ラグジュアリーツーリズムとは 1回100万円の線引きと数字の読み方

モダンな内装のホテル客室。革張りのソファと椅子が並び、大きな窓に薄手のカーテンがかかっている
Photo: Getty Images / Unsplash
  • URLをコピーしました!

地方の宿や自治体、DMO(観光地域づくり法人)で、海外の富裕層を呼びたいと考える人に向けた記事だ。ラグジュアリーツーリズムの意味と、数字の見方を整理する。国の文書では「高付加価値旅行」と呼ばれ、2026年3月に閣議決定された第5次観光立国推進基本計画でも、受け入れ環境の整備に1節が割かれている。

その線引きは、資産の多さではなく、1回の旅で使う額にある。線引きを知ると、市場の数字の読み方や、地域が目標に置くべきものが変わる。本記事では、定義と理由、客が地域に届く経路の一例、市場の数字、読むときの注意を一次資料で確かめる。

この記事のポイント

  • 国の文書では高付加価値旅行と呼び、主に1回の訪日旅行で1人100万円以上を使う旅を指す。
  • JNTOの推計では、2023年は訪日客の2.4%(59.0万人)が、消費額全体の19.1%を占めた。
  • 販路の一つは、海外の旅行会社から国内の手配会社(DMC)を経て地域の宿やガイドに届く流れだ。
  • 数字は推計で、対象市場や推計方法で変わる。1地域で使われる額は、100万円とは別に見積もる必要がある。
目次

線を引くのは資産でなく消費額

観光庁は2022年5月、「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」(以下、アクションプラン)をまとめた。この中で、訪日旅行1回当たりの総消費額が1人100万円以上の旅行者を高付加価値旅行者と定義し、国の政策のターゲットに置いている。

100万円は年間の支出ではなく、1回の旅行で使う額だ。日本政府観光局(JNTO)によれば、日本国内で使う着地消費の額で、国際航空券の代金は含まない。対象は訪日外国人で、日本人の国内旅行は入らない。

100万円で線を引いた理由について、アクションプランは、1人100万円を境に旅行者の消費傾向が変わることなどを踏まえたと説明する。さらにアクションプランは、1回300万円以上を使う人をハイエンド層とし、価値の特に高い地域ではこの層も呼べる地域づくりを目指すとした。

金額に加えて、旅の中身にも特徴がある。アクションプランは高付加価値旅行者を、一般に知的好奇心や探究心が強い人と描く。地域の伝統や文化、自然に触れて知識を深め、新しい着想を得ることを重視する傾向があるという。JNTOも、こうした旅の中身を定義の説明に加えている。ただし、市場規模の推計は金額の基準で行われている。

1回の旅で使う額で線を引く
訪日客の1人1回の旅行で日本国内に使う額による区分
1回の消費額
参考
訪日客(一般客)の平均
2023年の1人当たり旅行支出(クルーズ客を除く一般客・確報値)。定義上の区分ではない。
約21万円
定義
高付加価値旅行者
1回の訪日旅行で1人が日本国内に使う額で判定。国際航空券代は含まない。
100万円以上
上位
ハイエンド層
高付加価値旅行者のうち、特に消費額の大きい層(アクションプランの区分)。
300万円以上
(注:保有資産で数える「富裕層」とは別の物差し)
出典:観光庁「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」、日本政府観光局(JNTO)、観光庁「訪日外国人消費動向調査」をもとに編集部作成

呼び名は場面で変わる。観光庁は「いわゆる富裕層ともいうべき高付加価値旅行者」と書く。JNTOは「高付加価値旅行(ラグジュアリートラベル)」と併記する。海外向けの特設ページには「JAPAN. WHERE LUXURY COMES TO LIFE」と掲げる。本記事では、国の政策上の区分に合わせて主に高付加価値旅行と書く。

量は来たのに消費が届かない

国が取り組みを強めた背景には、2019年までの訪日客数と消費額の差がある。観光庁の2023年3月の発表によると、2019年の訪日客は3,000万人を超えた。だが旅行消費額は4.8兆円で、当時掲げていた2020年の目標8兆円とは開きがあった。観光庁は同じ発表で、取り組みの強化が必要だと書いている。

JNTOによれば、検討は2020年に観光庁が置いた「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」から始まった。2021年に後継の委員会が置かれ、2022年5月のアクションプランにつながった。

観光庁はサイトで、この層の消費が観光業だけでなく多くの産業に波及し、地域の自然や文化の維持にもつながるとして、誘致を「重要な柱」と位置づける。そのうえで、第5次観光立国推進基本計画は、この層の訪問は大都市圏が多数を占め、地方を訪れる旅行者は極めて少ないと書いている。

同計画(2026〜2030年度)は、高付加価値旅行者の受け入れ環境の整備を1節として掲げた。一方で、計画の11の数値目標に、高付加価値旅行者に限った人数や消費額の目標は入っていない。訪日客については、1人当たりの消費額を25万円にするなど、全体の指標で目標を置いている。

海外の旅行会社から地域の宿へ

国は、この層への情報発信とあわせて、海外の旅行会社への働きかけを重視している。アクションプランは、適切な情報発信と、世界的な高付加価値旅行のコンソーシアムなどを通じた働きかけを強めることが重要だとした。コンソーシアムは、富裕層向けの旅を扱う旅行会社とホテルなどの供給側が加盟する連合体である。

JNTOは、Virtuoso(バーチュオソ)などのコンソーシアムと連携し、ILTMなど富裕層旅行の国際商談会に出展している。

2026年5月には、富裕層向けの商談会「Japan Luxury Showcase」を、2017年の開始以来初めて大阪で開いた。JNTOの事前の発表では、欧米豪とシンガポールの旅行会社40社を招き、国内の60社と商談する計画だった。

国内では、宿・ガイド・移動を束ねて旅程を組む手配会社(DMC)が受け手の一つになる。JNTOの商談会では、ホテル・旅館もDMCと並んで、海外の旅行会社と直接商談する売り手になっている。JNTOは、DMCやDMO、自治体、宿泊施設、体験事業者のつながりづくりを進めている。

海外の旅行会社を通る経路の一例
高付加価値旅行者が地域の宿やガイドに届くまで
海外側
旅行者
海外の旅行会社に旅を依頼する
海外の旅行会社
富裕層向けの旅を扱う。旅行会社の連合体(コンソーシアム)に加盟する会社も
国内側
手配会社(DMC)
宿・ガイド・移動を束ねて旅程を組む
宿・ガイド・移動
地域で体験と滞在を提供する
(注:宿が海外の旅行会社と直接取引する場合もある)
出典:日本政府観光局(JNTO)「高付加価値旅行の推進」、同「Japan Luxury Showcase 2026」をもとに編集部作成

アクションプランは、受け手の課題をウリ(体験の中身)、ヤド(上質で地域の物語を感じられる宿)、ヒト(客を地方に送る人材やガイド、接客の人材)、コネ(海外への販路と発信)の4分野を中心に整理した。

あわせてアシ(移動の便利さ)も課題に挙げ、後の観光庁の発表は「5つの観点」、第5次計画は「5分野」として扱っている。上質な宿は特に地方で足りず、優れたガイドは全国でも地域でも足りないとした。

アシの例では、国土交通省が2023年6月、観光目的の外国籍プライベートジェットの運航許可について、申請期限を10日前から3日前に縮める特例を設けた。

観光庁は集中的に支援する「モデル観光地」を2023年3月に11地域、2024年9月に3地域選び、14地域で取り組みを進めている。

あわせて読む 5つの分野の中身と地方の受け皿づくり、若い富裕層の旅の好みは、こちらで詳しく解説している。

人数の伸びが消費額を上回った

JNTOが2025年6月に公表した市場規模調査は、クレジットカードの決済データなどをもとにした推計である。主要10市場を個別に推計し、ほかの市場は平均の伸び率などで補っている。

この調査によると、2023年の訪日の高付加価値旅行者は59.0万人で、訪日客全体の2.4%だった。この層の消費額は1兆159億円で、訪日客の旅行消費額5兆3,065億円の19.1%を占めた。

同じ調査で2019年と比べると、人数は83.2%、消費額は50.6%増えた。同じ時期に訪日客数は21.4%減っており、高付加価値旅行は訪日市場全体より大きく伸びた。

占める割合は、人数で1.0%から2.4%に、消費額で14.0%から19.1%に上がった。なお、線は円の金額で固定されているため、ドルで見た線の高さは2019年と2023年で違う(後述)。

2.4%の客が消費の19.1%
訪日客に占める高付加価値旅行の割合(2019年と2023年)
訪日客に占める高付加価値旅行の割合 高付加価値旅行者が訪日客数に占める割合は2019年の1.0%から2023年に2.4%へ、訪日客の旅行消費額に占める割合は14.0%から19.1%へ上がった。 2019年 2023年 訪日客数に占める割合 1.0% 2.4% 消費額に占める割合 14.0% 19.1%
出典:日本政府観光局(JNTO)「高付加価値旅行市場規模調査」をもとに編集部作成
この図表のデータを見る
項目2019年2023年
高付加価値旅行者数(万人)32.259.0
訪日客数(万人)3,1882,507
訪日客数に占める割合(%)1.02.4
高付加価値旅行の消費額(億円)6,74410,159
訪日客の旅行消費額(億円)48,13553,065
消費額に占める割合(%)14.019.1

日本政府観光局(JNTO)「高付加価値旅行市場規模調査 結果概要」(2025年6月11日)による。訪日客数はJNTO「訪日外客統計」、訪日客の旅行消費額は観光庁「訪日外国人消費動向調査」の値として同資料が示すもの。高付加価値旅行の値はクレジットカードの決済データ等にもとづく推計。

消費額を人数で割ると、2023年の1人平均は約172万円になる(編集部算出)。観光庁の消費動向調査では、2023年の訪日客1人当たりの旅行支出は約21万円(クルーズ客を除く一般客・確報値)で、その約8倍だ。両者は推計の方法が違うため、目安として読む。

一方、同じ推計で2019年の1人平均を出すと約209万円で(編集部算出)、2023年までに下がった。推計の上では、人数の伸びが消費額の伸びを上回り、1人当たりの額は小さくなった。

同じJNTOの調査では、2023年の消費額のシェアは中国23.0%、米国16.3%、台湾13.1%の順だった。2019年と比べると中国は30.6%から下がり、米国と台湾が上がった。

JNTOが2026年8月に公開したインタビューで、担当者は市場ごとの違いを説明している。米国の客は東京・京都・大阪に地方を1〜2地域加える旅程が多く、欧州の客はおおむね2週間かけて地方を広く巡る傾向があるという。アジアの客はリピーターが少なくなく、直行便のある地域に繰り返し訪れる傾向があるとした。

2023年の消費額で最大の市場だった中国は、2026年に中国からの訪日客全体が大きく減っている。JNTOの推計値では8月は前年同月比59.0%減、1〜8月の累計は56.7%減で、中国政府による日本への渡航を避ける注意喚起や、航空便の減便などを挙げる。高付加価値層への影響を示す数字は公表されていない。

あわせて読む 訪日市場の全体像と主要な数字は、インバウンドの全体像のガイドで確認できる。

雷門・浅草寺周辺を行き交う観光客でにぎわう情景。訪日インバウンドの象徴的なイメージ インバウンドとは 9.5兆円市場を3つの数字で読む

数字はどこまで信じてよいか

高付加価値旅行の数字を引くときは、3つの点に注意がいる。どれも、地域が自分たちの目標を立てるときに効いてくる。

資産と消費は別の物差し

「富裕層」は、保有資産の多さで数えられることもある。アクションプランも世界の富裕層の現状を、不動産コンサルティング会社Knight Frankのレポートをもとに、保有資産100万ドル以上の人数で紹介している。ただし政策ターゲットの定義は、1回の旅行で使う額で別に引いている。

資産の統計から、日本に来る高付加価値旅行者の数は読めない。逆に、資産がそれほど多くなくても、長い滞在や特別な体験に100万円を使う旅行者は定義に入る。

同じ2019年でも数字が違う

2019年の高付加価値旅行者の数は、資料によって違う。アクションプランは欧米豪5か国と中国の6か国だけで、約28.7万人(0.9%)、消費額の11.5%と推計した。観光庁の2023年3月の発表では、これを約1%(29万人)と表している。

観光庁の2024年9月の発表は約1%(32万人)・約14%とし、JNTOの2025年の調査は24市場で32.2万人・14.0%としている。対象とする国・地域の範囲や推計の方法が違えば、同じ年でも数字は変わる。古い「1%・11.5%」と新しい「2.4%・19.1%」を並べると、伸びを実際より大きく見てしまう。

換算の前提も効く。JNTOの推計は、1ドルを2019年は109.0円、2023年は140.5円で置いている。100万円をドルにすると2019年は約9,170ドル、2023年は約7,120ドルで、ドルで見た線は約2割低い(編集部算出)。

地域で使う額は別に見る

1人100万円は、日本国内での旅行全体の額だ。アクションプランが引く観光庁の2020年の調査(コロナ禍前の状況を示す古い数字)では、高付加価値旅行者の訪問率は東京が76.7%、大阪が32.7%と高い。一方、それ以外のほとんどの地域は10%未満だった。

1地域で使われる額は、滞在の日数や訪ねる先によって変わる。モデル観光地の一つ、佐渡・新潟エリアの計画は、高付加価値旅行者1人がエリア内で使う額を、2028年の目標で19.2万円と置く。1地域の計画値で全国の平均ではないが、100万円の2割に満たない水準を見込んでいる。

国内のモデル地域と海外の例

新潟県観光協会がまとめた佐渡・新潟エリアのマスタープラン(2026年1月改定)は、高付加価値旅行者の人数と1人当たりの額を目標に並べる。米英仏豪からの訪問者数を統計から推計し、その1%を高付加価値層と仮定して360人と試算した。全国の2023年の推計(2.4%)より低い仮定である。

2024年も同じ人数と仮定し、2025年の目標も360人とした。そのうえで2028年に9,360人を目指し、1人がエリア内で使う額は2025年目標の17.2万円から19.2万円を見込む。

エリア内の旅行消費額は約6,192万円から約18億円とする計算で、平均宿泊数も2.7泊から3.0泊を目標に置く。

せとうちエリアのマスタープラン(2026年1月)は、調査と計画から実証、販売へと段階を踏む。2027年度には、高付加価値旅行者が実際に訪れている姿を目指す。柱に、地域で手配を担うせとうちDMCの設立や、高付加価値ブランドホテルの誘致を挙げる。

海外では、ブータンが旅行者に「持続可能な開発料(SDF)」を課している。ブータン観光局によると、ビザの申請時に大人1人1日100ドルを払い、別にビザ申請料40ドルがかかる。

子どもには割引があり、インド、バングラデシュ、モルディブからの旅行者には別の手続きと料金が定められている。SDFは国庫に入り、無償の医療や教育、観光人材の育成、インフラ、環境と文化の保全に充てられる。

日本の100万円は、国が誘致の対象を決めるための基準で、旅行者に支払いを求めるものではない。一方、ブータンのSDFは旅行者に滞在日数に応じて課す料金である。仕組みも目的も違うため、比べるときは「誘致の基準」と「旅行者への課金」を分けて考える必要がある。

観光ビジネスの視点

「2.4%の客が消費の19.1%」は、高付加価値旅行を語るときによく引かれる。だがJNTOの推計でも、2019年からの伸びは人数(83.2%)が消費額(50.6%)を上回り、推計上の1人当たりの額は下がった。

地域の計画も似た構図を抱える。佐渡・新潟の計画は泊数と単価まで目標に置くが、出発点の360人は統計から割り出した仮定の数字だ。

地域の計画は、目標の人数や単価を、実際の宿泊と消費の数字で確かめる仕組みとセットで持つべきだ。仮定の上に立つ目標は、確かめなければ成果も見込み違いも見えない。

よくある質問

高付加価値旅行者と富裕層は同じか。

重なるが、同じではない。観光庁は高付加価値旅行者を「いわゆる富裕層」と言い換えることがあるが、線は主に1回の訪日旅行で使う額で引く。保有資産の多さで数える富裕層とは物差しが違う。

100万円に国際航空券の代金は入るか。

入らない。JNTOは高付加価値旅行を、旅行者1人が日本国内で100万円以上を使う旅行(国際航空券代は除く)と説明している。年間ではなく、1回の旅行の額である。

ラグジュアリーホテルがない地域は、誘致をあきらめるべきか。

JNTOが2026年8月に公開したインタビューで、担当者は、既存の宿の改修や設備・接客の改善、新しい開発など、地域ごとに取れる手はあるはずだと述べている。例として、単価の高い旅館に新たにベッドを入れることや、英語と接客に対応できる人材の研修を挙げる。最初の一歩は、その地域にしかない滞在価値(コアバリュー)をはっきりさせることだという。

最新の数字はいつのものか。

2026年10月時点で確認できる最新の推計は、JNTOが2025年6月に出した2023年分である。観光庁のサイトや第5次観光立国推進基本計画も、この2023年の数字を引いている。

出典

NEWS LETTER編集部が選ぶ注目記事をお届け限定イベントや独自レポートも先行案内ニュースレター登録
  • URLをコピーしました!
目次