自治体のシティプロモーション担当者や、住民と一緒に観光地域づくりを進めるDMO・観光事業者に向けて、シビックプライドの基本を整理する。2026年3月に閣議決定された観光立国推進基本計画(第5次)でも、この言葉が使われている。
本記事では、意味と由来、シティプロモーションとの違い、自治体が使う測り方、条例と観光政策での扱いを、自治体の条例・計画や研究機関の資料をもとに解説する。シビックプライドは、まちを良くすることに自ら関わろうとする、まちへの誇りである。
この記事のポイント
- シビックプライドは郷土愛と違い、生まれ故郷でなくても、住むまちへの誇りと当事者意識があれば成り立つ。
- 研究者の整理では、シティプロモーションは主に市外への発信、シビックプライドは主に住民への働きかけだ。
- 相模原市の20〜30歳代では、5指標のうち「誇り」が49.3%と最も低く、愛着を27.2ポイント下回る。
- 2021年の相模原市に続いて川口市・名張市も条例を設け、国の観光計画もシビックプライドに触れた。
シビックプライドは「関わる」誇り
シビックプライドは、英語のcivic prideをそのまま使った言葉だ。日本都市センターと埼玉県戸田市が2019年にまとめた報告書『住民がつくる「おしゃれなまち」』では、牧瀬稔氏と伊藤香織氏の論考が、その定義を「都市に対する市民の誇り」としている。
伊藤氏の論考は、さらにこう説明する。シビックプライドは「単なるまち自慢や郷土愛ではなく、『ここをよりよい場所にするために自分自身がかかわっている』という、当事者意識に基づく自負心」だという。
自治体の条例も同じ考え方で定義している。神奈川県相模原市の条例は、シビックプライドを「相模原市に対する誇り、愛着及び共感を持ち、まちのために自ら関わっていこうとする気持ち」と定めた。
郷土愛との違い
よく似た言葉に「郷土愛」がある。牧瀬氏の論考によると、郷土愛は「生まれ故郷に対する愛情」を指し、生まれ故郷に限られる。シビックプライドは、生まれ育った場所でなくても、いま住む都市への誇りであればよい。
「シビック」には「市民の」「都市の」という意味がある。牧瀬氏の論考は、そこに「権利と義務を持って活動する主体としての市民性」という意味が込められていると説明する。郷土愛が生まれ故郷への愛情にとどまるのに対し、シビックプライドは住むまちへの誇りで、まちに関わろうとする当事者意識まで含む。
19世紀英国の都市の規範
伊藤氏の論考によると、シビックプライドは19世紀、ヴィクトリア朝の英国で、商工業によって栄えた都市の規範になったという。それまでの王侯貴族や教会に代わって都市の主役になったのは、新しく力を持った市民階級だった。
彼らは都市づくりを支えることを自分たちの使命と考え、建設を呼びかけたり寄附をしたりして、公共建築や文化施設、公園をつくった。こうした建物が、シビックプライドの象徴になった。
日本では2008年に、書籍『シビックプライド 都市のコミュニケーションをデザインする』(シビックプライド研究会編、宣伝会議)が出版された。2015年には続編の『都市と市民のかかわりをデザインする』(国内編)も出ている。
地方自治研究機構の資料によると、日本ではこの言葉が、シティプロモーションに取り組む自治体で、それと結びつけて使われるようになった。
自治体が注目する理由
相模原市の条例の解説は、人口減少を背景に挙げている。定住人口だけでなく、関係人口(住んではいないが、まちと継続的に関わる人)や交流人口を確保して、持続可能な地域をつくる必要があるという。そのうえで、シビックプライドを高めることが、定住人口の維持・増加や地域の活性化、一体感づくりにつながるとしている。
牧瀬氏の論考が紹介する栃木県足利市の「足利シティプロモーション基本方針」も、シビックプライドが高まれば市外への転出が減り、訪れた人の中から定住を望む人も出てくるとしている。いずれも自治体が掲げる期待で、効果を数字で示した資料は、今回の調べでは見当たらなかった。
どちらの言葉も、自治体で使われ始めたのは比較的最近だ。牧瀬氏によると、シティプロモーションという言葉は平成10年前後から自治体で使われ始め、平成20年前後から使用頻度が急に増えた。シビックプライドについて牧瀬氏は、2019年の報告書の時点で「あくまでも自治体関係者の限定的な言葉」と評価している。
誇りは内向き、発信は外向き
シビックプライドと一緒に語られることが多いのが、シティプロモーションだ。地方自治研究機構の資料によると、シティプロモーションは一般に「地域の魅力を内外に発信し、その地域へヒト・モノ・カネを呼び込み地域経済を活性化させる活動」などと定義される。
定義の上では内外への発信を含む。同資料は、研究者の論考をもとに、両者の主な違いを対象・目的・手段で整理している。実際の自治体の施策では、両者が重なることも多い。シビックプライドは主に住民に向けた働きかけで、シティプロモーションは主に市外の人に向けた情報発信だ。
目的も違う。シビックプライドは、住民がまちに関わろうとする意識を高めることをめざす。シティプロモーションは、まちの魅力の認知度や理解度を上げることをめざす。手段は、前者が継続的な対話、後者が広報による一方向の発信である。
| シビック | シティ | |
|---|---|---|
| 内側(市内の住民) | 主な対象 | 外側(市外の人) |
| まちに関わろうとする意識を高める | 目的 | まちの魅力の認知度・理解度を上げる |
| 継続的な対話 | 主な手段 | 広報による一方向の発信 |
| 愛着・誇り・共感・継続居住意向・他者推奨意向 | 相模原市の指標の例 | 認知度・訪問魅力度・居住意欲度 |
ただし、両者は切り離されているわけではない。三重県の「四日市市観光・シティプロモーション条例」は、定義の中で住民の誇りに触れている。
条例はシティプロモーションを「地域資源に対する市民等の誇りの醸成を基礎として、地域の魅力を創造し、磨き上げ、発信することによって、都市イメージの向上を図る活動」と定義した。住民の誇りを、地域の魅力づくりや発信の土台に位置づけた定義だ。
誇りは半数に届かない
シビックプライドは気持ちを表す言葉だが、測る方法もある。牧瀬氏の論考によると、読売広告社は、シビックプライドを「愛着」「誇り」「共感」「継続居住意向」「他者推奨意向」の5指標で測っている。
継続居住意向は「これからも住み続けたいか」、他者推奨意向は「人にまちを勧めたいか」を表す。牧瀬氏は、このうち自治体が政策として最も貢献できるのは「共感」だとしている。
相模原市は、この5つを市の計画の成果指標にした。2023年3月に策定した「さがみはらみんなのシビックプライド向上計画」は、20〜30歳代の市民について、2021年度の値を基準とし、2027年度の目標値を定めている。
5指標の基準値で最も低いのは「誇り」の49.3%で、「愛着」の76.5%を27.2ポイント下回る。住み続けたい人や愛着を感じる人は7割を超えるが、誇りを持つ人は半数に届かない。目標値は、愛着80.6%、誇り51.9%などとしている。
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| 指標 | 基準値(2021年度・%) | 目標値(2027年度・%) |
|---|---|---|
| 愛着 | 76.5 | 80.6 |
| 共感 | 59.3 | 62.5 |
| 誇り | 49.3 | 51.9 |
| 継続居住意向 | 79.0 | 83.2 |
| 他者推奨意向 | 64.8 | 68.3 |
相模原市「さがみはらみんなのシビックプライド向上計画」(2023年3月)の成果指標による。対象は20〜30歳代の市民。
条例で後押しする自治体
シビックプライドを高めることを目的とした条例をつくる自治体もある。相模原市は2021年4月に「さがみはらみんなのシビックプライド条例」を施行した。市の計画は、シビックプライドを高めることを目的とした条例として、全国の自治体で初だとしている。
相模原市の条例は、対象を住民に限らない。市内に住む人、通学・通勤する人に加え、市と何らかのつながりがある人や市に関心のある人まで含めて「相模原市と関わりのあるみんな」とした。シビックプライドを持つことを「決して強制するものではありません」と明記している点も特徴だ。
その後、埼玉県川口市が「大きな声で川口が大好きだと叫んでみませんか川口プライド条例」(2023年4月施行)を設けた。三重県名張市も「みんなが名張を好きになるなる条例」(2024年4月施行)をつくった。
どちらも議員の提案による条例だ。地方自治研究機構の資料は、この3市の条例を、シビックプライドを高めることに特化した条例として整理している。
観光の土台は「住んでよし」
観光政策でも、住民の誇りは大事な要素になっている。観光立国推進基本計画(第5次)は、2026年3月27日に閣議決定された。計画は、地域の魅力を伝えるローカルガイドの役割に触れている。旅行者の満足度や地方誘客の向上に加え、「地域におけるシビックプライドの醸成等により、持続可能な観光地域づくりを支える存在」だという。
同じ計画は、観光地域づくり法人(DMO)を、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに「地域への誇りと愛着を醸成する」観光地域づくりの司令塔とした。
計画は、2003年の観光立国懇談会報告書が掲げた「住んでよし、訪れてよしの国づくり」という理念を引いている。そのうえで、観光立国の実現には、まず住民が「住んでよし」と思う地域でなければならないとした。
計画は、住民が地域に愛着や誇りを持ち、旅行者も快適で安全に観光を楽しめるまちづくりや景観づくりに、住民が主体的に参画できるよう努める、ともしている。
あわせて読む DMOの役割や、観光で地域が稼ぐ仕組みの全体像は、こちらで詳しく解説している。
地方創生・DMOとは 観光で地域が稼ぐ仕組みの全体像
事例に見る住民の誇りと観光
相模原市は内外を同じ表で
相模原市の計画は、市のシティプロモーションの計画も兼ねている。成果指標の表には、市内向けの5指標と並んで、東京都と神奈川県に住む20〜30歳代を対象にした市外向けの指標が入っている。市の認知度、訪問魅力度、居住意欲度などだ。
2021年度の基準値は、認知度が90.1%、訪問魅力度が62.6%だった。住民の誇りと、外から見たまちの魅力を、同じ成果指標の表に並べている。
市は2026年4月、「映像の力でさがみはらを元気にする条例」も施行した。議員の提案による条例で、映像作品の撮影地に選ばれることで地域経済を活性化させ、シビックプライドを高めることにもつなげるのが狙いだ。
市の条例の概要は、自分の住むまちや見慣れた風景が映像で発信されることで、住民が改めてその良さに気づくと説明している。市民が協力する方法として、ロケ地としての協力やエキストラ出演などを例に挙げている。
あわせて読む 映画やアニメの舞台を訪ねる旅が、地域に何をもたらすかは、こちらで解説している。
コンテンツツーリズムとは 聖地巡礼・ロケ誘致の経済効果
四日市市は観光と一本化
四日市市は2016年4月、観光とシティプロモーションを1本にまとめた条例を施行した。条例は、来訪の促進や情報の発信、景観の形成と並んで「市民の誇りともてなしの心の醸成」を市の施策に挙げている。
第13条は、市民などが地域資源に誇りを持ち、来訪者に温かいもてなしの心を持って接することができるよう、市が情報の提供などに努めると定めた。住民の誇りを、観光客を迎える姿勢と結びつけた条文だ。
コペンハーゲンは住民支持
海外では、住民を観光の当事者に据える動きがある。デンマーク・コペンハーゲンの観光推進組織が、Wonderful Copenhagenだ。
同組織の戦略「Localhood」は、「これまでの観光の終わり(End of Tourism as we know it)」を宣言した。観光はそれ自体が目的ではなく、持続可能な地域をつくる手段だという考え方だ。
次の戦略「Tourism for Good」は、コペンハーゲン都市圏(Greater Copenhagen)の観光について、2030年の目標とあわせて2018〜2021年の重点を定めた。2021年までの目標と2030年の姿のいずれにも、観光の成長が住民の80%以上に支持されることを掲げている。
住民が観光をどう見ているかを毎年分析することも、行動計画に入れている。多くの旅行者は「一時的な住民(temporary locals)」としてまちを体験しに来る、とも捉えている。
この戦略はシビックプライドという言葉を使っておらず、測っているのも、まちへの誇りではなく観光への住民の支持だ。それでも、住民の意識を数字の目標にして毎年確かめる方法は、相模原市の計画と共通している。
自治体・DMOが取り組む3つの手順
ここまでの資料と事例から、シビックプライドに取り組む流れを3つの手順にまとめる。
- 今の水準を測る。 測り方の1つに、読売広告社の5指標(愛着・誇り・共感・継続居住意向・他者推奨意向)を住民調査で聞く方法がある。相模原市はこれを成果指標に採り、20〜30歳代の基準値を取って目標値を置いた。
- 住民が関われる場をつくる。 牧瀬氏は、5指標のうち自治体が政策として最も貢献できるのは「共感」で、共感はイベントとの相関が強いとしている。相模原市の映像条例が例に挙げるロケ地への協力やエキストラ出演も、住民がまちに関わる機会の1つになる。
- 観光の取り組みとつなぐ。 四日市市の条例は、住民の誇りを来訪者へのもてなしと結びつけた。観光立国推進基本計画(第5次)は、ローカルガイドがシビックプライドの醸成などを通じて観光地域づくりを支えるとしている。地域の人が来訪者の案内や受け入れに関わる機会をつくることも、観光と住民の誇りを結びつける取り組みの1つとして考えられる。
全国初のシビックプライド条例を持つと市が説明する相模原市でも、20〜30歳代の「誇り」の目標は、2021年度の49.3%から2027年度の51.9%へ、6年で2.6ポイントの上積みだ。目標の置き方からは、住民の誇りが短い期間で大きく動く数字ではないことがうかがえる。
住民の誇りは長い時間をかけて追う指標として、観光の短期の成果とは分けて読むべきだ。キャンペーンの翌年に誇りの数字が動かなくても、それだけで取り組みの失敗とは言えない。観光の事業評価に住民調査を加えるなら、来訪者数や認知度とは別の欄に置き、数年単位の変化で見ると最初に決めておきたい。
よくある質問
出典
- 日本都市センター・戸田市編「住民がつくる『おしゃれなまち』―近郊都市におけるシビックプライドの醸成―」
- 地方自治研究機構「シビックプライドに関する条例」
- 相模原市「さがみはらみんなのシビックプライド向上計画」
- 四日市市「四日市市観光・シティプロモーション条例」
- 観光庁「観光立国推進基本計画」
- 「Tourism for Good」(Wonderful Copenhagen)


