国日本人数は1〜8月累計で972万4,500人・2.8%増だった。ただし7月単月では119万1,298人・1.2%減と前年を割っている。累計だけで流れを読むと足をすくわれる。

この見立ては、どこで崩れるか

ここまでの見立てには、崩れる余地が三つある。

一つめは、四半期で見ると向きが揃わないことだ。宿泊費は1-3月期が11.7%増、4-6月期は3.7%減。買物代は1-3月期が12.1%減、4-6月期は2.8%増と、四半期単位では逆を向く。4-6月期だけを切り出せば、買物代はむしろ増えている。 単四半期の発表を追いかけると、反対の結論になりうる。

二つめは、統計どうしの食い違いである。国際収支の旅行受取は上半期で6.2%減だが、観光庁の消費額は1.3%増と逆を向く。両者は対象範囲も推計方法も違い、水準の差はこの1年で3,656億円動いた(注:2統計の差額の変化は編集部試算)。インバウンドの金額が増えたのか減ったのかは、どちらを見るかで答えが変わる。

三つめが最も重い。旅行収支の速報値が、公表後に上方へ改定された例がある。2024年上半期は黒字額が速報時点の2兆5,939億円から現在2兆9,690億円へと14.5%上振れした。2025年上半期は受取が4.5%上がっている(注:2例とも比較した指標が異なる。同じ方向に改定されると決まったわけではない)。

本稿が引いた2026年上半期の値も速報である。財務省の予定では10月8日に国際収支の4-6月期(第2次速報)が公表され、黒字の縮小幅は書き換わりうる(注:改定幅はいずれも公表値から編集部が算出した。公表予定日は変更されることがある)。

ただし費目別の構成比は、どちらの統計でも同じ方向を示している。確度が高いのは金額の増減より、構成の変化のほうだと考える。

観光ビジネスの視点

「訪日客は横ばい」という見出しを、変化なしと読むのがいちばん危ない。同じ人数で、売れるものが入れ替わっている。

宿泊では、泊数の短い韓国客の比重が上がる。稼働率が保てても延べ泊数は伸びにくいので、連泊前提の料金設計は効きにくくなる。館内で飲食・体験を取る設計のほうが、いまの客層には合う。

小売と免税では、単価の高い中国客に合わせて組んだ売り場が前年比で目減りする。点数を稼ぐ構成へ寄せるか、宿泊や飲食との抱き合わせに移すかの判断がいる。

そして伸びているのは体験である。11.3%は上半期でいちばん大きい伸びで、しかも在庫を持たずに単価を上げられる商材だ。いま手を入れるなら、ここから始めたい。

出典

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