企業版ふるさと納税とは 寄附額の最大約9割が軽減、観光での使われ方

スーツ姿の男性2人が机越しに握手し、奥でもう1人が拍手している。机の上にはタブレットと資料がある
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観光事業者や自治体、DMOの担当者に向けて、企業版ふるさと納税の仕組みと活用事例を紹介する。企業版ふるさと納税とは、企業が国の認定を受けた自治体の地方創生事業に寄附すると、法人関係税が軽くなる制度だ。 地方創生応援税制とも呼ばれ、内閣府によると2016年度(平成28年度)に始まった。

適用期限は3年延長され、内閣府の表記では令和9年度までだ。本記事では、寄附の対象と要件、税負担の軽減、適用期限、最近の見直しを内閣府の資料と条文から確認する。青森県の十和田市と弘前市の事例から、観光分野での使われ方も見ていく。

この記事のポイント

  • 企業版ふるさと納税は、国の認定を受けた自治体の事業への寄附について、上限の範囲内で寄附額の最大約9割の税負担が軽くなる制度だ。
  • 適用期限は2028年3月31日までに支出した寄附で、内閣府の表記は令和9年度までだ。
  • 寄附の見返りとして経済的な利益を受け取ることは禁止され、本社のある自治体への寄附も対象外だ。
  • 観光分野の事例には十和田市と弘前市があるが、観光だけの寄附額は公表資料に示されていない。
目次

企業版ふるさと納税と法人関係税の軽減

内閣府によると、企業版ふるさと納税は、国が認定した自治体の地方創生事業への寄附について、法人関係税を税額控除する仕組みだ。自治体は地方版総合戦略をもとに地域再生計画を作り、国の認定を受ける。

税負担の軽減は2段階に分かれる。内閣府によると、損金算入で約3割、税額控除で最大6割の税負担がそれぞれ軽くなる。各税の上限の範囲内で、合わせて最大で寄附額の約9割が軽減される。

最大の場合、企業の実質負担は約1割だ。内閣府は、1,000万円の寄附で最大約900万円の法人関係税が軽減される例を示している。

軽減は「損金算入+税額控除」で最大約9割
寄附額に対する法人関係税の軽減効果(最大の場合)
損金算入
約3割
損金算入による軽減
+
税額控除
最大6割
法人住民税・法人税・法人事業税
=
軽減の合計
最大約9割
企業の実質負担は約1割
出典:内閣府「企業版ふるさと納税(制度概要)」をもとに編集部作成

税額控除は3つの税に分かれ、上限がある

税額控除の最大6割は、法人住民税、法人税、法人事業税に分かれる。内閣府の資料と条文による控除額と上限は、次のとおりだ。

税目控除額上限
法人住民税寄附額の4割法人住民税法人税割額の20%
法人税法人住民税で4割に達しない場合の残額(寄附額の1割が限度)法人税額の5%
法人事業税寄附額の2割法人事業税額の20%

(出典:内閣府「企業版ふるさと納税」制度概要、租税特別措置法第42条の12の2、地方税法附則第8条の2の2・第9条の2の2)

法人住民税と法人税を合わせた控除は、寄附額の最大4割だ。これに法人事業税の2割を足し、最大6割となる(編集部整理)。法人税は、法人住民税の上限で控除しきれなかった分を受け止める。

ただし、各税には納税額に応じた上限がある。寄附額が大きくても、控除できるのは上限までだ。

寄附対象の事業には観光も含まれる

寄附の対象は、内閣総理大臣が認定した地域再生計画に位置づけられた事業だ。法律では「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」と呼ぶ(地域再生法第5条第4項第2号)。

寄附が事業の実施に必要な費用に充てられることが確実であることなど、内閣府令の要件も満たす必要がある。

対象となる事業の分野は、地域再生法第5条第4項第1号イに定められている。結婚・出産・育児の環境、移住・定住、人材の育成・確保、産業の振興、その他の政策課題の5つだ。

産業の振興について、条文は「観光の振興、農林水産業の振興その他の産業の振興に資する事業」と定める。

寄附活用事業は、この第1号イ、または基盤施設を整備するロに掲げる事業のうち、総合戦略に定められたものだ(同条第4項第2号)。観光の振興は、条文が対象となる分野に明記している一つだ。

国の認定を受けた自治体は多い。内閣府の令和8年度第1回認定の発表によると、2026年8月21日現在、効力のある認定計画は1,679計画ある。

認定を受けた団体は1,671団体(46道府県・1,625市町村)で、対象外の団体を除いた割合は96.0%に当たる。

経済的な見返りは禁止、本社も対象外

企業版ふるさと納税には、寄附する企業や寄附先についての要件がある。主なものは次のとおりだ。

  • 申告:税額控除を受けられるのは、青色申告書を提出する法人だ(租税特別措置法)。
  • 寄附額:1回あたり10万円以上の寄附が対象になる(内閣府の事例集)。
  • 本社の所在地:本社のある自治体への寄附は対象外だ。本社とは、地方税法の「主たる事務所又は事業所」を指す。A県B市に本社がある場合、A県(都道府県)とB市(市区町村)の両方への寄附が対象外になる。
  • 対象外の自治体:内閣府の制度概要は、東京都(地方交付税の不交付団体である都道府県)を対象外としている。地方交付税の不交付団体で、三大都市圏の既成市街地等にある市区町村も対象外だ。正確な要件は内閣府の資料に載っている。
  • 見返り:寄附の代償として経済的な利益を受け取ることは禁止されている。内閣府の事例集は、寄附の見返りに補助金を受け取ることや、有利な利率で貸付をしてもらうことを例に挙げている。

一方で、自治体のホームページや広報誌で寄附企業の名を紹介することや、公正なプロセスを経た自治体との契約は可能とされる。ただし、これは見返りの禁止と対にして読む必要がある。個別のケースは、内閣府のQ&Aが扱っている。

認定取消しの事案と、内閣府の実態調査

内閣府によると、寄附活用事業の契約手続の公正性などに問題があり、認定地域再生計画を取り消す事案が生じた。

内閣府の2023年度(令和5年度)の実態調査は、寄附を受けた全1,462団体の5,258事業を対象とした。

契約手続のない事業を除く4,228事業のうち、契約先などに寄附した法人等を含むケースは30事業(0.7%)だった。このうち22事業は補助金・負担金等だった。

寄附した法人の名を公表(一部を含む)したのは、4,807事業(91%)だ。発注先を公表(一部を含む)したのは、4,193事業のうち2,033事業(49%)だった。

寄附金を歳出予算の議決後に受け取ったのは、物品による寄附を除く5,118事業のうち4,386事業(86%)だった。

寄附企業が自治体の事業を受託する場合は、一定の条件で、後述する制度改善策の対象になる。

適用期限は2028年3月末、3年延長された

企業版ふるさと納税の適用期限は、法律で定められている。租税特別措置法第42条の12の2と、地方税法附則第8条の2の2・第9条の2の2のいずれも、「令和十年三月三十一日」までに支出した寄附金が対象だ。

これは2028年3月31日に当たる。内閣府は「令和9年度まで」と表記している。条文は、この期間内に支出した寄附金を対象としている。

内閣府の資料(2024年12月付)によると、令和7年度税制改正で、この特例措置が3年間延長された。制度改善策を講じることが条件で、延長前の期限は令和6年度までだった。

内閣府が示した制度改善策は、次のとおりだ。

  • 寄附活用事業のチェックリストを導入し、自治体のチェック機能を強める。
  • 契約手続などで一定の場合、国への実施報告を義務づけ、寄附法人名を公表する。寄附した法人や関係会社が、競争入札で応札者が1者だけのまま受託した場合などが対象だ。寄附法人が非公表を希望する場合は、自治体が第三者を含む審議会等で理由を確認する手続きがある。
  • 発注先を自治体が公表する。対象は競争入札と、少額を除く随意契約だ。
  • 認定の取消し後に再申請する場合、2年間の欠格期間を設ける。
  • Q&Aに、再委託先となる場合の留意点を明記する。

令和9年度より先の扱いは、本記事で確認した資料には記載がない。2026年10月18日に確認したe-Gov法令検索の現行条文でも、期限は「令和十年三月三十一日」のままだ。

2024年度は約631億円、観光分は区分なし

内閣府によると、令和6年度(2024年度)の寄附実績は約631.4億円だった。寄附件数は18,457件、寄附した企業は8,464社、寄附を受けた自治体は1,590団体だ。

前年度は約470.0億円、14,022件、7,680社、1,462団体だった。寄附額は前年度の約1.3倍になった(前年度比は編集部計算)。

寄附額は2020年度から急増し、2024年度は約631億円
企業版ふるさと納税の年度別寄附額(横軸は年度の西暦表記)
企業版ふるさと納税の年度別寄附額 企業版ふるさと納税の寄附額は、2016年度7.5億円、2017年度23.6億円、2018年度34.8億円、2019年度33.8億円、2020年度110.1億円、2021年度225.8億円、2022年度341.1億円、2023年度470.0億円、2024年度631.4億円。2020年度に前年度の約3.3倍となり、以降は毎年増えている。 (億円) 7.5 2016 23.6 2017 34.8 2018 33.8 2019 110.1 2020 225.8 2021 341.1 2022 470.0 2023 631.4 2024
(注:青は2020年度と2024年度)
出典:内閣府「令和6年度 企業版ふるさと納税 寄附実績について」をもとに編集部作成
この図表のデータを見る
年度寄附額(億円)寄附額(百万円)
2016年度(平成28年度)7.5747
2017年度(平成29年度)23.62,355
2018年度(平成30年度)34.83,475
2019年度(令和元年度)33.83,380
2020年度(令和2年度)110.111,011
2021年度(令和3年度)225.822,575
2022年度(令和4年度)341.134,107
2023年度(令和5年度)470.046,999
2024年度(令和6年度)631.463,140

内閣府「令和6年度 企業版ふるさと納税 寄附実績について」の年度別寄附額(百万円)を、億円に換算して小数第2位を四捨五入した。

軽減効果が最大約6割から最大約9割に引き上げられた2020年度(令和2年度)は、寄附額が前年度の約3.3倍となる110.1億円だった。

内閣府は、制度開始後に寄附実績が増えた背景として、期限の延長や軽減効果の拡充などを挙げている。寄附額は以降も毎年増えている。

内閣府は、寄附実績を4つの事業分野に分けて集計している。最も多いのは「しごと創生」で、約376.4億円と全体の59.6%を占める(構成比は編集部計算)。

しごと創生には、地域産業振興、観光振興、農林水産振興、人材の育成・確保などが含まれる。

観光振興はこの区分に入るが、内閣府の公表資料には、観光振興だけの金額や件数は分けて示されていない。

内閣府ポータルでは、2026年10月18日時点で令和6年度分が最新の公表となっている。

あわせて読む 地方創生の全体像は、次の記事で整理している。

御大典の幟を掲げて担がれる金色の神輿と担ぎ手たち。祭りでにぎわう地域の情景。地方創生・DMOのイメージ 地方創生・DMOとは 観光で地域が稼ぐ仕組みの全体像

観光への企業の関わり方は3つに整理できる

観光に関わる企業の関わり方は、内閣府の資料にある事例と制度の仕組みから、3つに整理できる(編集部の整理)。

ただし、寄附型と連携型は重なる場合があり、全国の事例を網羅した分類ではない。3つめの人材派遣型は国が設けた仕組みだが、内閣府の資料に観光の例はない。

企業の関わり方の例
内閣府の資料による編集部の整理(観光の例は寄附型と連携型)
自治体の観光事業に寄附する
寄附
自治体が進める観光事業の費用に寄附する。例:十和田市の冬季観光(寄附企業との懇談から事業化)。
連携の一部として寄附する
連携
本業と地域課題をつなぐ取組の一環として寄附する。例:弘前市の援農ツアー(企業が現場に参加し、旅行会社が運営)。
人材を派遣する(人材派遣型)
人材
寄附と併せて、専門的な知見を持つ企業人材を自治体などに派遣する。2024年度は116の地方公共団体が活用した。
出典:内閣府「企業版ふるさと納税活用事例集」「企業版ふるさと納税(制度概要)」をもとに編集部作成

人材派遣型は、寄附と併せて、専門的な知見を持つ企業の人材を自治体などに派遣する形だ。内閣府の事例集によると、2020年10月13日に創設され、2024年度は116の地方公共団体が活用した。

2026年4月の内閣府の資料は、「副業タイプ」を明確にした。派遣元の企業で働きながら自治体の非常勤職員に採用され、その報酬などを寄附する形などだ。

資料は、二地域居住の推進にもつながるとしている。内閣府の資料では、税の軽減効果は寄附額の約9割とされる。

内閣府が公表する「活用事例集」には53件の事例が載っている。分野表示で最も多いのは「観光・交流」の15件で、次いで人材育成が10件だ。

十和田市は、懇談がきっかけと説明する

内閣府の事例集によると、青森県十和田市は、冬の観光客の少なさを課題としていた。十和田湖・奥入瀬エリアでは、冬の観光客が春から秋に比べて著しく少なかった。

取り組んだ事業は「冬季観光充実・強化による地方創生推進プロジェクト」だ。期間は2017年4月から2020年3月だった。

奥入瀬渓流の氷瀑や氷柱を見る冬のバスツアーを実施したほか、奥入瀬渓流温泉スキー場にアクティビティ体験エリア「奥入瀬スノーパーク」を整備するなどした。

総事業費は1億474万6千円、寄附額は6,000万円(6件)だった。寄附額は総事業費の約57%にあたる(編集部計算)。寄附企業は、株式会社三沢奥入瀬観光開発と宝産業株式会社だ。

市の事例紹介によると、事業のきっかけは寄附企業との懇談だった。冬の観光コンテンツづくりについて意見交換したことが契機になったという。

企業が出したスキー場の活用やツアー造成のアイデアを土台に、宿泊施設やガイド団体と手法を作ったという。寄附企業は、冬の集客が自社にもメリットになると考えて寄附を決めたと述べている。

成果について市は、冬の観光客数と宿泊者数が増え、旅行消費額も増加したと整理している。宿泊施設とガイド団体の関係が強まり、ガイド人材の育成にも貢献したという。

弘前市の援農ツアーは企業も現場に参加

青森県弘前市の「ひろさき援農プロジェクト」は、2023年度(令和5年度)に始まった。りんご農家の人手不足と、農業と観光の連携による関係人口の増加を課題に置いている。

ニッカウヰスキーとアサヒビールは援農ボランティアに参加した。株式会社JTBは、援農ボランティアツアーを企画・運営した。

市の事例紹介の経緯図には、企業版ふるさと納税として計1,000万円が示されている。

2023年度のツアーは、10月から11月にかけて5日間実施された。宿泊の補助は1泊3,000円(1人2泊まで)だった。

市の資料によると、参加者の70%が県外から、75%が宿泊を伴って参加した。

弘前市はこの取組で、2024年度(令和6年度)の企業版ふるさと納税に係る大臣表彰(地方公共団体部門)を受けた。

観光ビジネスの視点

観光に関わる企業にとって、企業版ふるさと納税は、地域との関わりが先にあり、そのうえで事業を資金面から支える手段になっている。

十和田市では、市の説明によると、寄附企業との懇談が冬季観光事業のきっかけになった。企業は冬の集客が自社にもメリットになると考えて寄附を決めた。

弘前市では、企業が援農の現場に参加し、旅行会社が企画と運営を担う取組に寄附が加わった。

ただし、経済的な見返りの受け取りは禁止されており、寄附を検討する際は、関わりたい地域の認定事業と寄附の条件を確認したい。

よくある質問

人材派遣型とは何か。

寄附と併せて、専門的な知見を持つ企業の人材を自治体などに派遣する形だ。内閣府の事例集によると、2020年10月13日に創設された。

2026年4月の内閣府の資料は、派遣元企業で働きながら自治体の非常勤職員になる形などを「副業タイプ」として明確にした。

適用期限はいつまでか。

条文上は、令和10年(2028年)3月31日までに支出した寄附金が対象だ。内閣府は「令和9年度まで」と表している。

本社のある自治体への寄附は制度の対象になるか。

対象にならない。本社が所在する自治体への寄附は本制度の対象外だ。本社とは地方税法の「主たる事務所又は事業所」を指す。

A県B市に本社があれば、A県(都道府県)とB市(市区町村)の両方が対象外になる。

観光の事業にも寄附できるのか。

できる。地域再生法は、対象となる事業の分野に「観光の振興」を含めている。

ただし、寄附先の事業が国の認定を受けた地域再生計画に位置づけられている必要がある。

寄附先の自治体から事業を受託する場合は、制度上どう扱われるか。

公正なプロセスを経た契約は可能とされる。ただし、寄附の見返りとして受けることは禁止されている。

寄附した法人や関係会社が一者応札で受託した場合などは、国への実施報告と寄附法人名の公表の対象になる。

寄附法人が非公表を希望する場合の手続きもある。個別のケースは内閣府のQ&Aが扱っている。

出典

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