越境ECとは 日米中では日本が「売る側」、訪日客との接点は旅アト

ノートパソコンの横で、海外発送用の段ボール箱を梱包する手元
Photo: Getty Images / Unsplash
  • URLをコピーしました!

越境EC(ECは電子商取引)とは、国境の外にいる消費者に、インターネットで商品やサービスを売る取引のことだ。日本の事業者が海外の消費者に売る場合も、日本の消費者が海外の事業者から買う場合も、どちらも越境ECにあたる。

経済産業省の調査によると、日本・米国・中国の3か国の間では、日本の事業者が売った額が日本の消費者が買った額の約10倍ある。日米中の間の越境ECで、日本は大きく「売る側」に偏っている。

観光と越境ECが結びつくのは、訪日客が旅行中に買った商品を、帰国後にネットで買い直す場面だ。本記事は、訪日客に商品を売る小売店やメーカーに向けたものだ。越境ECの定義と市場規模、訪日客との接点、2025年からの変化を順に整理する。

この記事のポイント

  • 越境ECは国境の外の相手とネットで売り買いする取引で、旅行先の店での購入は含まない。
  • 2024年は米中の消費者が日本の事業者から4兆2,350億円を購入し、日本の購入額の約10倍。
  • 旅行中に買った商品を帰国後にネットで買い直す「旅アト」が、訪日客との接点になる。
  • 米国の少額免税の停止など、2025年から越境ECの送り方と税の決まりが変わり始めた。
目次

越境ECとは 国境の外の相手とネットで売買

経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」は、越境ECの定義に欧州委員会の考え方を引いている。越境取引とは、消費者が住んでいる国の外にある販売者からの全ての購入を指す。自分の国の店で外国製品を買うことは、越境取引に含まない。

欧州委員会の定義では、旅行先の店で買うことも越境取引に入る。そのうちインターネットを通じた購入が越境ECになる。訪日客が日本の店で買う「旅ナカ」の買い物は越境取引だが、越境ECではない。

売り方は6つの型に分かれる

同調査は、越境ECの売り方を6つの型に整理している。日本国内の自社サイトを多言語にする型と、日本国内の越境EC対応のECモールに出店する型がある。相手国のECモールに出店する型もある。

ほかに、相手国の保税区の倉庫に商品を先に送っておく型がある。通常の貿易で相手国の輸入者に卸してネットで売ってもらう型、相手国に自社サイトを置く型もある。保税区を使う型は中国向けでよく使われ、直送より配送期間が短くて済む。

米中の消費者が日本から4兆円超を購入

経済産業省の調査は、2024年の日本・米国・中国の3か国の間の越境EC額を、6つの方向ごとに推計している。各種の資料やヒアリングから決めた伸び率を、前年の推計値に掛けて出した値である。中国の消費者が日本の事業者のECサイトなどから買った額は2兆6,372億円で、前年より8.5%増えた。米国の消費者が日本の事業者から買った額は1兆5,978億円(8.0%増)だった。

反対に、日本の消費者が米国と中国の事業者から買った額は、合わせて4,410億円(4.8%増)にとどまる。米中の消費者が日本から買った額は計4兆2,350億円で、日本が米中から買った額の約9.6倍になる。(編集部算出)

日米中で日本は売る側
日米中3か国間の越境EC額(どの国の事業者からどの国の消費者へ、2024年)
日米中3か国間の越境EC額(2024年) 2024年に中国の消費者が日本の事業者から買った越境EC額は2兆6,372億円、米国の消費者は1兆5,978億円で、合計4兆2,350億円。日本の消費者が米国から買った額は3,945億円、中国からは466億円で、合計4,410億円。日本が売る額は買う額の約9.6倍。最大は中国の消費者が米国から買った3兆1,397億円。 米国から中国へ 3兆1,397億円 日本から中国へ 2兆6,372億円 日本から米国へ 1兆5,978億円 中国から米国へ 1兆1,166億円 米国から日本へ 3,945億円 中国から日本へ 466億円
(注:青=日本の事業者が売った額、薄い青=日本の消費者が買った額、灰色=米国と中国の間の取引。日本・米国・中国の3か国間だけの推計で、台湾・香港・韓国などは含まない。端数処理のため、内訳の合計は総額と一致しないことがある)
出典:経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」をもとに編集部作成
この図表のデータを見る
事業者の国から消費者の国へ越境EC額(億円)前年比(%)
米国から中国へ31,3976.0
日本から中国へ26,3728.5
日本から米国へ15,9788.0
中国から米国へ11,1666.3
米国から日本へ3,9454.7
中国から日本へ4665.8

経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」図表7-7による(2024年・推計値)。日本の消費者の購入額は計4,410億円(4.8%増)、米国は計2兆7,144億円(7.3%増)、中国は計5兆7,769億円(7.2%増)。

この推計は3か国の間だけを対象にしている。台湾・香港・韓国など、訪日客の多い国・地域の消費者が日本から買った額は含まれていない。2025年分の推計は、2026年10月7日時点でまだ公表されていない。

推計の範囲には、物販だけでなく、サービスやアプリなどのデジタル分野も入る。同調査が引く民間の推計では、2024年の世界の越境EC市場は1.01兆米ドルとされている。推計の主体と範囲が違うため、日米中の値とは比べられない。

海外向けの売り方では越境ECが最多

売る側の企業の状況は、日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査にあらわれている。調査は2025年11〜12月、ジェトロのサービスを使ったことのある企業などに行い、3,369社が回答した。海外展開に関心のある企業が多い点には注意が要る。

国内外でECを使ったことがある企業は42.2%だった。ECを使っているか検討している企業のうち、68.4%が海外向けの販売にECを使っている(検討中を含む)。売り方では、日本から海外へ売る越境ECが45.5%で最も多く、中小企業では47.0%だった。いずれもECを使っているか検討している企業を母数にした割合である。

訪日客との接点は帰国後の「旅アト」

経済産業省の報告書は、訪日と越境ECの関係を示す材料として、民間の調査を引いている。報告書は、帰国後を指す「旅アト」という言葉を使っている。

BEENOSグループの調査は、外国旅行中に気に入って買った商品やブランドについて聞いている。帰国後に越境ECで買い直した人は44.0%いた(1,312人中)。買い直した理由は「自国で似たような商品を購入できないから」が60.0%で最も多かった。

ただし、回答者は同社の海外向け購入サポートサービス「Buyee」で1年以内に買い物をした利用者だ。表示言語を英語・繁体字・韓国語にしている人に限られる。もともと日本の越境ECを使っている人に聞いた結果で、設問も日本への旅行に限っていない。44.0%は、訪日客全体のうち帰国後にネットで買い直す人の割合ではない。

訪日客全体について、帰国後に越境ECで買う人の割合を示す国の統計はない。経済産業省の報告書も、旅アトの越境ECの利用が促されていると「推測できる」と書くにとどめている。

旅ナカの買い物の大きさは、観光庁の統計でわかる。2025年の訪日外国人旅行消費額9兆4,549億円のうち、買物代は27.0%を占めた。中国からの客は54.4%が化粧品・香水を買い、韓国・台湾・中国などの客の7割以上が菓子類を買っている。

旅行中に買った商品は店から海外へ送れる

旅ナカと越境ECの間には、店から海外へ商品を送る売り方がある。旅行者が店で運送契約を結び、その場で商品を運送事業者に渡す「直送」だ。いまは免税店の制度の中で扱われている直送は、2026年11月1日から扱いが変わる。国税庁によると、消費税法第7条の輸出免税(輸出と同じく消費税がかからない扱い)になる。

この場合、店は免税店でなくてもよく、相手も免税の対象になる旅行者に限らない。国税庁のQ&Aは、顧客の依頼を受けて事業者が自ら国外へ商品を輸出する場合も、輸出免税の対象になると説明している。保存する書類は売り方で違い、直送では運送契約書など、事業者が自ら輸出する場合は輸出許可書や郵便の引受けを証する書類などが要る。

旅ナカから旅アトへの流れ
訪日客の買い物が帰国後の購入につながるまで
1
旅行中に店で買う(旅ナカ)
訪日客の買物代は2025年の旅行消費額の27.0%。持ち帰るほか、店で運送契約を結んで海外へ直送することもでき、直送は2026年11月1日から輸出免税の扱い。
▼
2
帰国後にネットで買い直す(旅アト)
売り手は自社サイト、日本や相手国のECモール、保税区の倉庫などを使って届ける。
▼
3
相手国の決まりで届く
直送でも越境ECでも、関税や輸入の決まりは国ごとに違う。中国の「越境EC小売輸入」の制度には原則1回5,000元・年間2万6,000元の上限がある。
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」、国税庁「輸出物品販売場制度に関するQ&A(リファンド方式・概要編)」、経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」、中国財政部・海関総署・税務総局の通知をもとに編集部作成

2025年から送り方・税・客の流れが変わった

2025年からは、越境ECで商品を送るときの決まりが各国で変わり始めた。米国は2025年8月29日から、800ドル以下の荷物の関税を免除する仕組み(デミニミス)を、すべての国からの荷物で原則として止めた。2026年2月の大統領令で、停止はその後も続いている。

日本郵便は2025年8月27日から、米国宛ての販売品を含む郵便物の引受けを一時停止した。2026年4月14日からは、認定された事業者のアプリで関税などを前払いすれば、指定の郵便局から送れる。ジェトロの調査では、米国向けにECで売る企業の約半数が影響を受けたと答えた。

中国の財政部などの通知では、「越境EC小売輸入」の制度で個人が輸入する商品に上限がある。2019年1月1日から、上限は原則として1回5,000元・年間2万6,000元になった(それまでは2,000元・2万元)。1回5,000元を超えても、年間の上限内で1品だけの注文なら、一般の貨物と同じ税率で関税などを全額払えば、この制度で輸入できる。購入した商品は個人で使うものに限られ、国内で売り直すことはできない。

日本に入ってくる側でも見直しが決まった。財務省の税制改正の解説によると、いまは輸入時に消費税がかからない少額の荷物の扱いが変わる。海外から1点1万円以下の商品を通信販売で日本に送る取引も、国内の販売として消費税の対象になる。施行は2028年4月1日だ。

訪日客の流れも変わった。中国外交部は2025年11月、日本への渡航を避けるよう呼びかけた。日本政府観光局(JNTO)によると、2026年1〜8月の中国からの訪日客は290万4,600人だった。前年同期比56.7%減である(7・8月は推計値)。

あわせて読む 訪日市場の規模や主要市場の特徴は、インバウンドの全体像のガイドで整理している。

雷門・浅草寺周辺を行き交う観光客でにぎわう情景。訪日インバウンドの象徴的なイメージ インバウンドとは 9.5兆円市場を3つの数字で読む
観光ビジネスの視点

越境ECの利用者に聞いた調査では、旅行中に買った商品を帰国後に買い直さなかった理由も尋ねている。「現地購入で満足した」(37.0%)が最も多く、「越境ECで購入できるかわからなかった」(23.5%)が続いた。帰国後の買い直しを待つ前に、旅行中の店頭でできることがある。

自社のネット販路がない店にとって、帰国後の購入につなぐ最初の手段は、店から海外へ送る直送だ。2026年11月1日からは直送が輸出免税の扱いになり、免税店でなくても使える。持ち帰れない量や重さの商品を、その場で海外へ送る提案ができる。

よくある質問

免税販売と越境ECは何が違うか。

免税販売は、日本の免税店で一定の要件を満たす旅行者などに売るときの消費税の制度である。越境ECは、国境をまたいでインターネットで商品などを売り買いする取引の形を指す。一方は税の制度、もう一方は取引の形の呼び名である。

旅行中に買った商品を、店から旅行者の自宅へ送ってもらえるか。

送れる。国税庁によると、旅行者が店で運送契約を結び、その場で商品を運送事業者に渡す直送は、2026年11月1日から輸出免税の扱いに変わる。店頭で注文を受けて帰国後に自宅へ送る場合は、免税店の制度による免税は受けられないが、事業者が輸出すれば輸出免税は使える。

「旅アト購入の経験者44.0%」は、訪日客の何割が帰国後にネットで買うかを示すか。

示さない。この数字は、日本の越境ECの購入サポートサービスを使う海外の利用者に聞いた調査の結果で、設問も日本への旅行に限っていない。訪日客全体のうち帰国後に越境ECで買う人の割合を示す国の統計はない。

中国の「越境EC小売輸入」の制度で売るとき、金額の上限はあるか。

ある。中国の財政部などの通知によると、越境ECの小売輸入は原則として1回5,000元・年間2万6,000元までだ。2019年1月1日から適用されている。1回5,000元を超えても、年間の上限内で1品だけの注文なら、一般の貨物と同じ税率で関税などを全額払えば輸入できる。送り方によって適用される決まりは違う。

出典

NEWS LETTER編集部が選ぶ注目記事をお届け限定イベントや独自レポートも先行案内ニュースレター登録
  • URLをコピーしました!
目次